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2章 拠点編

42話 元奴隷はため息をつく

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俺がムタイと別れることを視野に入れていると、俺と模擬戦をした大盾の男が話しかけて来た。

「なぁ、あんたはどう思うんだ?」

「ん?俺か?」

「ああ、あの蟻共相手に一番命を張っていたのはあんただからな。そんなあんたの意見を聞きたい」

俺は数瞬で自分がムタイの立場だったら、どうするかを考えてから、大盾の男に答えた。

「俺は現状で残っている物資面だけしか知らないから、これから話すことは話半分で聞いてくれ。

まず、生き残っている人数に対して物資、特に食料が殆ど無い事から言って、俺なら拠点を動かすな。

それにキラーアント種の血の匂いが酷すぎる。人間の嗅覚でもかなりのものなのだから、暫くすれば周囲一帯から魔物が集まって来て、ここは魔窟になる可能性がある。魔窟になると、いくら結界があるとしても割られる可能性が増える。

それに魔窟になった場合、戦闘員が結界の外に出て活動しても、すぐに死ぬ可能性がある。だから、ここから離れたほうが良いとは思う。

だが、俺はこの拠点に残っている人間の状態や戦闘能力をほとんど知らないからな。アドバイスなんかは出来たとしても、実際にこれからどうするかの案を立てるのは無理があるからな。

実際の動きはそっちで考えてくれ」

俺がそう言うと、会議に出ていた殆どの人間は確かにという感じで、考え込み始めた。
ただムタイと眼鏡だけは別で、ムタイは俺に『流石だな』という視線を向けてきて、眼鏡は『なんでお前が偉そうに語ってるんだ!!』という目をしていた。

それを見て、あの眼鏡とは面倒な事になったと思っていると、ワタナベが手を上げてから言った。

「ロキにキラーアントソルジャーの魔石を見せてもらったけど、多分今一番強いパーティーの防衛のトップパーティーでも、10匹を超える厳しいと思う。だから、拠点の移動は中々難しいんじゃない?」

俺はその言葉に眉を顰めた。

「あの移動型の結界があれば、なんとかなるんじゃないか?それにキラーアントソルジャーは、キラーアントよりも少ないぞ?」

「確かにそうかもしれないけど、あの移動型の結界は効率が悪いの。まず結界の発動にキラーアントナイトと同等か少し下のレベルの魔石が要る。そこから結界を維持するために、キラーアントの魔石を1時間で10個消費しちゃうの」

「1時間で10個?前の、移動しない結界はいくつだったんだ?」

「1日で10個だよ」

「そりゃあ効率が悪いな。今からキラーアント種を解体して、魔石だけを抜き取るとしても、どれだけ無事で、どれだけ魔石を得られるか」

俺がそう言って顔を顰めると、ムタイは頭が痛そうに額を抑えていた。

「確かに、あの蟻共の魔石を得るのは急務と言えるが、蟻の名を聞くだけで怖がる人間が居る現状では、すぐには回収できない。

というか、瀬里香。私は移動型の結界が完成したなんて聞いてないんだが?」

「あれ?言ってなかった?まあ、ロキに個人的に頼まれた物だから、拠点のものじゃないかなって。

それに次は20分で作れる自信があるから、必要なら作るよ?」

「余裕があれば頼む」

「分かったよ、ハク」

そう言って頷いたワタナベに向かって、ムタイに『移動型の結界が出来たと言わなかったのか?』と目で聞くと、ワタナベは縦に頷いて答えた。
俺はそんなワタナベに少し呆れて、半目を向けていると、眼鏡がアホな事を言い出した。

「でもさ、ハクちゃん。本当に移動しなきゃいけないの?だって、ここら一帯にはキラーアントがどれだけ居るか分からないんでしょ?

いくら周囲の建物が少なくなったと言っても、ある程度は残ってるんだよ?そんな建物の中や影から襲われたらひとたまりもないよ」

「柴田、ロキの話を聞いていたのか?ここは直に魔窟になる可能性があるんだぞ?」

「それもセリカちゃんの結界とハクちゃんが居れば大丈夫だよ!!」

自信満々に言い切った眼鏡の言い分にムタイとワタナベ、大盾の男は顔を顰め、他の者も『それはちょっと、どうか』という顔をしていた。
そして俺はアホな事を言い出した馬鹿に小さくため息をついて、他に聞こえないくらいの声量で独り言を吐いた。

「はぁ~、バカは休み休み言えよ」

「なんだと!?」

小さく呟いたつもりだった独り言は、意外と聞こえてしまったらしく、眼鏡がキレ出した。
聞かれたのなら、もう黙っていなくて良いかと眼鏡に常識を説いた。

「いいか、眼鏡。俺はここから逃げられない環境になる可能性があると言った。そして、ムタイが言っているのは、逃げられる内に逃げようという事だ。

お前だって、逃げられるなら、逃げるだろ?」

「僕は逃げない!!」

俺の言葉を、眼鏡は条件反射で拒絶しているように見えた。
そんな眼鏡に再びため息をついてから、言った。

「はぁ~、お前はアホか?お前が逃げなくとも、ここに居る人間は生きることが出来る方に逃げるんだよ。というか、3日か2週間もすれば逃げたいと言い出す筈だ」

「3日か2週間?何故、3日か2週間なんだ?」

俺の3日か2週間という具体的な日数にムタイが反応した。
なので、俺はムタイに理由を答えた。

「俺がキラーアント種を殺しまくる為に、結界の外で暴れたお陰で、多分だが明日までは魔物は寄ってこない。

だが、濃いキラーアント種の血の匂いを嗅ぎ付ければ、冬超えの準備が出来て居ないだろう魔物共は戻って来ざるおえないからだ。

キラーアント種にそこまで追い立てられていなければ早く戻って来るだろう日数が2日くらい。そこから、結界の中で逃げたいと言い出す者が出るのに1日。

かなり追い立てられていれば2週間くらいは戻って来るまでかかるから、3日か2週間くらいだ」

俺がそう言うと、大盾の男が質問してきた。

「冬超えの準備?どういうことだ?」

「魔物は魔力が一番必要だが、もちろん食料も居る。ラビリンスキラーアントが、かなりの数居た様に思えたから、キラーアント種はここら一帯の魔物の食料を掻っ攫っていたと思う。

その関係で、ここら一帯の魔物は冬を超すために必要な食料も準備出来ていないだろう。ということは、冬眠では無いが、眠ることが多くなる冬でも魔物が活発に動くということだ。

下手をすると、死物狂いで人間を襲いに来る可能性もなくはない。それに今張ってる結界、外からも中が見える物だろ?そうなると食料が近くにあると思って、結界に攻撃を仕掛ける魔物が増えて、魔力消費も多くなる。

そうなると結界を張っている時も気を付けないと、不意打ちを食らうかもしれないぞ」

俺の言葉で、会議に出ていた殆どのものが顔を顰めた。
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