【完結】ぼくたちの適切な距離【短編】

綴子

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 授業中、ぼくは新しく増えた連絡先が嬉しくて少しソワソワしていた。
 特に意識してきたことはなかったのだが、考えてみればぼくには拓人抜きで誰かと仲良くしてきたという記憶がない。
 今までどうしてそのことに違和感や、疑問を持たなかったのかと考えてみるが、それで不自由をしたことはないのだから、まあいっかという結論に至った。

 しかし、新しく友達ができたことを喜ばないような人間でもないので、ぼくは密かに浮かれていた。
 授業中も、いつもなら真面目に先生の話を聞いているが、今日は机の影に携帯を隠しながらメッセージアプリの連絡先のを眺めていた。

 終業を告げるチャイムがなり日直の号令で席を立つときに、うっかり携帯を落としたのを先生に目撃されて少し呆れた表情を向けられた。
 普段真面目にしている分、特にお咎めはなかったが、多分授業中に携帯をいじっていたのはバレただろう。

「篠原が授業中に携帯をいじってるなんて、珍しいこともあるんだな」

 ぼくがらしくない行動をした原因……と言っては失礼だけど、ぼくが浮かれさせた関口がそんなことを言う。
 本人に「君と連絡先を交換したから、つい浮かれちゃったんだ」なんてことは言わない。とりあえず、笑って誤魔化しておく事にした。

「彼氏とラブラブメッセージのやり取りでもしてた?」

 関口が茶化すように言ってきたが、心当たりがないので首を傾げる。関口は呆れたように額に手を当てた。

「彼氏って? ぼくにそんなのいないよ」

「はいはい」

 ぼくの否定する言葉に関口は、適当な返事を返す。全くひどい話だ。
 そんなやりとりをしていると、教室が一瞬ざわめいた。

「蓮、ご飯食べに行こう」

 原因はすぐに判明した。
 弁当を片手に拓人が迎えにきたからだ。

「じゃあ、また後でね」

 関口にそう言ってぼくは急いで鞄の中からコンビニの袋を取り出し、拓人に駆け寄った。拓人は、ぼくが手にしている袋を見て少し眉間に皺を寄せてた。

「今日は朝イチで通院してきたから仕方ないでしょ。それより行こう」

 ぼくは拓人の背中を押しながら教室を離れる。クラスメイトからの注目するような視線に耐えられなかった。

「蓮は俺の弁当を食べて、蓮のそれは俺が食べるから」

 いつも一緒にお昼を過ごしている四阿に着くと、拓人は自分が持っている弁当とぼくが持っていた袋を交換した。

「ちゃんと栄養バランス考えてサラダも買ってきたのに」

 菓子パンだけだと小言を言われるのがわかっていたので、バランスを考えてサラダも買ってきたが、拓人はそれでも納得しなかった。

「栄養摂れてもこう言うのには保存料とか入ってるから、病み上がりはちゃんとしたものを食べた方がいいよ」

 結局言い包められたぼくは、拓人の弁当の包みを開く。
 ちゃんと彩りと栄養バランスが考えられている手の込んだ中身だったので、ぼくが適当に買ってきたおにぎりとサラダだけの袋と交換するのは忍びなく思えてきた。
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