黒いモヤの見える【癒し手】

ロシキ

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1章

最終話

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「う、んん?」

私は目が覚めると、知らない場所にいた。
ぼんやりとしたままで周りを見回すと、周りにはすごく高そうな物がいっぱい、というかすごく高そうな物しか無かった。

それを見て、すぐに領主様の御屋敷だと気が付いた。
それに気が付いた理由は、すごく高そうな物しか無い場所の心当たりが、領主様の御屋敷しかないからだ。

とはいえ、違う可能性もあるので、部屋の窓から外を見てみると、以前に御屋敷の中から見た時と似た光景があった。
部屋のある位置が違うからか、少しだけ変化があるものの、ここは領主様の御屋敷で確定なのだと思った。

そこまで考えた所で、私がここに居るだろう理由に思い至った。
それから私が慌てて部屋を出ると、エステールさんと鉢合わせた。

その為、エステールさんに詰め寄って、私は質問した。

「あれからエクス様とドリスさんは!?」

「お、落ち着いてください。
お二人共、命の危険は無くなりました。

ただお二人共に疲労と怪我が酷く、主任は動けるようにはなりましたが、放って置くとエクス様の側で観察を始めるので、ベットに縛り付けています。

エクス様は診断出来る限りでは両腕の怪我が最も酷いです。
更に無理な魔法の発動をして、脳に疲労が蓄積してしまったらしく、丸一日経過した現在もお目覚めになりません」

「私をエクス様の所に連れて行ってくれませんか」

「落ち着いてください。

エクス様は疲労から目を覚まさないだけで、生命を脅かす怪我を負っているわけではありません。
むしろ、初めて魔力を使い切ったアリア様の検査をしなければ」

「私なら大丈夫です。
言われてから分かりましたけど、魔力なら既に回復しきっています。

だから、あの時に魔法を掛けられなかった箇所と掛けても足りなかった箇所に魔法を掛けさせてください」

私がエステールさんに詰め寄り、エステールさんが困った顔をしていると、突然エステールさんが驚いたような顔をした。

何かと思って、エステールさんの向いている方を向くと、ミュディー様がこちらに歩いてきていた。
それを見ていたエステールさんがミュディーさんに話しかけた。

「ミュディー様、まさか負傷者が出ましたか?」

「いいえ、『タートル』の解体には細心の注意を払わせているから、大丈夫よ。
そろそろアリアさんが起きてくるかもしれないと、様子を見に来たの。
貴女の様子を見ると、見に来たのは正解だったようね。

アリアさん、ひとまず簡単な検査だけ受けてもらえないかしら」

「検査よりも、エクス様に魔法を」

私がそこまで言った所で、ミュディー様は私の言葉を止めた。
そして、検査を受ける理由を話し始めた。

「ここでは魔法使いが魔力を使い切って倒れたあとは、必ず簡単な検査を行うの。
その理由は魔力を使い切った状態は危険だからの一言に尽きるわ」

「魔力を使い切った状態が危険、ですか?」

「ええ、魔力とは生きるために必要な物。
人によって総量は変わっても、それだけは変わらない。
だからこそ、魔法使いが魔力を使い切って気絶した時には検査をするのよ。

エクスとドリスの状態も、検査が終われば伝えるわ。
それに検査で異常がなければ、すぐに魔法を使う事も止めないわ」

ミュディー様にそう言われて、少し悩んだものの、言われた通りに検査を受ける事が一番早いと思った。
だから、私はミュディー様の事に頷いて答えた。



検査は本当に簡単だった。
どこか体に不調はないかの質問、体を軽く触って痛みが無いか、今現在で魔法を使えるかの3つの検査が行われた。
私はどれも問題が無かったので、軽く話すだけで、本当にすぐに終わった。

それからミュディー様が言っていた通りに、誰からも邪魔されずにエクス様の部屋に通された。

それから黒いモヤモヤを確認すると足のモヤモヤは消えかけていて、問題ないように見えた。
ただし、頭と両腕には黒いモヤモヤ が濃く残っていた。

それを見て、すぐにエクス様に触れて魔法を発動させた。
始めは1割の魔力を使って、頭に魔法を掛けた。
でも、やっぱり効きが悪かった。

だから、私は目に魔力を集めて強化した。
いつも見る黒いモヤモヤではなく、どこが黒いモヤモヤの中心なのかを見るために。

そして、黒いモヤモヤの最も濃い場所、つまり怪我の中心部分に触れて、そこに魔力を集中させて魔法を使った。
魔力の1割を消費したものの、頭の黒いモヤモヤはかなり綺麗になった。

それを見て、息を深く吐いた所で、エクス様が目を開けていることに気が付いた。

「エクス様、目が覚めたんですね。
大丈夫ですか」

エクス様は私の言葉にゆっくりと頷いて返事をした。

それを見て、全身に少し残っているモヤモヤが疲労なのだろうと思った。
ただし、まだ両腕には魔法を掛けて居なかったので、急いで両腕に魔法を掛けた。

それによって、両腕のモヤモヤも綺麗になった事を確認してから、私はエクス様の全身に魔法を掛けた。

魔法を掛け終わると、エクス様はすぐに体を起こされて手を握ったり、開いたりしていた。

それから少しして、エクス様は小さく笑われてから、私に言った。

「ありがとう、アリア。
お陰で、重い後遺症が残らずに済みそうだ。

本当にありがとう」

「いえ、お役に立てて良かったです」

私はエクス様の言葉に嬉しく思って、そう返した。





『黒いモヤの見える【癒し手】:END』


※お知らせ
最終話が少し短くなってしまいましたが、こちらで完結となります。
またお休みさせて頂いてから、大変お待たせしました。

本来なら2章で『王都編』も予定していたのですが、個人的に中々書けない心情が続いてしまったので、区切りの良い所で終わらせて頂きます。

ただ最近はまた懲りずに、新作の長編を頑張って書き溜め始めました。
もしも皆様のお目に留まることがありましたら、お読みいただけると幸いです。

完結までお読み下さり、ありがとうございました。
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