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2章 拠点編

25話 元奴隷は提案をする

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モールの中に入り、そのまま3階まで歩いて、更に所々にある扉の1つの中に入ると、長いテーブルがあり、そのテーブルを10人の人間が囲って座っていた。

そのテーブルを囲んで座っているのは、若い女が3人、残りは男だった。
こちらの様子を観察している10人を見ていると、ムタイがダンボールを床において話し始めた。

「独立遊撃部隊帰還した。何時も通り、手持ちではあまり持ち帰れなかったが、今回は何時もよりも多くの日用品を集められた。回収出来たら、研究部隊と管理部隊で上手く分けてくれ。

私の方は他にも報告するべきことも多いが、私から報告すると長くなるからな。ひとまず、各部隊何か問題が起こっていたら報告してくれ」

ムタイがそう言うとこの場にいる人間は首を横に振った。
それを見て、ムタイは一度頷き再び話し出した。

「問題は起こらなかったようだな。それでは私が報告しよう。まず、私はこのロキとパーティーを組んだ。それに伴い、私が使っている一軒家にロキを住まわせる事にした。何か異論がある者はいるか?」

ムタイがそう聞くと、座っていた内の1人(男でメガネを掛けており20代前半くらいであり、この場では一番弱そうに見えた)がテーブルを叩き付ける様な勢いで立ち上がった。

「ちょ!?そんなの駄目だよ!!」

その男の拒否に、ムタイは首を傾げた。

「なぜだ?一軒家を所有している班は少ないが、所有しており男女間でも同じ班であれば、家族でなくとも、同居を許可しているだろう?もちろん、それで問題が起こる事も無くはないが、それは仕方無い事だと納得しているだろう?」

「そ、それは、そう!!その男は得体がしれないし、ハクちゃんを無理矢理襲うかもしれないでしょ!?」

男の叫び声よりも気になった単語があったので、なんとなくムタイに聞こえるように呟いてみた。

「ハクちゃん?」

俺がそう言うと、ムタイは体をビクリと震わせた。
それはもう分かりやすく、体を震わせた。

「ほ~?」

それを見て、またからかう材料が手に入ったとニヤニヤしていると、俺に背中を向けていたムタイはくるりと振り返った。
そのムタイの顔は、耳まで赤くなっており、すごく恥ずかしそうにしていた。

「待て」

「何がだ、ハクちゃん」

「いや、だから待て。私をハクちゃんと呼ぶな」

「なんだ、ハクちゃん。そっちのメガネはハクちゃんと呼んでいるじゃないか。ハクちゃん」

「んん!?それは幼馴染だからだ!!それにムタイと呼ばれていたのに、途中からハクちゃんに変えられるのは恥ずかしい」

「ん~、そんなもんか。分かったよ、ハクちゃん」

俺がそう言うと、ムタイはギロリと睨み付けてきたので、肩をすくめて、もう巫山戯ないとアピールした。
するとムタイは再びテーブルに向き直し話を続けた。

「ん、んん。ロキとはここ5日ほど行動を共にしている。もしも私を襲うつもりなら、5日の内に私を襲っているだろう。それでも何か異論があるか?」

ムタイがそう言うと、メガネの男は俯いて小さく言った。

「そ、それは、ない、けど」

「確かに襲う可能性は無いかもしれない。だがムタイ、お前は他の者よりも圧倒的に強いからこそ、独立遊撃部隊としてその力を振るってきたのだろう?

そんなお前と急に現れたぽっと出の男がパーティーを組むのは、ここに居る人間が得しづらいのは確かだ」

「そ、そうだよ!!」

テーブルを囲んでいた者の中で最も筋肉が付いており、最も貫禄がある男が言った事は俺とムタイ以外からしたら尤もだったらしく、メガネの男も復活して再び叫びだした。

そして、それに対してムタイが反論しようと口を開いたのを、俺がムタイよりも前に出て左手の甲をムタイの口元にやることで止めた。
ムタイは俺に何をするつもりだと視線を向けてきたが、それを無視して、最も貫禄がある男に話しかけた。

「なるほど、お前達にとってムタイなかなり大きい存在らしい。そんな存在と急に現れた俺がパーティーを組んでいるのは、無視できないものがあるだろう。

それなら、なにをすれば俺がムタイとパーティーを組んでいるのを大人しくに認める?」

「それは俺が言った事をお前が実行してみせるということか?」

「もちろんだ」

俺が断言すると男は少し考えてから、俺に聞いてきた。

「ふむ、お前は前衛と後衛、どちらでムタイとパーティーを組むつもりだ?」

「もちろん前衛だ。後衛が2人居る、二人組のパーティーなんて笑いものだろ?」

「ふっ、確かにな。良いだろう、それならば俺達防衛部隊のトップパーティー6人からの攻撃を、10分防いでから倒してみせろ」

「分かった。ルールは?」

「武器や防具、その他の道具の使用は許可。ただし、相手に骨折以上の怪我を負わせた時点で、負わせた方の負け。その他は乱入禁止だけだ」

「良いだろう。場所は?」

「一階の中央ホールだ。俺はメンバーに準備をさせてくるから、報告が終わったら来い」

そう言って男は出ていった。
その様子を見ていたムタイはため息を付いてから、俺の頭を軽く叩いた。

「まだ重要な話があったんだが?」

「悪い。だが、こういうのは早い方がいいだろ?」

「全くお前は」

ムタイが諦めているような表情をして左手で額と触れていると、テーブルを囲んでいた女の1人が手を上げた。

「重要な話というのは、ハクのパーティーメンバーの事よりも重要なこと?」

「ああ、食料問題が解決する話だ」

ムタイが頭を抱えながらそう言うと、テーブルを囲んでいた者達は全員が目を見開いた。
それほど衝撃が大きかったのだろう。

そんな衝撃が抜けきらない内に、ムタイは魔物が食えることを話し始めた。
ムタイが説明を終える頃には、テーブルを囲んでいた全員が理解の色を示していたが、本当かどうかは半信半疑といった感じだった。

しかし、そんな様子を見ても、予想してとばかりにムタイは話を進めた。

「もちろん、今まで試してきた魔物を食料とする計画は駄目だった。だが、これは確かな事で、私も試して実際に美味かった。だから、研究部隊はもう一度試して、実験結果を出してくれ。

今の所、オークとフォレストウルフ、スマッシュボア、コボルト、ゴブリンは、まあかなり不味いが、食べれる事を確認している。ただ、この事を見つけたのは私ではなくロキであり、魔物を食うことに関しては私よりも相当知識量が多い。

出来れば、研究部隊はロキと連携して、どの魔物をどうすれば食えるかを、いち早く確認してくれると嬉しい」

ムタイがそう言うと、テーブルを囲っていた男女一人づつが、頷いた。

「「分かりました」」

それを見て、ムタイは一度頷いてから言った。

「私からは以上だ。

ロキ、かなり話し込んでしまったから、急いで中央ホールに行くぞ」

「ああ、分かった」

俺はムタイに促されて、急いで中央ホールへと向かった。
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