61 / 64
商人と影たちの記録
主催者の挨拶
しおりを挟む
城前の広場に辿り着くと膜は消えて解放される。
大量に並ぶ外灯により昼間のように照らされた空間に次々と降ろされた客人たちは、集い、口々に先ほど起きた事に対する称賛の言葉を並べたてていた。それは誰が最も素晴らしい誉め言葉を思いつくか競い合っているようにも見え、興奮は本物ながら口から吐き出されるものは空虚に感じられた。
広々とした広場は半円形で眼下に雲の流れる端が丸く曲線を描き、平らな方が城の方を向いている。
どうやって植えたのか左右には立派な樹木が整然と並び、ブロックのように形を整えられた低木が草地と石畳とを分ける境界を担う。明かりにより咲き乱れる花も見て取れるが、その色とりどりであろう姿は光が強すぎるため逆に色あせて見えた。
リオンが周囲へ視線を巡らしている間にも次々に客人たちは広場に降り立つ。
「ようこそいらっしゃいました皆さま!」
最後の一人が到着したのを見計らって、それまで暗くされていた広場奥の城へ続く道がパッと明かりで照らされる。
そこに立つのは非常に腹の出た、もとい恰幅の素晴らしい男だった。
黒の正装に青いシャツは張り出した腹に圧迫されて苦しそうに皺を作り、ぐるりと首を取り巻く脂肪を隠すようにマフラーを巻いている。帽子を乗せている頭はテカテカと光を反射するほどにノリで固められており、毛というよりは石のような光沢を見せていた。
ステッキをクルリと回して石突で石畳をカツンと叩く様は、自らの容姿を無視して見栄を張っているようにしか見えない。
彼こそがこの場の主役、第29代ビリアン商会会長フンブル・ロフドエスクである。
「この素晴らしき日、素晴らしき方々を迎えることができ、私は感激の至りでございます」
そこから長々と世辞と自慢話が続く。
自分の生い立ちから始まり、どんな苦難を乗り越えて来たか。自らの才覚を誇り、そして父親である先代、レンバレン・ロフドエスクを過剰な修飾語を持って飾り自慢し感謝の言葉を述べる。また父の先代に当たるオーベル・リファドスに対しては苛烈な批判を行った。
曰く、かの才無き嫉妬深い男が如何に父と自分を不当に扱い私腹を肥やしたかというものだ。
その中にどれ程の真実が混ぜられているかは知らないが、こういった場での言葉は鵜呑みにしていけないくらいの事くらいは、リオンも度々呼び出された学院の祝祭で経験済みである。
いくら暗くなっているとはいえ、夏の空気はそうそう引くものではなくジワジワとした熱を持つ。
弁の熱さもあってフンブルは気がつけば汗だくであり、シャツは吸い込んだ水分によって色を変えて肌にピッタリと張り付き、顔を拭いていた手ぬぐいは絞れそうなほど重くなり、耐えかねたようにポタポタと液体を落としていた。
流石にそれは格好がつかないと気がついたのか、フンブルはようやく長話を締めくくる。
もしかしたら客人たちの笑顔から漏れ始めていた、立たされ続けている事への苛立ちに気がついただけかもしれないが。
「では、最後に。この場の設計におけるレクシロン様の多大な貢献に感謝を述べ、締めくくりとさせていただきます」
フンブルが一礼する。
無数の拍手が送られる。
レクシロンもそれに参加するが、リオンは内心それどころではなかった。
「え、ここの設計はレクシロン君がやったんですか?」
「はい、その通りです」
得意げに口端を釣り上げる元教え子。
ここまで巨大な構造物を浮かべている事、それに深くかかわっている事、リオンは驚きに間抜けな顔を作ってレクシロンを見ていた。
「さて、詳しい話はまたあとで。取りあえず中に入ってしまいましょう」
そういってレクシロンは客人たちの流れに合わせて歩き出す。
その足取りは何だか軽いような気がしたが、きっと気のせいだろう。
リオンは慌ててその後を追いかける。
服装含め場違いな自分では、はぐれたら侵入者としてつまみ出されるかもしれない。
周囲から奇異の視線を向けられていたが、気にしている余裕はなかった。
大量に並ぶ外灯により昼間のように照らされた空間に次々と降ろされた客人たちは、集い、口々に先ほど起きた事に対する称賛の言葉を並べたてていた。それは誰が最も素晴らしい誉め言葉を思いつくか競い合っているようにも見え、興奮は本物ながら口から吐き出されるものは空虚に感じられた。
広々とした広場は半円形で眼下に雲の流れる端が丸く曲線を描き、平らな方が城の方を向いている。
どうやって植えたのか左右には立派な樹木が整然と並び、ブロックのように形を整えられた低木が草地と石畳とを分ける境界を担う。明かりにより咲き乱れる花も見て取れるが、その色とりどりであろう姿は光が強すぎるため逆に色あせて見えた。
リオンが周囲へ視線を巡らしている間にも次々に客人たちは広場に降り立つ。
「ようこそいらっしゃいました皆さま!」
最後の一人が到着したのを見計らって、それまで暗くされていた広場奥の城へ続く道がパッと明かりで照らされる。
そこに立つのは非常に腹の出た、もとい恰幅の素晴らしい男だった。
黒の正装に青いシャツは張り出した腹に圧迫されて苦しそうに皺を作り、ぐるりと首を取り巻く脂肪を隠すようにマフラーを巻いている。帽子を乗せている頭はテカテカと光を反射するほどにノリで固められており、毛というよりは石のような光沢を見せていた。
ステッキをクルリと回して石突で石畳をカツンと叩く様は、自らの容姿を無視して見栄を張っているようにしか見えない。
彼こそがこの場の主役、第29代ビリアン商会会長フンブル・ロフドエスクである。
「この素晴らしき日、素晴らしき方々を迎えることができ、私は感激の至りでございます」
そこから長々と世辞と自慢話が続く。
自分の生い立ちから始まり、どんな苦難を乗り越えて来たか。自らの才覚を誇り、そして父親である先代、レンバレン・ロフドエスクを過剰な修飾語を持って飾り自慢し感謝の言葉を述べる。また父の先代に当たるオーベル・リファドスに対しては苛烈な批判を行った。
曰く、かの才無き嫉妬深い男が如何に父と自分を不当に扱い私腹を肥やしたかというものだ。
その中にどれ程の真実が混ぜられているかは知らないが、こういった場での言葉は鵜呑みにしていけないくらいの事くらいは、リオンも度々呼び出された学院の祝祭で経験済みである。
いくら暗くなっているとはいえ、夏の空気はそうそう引くものではなくジワジワとした熱を持つ。
弁の熱さもあってフンブルは気がつけば汗だくであり、シャツは吸い込んだ水分によって色を変えて肌にピッタリと張り付き、顔を拭いていた手ぬぐいは絞れそうなほど重くなり、耐えかねたようにポタポタと液体を落としていた。
流石にそれは格好がつかないと気がついたのか、フンブルはようやく長話を締めくくる。
もしかしたら客人たちの笑顔から漏れ始めていた、立たされ続けている事への苛立ちに気がついただけかもしれないが。
「では、最後に。この場の設計におけるレクシロン様の多大な貢献に感謝を述べ、締めくくりとさせていただきます」
フンブルが一礼する。
無数の拍手が送られる。
レクシロンもそれに参加するが、リオンは内心それどころではなかった。
「え、ここの設計はレクシロン君がやったんですか?」
「はい、その通りです」
得意げに口端を釣り上げる元教え子。
ここまで巨大な構造物を浮かべている事、それに深くかかわっている事、リオンは驚きに間抜けな顔を作ってレクシロンを見ていた。
「さて、詳しい話はまたあとで。取りあえず中に入ってしまいましょう」
そういってレクシロンは客人たちの流れに合わせて歩き出す。
その足取りは何だか軽いような気がしたが、きっと気のせいだろう。
リオンは慌ててその後を追いかける。
服装含め場違いな自分では、はぐれたら侵入者としてつまみ出されるかもしれない。
周囲から奇異の視線を向けられていたが、気にしている余裕はなかった。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道
コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。
主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。
こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。
そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。
修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。
それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。
不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。
記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。
メサメサメサ
メサ メサ
メサ メサ
メサ メサ
メサメサメサメサメサ
メ サ メ サ サ
メ サ メ サ サ サ
メ サ メ サ ササ
他サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる