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困惑

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「サファイス様!!誠に申し訳ありません!!どうか!!どうか!!私の全てだけお許し願えないでしょうか!?私の尊厳も、心も、体も、魂も、他にも差し出せるものならば、なんでも差し出します!!ですから、どうか私一人だけでお許し下さい!!」

ラセットはそう言って綺麗な土下座をした。
この国、というかこの世界では土下座とは相手に命すら委ねて許しを請う、最上級の謝罪であると同時に土下座をして許しを請うた相手に、例え犯罪行為をされようとも何も言わないという意味が込められている。

その為に貴族では絶対にするものは居らず、平民の間でもそれこそ何か事情があり、『済まないが死んでくれ』と苦渋の決断をしたときなどにしかしない。
その最上級の謝罪を元平民の聖女とはいえ行ったラセットに僕は困惑した。

そして僕は困惑したまま、とにかく土下座を止めさせようとラセットに近づいた所で、僕の二人目のパーティーメンバーである剣聖であり、辺境伯の一人娘であるマールブラン・アーチスト伯爵令嬢が僕を殴り、左手だけで床に僕の頭を付けさせ、僕の頭を押さえている左手以外はラセット同様に彼女自身も土下座をしながら叫んだ。

「サファイス様!!この者に後程謝罪をさせます!!そして、私も同じく私自身に差し出せる物ならばなんでも差し出しますので、今回の失態は私達の全てでお許し願えないでしょうか!?」

僕が「どうしたんだ皆!!」と声を出そうとしたところで、声が出ないのを理解した。
それを理解した所で、頭を床に押さえられながらもどうしてかと考えた所で、僕の後ろから僕の最後のパーティーメンバーであり賢者であるフィーネ・ナフスも叫んだ。

「サファイス様!!私も同じく全てを差し出します!!ですから、何卒!!」

フィーネは女性だったが、『声が男の人の様な声だから聞かれたくない』と詠唱も頑張って無詠唱を習得していた。
なのに、そのフィーネが大声で僕の婚約者に許しを請うているので、訳が分からなくなった。

サファイスは公爵令嬢だが、聖女であるラセットはサファイスよりも協会という後ろ盾から権力がある。
マールブランは辺境伯の一人娘ということで、辺境伯がとても可愛がっております例え公爵家でも無下には出来無い。
最後に賢者であるフィーネは家こそ男爵家と格は低いが、彼女は貴族も平民も使うような有用な様々な魔道具を生み出しているので彼女も無下には出来無い。

むしろ、この三人が同じ願いをサファイスに言えば、よほどの無茶でなければ通らない確率の方が低い。
なのに、三人共最上級の謝罪である土下座をして、サファイスに許しを請うているこの状況が理解出来なかった。
しかし、次のサファイスの一言で、更に訳がわからなくなった。

「ふむ、まあ考えておこう。ひとまず、この後の結婚の知らせは無期限の延期。結婚もまだしていないし、問題は無いだろう。

今回の会議は中止、お前達は一時間後までは自由にして良い。一時間後に謁見の間に集合するように」

サファイスがそう言うと、各国の重鎮の一部と我が国の重鎮の一部(僕がサファイスとの婚約破棄をした時に顔色を変えなかった者達(ターフェン公爵含む))以外が、立ち上がりサファイスに跪くようにして、言った。

「「「「「はっ!!」」」」」

逆にサファイスに跪かなかった者達とサファイス自身は、会議室で跪いている者達を無視して立ち上がり、サファイスを先頭にして会議室を後にした。





※更新時間は9:30と19:30の予定です。
完結まで書き上げるのが間に合わなければ、1日一話投稿になると思いますが、月曜までは確実に1日二話投稿です。
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