婚姻の祝福は『天使』様によって

ロシキ

文字の大きさ
上 下
9 / 9

最終話

しおりを挟む
最後に、一番肝心な『天使』様について。

まず辺境の『天使』様は、ギルとお義父様の血にお力を溜めているし、『教会』も再建中なので問題は無し。

次に王都の『天使』様は、暫くはお力を溜めるために出てこれないとの事。
ただ、それは王太子殿下や王妃様、公爵にも話は通しているらしい。
更に言えば、『天使』様がお力が足りないのだと理解させる為に、『天使』様よりも実力があるように振る舞ったのだと言う。
そこまですれば、事の深刻さに気付き、残りの対策は王家や自領の『天使』様もお力が足りないらしい公爵がなんとかするだろうとの事。

ここまで聞いて、私はようやくギルが『天使』様と戦う前に『結界』を使用した意味を理解した。

因みにギルは、『公爵家は辺境から抜けてこられた魔物に、かなりの被害を受けたのでギリギリ復興は出来るだろう程度に搾り取った』と楽しそうに笑っていた。



私はそこまで聞いて成る程と思った。
しかし、ギルがお父様に向かって提案した事に疑問に思った。

「実は婚姻式を早めたいと思っているのですが、どうでしょうか?
具体的には1ヶ月後にでも」

「1ヶ月後?

確かに学園在学中に婚姻する貴族も珍しくはないが、マリーも暫くすれば卒業する。
元々の婚姻式が卒業から半年を置いて居ることを考えても、早める必要はあまり感じないが、どうしてだい?」

「実は『対魔教会』の武闘派の大司教達から連名で、おかしな要請が来てまして」

「おかしな要請?
どのような内容かな?」

「要約すれば、相手は誰でも良いから『対魔教会』の人間と子供を作って欲しいとの要請が」

「「はぁ!?」」

ギルの頭の痛そうな表情に対して、私とお父様は目を見開いて驚いた。

以前述べた通りに『対魔教会』は武闘派と平和派で分かれているものの、分かりやすく表現するなら武闘派が頭が硬い方が多く、平和派が不正でもバレなければやり放題なのだ。
それなのに、頭が硬い方が多い武闘派の大司教が連名で、婚約者との婚姻が近い人間に、浮気に近しい事を要請するなんて、あり得ない。

しかし、そのあり得ない事がギルの身に起こっているのだという。
ギルは事細かに説明をしてくれた。

「流石に、武闘派の方々からの要請だったので、きちんとお断りしています。
おそらく、『天使』様のお力の器となった人間の子供が欲しい、もしくはその人間から寵愛を受けた人間が欲しかったのでしょう。

一応、話が分からない方々ではないので、大丈夫とは思いますが、マリーの卒業から半年待つのは過激派を刺激してしまうかもしれません」

「ふむ、なるほど。
確かに、そういう事情ならば悠長にしているのは愚策となってしまうか。

分かった。
ナーフ伯爵家の当主としては許可しよう。
しかし、それは貴族家の当主としての判断だ。

これだけ言えば、分かってくれるね?」

「もちろんです。
伯爵から許可を頂けるだけで、こちらとしては有り難い事ですから。

それと申し訳ありませんが、マリーと二人きりにして頂いてもよろしいですか?」

「ん、なるほど。
君は、いや辺境伯家はそういう方々だったね。

今回の件に関する話も終わった所だし、私は席を外すとしよう」

お父様はそれだけ言うと、本当に部屋を出ていってしまった。

それに戸惑っていると、ギルが私の前で膝をついた。

「マリー、事情は先に話してしまった上でお願いするのは卑怯だと分かっている。
それに女性に対して、婚姻の準備を急がせるというのは大変無礼だし、婚姻式の準備をしているマリーの楽しみを奪うお願いだという事も分かっている。

けれど、もし許してくれるなら1ヶ月後に俺と家族に、俺に君を妻と呼べる関係になってくれないだろうか」

ギルは緊張した面持ちで、私にそう質問してきた。

私の頭の中では、これまでの色々な出来事が浮かんでは消えていった。
そんな中で、これまでのギルと、今のギルの様子が少しだけ違う事に気がついた。

だからこそ、私はギルに返答ではなく、質問で返した。

「ねえ、ギル。
もしかして武闘派に女性でも送られたの?」

「は、え?
知ってたのか?」

私の質問にギルは驚きで、少しだけ目を見開いた。

それを見て、ギルに女性が送られた事を確信し、私はその事実に不機嫌になった。
そして、その不機嫌なままにギルを問い詰めた。

「ギル?」

「いやいや、待ってくれ。

確かに武闘派から女性は送られて来た。
だけど、その女性に対応したのは俺ではないし、俺からもその女性に対して丁重に断りも入れた。

それから、すぐにその女性は帰ったし、その後から送られて来た女性にも同じ対応をしている」

私はギルの言動を見て、その言葉に嘘はないと判断できた。
でも、まだ何かを隠したい様な雰囲気が感じられたからこそ、私は再び問い詰めた。

「それだけじゃないでしょ?」

「うっ、いや、でも」

「ギル?」

「はぁ~、分かった、全て話すよ。

確かに、武闘派から正式に送られて来た女性は勘違いのないように良い含めてから、お帰り頂いた。
ただ武闘派の中にも過激派は居て、その過激派が俺に夜這いを仕掛けてきたんだ」

「は、え、過激派に?
えっと、まさかギル、男に襲われたの?」

「流石に、それは無い。
来たのは全員女性だったよ。

ただ、何回か既成事実を作られそうな、危ない場面があったから、夜通しで護衛が付くことになったんだ。

それには父も、母もかなり頭に来ていて、特に母には『マリーと婚姻するまで寝るな』とか言われる始末でね。
父は母を止めてくれたが、父もマリーと早期に婚姻するのには賛成で、『いっその事、もう結婚してしまえ』と言われてしまったんだ。

それは悪くない案だと、話している時には思ったし、王都の道中でも思っていた。
ただ、『教会』に到着する直前に、マリーにとても失礼だという事実に思い当たったんだ。

だから、せめて俺の気持ちだけで納得してくれない時は、無理を言って護衛を増やそうと思って、詳しくは言わなかった。

だから、その、すまない。
1ヶ月後の婚姻式の件は忘れてくれ」

ギルは小さく縮こまって、私から離れようと立ち上がった。
しかし、私はそんなギルを逃さないように、ギルの手を握った。

「あら、別に忘れる必要はないわ。

確かに婚姻式の準備が大幅に短くなった事は少し残念だけど、私だってギルの事は好きよ?
だからこそ、ギルの一番は私が欲しいし、ギルの一番を狙っている武闘派は嫌い。

だから、1つだけお願いを聞いてくれるなら、1ヶ月後に婚姻式をしましょう?」

「お願い?」

「ええ、私を末永く愛してほしいの」

ギルは、私の言葉に呆気に取られた顔をしてから、小さく笑顔を漏らした。
それからギルは私に近づき、私にキスをしてくれた。





【婚姻の祝福は『天使』様によって:END】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

処理中です...