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1章
4話 別視点(エクス(①))
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◇エクス視点
アリアを彼女の家に到着し、辺境伯家の影達も問題なくアリア護衛の任務についた報告を受けて、ようやく俺は一息付くことができた。
影達には、父上の第二夫人のエリシアやその手の者からアリアを守るように言い付けてある。
これで、ひとまずは安心だ。
第一夫人である俺の母上は辺境伯家に隣接している子爵家の長女だった。
そんな母上と父上の出会いは、辺境伯家主催の父上の婚約者候補を探すパーティーだったとの事だ。
辺境伯家は王国の盾という性質上、それなりの権力を持っているので、貴族なら大抵は希望していたらしい。
そして辺境伯家は、呼び方こそ違うが侯爵家と同等以上の権力を持っている。
そんな辺境伯家の婚約者候補になる大前提は、魔物の死体を前に気絶しない事なのだという。
そして、そこから教育の度合いや魔物を前にした対応が出来るかを調べた後、父上との交流が始まるのだという。
なので、箱入りのお嬢様は、まず辺境伯家に嫁いで来ない。
もちろん、稀に生まれる戦いに向かない精神の辺境伯家出身者も居るので、その者が箱入りのお嬢様に嫁ぐ事はあるとの事。
そんな辺境伯家の夫人の座は母上が射止めたのだ。
ただ、父上も母上もお互いに一目惚れではなく、最終的に一人だけ候補に残った母上とじっくり愛を育んだらしい。
そんな母上は王国史上初の王家所属の女騎士を目指していたが、結果としては父上の元でお互いを愛し合い、俺を産んでくれた。
以前、母上に騎士試験に落ちたのかと聞くと、『騎士試験を受ける前に、王都の貴族が嫌いになったから、お父様の女になったのよ』と頬を染めながら言われた。
その後は、父上と共に王都で暴れた時の事を色々と聞かされた。
因みに、何故父上と母上が王都に居たかと言うと、学園に通う事を免除されていた父上が王家の要請で15歳~18歳まで王都の学園に通っていたらしいのだ。
母上は14歳で父上と婚約を果たしていたらしいし、貴族は王都の学園に通わなければ貴族籍を強制的に外されるので、2人揃って王都に向かい、学園在籍中に暴れたらしい。
もちろん、暴れたと言っても、殆どの場合は暴れる原因となった相手が悪かったので、2人とも特に罪に問われたりもしていない。
当時はまだ2歳だった為、父上と母上の暴れっぷりに感動した事を覚えている。
そして、そんな話を聞いていて、全く話に出て来ない第二夫人が居ると、子供とは気になってしまうものなのだ。
俺は1度だけ母上に第二夫人に関する質問してしまった。
質問してしまった内容は覚えていないが、その時の母上の笑顔の中にある静かな怒り様だけは今でも鮮明に覚えている。
今でも思い出しただけで、身震いしてしまう。
頭を振って、思い出してしまった母上の顔を忘れようとしていると、ノックが聞こえてきた。
ノックに対して入室許可を出すと、入室してきたのは父上の側近だった。
その側近は一度頭を下げると、明日の事について話し始めた。
「明日ですが、エクス様並びにエクス様が連れてきた女児は学校をお休みいただき、午前中から魔法についての講義や訓練、午後は適性検査の結果によって女児への対応を決めるとの事です。
また、適性検査の際には領主様も同席されるとの事です。」
「午前中から?
しかも、適性検査には父上も同席するのか。
つまり、彼女を辺境伯家に組み込むと?」
「ええ、どうやらエリシア様の付き人が、ジャック様に歯向かった女児を排除しようと動いている様ですので、旦那様が組み込むに決められました。
また、明日から準備を始め準備が出来次第、エリシア様とジャック様は王都の別邸へと移されるそうです。
それに伴い、エリシア様が王都より連れてきていた騎士も王都に戻す予定です。
ただし、騎士に関しては希望者のみ武術指南役として、受け入れる予定です」
「分かった。
因みに、明日の魔法の講義や訓練、適性検査は誰が行うんだ?」
「魔道具研究室の副主任が担当されるそうです」
「そうか、副主任が担当してくれるか。
まあ、あの魔法狂いの主任に任せると、どうなるか分からないから妥当か」
「ええ、主任も副主任と同様に優秀なのですが、如何せん暴走する時がありますからね。
それでは、ご質問が以上でしたら、失礼します」
「ああ、ありがとう」
父上の側近が扉を出るのを待って、俺は安堵のため息をついた。
明日の適性検査にて、一番の懸念事項は魔道具研究室の主任の暴走だったので、それが消えて安心できた。
あの人は優秀だし、中堅騎士並みの戦力になるが魔法狂いの為、レアな才能を彼女が持っていると面倒だった。
俺は彼女が魔法使いの中でも1000人に1人の逸材である【付与師】の才能があるのではないかと考えている。
そんな彼女の適性検査を、魔法狂いの人間させると、どうなるか等は火を見るよりも明らかだ。
仮に付与師の才能が無くとも、俺以上の魔力がある時点で強力な戦力、あるいは魔道具師になってくれるだろう。
それに、このタイミングで第二夫人とジャックが王都に向かってくれる事になったのは都合が良い。
5歳の頃にようやく理解したが、母上と第二夫人は相性が悪い。
俺は特に第二夫人に含む物はないが、当の第二夫人とジャックは違うし、この2人はこの辺境伯家には向いていない。
せめて、辺境伯家の社交面を請け負ってくれれば良いものを、社交に出せば母上の立場を悪くするような事ばかり話す。
だからこそ、父上は第二夫人とジャックを手元に置いて監視していたが、昨日勝手に城壁外に出た事を重く見たのだろう。
実際に、昨日の件で魔物の血が流れ過ぎたせいで、城壁外の匂いは酷いものだった。
既に魔法や魔道具により、血の匂いや跡も無くなったが、昨日の時点でこちらに狙いを定めた魔物達による大移動が起こるだろう。
そのせいで事情を知る者はピリピリとしている。
近隣に居た魔物達は今日の内に騎士や兵士達が討伐した筈だが、騎士の足で5時間以上掛かる場所よりも森の奥に居る魔物は討伐出来ていない。
それよりも奥に居る魔物達も騎士の足で1日ほどの距離の魔物なら、魔物に取って城壁の危険度は理解しているだろうが、それよりも奥の魔物は城壁なんて関係なく突っ込んで来る。
騎士の足で1日の範囲よりも奥いる魔物がここに到達するまでは、匂いが届いてから到着するまでの時間もある。
それでも長く見積もっても今日を入れて5日、風向き次第では3日で魔物が到着する。
それまでに彼女か大きな魔法を放てるようになれば、より被害を小さく出来るが、流石に厳しいだろう。
「はぁ~、第二夫人もジャックも余計な事をしてくれた」
アリアを彼女の家に到着し、辺境伯家の影達も問題なくアリア護衛の任務についた報告を受けて、ようやく俺は一息付くことができた。
影達には、父上の第二夫人のエリシアやその手の者からアリアを守るように言い付けてある。
これで、ひとまずは安心だ。
第一夫人である俺の母上は辺境伯家に隣接している子爵家の長女だった。
そんな母上と父上の出会いは、辺境伯家主催の父上の婚約者候補を探すパーティーだったとの事だ。
辺境伯家は王国の盾という性質上、それなりの権力を持っているので、貴族なら大抵は希望していたらしい。
そして辺境伯家は、呼び方こそ違うが侯爵家と同等以上の権力を持っている。
そんな辺境伯家の婚約者候補になる大前提は、魔物の死体を前に気絶しない事なのだという。
そして、そこから教育の度合いや魔物を前にした対応が出来るかを調べた後、父上との交流が始まるのだという。
なので、箱入りのお嬢様は、まず辺境伯家に嫁いで来ない。
もちろん、稀に生まれる戦いに向かない精神の辺境伯家出身者も居るので、その者が箱入りのお嬢様に嫁ぐ事はあるとの事。
そんな辺境伯家の夫人の座は母上が射止めたのだ。
ただ、父上も母上もお互いに一目惚れではなく、最終的に一人だけ候補に残った母上とじっくり愛を育んだらしい。
そんな母上は王国史上初の王家所属の女騎士を目指していたが、結果としては父上の元でお互いを愛し合い、俺を産んでくれた。
以前、母上に騎士試験に落ちたのかと聞くと、『騎士試験を受ける前に、王都の貴族が嫌いになったから、お父様の女になったのよ』と頬を染めながら言われた。
その後は、父上と共に王都で暴れた時の事を色々と聞かされた。
因みに、何故父上と母上が王都に居たかと言うと、学園に通う事を免除されていた父上が王家の要請で15歳~18歳まで王都の学園に通っていたらしいのだ。
母上は14歳で父上と婚約を果たしていたらしいし、貴族は王都の学園に通わなければ貴族籍を強制的に外されるので、2人揃って王都に向かい、学園在籍中に暴れたらしい。
もちろん、暴れたと言っても、殆どの場合は暴れる原因となった相手が悪かったので、2人とも特に罪に問われたりもしていない。
当時はまだ2歳だった為、父上と母上の暴れっぷりに感動した事を覚えている。
そして、そんな話を聞いていて、全く話に出て来ない第二夫人が居ると、子供とは気になってしまうものなのだ。
俺は1度だけ母上に第二夫人に関する質問してしまった。
質問してしまった内容は覚えていないが、その時の母上の笑顔の中にある静かな怒り様だけは今でも鮮明に覚えている。
今でも思い出しただけで、身震いしてしまう。
頭を振って、思い出してしまった母上の顔を忘れようとしていると、ノックが聞こえてきた。
ノックに対して入室許可を出すと、入室してきたのは父上の側近だった。
その側近は一度頭を下げると、明日の事について話し始めた。
「明日ですが、エクス様並びにエクス様が連れてきた女児は学校をお休みいただき、午前中から魔法についての講義や訓練、午後は適性検査の結果によって女児への対応を決めるとの事です。
また、適性検査の際には領主様も同席されるとの事です。」
「午前中から?
しかも、適性検査には父上も同席するのか。
つまり、彼女を辺境伯家に組み込むと?」
「ええ、どうやらエリシア様の付き人が、ジャック様に歯向かった女児を排除しようと動いている様ですので、旦那様が組み込むに決められました。
また、明日から準備を始め準備が出来次第、エリシア様とジャック様は王都の別邸へと移されるそうです。
それに伴い、エリシア様が王都より連れてきていた騎士も王都に戻す予定です。
ただし、騎士に関しては希望者のみ武術指南役として、受け入れる予定です」
「分かった。
因みに、明日の魔法の講義や訓練、適性検査は誰が行うんだ?」
「魔道具研究室の副主任が担当されるそうです」
「そうか、副主任が担当してくれるか。
まあ、あの魔法狂いの主任に任せると、どうなるか分からないから妥当か」
「ええ、主任も副主任と同様に優秀なのですが、如何せん暴走する時がありますからね。
それでは、ご質問が以上でしたら、失礼します」
「ああ、ありがとう」
父上の側近が扉を出るのを待って、俺は安堵のため息をついた。
明日の適性検査にて、一番の懸念事項は魔道具研究室の主任の暴走だったので、それが消えて安心できた。
あの人は優秀だし、中堅騎士並みの戦力になるが魔法狂いの為、レアな才能を彼女が持っていると面倒だった。
俺は彼女が魔法使いの中でも1000人に1人の逸材である【付与師】の才能があるのではないかと考えている。
そんな彼女の適性検査を、魔法狂いの人間させると、どうなるか等は火を見るよりも明らかだ。
仮に付与師の才能が無くとも、俺以上の魔力がある時点で強力な戦力、あるいは魔道具師になってくれるだろう。
それに、このタイミングで第二夫人とジャックが王都に向かってくれる事になったのは都合が良い。
5歳の頃にようやく理解したが、母上と第二夫人は相性が悪い。
俺は特に第二夫人に含む物はないが、当の第二夫人とジャックは違うし、この2人はこの辺境伯家には向いていない。
せめて、辺境伯家の社交面を請け負ってくれれば良いものを、社交に出せば母上の立場を悪くするような事ばかり話す。
だからこそ、父上は第二夫人とジャックを手元に置いて監視していたが、昨日勝手に城壁外に出た事を重く見たのだろう。
実際に、昨日の件で魔物の血が流れ過ぎたせいで、城壁外の匂いは酷いものだった。
既に魔法や魔道具により、血の匂いや跡も無くなったが、昨日の時点でこちらに狙いを定めた魔物達による大移動が起こるだろう。
そのせいで事情を知る者はピリピリとしている。
近隣に居た魔物達は今日の内に騎士や兵士達が討伐した筈だが、騎士の足で5時間以上掛かる場所よりも森の奥に居る魔物は討伐出来ていない。
それよりも奥に居る魔物達も騎士の足で1日ほどの距離の魔物なら、魔物に取って城壁の危険度は理解しているだろうが、それよりも奥の魔物は城壁なんて関係なく突っ込んで来る。
騎士の足で1日の範囲よりも奥いる魔物がここに到達するまでは、匂いが届いてから到着するまでの時間もある。
それでも長く見積もっても今日を入れて5日、風向き次第では3日で魔物が到着する。
それまでに彼女か大きな魔法を放てるようになれば、より被害を小さく出来るが、流石に厳しいだろう。
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