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放課後になっても朝の出来事が悪い夢だったのではないかという感覚が残っていた。
そんなふわふわした思考回路のまま教室を出ると、隣のクラスに在籍している幼馴染の永井拓人が窓枠に肘をついて外を眺めながら待っていた。
その横顔はまるで青春ドラマのワンシーンを切り取ったようで、胸が高鳴り思わず見蕩れてしまう。
教室の入り口で足を止めてしまったせいで、ぼくの後ろからきたクラスメイトが後ろから追突されてしまった。
「篠原ぁ、いきなり立ち止まるなよ」
「あ、ごめん」
「ぼやっとしてると怪我するぞ」
あまり話したことがない柔道部の彼が「気をつけろよ」とぼくを避けて教室から出ると、こちらに気がついた拓人が心配そうに駆け寄ってくる。
「蓮、大丈夫? 今日は授業中も上の空だったって菅沢から聞いたけど……」
「え? ああ、うん平気。昨日ちょっと夜更かししちゃっただけだから」
「本当? さっきもあんなところで急に立ち止まったりしたし……」
「ちょっとぼんやりしてただけだって。帰ったら夕飯まで寝るから大丈夫」
「それはそれで体内時計が狂って健康的に良くないから、もし帰ってから寝るなら20分くらいがいいよ」
咄嗟に出た言い訳に真面目な返答が返ってきて心苦しくなる。
「そういう話しよく聞くよね。でも、ぼく1度寝たらなかなか起きれないんだよね」
「じゃあ、オレの部屋で寝たら? スマホのアラームより有能な目指しだと思うよ」
今まで通りだったら拓人からの誘いを断ることなんて考えもしなかっただろう。
けど自分がオメガであると発覚した今となっては──。
「ううん、それは大丈夫。昨日読んでた小説の続きが気になるから真っ直ぐ帰るよ」
「もしかして、夜更かしの原因それ?」
「そんなとこ」
「気持ちは分からないでもないけどね。似たような経験あるし。でも、ほどほどにな」
「今度から気をつけるよ」
何気ない会話が続いて、朝の出来事がすっかり抜け落ちた頃、現実に引き戻されるように拓人から爆弾が投下される。
「そういえばさ、もう結果見た?」
なんの結果なのかは、確認しなくたって分かる。
「うん、見たよ。拓人は?」
「見た。まあ、結果は想像通りアルファだったな。蓮はどうだった?」
「……どうもなにも、ベータだよ」
まだ拓人の隣に立っていたいという身勝手な理由で、ぼくは嘘を吐いた。
今まで周囲が、ぼくが拓人の隣に並び立つことを許してくれていたのは、一重にぼくが『優秀なベータ』だと思われてたからだ。
でなければ、凡庸で華やかさの欠片も持ち合わせていないぼくが彼の隣に立つなんて本来なら許されない。
例え、幼馴染と言えど──。
「ふーん。そうなんだ……」
「え、何その反応……」
何か言いたげな拓人の反応に嘘がバレたのかと少し焦る。
「蓮なら、アルファの可能性があるかなって思ってたから」
「いやいや、それはないよ。うちの両親はどっちもベータなんだから」
嘘がバレなかったことに安心したが、拓人の言葉が胸に刺さる。
拓人の言った冗談のように、アルファだったら、ぼくの人生は今よりどんなにマシだっただろう。
勿論、アルファという診断がされていたらきっと葛藤があっただろうとは思うが、今ほどでうじうじとしていなかったことだけは確かだ。
ぼくが拓人の冗談を否定すると、彼はそれ以上この会話を続けることはなかった。
家までのおよそ10分は違う話題で会話を弾ませた。
そのおかげか、家に着く頃には喉に引っかかっていた嘘を吐いたことによる罪悪感は溶けて消えていた。
「じゃあ、また明日」
「うん、明日ね」
ぼくを家の前まで送った拓人が斜向かいにある彼の家に入っていく背中を見送りながら、ぼくは軋む音を立てる自宅の門扉をゆっくり閉めた。
そんなふわふわした思考回路のまま教室を出ると、隣のクラスに在籍している幼馴染の永井拓人が窓枠に肘をついて外を眺めながら待っていた。
その横顔はまるで青春ドラマのワンシーンを切り取ったようで、胸が高鳴り思わず見蕩れてしまう。
教室の入り口で足を止めてしまったせいで、ぼくの後ろからきたクラスメイトが後ろから追突されてしまった。
「篠原ぁ、いきなり立ち止まるなよ」
「あ、ごめん」
「ぼやっとしてると怪我するぞ」
あまり話したことがない柔道部の彼が「気をつけろよ」とぼくを避けて教室から出ると、こちらに気がついた拓人が心配そうに駆け寄ってくる。
「蓮、大丈夫? 今日は授業中も上の空だったって菅沢から聞いたけど……」
「え? ああ、うん平気。昨日ちょっと夜更かししちゃっただけだから」
「本当? さっきもあんなところで急に立ち止まったりしたし……」
「ちょっとぼんやりしてただけだって。帰ったら夕飯まで寝るから大丈夫」
「それはそれで体内時計が狂って健康的に良くないから、もし帰ってから寝るなら20分くらいがいいよ」
咄嗟に出た言い訳に真面目な返答が返ってきて心苦しくなる。
「そういう話しよく聞くよね。でも、ぼく1度寝たらなかなか起きれないんだよね」
「じゃあ、オレの部屋で寝たら? スマホのアラームより有能な目指しだと思うよ」
今まで通りだったら拓人からの誘いを断ることなんて考えもしなかっただろう。
けど自分がオメガであると発覚した今となっては──。
「ううん、それは大丈夫。昨日読んでた小説の続きが気になるから真っ直ぐ帰るよ」
「もしかして、夜更かしの原因それ?」
「そんなとこ」
「気持ちは分からないでもないけどね。似たような経験あるし。でも、ほどほどにな」
「今度から気をつけるよ」
何気ない会話が続いて、朝の出来事がすっかり抜け落ちた頃、現実に引き戻されるように拓人から爆弾が投下される。
「そういえばさ、もう結果見た?」
なんの結果なのかは、確認しなくたって分かる。
「うん、見たよ。拓人は?」
「見た。まあ、結果は想像通りアルファだったな。蓮はどうだった?」
「……どうもなにも、ベータだよ」
まだ拓人の隣に立っていたいという身勝手な理由で、ぼくは嘘を吐いた。
今まで周囲が、ぼくが拓人の隣に並び立つことを許してくれていたのは、一重にぼくが『優秀なベータ』だと思われてたからだ。
でなければ、凡庸で華やかさの欠片も持ち合わせていないぼくが彼の隣に立つなんて本来なら許されない。
例え、幼馴染と言えど──。
「ふーん。そうなんだ……」
「え、何その反応……」
何か言いたげな拓人の反応に嘘がバレたのかと少し焦る。
「蓮なら、アルファの可能性があるかなって思ってたから」
「いやいや、それはないよ。うちの両親はどっちもベータなんだから」
嘘がバレなかったことに安心したが、拓人の言葉が胸に刺さる。
拓人の言った冗談のように、アルファだったら、ぼくの人生は今よりどんなにマシだっただろう。
勿論、アルファという診断がされていたらきっと葛藤があっただろうとは思うが、今ほどでうじうじとしていなかったことだけは確かだ。
ぼくが拓人の冗談を否定すると、彼はそれ以上この会話を続けることはなかった。
家までのおよそ10分は違う話題で会話を弾ませた。
そのおかげか、家に着く頃には喉に引っかかっていた嘘を吐いたことによる罪悪感は溶けて消えていた。
「じゃあ、また明日」
「うん、明日ね」
ぼくを家の前まで送った拓人が斜向かいにある彼の家に入っていく背中を見送りながら、ぼくは軋む音を立てる自宅の門扉をゆっくり閉めた。
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