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炎と竜の記録
闇を切り裂く星
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リオンが身を低くすると直ぐ上を空を切る音が横切った。
そのまま転がっていた小石を拾い、すぐ後ろへ投げる。直ぐに硬質な物同士のぶつかる音と、汚い言葉とが聞こえてきた。
出来る事なら全力で逃げたいところだが、今は殿としての務めがある。
それにいきなり全力で走るとどうなるかは経験済みだ。
一人がリオンを無視して前へ行こうとする。
「土よ、はじけろ!」
リオンはすかさず魔法を使う。
途端に盗賊の前に岩がせり上がり「ブギャッ!」と声を当てて衝突した。
これで3回目。
ここまで邪魔をされると不用意に前へは出られなくなる。
リオンは極めて余裕のフリを装った。勿論、この闇の中で盗賊たちがどこまでその虚勢に気がついてくれたかは分からないが、多少は効果があって警戒してくれている事を願う。
その気持ちが天に通じたのか、盗賊たちは明らかにリオンを警戒していた。
「魔法使いがいるなんて来てないぜ!」
「確か誰でも使える魔法の石とかあったろ。それじゃないのか?」
「3回も邪魔されたんだぜ。魔法使いの可能性を考えてた方がいい」
そんな事を言いながら、時折サーベルは振るうが先ほどに比べて迷いがある。
石の壁にぶつかるのは嫌なのだろう。
リオンはここで立ち止まる選択をした。
盗賊たちは周囲を取り囲むようにして集まる。
逃げる集団を追いかけようとした者には突如として石の塊が落ちてきて、容赦なく頭に当たりその意識を絶つ。それがリオンの仕業であると集まった者たちは瞬時に理解して、距離を取りながら憎々し気に睨みつけてくる。
「やっぱり魔法使いじゃねーか。誰だ、違うとか言ったのは!」
「可能性の話をしただけだろ!」
「うるせぇ! そんな喧嘩はあとでやれ!」
おそらく他の者たちより多少は偉いのであろう男の一喝で騒いでいた者たちは黙り込む。
「まったく、とことん邪魔をしてくれるな魔法使いの旦那。一人なら俺らから余裕で逃げられたんじゃないか?」
「そうかもしれませんね」
「理解できねぇな。あそこに魔法使いがいたなんて来たことはねぇし、多分だが旦那は全くの部外者で、たまたまここに居合わせただけだろ? なんで大して親しくもない連中のために命をかけるなんて馬鹿げたことをしてんだ?」
「私は魔法使いである前に一人の教師ですからね、例えこの場にいなくとも生徒たちに恥じない行動をしなければいけないんです」
ふん、と男は鼻で笑う。
「誰も見てないんなら、それは存在しねーのと同じだぜ。旦那がいくら意地汚い事をしようが、ガキどもにバレなきゃいいんじゃねーのか? だいたい、ガキどもだって旦那の知らないところで何やってるか分かったもんじゃないぜ?」
「確かにそうかもしれませn。でも、私はこのようにしか出来ない人間なんですよ。真面目過ぎるとか、そこまで考える必要が無いと言われても、私は教師としての責任を感じずにはいられないんです」
「随分と不自由なこったな」
「不自由なのも慣れれば楽しいものですよ」
カカカ、と男は愉快そうに笑う。
その様子に他の者たちはポカンとし、リオンも不思議そうに男を見る。
「不自由を楽しいか、俺らには到底出来ねぇ考えだが分からなくもねえ。なら、せいぜいその楽しさの中で死んでもらうとするか。……おい、テメェらは手を出すんじゃねえぞ。コイツは俺がぶっ殺すからよ」
「1人でいいんですか?」
「魔法使いはどんなネタを仕込んでくるか分からねぇ。旦那のことだ、一斉に飛び掛かる事を想定して何かしら仕掛けているんじゃねーのか?」
リオンは黙る。そんな仕掛けをしている余裕などなかったし、魔力も枯渇寸前だ。
しかし、その沈黙は彼らを勘違いさせるのに十分な物だったらしい。
息を飲む声と得意げに笑う目の前の男がそう態度で告げている。
「まあ、せいぜい楽しもうや」
「1つ、アナタを倒したら介抱してくれますか?」
「あ? んなわけないだろ。こんだけで取り囲んでるんだぞ? それに、俺は微塵も負ける気はしてないぜ旦那ぁ!」
男は踏み込みと共に大ぶりの曲刀を振り上げ、避けたリオンめがけて剣を返し振り下ろしにかかる。リオンは直ぐに土の魔法をつかって目の前に壁を作り転がるようにして距離を取った。
石の壁は力任せの曲刀によって打ち砕かれる。
「ヒュー、やるねぇ!」
立ち上がるリオンに余裕の表情で曲刀を担ぐ男。
そして、次はそっちから来いとでもいうように開いている手を上げて挑発してきた。
リオンは戦士ではない。だからそのような行動を取られても頭に血が上るような事はないが、わざわざ晒してくれている隙を放っておくような事もしない。
攻撃の目的はただ一つ、意表を突く事である。
残りの魔力から考えると、使えるのは初級と呼ばれるレベルの魔法で4回だけだろう。
リオンは考える。
男を二手で確実に無力化するには、使える魔法をどのように組み合わせればよいか。
「なんだ、こねーのか? ならこっちから行くぜ?」
失望の溜息と共に悠々と男は歩いて近寄ってくる。
リオンは動かない。
――そうだ、それでいい。
距離が縮まっていく。六歩、五歩、四歩、三歩――。
「土よ! 飲み込め!」
「もうおそ、――っ!」
リオンの声に合わせて一気に踏み込もう男は突進のような姿勢をとって足に力を込める。
そしていっぱいに踏み込んだ足は、瞬く間に土の中に飲み込まれた。
まるで水にでもなったかのように飲み込んだかと思えば、今度は元のようにガッチリと固まって崩れた姿勢のまま足をその場に固定してしまう。
驚き足を抜こうとする男にリオンは時間を与えない。
「星よ! 集いて落ちろ!」
空に向かって叫ぶ。――何も起きない。
焦りながらリオンの視線の先、夜の星空を見上げていた男は魔法の失敗を見て「ヘッ」と笑い足を抜く作業に戻る。地面がひび割れながら盛り上がり、徐々に絡みついていた足は話されつつあった。
その時だ。
周囲の者たちがどよめいた。
男は再び空を見上げる。そして目の前の光景に呆けたように口を開けた。
――それは光だ。
小さな光、それが星々の瞬きのたびに大きさを増していく。
――いや大きくなっているわけではない。それは“落ちてきているのだ”。
猛烈な速さを持って空の彼方より、光の塊が迫ってきているのだ。
いったいどこまで膨れ上がるのか?
砂粒より小さな光は、既に拳を超え頭くらいの大きさに達そうとしている。あと数秒もすれば人ひとりに相当する巨大な塊が大地と衝突するだろう。
では、衝突した後には何が起きるのか?
何も起きないこけおどしかもしれないし、逆にリオンが命を懸けた道連れでこの辺り一帯を吹き飛ばしてしまうかもしれない。
余裕だった男の表情は引きつり全力で足を引き抜こうとした。
すでに仲間たちは恐怖に負けて逃げ出しており、この場には魔法のために残る魔法使い一人とあと一歩で足を引き抜けないでいる盗賊団の幹部が一人。
男は遂に覚悟を決めた。
迫る光、それを真正面に見据えて咆哮と共に振り上げた曲刀を振り下ろす。
――光は剣をに触れると激しい閃光と共に跡形もなく消滅した。
衝撃波は剣をへし折りながら男より奪い、強力な力によって男は地面へ叩きつけられ、直ぐ近くにいたリオンも踏ん張る事すら許されずに飛ばされる。
一秒にも満たない時間、上も下も分からぬまま中空を回り、背中から地面に叩きつけられる。
魔法の落ちる直前に閉じていた目を開くと、瞼を突き抜けてきた強烈な光による残像が残っていて少しの間は何も見えなかった。
それは星の精霊魔法。
古代の民が夜の闇を打ち払うために見つけ出した精霊の力であり、光の魔法が現れたことで遥か昔に忘れられてしまった失伝と呼ばれる類の一つ。それはリオンが研究の末に復活させた魔法の一つだ。
これは効果に対して消耗する魔力は少ない。
今回で言えば他であれば上級に区分されるであろう効果の魔法を、初級魔法たった三回分の魔力で使って見せたわけである。
勿論、この魔法には重大な欠点がある。
一つは星の輝く夜にしか使えない事、そして一般的に用いられる精霊の力の凝縮つまり精霊石や魔法石といった形で結晶化する方法が現時点で存在しないのだ。
もっとも多様な触媒を組み合わせれ専用に作った道具があれば、後は知識と技術で使えるようになるものである。現にリオンの教え子であり研究の助手を務めてくれていた弟子にあたる人物は、教えられた理論より試行錯誤した道具で星の精霊魔法を目の前で使って見せた事がある。
懐かしい光景を思い出しつつ、残像が消えてきたところでリオンは立ち上がった。
念のためわざわざ男の元へと戻り、足で小突くようにして恐る恐る確認すると完全に目を回している。他の逃げた者たちも、きっとあの光で目を潰されていることだろう。
今が逃がした人たちと合流するチャンスなのは間違いない。
そう確信し、ついでに男の腰から護身のためナイフを一本奪い取ると、リオンは小走りにその場から離れていった。
そのまま転がっていた小石を拾い、すぐ後ろへ投げる。直ぐに硬質な物同士のぶつかる音と、汚い言葉とが聞こえてきた。
出来る事なら全力で逃げたいところだが、今は殿としての務めがある。
それにいきなり全力で走るとどうなるかは経験済みだ。
一人がリオンを無視して前へ行こうとする。
「土よ、はじけろ!」
リオンはすかさず魔法を使う。
途端に盗賊の前に岩がせり上がり「ブギャッ!」と声を当てて衝突した。
これで3回目。
ここまで邪魔をされると不用意に前へは出られなくなる。
リオンは極めて余裕のフリを装った。勿論、この闇の中で盗賊たちがどこまでその虚勢に気がついてくれたかは分からないが、多少は効果があって警戒してくれている事を願う。
その気持ちが天に通じたのか、盗賊たちは明らかにリオンを警戒していた。
「魔法使いがいるなんて来てないぜ!」
「確か誰でも使える魔法の石とかあったろ。それじゃないのか?」
「3回も邪魔されたんだぜ。魔法使いの可能性を考えてた方がいい」
そんな事を言いながら、時折サーベルは振るうが先ほどに比べて迷いがある。
石の壁にぶつかるのは嫌なのだろう。
リオンはここで立ち止まる選択をした。
盗賊たちは周囲を取り囲むようにして集まる。
逃げる集団を追いかけようとした者には突如として石の塊が落ちてきて、容赦なく頭に当たりその意識を絶つ。それがリオンの仕業であると集まった者たちは瞬時に理解して、距離を取りながら憎々し気に睨みつけてくる。
「やっぱり魔法使いじゃねーか。誰だ、違うとか言ったのは!」
「可能性の話をしただけだろ!」
「うるせぇ! そんな喧嘩はあとでやれ!」
おそらく他の者たちより多少は偉いのであろう男の一喝で騒いでいた者たちは黙り込む。
「まったく、とことん邪魔をしてくれるな魔法使いの旦那。一人なら俺らから余裕で逃げられたんじゃないか?」
「そうかもしれませんね」
「理解できねぇな。あそこに魔法使いがいたなんて来たことはねぇし、多分だが旦那は全くの部外者で、たまたまここに居合わせただけだろ? なんで大して親しくもない連中のために命をかけるなんて馬鹿げたことをしてんだ?」
「私は魔法使いである前に一人の教師ですからね、例えこの場にいなくとも生徒たちに恥じない行動をしなければいけないんです」
ふん、と男は鼻で笑う。
「誰も見てないんなら、それは存在しねーのと同じだぜ。旦那がいくら意地汚い事をしようが、ガキどもにバレなきゃいいんじゃねーのか? だいたい、ガキどもだって旦那の知らないところで何やってるか分かったもんじゃないぜ?」
「確かにそうかもしれませn。でも、私はこのようにしか出来ない人間なんですよ。真面目過ぎるとか、そこまで考える必要が無いと言われても、私は教師としての責任を感じずにはいられないんです」
「随分と不自由なこったな」
「不自由なのも慣れれば楽しいものですよ」
カカカ、と男は愉快そうに笑う。
その様子に他の者たちはポカンとし、リオンも不思議そうに男を見る。
「不自由を楽しいか、俺らには到底出来ねぇ考えだが分からなくもねえ。なら、せいぜいその楽しさの中で死んでもらうとするか。……おい、テメェらは手を出すんじゃねえぞ。コイツは俺がぶっ殺すからよ」
「1人でいいんですか?」
「魔法使いはどんなネタを仕込んでくるか分からねぇ。旦那のことだ、一斉に飛び掛かる事を想定して何かしら仕掛けているんじゃねーのか?」
リオンは黙る。そんな仕掛けをしている余裕などなかったし、魔力も枯渇寸前だ。
しかし、その沈黙は彼らを勘違いさせるのに十分な物だったらしい。
息を飲む声と得意げに笑う目の前の男がそう態度で告げている。
「まあ、せいぜい楽しもうや」
「1つ、アナタを倒したら介抱してくれますか?」
「あ? んなわけないだろ。こんだけで取り囲んでるんだぞ? それに、俺は微塵も負ける気はしてないぜ旦那ぁ!」
男は踏み込みと共に大ぶりの曲刀を振り上げ、避けたリオンめがけて剣を返し振り下ろしにかかる。リオンは直ぐに土の魔法をつかって目の前に壁を作り転がるようにして距離を取った。
石の壁は力任せの曲刀によって打ち砕かれる。
「ヒュー、やるねぇ!」
立ち上がるリオンに余裕の表情で曲刀を担ぐ男。
そして、次はそっちから来いとでもいうように開いている手を上げて挑発してきた。
リオンは戦士ではない。だからそのような行動を取られても頭に血が上るような事はないが、わざわざ晒してくれている隙を放っておくような事もしない。
攻撃の目的はただ一つ、意表を突く事である。
残りの魔力から考えると、使えるのは初級と呼ばれるレベルの魔法で4回だけだろう。
リオンは考える。
男を二手で確実に無力化するには、使える魔法をどのように組み合わせればよいか。
「なんだ、こねーのか? ならこっちから行くぜ?」
失望の溜息と共に悠々と男は歩いて近寄ってくる。
リオンは動かない。
――そうだ、それでいい。
距離が縮まっていく。六歩、五歩、四歩、三歩――。
「土よ! 飲み込め!」
「もうおそ、――っ!」
リオンの声に合わせて一気に踏み込もう男は突進のような姿勢をとって足に力を込める。
そしていっぱいに踏み込んだ足は、瞬く間に土の中に飲み込まれた。
まるで水にでもなったかのように飲み込んだかと思えば、今度は元のようにガッチリと固まって崩れた姿勢のまま足をその場に固定してしまう。
驚き足を抜こうとする男にリオンは時間を与えない。
「星よ! 集いて落ちろ!」
空に向かって叫ぶ。――何も起きない。
焦りながらリオンの視線の先、夜の星空を見上げていた男は魔法の失敗を見て「ヘッ」と笑い足を抜く作業に戻る。地面がひび割れながら盛り上がり、徐々に絡みついていた足は話されつつあった。
その時だ。
周囲の者たちがどよめいた。
男は再び空を見上げる。そして目の前の光景に呆けたように口を開けた。
――それは光だ。
小さな光、それが星々の瞬きのたびに大きさを増していく。
――いや大きくなっているわけではない。それは“落ちてきているのだ”。
猛烈な速さを持って空の彼方より、光の塊が迫ってきているのだ。
いったいどこまで膨れ上がるのか?
砂粒より小さな光は、既に拳を超え頭くらいの大きさに達そうとしている。あと数秒もすれば人ひとりに相当する巨大な塊が大地と衝突するだろう。
では、衝突した後には何が起きるのか?
何も起きないこけおどしかもしれないし、逆にリオンが命を懸けた道連れでこの辺り一帯を吹き飛ばしてしまうかもしれない。
余裕だった男の表情は引きつり全力で足を引き抜こうとした。
すでに仲間たちは恐怖に負けて逃げ出しており、この場には魔法のために残る魔法使い一人とあと一歩で足を引き抜けないでいる盗賊団の幹部が一人。
男は遂に覚悟を決めた。
迫る光、それを真正面に見据えて咆哮と共に振り上げた曲刀を振り下ろす。
――光は剣をに触れると激しい閃光と共に跡形もなく消滅した。
衝撃波は剣をへし折りながら男より奪い、強力な力によって男は地面へ叩きつけられ、直ぐ近くにいたリオンも踏ん張る事すら許されずに飛ばされる。
一秒にも満たない時間、上も下も分からぬまま中空を回り、背中から地面に叩きつけられる。
魔法の落ちる直前に閉じていた目を開くと、瞼を突き抜けてきた強烈な光による残像が残っていて少しの間は何も見えなかった。
それは星の精霊魔法。
古代の民が夜の闇を打ち払うために見つけ出した精霊の力であり、光の魔法が現れたことで遥か昔に忘れられてしまった失伝と呼ばれる類の一つ。それはリオンが研究の末に復活させた魔法の一つだ。
これは効果に対して消耗する魔力は少ない。
今回で言えば他であれば上級に区分されるであろう効果の魔法を、初級魔法たった三回分の魔力で使って見せたわけである。
勿論、この魔法には重大な欠点がある。
一つは星の輝く夜にしか使えない事、そして一般的に用いられる精霊の力の凝縮つまり精霊石や魔法石といった形で結晶化する方法が現時点で存在しないのだ。
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懐かしい光景を思い出しつつ、残像が消えてきたところでリオンは立ち上がった。
念のためわざわざ男の元へと戻り、足で小突くようにして恐る恐る確認すると完全に目を回している。他の逃げた者たちも、きっとあの光で目を潰されていることだろう。
今が逃がした人たちと合流するチャンスなのは間違いない。
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