【完結】ぼくたちの適切な距離【短編】

綴子

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 結果から言うと1日様子見してみたものの、発情期は来なかった。
 簡易フェロモン計測機で数値を測定したところ、いつもの数値に戻っていた。母に念のためとクリニックに連れていかれたが、担当医の藤松先生からは、「オメガ性が今までより成長してきて突発的にいつもより多めのフェロモンを出しただけだと思うよ」と言われた。
 詰まるところ、一昨日の体調不良は発情期の前兆とはなんら関わりなかったらしい。

 その結果にぼくは、ホッと胸を撫で下ろす。
 先生に、「君はベータではななく、オメガなんだよ」と釘を刺されてしまったが、それでもまだ発情期が来ないという結果はぼくの精神を安定させた。

 その後、先生から午後は学校に行っても大丈夫というお墨付きをもらって午後から登校することにした。

 母の車の後部座席で、お会計の時に受付で渡されたネックガードのカタログを眺める。
 今までは、ぼくが自分の第二性を受け入れられていないことと、まだオメガとしての発育が未熟だったから藤松先生はぼくにネックガードの着用を強要はしなかった。
 けれど、今回の一件があり、そろそろ準備をした方がいいということらしい。

 オメガの診断がされると、その際に国に申請すればオメガは一度だけ無料でネックガードを支給してもらうことができる。これは、まだオメガに対する差別意識が色濃かった時代にオメガを保護するという目的で作られた制度らしい。
 オメガのネックガードは安いものではないので、未就労の学生がぽんぽんと購入できるものではない。
 数十年前まではオメガであることが発覚して家族に見捨てられ、路頭に迷ったオメガが発情期に対処できずアルファに番にされてしまうという事故が多発していた。そのためアルファが自分の身を守るためにもこの制度を作ったのだと社会の時間に教わったのを思い出した。

 ぼくはまだこの制度を利用していなかったので、ネックガードは持ってはいなかった。
 この支給されるネックガードはいかにも自分はオメガですと主張しているようなデザインであることを知っていたので、それを手にする勇気がなかったのである。
 カタログを見ながら、その選択も間違っていなかったのだと思ったのは、申請用紙が手元にある場合は医療用ネックガードの購入時に医療補助という形で少し安く購入できるという案内を見つけたからだ。


 家に帰ると、ぼくは制服に着替える。
 母が「今日も休んだら?」と言うが、同級生たちに疑惑を持たれるようなことはしたくなかったので、登校すると言い張った。

 学校に着いたのは丁度3時間目が終わる時間帯だった。
 体育の授業を終えテニスコートから出てきた拓人と遭遇したぼくは、少し緊張する。
 一昨日、あんな話の切り方をしてしまって拓人は怒っていないだろうか、恐る恐る彼に視線を向けるとその表情には安堵の色が浮かんでいた。
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