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炎と竜の記録
馬車と精霊石
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リオンは店を出て真っ直ぐに人の領域外たる市壁の外へと出る。
大門を超えた先は無数の人の足と、最近使い勝手が良くなったと噂の馬車が通りに通って踏み固めた岩のような剥き出しの地面が、まっすぐ一本の線となって地平線の向こうまで続いている。一方でその馬車通しが余裕を持ってすれ違える程度の道を一歩でも外れれば、柔らかくも短い青々とした草が生い茂り、ぽつぽつと禿げたような場所からは茶色の地面が姿を見せている。
周囲の人の数はやはり多い。町の近くであるということもあるのだろうが、主な理由は明白だ。
今もまた、馬に乗ったいかにも荒事を生業とした風貌の者たちが馬を駆って草原へと出ていく。
「ここでは、止めておいた方がいいな」
促されるまま首にかけた笛にそっと触れ溜息を吐く。
誰が見ているかも分からない場所で金目の物を見せびらかすなど盗んでくださいというようなものだろう。自分の所有物なら兎も角、借り物に出立そうそう万が一のことがあっては困る。
暫くは徒歩だな、と心に決めて均された道を進みだすのだった。
そうやってリオンが歩を進める事、おおよそ二時間。
重大な問題、正確に言えば準備不足による失敗に直面して苦い顔を作っていた。
陽気は春も終わりで太陽よりの陽ざしに力が増してきた季節。それでなくとも体を延々と動かしているのだから喉が渇くなど当然のことである。
そんな当たり前の事を失念したリオンは、水筒の一つも持っていなかった。
もしや何かの間違いで荷物に混入していないかと、決して大きいとは言えない手持ちのカバンや背負った荷物を漁ってみても、出発前に確認した通りちゃんと欲している物は影も形もない。
これほど歩いてくると再び町に戻るのも億劫である。
――それが旅する者にとって致命的な判断であったとしても、リオンには当然分からなかった。
リオンが思っていたのは、『周囲にまだ人の影はまばらにだがある。だからいざとなれば譲ってもらえばよい』という非常に楽観的なものだった。
はたして、貴重な水をそう易々と譲ってくれる相手がいるものか。
話を聞けばそんな嘲笑も上がるだろう希望は、しかし幸運にも叶う事となった。
「くそ! なんでこんなところで……」
そんな憎々し気な声が耳に届く。
いったい何処から聞こえてきたのだろうか。
いつの間にか落ちていた視線を上げてリオンは周囲を見回す。
目を止めたのは白い袖なしの衣服を着た男だった。体の太いのは不摂生ではなく筋肉によるものが大半で、腕は丸太のようだ。
男は道の端で馬車を止めていた。
大きな荷車には空と思えない重そうな木箱がいくつも積まれており、向いている方角から恐らく町で買い物をした帰りなのだろう。
ただ、その馬車は今は止まっていた。
男は悪態をつきながら、それを後ろから押しているようだ。
滝のような汗が顔の下の地面に水たまりを作っており、一方でそれだけの労力を割いていながら前へは一向に進んでいないように見えた。
道行く人たちは無関心。
助けても得るものが無いのであれば、手を貸す必要はないのが世の常識なのだ。
「どうしました?」
そんな常識など知った事ではないリオンは、なんの躊躇もせずに声をかけた。
獲物をおびき寄せるための悪党の演技であった、などという可能性は知った事ではない。
「あんたにゃ関係ねーよ」
男の答えは素っ気なかった。
「そうやって近づいて来る奴にロクなのはいねーんだ」
何か苦い経験がある様子で、疑いと怒りの籠った視線がリオンに向けられる。
しかしその程度の対応で「そうですか」と下がりはしない。
押しているという事は、動かなくなったという事。動かなくなったという事は、馬車を引く馬か車輪のどちらかに問題があると一般的に考えられる。
何も言わず回り込んでいくリオンに、男は離れていったと思ってホッと力を抜いた。
「ふむ」
当の本人は馬車の前側で何度も踏ん張っている馬の姿を確認していたが。
馬は生きているし、足腰にはしっかりと力が入っているように見える。
とすれば車輪に何かあったか。
馬車の側面、並ぶ木製の輪っかの前でリオンは一度しゃがみ込む。
それは中央に薄緑色の石が嵌め込まれた車輪。
よく見覚えのあるソレは、記憶の通りであれば問題の無い状態である。
今度は逆側に回り込み、男の舌打ちを聞きながら反対側と同じようにリオンはしゃがみ込んで車輪を見た。
「こっちの精霊石が力を失ってたか」
精霊石、それは自然界に眠る精霊の力を起こした状態で封じた石である。
一般に魔法は触媒と呼ばれる、眠った精霊の力を閉じ込めた物に魔力を込める事で、その眠りから一時的に込めた魔力に応じた規模の力を呼び覚ますものだ。
精霊石とは、その“魔力を込めて起こす”という部分をあらかじめ終えた状態で、特定の拘束魔法を組み合わせる事により作り出したもの。或いは自然界に偶然そのように生まれた不安定な石を使いやすく加工したものである。
天然物でこの大きさであれば非常に高価であるから、目の前の石はおそらく前者に該当するものだろう。
もっとも、今はやや透明感のあるだけの灰色の石にしか見えないが。
「そうだよ、だからどうにもなんねぇ。分かったなら、もうどっか行ってくれ!」
「安心してください。これなら“直せます”」
「へ? あんた、何言ってんだ?」
リオンの言葉に男はポカンとし、それからバレバレの嘘と思って苦笑いを浮かべた。
しかしリオンは嘘などいったつもりはない。
これは“自分の専門分野”なのだから。
少しお待ちを、と言って持っていたカバンを開き、取り出したのは中央に透明なまん丸い石の嵌め込まれた円盤。
真ん中の球、石と接している円盤、そしてその円盤の外半分に重なるように乗せられた、スライドする事の出来る厚い帯のような輪っかにより構成された道具。
円盤と輪っかは銀灰色で、それぞれに彫り込まれた紋様はなぞったように黒く染まっている。
リオンは外側の輪っかの紋様を、内側の決まった位置へ合わせてパチンと音がするまで押し込む。
それから目の前の力を失った石へ、円盤の透明な石をかざした。
集中。呼吸を落ち着ける。
体に満ち満ちている力の一部を意図したとおりに円盤へと送り、円盤の溝に光が満たされていく。
それは外から徐々に内側へ。
それに従い薄い白から濃い白、濃い白から薄い緑、薄い緑から鮮烈な緑へと変化していく。
やがて鮮やかに色付いた光は透明な中央の球を満たしていき、その淡い輝きがある程度強くなると共鳴するように灰色の石は徐々に色を取り戻していった。
ただの灰色だった石が、他と同じ薄緑色へ戻るのにそれほど時間はかからなかった。
十分だと判断したところで、リオンは翳していた円盤に込める力を抜く。
瞬く間に溝を満たしていた光の線は消え、球は元のような透明な姿へ。残ったのはすっかり力を取り戻した精霊石の姿だけだ。
「こりゃあ、どういうことだ? アンタはいったい……」
唖然と男は円盤を仕舞うリオンを見る。
「簡易式の精霊石生成術式を組んだ道具なんですが、ちゃんと使えて良かったです」
ポカンとする男にリオンはそう笑いかけた。
まだまだ出来たばかりな事もあり、一応は実験室で動作を確認できていたが環境の異なる屋外に置いてもちゃんと動作するかは確信が無かった。それだけこの術式は扱いが難しいのだ。
ホッとするリオンとは別に、男は驚愕から徐々に顔を青くし始める。
「あ、あの、直して貰ったのは大変ありがたい事なのですが、その、お金などは今持ち合わせがなくて、これこの通り買い物をした帰りなものですから――」
もはや怯えていると言っても良い顔色である。
しかし男がこのように動揺するのも無理は無かった。
人工の精霊石は作ることそのものは難しくなくとも、必要となる設備は非常に大きいのが一般的だ。
本来であれば石を車輪から取り外し、金持ちの屋敷に匹敵するような大きさの巨大な機器に放り込む必要がある。当然、それだけの規模となるのだから「質は低くていいから小石一つだけ」などと頼めるわけもない。依頼のため大量に集める手間を考えれば、新しく買った方が得だ。
なぜ、そのような事になっているのかと言えば、小型化が現代にいたるまで誰一人として成し遂げられなかった程度には困難であるからに他ならない。
そしてたった今リオンが見せたのは、その困難を突破した道具の姿である。
恐らくは世界に一つしかないであろう貴重な道具を使わせた代金など、想像もしたくない。
しかしそれほどの存在を前に「お前が勝手にやったんだろ」などと強気に出るのも怖い。
そんな複雑な心境から、男はなんとか諦めてくれないかと懇願しているわけである。
もっとも震えた声で唐突に始まった男の話に、リオンはただポカンとするだけであるが。
「あの、落ち着いてください」
延々と続く男の命乞いに似た話の隙間を縫って、宥めるように声をかける。
「別にお金を貰おうなんて考えていません」
「そ、それじゃあいったい何を……」
「そうではなく、私は困っている方がいたので助けになりたいと勝手におこなっただけで」
「勝手に?」
「はい、勝手に……勝手にですよね?」
訝し気に繰り返す男に、もしかして頼まれていたかと僅かに不安になる。勿論、記憶の中にそのようなものは欠片も存在しないのだが。
「は、ははは、あははははははははははは!」
それまでとは一変した様子で男は大きく笑い始めた。
その変貌ぶりが少し怖い。
「まったく、世の中ってのは奇妙なもんですな!」
「そ、そうですね」
「いやぁ助かりましたよ! 流石にまだ魔物が出てくるような場所ではありませんが、あの調子だと帰るのが何日遅れていたか分かりませんでしたから」
途端に元気になった男にやや困惑しながら、リオンは適度に相槌を打つ。
それから尋ねられたので、自分の向かう先を言うと「そいつは丁度いい!」と男はニヤリと笑みを浮かべた。
「途中までだが方向は一緒。なら是非適当なところまで乗って行ってください。見たところ徒歩のようですからね、多少は楽を出来るでしょう」
機嫌良さそうに提案する姿に、断るのも悪いと感じてリオンはお願いすることにした。
大門を超えた先は無数の人の足と、最近使い勝手が良くなったと噂の馬車が通りに通って踏み固めた岩のような剥き出しの地面が、まっすぐ一本の線となって地平線の向こうまで続いている。一方でその馬車通しが余裕を持ってすれ違える程度の道を一歩でも外れれば、柔らかくも短い青々とした草が生い茂り、ぽつぽつと禿げたような場所からは茶色の地面が姿を見せている。
周囲の人の数はやはり多い。町の近くであるということもあるのだろうが、主な理由は明白だ。
今もまた、馬に乗ったいかにも荒事を生業とした風貌の者たちが馬を駆って草原へと出ていく。
「ここでは、止めておいた方がいいな」
促されるまま首にかけた笛にそっと触れ溜息を吐く。
誰が見ているかも分からない場所で金目の物を見せびらかすなど盗んでくださいというようなものだろう。自分の所有物なら兎も角、借り物に出立そうそう万が一のことがあっては困る。
暫くは徒歩だな、と心に決めて均された道を進みだすのだった。
そうやってリオンが歩を進める事、おおよそ二時間。
重大な問題、正確に言えば準備不足による失敗に直面して苦い顔を作っていた。
陽気は春も終わりで太陽よりの陽ざしに力が増してきた季節。それでなくとも体を延々と動かしているのだから喉が渇くなど当然のことである。
そんな当たり前の事を失念したリオンは、水筒の一つも持っていなかった。
もしや何かの間違いで荷物に混入していないかと、決して大きいとは言えない手持ちのカバンや背負った荷物を漁ってみても、出発前に確認した通りちゃんと欲している物は影も形もない。
これほど歩いてくると再び町に戻るのも億劫である。
――それが旅する者にとって致命的な判断であったとしても、リオンには当然分からなかった。
リオンが思っていたのは、『周囲にまだ人の影はまばらにだがある。だからいざとなれば譲ってもらえばよい』という非常に楽観的なものだった。
はたして、貴重な水をそう易々と譲ってくれる相手がいるものか。
話を聞けばそんな嘲笑も上がるだろう希望は、しかし幸運にも叶う事となった。
「くそ! なんでこんなところで……」
そんな憎々し気な声が耳に届く。
いったい何処から聞こえてきたのだろうか。
いつの間にか落ちていた視線を上げてリオンは周囲を見回す。
目を止めたのは白い袖なしの衣服を着た男だった。体の太いのは不摂生ではなく筋肉によるものが大半で、腕は丸太のようだ。
男は道の端で馬車を止めていた。
大きな荷車には空と思えない重そうな木箱がいくつも積まれており、向いている方角から恐らく町で買い物をした帰りなのだろう。
ただ、その馬車は今は止まっていた。
男は悪態をつきながら、それを後ろから押しているようだ。
滝のような汗が顔の下の地面に水たまりを作っており、一方でそれだけの労力を割いていながら前へは一向に進んでいないように見えた。
道行く人たちは無関心。
助けても得るものが無いのであれば、手を貸す必要はないのが世の常識なのだ。
「どうしました?」
そんな常識など知った事ではないリオンは、なんの躊躇もせずに声をかけた。
獲物をおびき寄せるための悪党の演技であった、などという可能性は知った事ではない。
「あんたにゃ関係ねーよ」
男の答えは素っ気なかった。
「そうやって近づいて来る奴にロクなのはいねーんだ」
何か苦い経験がある様子で、疑いと怒りの籠った視線がリオンに向けられる。
しかしその程度の対応で「そうですか」と下がりはしない。
押しているという事は、動かなくなったという事。動かなくなったという事は、馬車を引く馬か車輪のどちらかに問題があると一般的に考えられる。
何も言わず回り込んでいくリオンに、男は離れていったと思ってホッと力を抜いた。
「ふむ」
当の本人は馬車の前側で何度も踏ん張っている馬の姿を確認していたが。
馬は生きているし、足腰にはしっかりと力が入っているように見える。
とすれば車輪に何かあったか。
馬車の側面、並ぶ木製の輪っかの前でリオンは一度しゃがみ込む。
それは中央に薄緑色の石が嵌め込まれた車輪。
よく見覚えのあるソレは、記憶の通りであれば問題の無い状態である。
今度は逆側に回り込み、男の舌打ちを聞きながら反対側と同じようにリオンはしゃがみ込んで車輪を見た。
「こっちの精霊石が力を失ってたか」
精霊石、それは自然界に眠る精霊の力を起こした状態で封じた石である。
一般に魔法は触媒と呼ばれる、眠った精霊の力を閉じ込めた物に魔力を込める事で、その眠りから一時的に込めた魔力に応じた規模の力を呼び覚ますものだ。
精霊石とは、その“魔力を込めて起こす”という部分をあらかじめ終えた状態で、特定の拘束魔法を組み合わせる事により作り出したもの。或いは自然界に偶然そのように生まれた不安定な石を使いやすく加工したものである。
天然物でこの大きさであれば非常に高価であるから、目の前の石はおそらく前者に該当するものだろう。
もっとも、今はやや透明感のあるだけの灰色の石にしか見えないが。
「そうだよ、だからどうにもなんねぇ。分かったなら、もうどっか行ってくれ!」
「安心してください。これなら“直せます”」
「へ? あんた、何言ってんだ?」
リオンの言葉に男はポカンとし、それからバレバレの嘘と思って苦笑いを浮かべた。
しかしリオンは嘘などいったつもりはない。
これは“自分の専門分野”なのだから。
少しお待ちを、と言って持っていたカバンを開き、取り出したのは中央に透明なまん丸い石の嵌め込まれた円盤。
真ん中の球、石と接している円盤、そしてその円盤の外半分に重なるように乗せられた、スライドする事の出来る厚い帯のような輪っかにより構成された道具。
円盤と輪っかは銀灰色で、それぞれに彫り込まれた紋様はなぞったように黒く染まっている。
リオンは外側の輪っかの紋様を、内側の決まった位置へ合わせてパチンと音がするまで押し込む。
それから目の前の力を失った石へ、円盤の透明な石をかざした。
集中。呼吸を落ち着ける。
体に満ち満ちている力の一部を意図したとおりに円盤へと送り、円盤の溝に光が満たされていく。
それは外から徐々に内側へ。
それに従い薄い白から濃い白、濃い白から薄い緑、薄い緑から鮮烈な緑へと変化していく。
やがて鮮やかに色付いた光は透明な中央の球を満たしていき、その淡い輝きがある程度強くなると共鳴するように灰色の石は徐々に色を取り戻していった。
ただの灰色だった石が、他と同じ薄緑色へ戻るのにそれほど時間はかからなかった。
十分だと判断したところで、リオンは翳していた円盤に込める力を抜く。
瞬く間に溝を満たしていた光の線は消え、球は元のような透明な姿へ。残ったのはすっかり力を取り戻した精霊石の姿だけだ。
「こりゃあ、どういうことだ? アンタはいったい……」
唖然と男は円盤を仕舞うリオンを見る。
「簡易式の精霊石生成術式を組んだ道具なんですが、ちゃんと使えて良かったです」
ポカンとする男にリオンはそう笑いかけた。
まだまだ出来たばかりな事もあり、一応は実験室で動作を確認できていたが環境の異なる屋外に置いてもちゃんと動作するかは確信が無かった。それだけこの術式は扱いが難しいのだ。
ホッとするリオンとは別に、男は驚愕から徐々に顔を青くし始める。
「あ、あの、直して貰ったのは大変ありがたい事なのですが、その、お金などは今持ち合わせがなくて、これこの通り買い物をした帰りなものですから――」
もはや怯えていると言っても良い顔色である。
しかし男がこのように動揺するのも無理は無かった。
人工の精霊石は作ることそのものは難しくなくとも、必要となる設備は非常に大きいのが一般的だ。
本来であれば石を車輪から取り外し、金持ちの屋敷に匹敵するような大きさの巨大な機器に放り込む必要がある。当然、それだけの規模となるのだから「質は低くていいから小石一つだけ」などと頼めるわけもない。依頼のため大量に集める手間を考えれば、新しく買った方が得だ。
なぜ、そのような事になっているのかと言えば、小型化が現代にいたるまで誰一人として成し遂げられなかった程度には困難であるからに他ならない。
そしてたった今リオンが見せたのは、その困難を突破した道具の姿である。
恐らくは世界に一つしかないであろう貴重な道具を使わせた代金など、想像もしたくない。
しかしそれほどの存在を前に「お前が勝手にやったんだろ」などと強気に出るのも怖い。
そんな複雑な心境から、男はなんとか諦めてくれないかと懇願しているわけである。
もっとも震えた声で唐突に始まった男の話に、リオンはただポカンとするだけであるが。
「あの、落ち着いてください」
延々と続く男の命乞いに似た話の隙間を縫って、宥めるように声をかける。
「別にお金を貰おうなんて考えていません」
「そ、それじゃあいったい何を……」
「そうではなく、私は困っている方がいたので助けになりたいと勝手におこなっただけで」
「勝手に?」
「はい、勝手に……勝手にですよね?」
訝し気に繰り返す男に、もしかして頼まれていたかと僅かに不安になる。勿論、記憶の中にそのようなものは欠片も存在しないのだが。
「は、ははは、あははははははははははは!」
それまでとは一変した様子で男は大きく笑い始めた。
その変貌ぶりが少し怖い。
「まったく、世の中ってのは奇妙なもんですな!」
「そ、そうですね」
「いやぁ助かりましたよ! 流石にまだ魔物が出てくるような場所ではありませんが、あの調子だと帰るのが何日遅れていたか分かりませんでしたから」
途端に元気になった男にやや困惑しながら、リオンは適度に相槌を打つ。
それから尋ねられたので、自分の向かう先を言うと「そいつは丁度いい!」と男はニヤリと笑みを浮かべた。
「途中までだが方向は一緒。なら是非適当なところまで乗って行ってください。見たところ徒歩のようですからね、多少は楽を出来るでしょう」
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