黒いモヤの見える【癒し手】

ロシキ

文字の大きさ
上 下
9 / 38
1章

9話 契約

しおりを挟む
「あの女、ですか?」

 私はエクス様とエステールさんの会話が良く分からず首を傾げつつ、さっきから出ている『あの女』という言葉に反応してしまった。

 そんな私に、エステールさんは苦い顔をしつつ、私に説明した。

「ここだけの話ですが、あの女というのは領主様の第二夫人、エリシア・サーベント様の事です。

 そうですね、アリアさんならジャック様の母君だと言えば分かりませんか?」

「あ、あのギラギラの人ですか?」

「「ふっ!!」」

 私が『あの女』がしてしている人を理解し、言葉にするとエクス様とエステールさんが同時に吹いた。
 それに首を傾げていると、エクス様が天井を見ながら言った。

「ふ、普段は構わないが、誰かが聞いている時には言わないように。
 一応、そのギラギラの人は元侯爵令嬢なので、『導き』である事を公表する前に聞かれると無礼になってしまうからな」

「はい、分かりました。

 あの、それとは別に領主様が言っていた『蝶の館』とは何ですか?」

「ああ、『蝶の館』とは辺境伯家当主、今で言えば父上が領地の繁栄に必要な才能を認めた人間を守る為に作られた屋敷だ。

 一応、作られた目的が目的だったので、『蝶の館』が作られた時から他家の貴族に目を向けられない屋敷の為、最近では魔法使いの才能がある人間とその家族が暮らしている。
 優秀な魔法使いになる人材は幼い子供程、より貴重だからな」

「そうなんですか?
 既に魔法を使える人の方が凄いと思いますけど」

「確かに魔法使いとして即戦力になるのは、既に魔法使いである人間だ。
 だが、魔法使いとして価値があるのは、15歳以下の魔力総量が多い人間だ。

 15歳以下は魔力を使い続ける事で魔力の総量が増える。
 だからこそ、貴族の子供で魔法使いの才能がある者は出来るだけ魔力を使い続け、魔力を増やす。

 とは言え、この方法で魔力を増やしても、個人毎に魔力の増える上限がある。
 平均すると1日1時間、3年間も訓練を続ければ総量の限界になると言われている。

 ただし、これまでの魔法使いの傾向で言うと魔力の総量が多い両親から生まれた子供は、魔力の総量が多い傾向がある。
 もちろん、例外として魔力の総量が多い両親から、魔力の総量が少ない子が生まれる事もあるし、その逆もあり得る。
 アリアはその逆のパターンだな。

 話をまとめると魔法使いは魔力の総量が重要視されるという事だ。 
 まあ、結局は魔力の総量が多いかなんて、鍛えてみないと分からないが」

「な、なるほど?」

「分かりやすく言うなら、アリアは今後出来るだけ、魔力を使い続けると良い。
 そうすれば、魔力が増え続ける筈だ」

「なるほど」

「まあ、暫くは俺と一緒に訓練するだろうから、他の事は追々説明しよう。
 今からは、アリアの待遇等々についての話だ。


 まず、アリアを『導き』として公表するタイミングは父上が決めるか、アリア本人が望んだタイミングになるだろう。
 まあ、公表するのは最低でも属性魔法が使える様になったらだな。


 次に普段の生活だが、悪いが住居は両親と共に『蝶の館』に引っ越しをしてもらう。
 引っ越しの費用は辺境伯家持ちだが、アリアは一足先に『蝶の館』に移動してもらう。
 アリアの両親は後日引っ越しをしてもらうが、引っ越しが完了するまでは両親にも陰から護衛が付くから安心して良い。

 次に私生活だが、アリアの両親には今の仕事を辞めてもらうことになる。
 流石に商会の主や各協会の支部長だった場合には護衛が付くことになるだけだが、どうだ?」

「いえ、両親共に協会で働いていますが、支部長とかではないです」

「協会?
 というと、冒険者協会か商人協会か?」

「はい、商人協会で働いているそうです」

「商人協会か、微妙な所だな。
 まあ、協会だし護衛でも行けなくはないか?」

「いえ、商人協会は少し厄介です。
 アリアさんの両親が直接契約を結ぶ部署に居ると危ないかもしれません」

「それも、そうだな。
 商人協会の支部長達を引き込むのはどうだ?」

「悪くない手ですが、王族や主要都市の貴族、他の協会支部に複数で圧をかけられた際に凌げるかどうか」

「はぁ~、確かにそうだな。
 アリアの両親には仕事を辞めてもらうほかないか」

「あ、あの両親は書類整理のお仕事をしていると聞いているのですけど、それでも駄目なのですか?」

「ああ、協会は世界中に存在し、同じ協会間でも、支部単位で大きな差が出来ている。
 だからこそ、商人を統括している商人協会に襲撃を仕掛け、アリアの両親を無理矢理連れ去ると言った馬鹿は出ないだろう。

 だが、少しづつアリアの両親の情報を抜き取り、時間を掛けて接触、そこから相手の罠に嵌まる例もなくはない。
 流石に冒険者協会や魔法使い協会なら、そこら辺の心配は無かったが、商人協会は良い意味でも、悪い意味でも人の目が多すぎる。

 仮にこの辺境の商人協会の支部長が、『光』の両親を渡すという契約書に意図せずにサインしたとしても、その契約は履修しなければならない。

 最悪は『光』である事を公表するまでは所属していても大丈夫だと思うが、公表後もそのまま所属しているのは不味いな」

「ええ、商人協会が大陸中にあり、かなりの影響力がありますから、明確な敵対行為は避けなければなりません。

 ただアリアさんの両親を2人共引き抜く形になってしまいますので、どのように話を持っていくかも考えなければ」

「それは大人である父上かエステールに任せるよ」

「うえ!?
 エクス様も一緒に考えてくれないんですか!?」

「当然だ。
 俺はあくまでもアリアの護衛であり、普段は師匠になる。

 だが、それ以前に俺はまだ正式にドーラス家の次期当主に指名された訳でもない。
 だからこそ、俺がアリアの両親を引き抜くのはあまり宜しくない。

 その点、父上かエステールなら最悪の場合に『優秀だと聞いたから引き抜きたい』と言い訳できるだろう? 
 まあ、その時は商人協会に借りを作る事になるだろうがな。

 それと父上が対応してくれるなら良いが、忙しければエステールが1人で商人協会の支部長と交渉するんじゃないか?
 だから、建前と言えど下手に俺が考えないほうが良いだろう」

「う、それは確かにそうですが」

「それに『光』とはいえ、いや『光』だからこそ魔力は出来るだけ多い方が本人の為になる。
 だから、契約が済み次第、訓練に入る方が良いだろう。
 その訓練を俺が見るのだから、その他の事に割く時間は減らしたい。

 更に言えば、魔法関連の訓練を行うのだから、どう考えてもあの魔法狂いを相手にしなければならない。
 そうなれば、まだ交渉の際だけ苦労すれば良い商人協会を担当するのは楽だと思うが?」

「うっぐ、確かにその通りです」

 エステールさんはエクス様の言葉に肩を落として項垂れていた。
 因みに、エクス様は魔法狂いを相手にすると言った辺りで、とても嫌そうな顔をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

革命の旅路

おれ様
ファンタジー
 とある青い惑星にある、日の本の国。そこでは死した者たちが、記憶を宿したまま魔術の発展した世界へ行くことが幾度も起こるという。その者たちは皆 黒髪黒目で、神の祝福や世界の願いを受け、究極の力を得るという。究極の力を以って、ある者は悪を倒し、ある者は国の情勢を変え、ある者は平和な日常を過ごし、ある者は悪名ある貴族や王家の異端児に生まれる。究極の力に魅了されたのか、憧れたのか……その地に住まう者たちは、異界から来た者に集っていく。また彼らよって、魔術の発展した世界は平和になるという。  さて。異界の者に縋り得た平和。それは、真に平和だろうか。異界の者に頼り得た発展。それは、真に世界の願いだろうか。神の祝福に集まる仲間。それは、真に仲間だろうか。偶然手にした貼り付けの力。それは、真に強さだろうか。絶えず続く悲しく空しい歪な世界……そしてまた、異界から一人の少年が降り立った。純白の髪を持つ彼は、神の祝福を受けずに世界に落とされた。  これは彼と仲間の、やがて世界を揺るがす、革命の旅路だ――

群青の軌跡

花影
ファンタジー
ルークとオリガを主人公とした「群青の空の下で」の外伝。2人の過去や本編のその後……基本ほのぼのとした日常プラスちょっとした事件を描いていきます。 『第1章ルークの物語』後にタランテラの悪夢と呼ばれる内乱が終結し、ルークは恋人のオリガを伴い故郷のアジュガで10日間の休暇を過ごすことになった。家族や幼馴染に歓迎されるも、町長のクラインにはあからさまな敵意を向けられる。軋轢の発端となったルークの過去の物語。 『第2章オリガの物語』即位式を半月後に控え、忙しくも充実した毎日を送っていたオリガは2カ月ぶりに恋人のルークと再会する。小さな恋を育みだしたコリンシアとティムに複雑な思いを抱いていたが、ルークの一言で見守っていこうと決意する。 『第3章2人の物語』内乱終結から2年。平和を謳歌する中、カルネイロ商会の残党による陰謀が発覚する。狙われたゲオルグの身代わりで敵地に乗り込んだルークはそこで思わぬ再会をする。 『第4章夫婦の物語』ルークとオリガが結婚して1年。忙しいながらも公私共に充実した生活を送っていた2人がアジュガに帰郷すると驚きの事実が判明する。一方、ルークの領主就任で発展していくアジュガとミステル。それを羨む者により、喜びに沸くビレア家に思いがけない不幸が降りかかる。 『第5章家族の物語』皇子誕生の祝賀に沸く皇都で開催された夏至祭でティムが華々しく活躍した一方で、そんな彼に嫉妬したレオナルトが事件を起こしてミムラス家から勘当さる。そんな彼を雷光隊で預かることになったが、激化したミムラス家でのお家騒動にルーク達も否応なしに巻き込まれていく。「小さな恋の行方」のネタバレを含みますので、未読の方はご注意下さい。 『第6章親子の物語』エルニアの内乱鎮圧に助力して無事に帰国したルークは、穏やかな生活を取り戻していた。しかし、ミムラス家からあらぬ疑いで訴えられてしまう。 小説家になろう、カクヨムでも掲載

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...