婚姻の祝福は『天使』様によって

ロシキ

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7話

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ギルの言葉に『天使』様は頷いて答えた。
それを見たギルは、頭を下げた。

「ありがとうございます。

『天使』様の胸をお借り出来る貴重な機会、全身全霊で挑ませて頂きます」

そう言ってからギルはすぐに構えずに、近くに居た公爵と大司教を国王陛下の方に投げ飛ばした。
それはその場に居た全員が目を剥いて驚いたものの、ギルの続く言葉に更に驚く事になった。

「マリー、お義父さん、騎士団長に兵士の方々には悪いのですが、少し集まって固まって頂けないでしょうか。
固まって頂ければ、その場に『結界』を張ります」

その言葉に、ある程度は予想していた私とお父様、そして騎士団長以外の全員は絶句していた。
魔法は、あくまでも敵を倒す為の物であり、精々が魔法同士をぶつけ合って相殺するくらいしか打ち消す方法がない。
よって魔法では誰かを癒したり、守ったりは出来ない。

その例外が『天使』様の『結界』であり、その『結界』は人間には使用できない。
つまり、『結界』を使用できるギルは『天使』様に近い、あるいは『天使』様と同質の存在になったという事になる。

その可能性を考えていた私でも、かなりの衝撃を受けたのだから、そんな想像すらしていなかった者達からしたら、どれ程の衝撃になるのか考えるまでもない。

そんな事を考えている間に、集まるように言われた、私を含めた人達は混乱しつつも集まった。
ギルは、それを満足気に見た後に私達に手を向けた。

「『結界』」

その言葉と同時に辺境で見ることの出来る『結界』が私達を覆った。

因みに、『結界』は強い程に色が濃くなり、ある一定の強さを超えると逆に透明になっていく。
辺境では当然強さによって透明になりかけているが、王都は『結界』が弱すぎる為にほぼ視認出来ない。

その事から王都での暮らしが長い者程、『結界』を信じないが、この場の流れや今状況からして『結界』を信じる他ないだろう。


ギルは私達に『結界』を張った後に、今度は外に目を向けた。

「『結界』」

その言葉と同時に今度は『教会』自体が『教会』に包まれた。
その『結界』は床や地面、支柱に沿うように張られているので、これから行われる『天使』様とギルとの戦いで傷が付かないようにという配慮だと思われた。

ただ、ここで疑問が出た。
さっきギルは『『天使』様の胸を借りる』と言ったはずなのに、その前から力を使っては、言葉と言動が一致しない。

そこで『天使』様の神聖さの違いに気が付いた。
例えば『結界』にも強弱があり、透明度で強弱が分かる。
仮に『天使』様ご自身にも格、もしくは強さにバラつきがあり、その差が感じ取れる神聖さによって出ているとしたら、ギルの行動の意味がわかる。

つまり、ギルは自身に制限を付けることで、『天使』様と対等の能力まで落とした?
でも、それは王都の『天使』様が、かなり弱いという事実に繋がってしまう。

その事実は決して、良い結果には繋がらない。

その為にギルの真意が読めないでいると、ギルは『結界』で覆わなかった国王陛下や公爵、大司教に神殿騎士達に向かって言った。

「これから『天使』様と手合わせをするが、お前達は守らない。
精々、扉の近くで固まって流れ弾が来ない事を祈っていろ」

それだけ言ってからギル『天使』様と向き合った。
そして、その次の瞬間にはギルから神々しく、とても濃い気配が溢れ出した。

それを合図とするように、『天使』様から感じていた神聖さの質が変化した。
例えるなら、ただ漠然と感じていたそこにある神聖さが、こちらに敵意を見せたような、そんな変化。

でも、そんな変化で私を含め、『教会』に居た1人以外の人全員が震え上がった。

そして、唯一の例外だったギルは『天使』様に凄い速さで詰め寄って、ギルと『天使』様の戦いが始まった。



ギルと『天使』様の戦いは私達では理解出来ない領域にあった。
その戦いは両者が、単純に目で追えないと思えるほどに早く動き、受ければ即死してしまうような攻撃が飛び交っており、人の常識が通じる戦いではなかった。

更にギルと『天使』様は共に無手である為に、決定的に決め手に欠けていた。

ギルは人が使える可能性がある4つの魔法属性、火、水、風、土の全ても使って、打撃と組み合わせた戦闘をしていた。
ただ、ギルの魔法も、打撃も人の出せる威力では無かった。

『天使』様は人が使う魔法は使わずに打撃と『結界』だけを使って戦闘をしていた。
ただ『結界』の使い方は凄まじかった。
的確に打撃の際には指2本分くらいの小さな『結界』を作り出し、魔法の際には魔法を防ぐ為に必要な範囲のみの『結界』を的確に作り出していた。
更に『結界』を作っても衝突寸前に消すなどしてフェイントも入れていたように見えたし、『結界』で防御した際には破られた事も無かった。

端的に言って、遠くから見ていてようやく理解出来る戦いだった。
その戦いは、正確には理解できなくとも何時までも見ていられて、時間が早く過ぎた。

そして、ギルの打撃が『天使』様の『結界』を始めて破った時、早く過ぎていた時間は止まったようにゆっくりに見えた。

『天使』様の『結界』を破ったギルの打撃は、そのまま『天使』様の直撃して、『天使』様を後ろに吹き飛ばした。

ギルも、『天使』様も戦いが始まってからは、一度も攻撃を受けていなかったので、初めて入った攻撃がギルの攻撃だった事に驚いた。

驚いている間に、ギルは『天使』様の体勢を崩し、『天使』様の首元に手刀を添えた。

『天使』様は首元に手刀を添えられてからはギルの目を見ていたものの、少ししてから目を閉じて一度頷いた。
ギルは『天使』様が頷いたのを見てから、『天使』様から離れて、礼をした。

「ありがとうございました、『天使』様。
『天使』様に稽古をして頂いた事、大変光栄です」

ギルの言葉を聞いた『天使』様は目を瞬かせてから、少しだけ笑った。

『天使』様が笑顔を見せた事など、これまでに例が無かったので、とても驚いた。
そんな私をギルは手招きして呼んだ。
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