十秒探偵『ナポレオン＆トモロー』 すべての謎はナポレオンに解かれたがっている！

天才探偵ナポレオン

夏本番

　夏本番。



　ボクたちは美浦半島の突端にある美浦霊園へやってきた。


　気温はすでに三十五度を越えているようだ。
　うだるような暑さだ。

　今日も間違いなく酷暑日だろう。

　青く澄んだ空が広がっている。


『ミィーンミィーン』
　緑の木々に止まったセミが一斉に鳴き出してセミしぐれのように降り注いだ。
　

　
「ねえェ、ちゃんと日傘を差しなさい。トモロー！」
　美人弁護士の神堂クリスがボクを叱った。


　香水だろうか。甘美で蠱惑的な匂いがボクの鼻孔をくすぐっていった。
　

「ハッハイ、どうぞ」
　ボクは一生懸命、日傘を差し出した。

　けれどもあまりにも暑くて、徐々に石段を昇る足取りも鈍ってきた。



「おいおい、エアコンの効いたエレベーターとかないのかよ」　　
　運転手としてついてきた城ジョーダンが文句を言った。


　真っ赤なソフトモヒカンだ。
　見るからに元ヤンキーだろう。
　あまりボクは付き合いたくないタイプだ。



「さァ、エレベーターなんて無いでしょ。普通、墓地に！」
　ボクはとぼけて肩をすくめた。

　思わず、ボクもエレベーターなんてあってたまるかと言いたかった。



「おいおい、いつまで昇れば気が済むんだよ。トモロー、頼むよ。おんぶしてくれよ」
　ジョーは悲鳴を上げた。


「バカ言わないでくださいよ。なんでボクがジョーさんをおんぶしなきゃならないんですか」
　ボクよりも遥かに大きい。



「そうよ。トモローは私の専用執事なんだから」
　クリスがボクにもたれかかるように肩を組んだ。


「ちょッちょっと、重いですよ。ボクは専用執事じゃありませんよ」
　みんな勝手なことを言っている。なんてワガママな人たちなんだろう。



「重いってなによ。専用執事のクセにヘッドロックを掛けるわよ！」
　クリスがジャレついてきた。



「いやァ、そんなに密着すると暑いですよォ」
　文句を言っているうちにようやく石段を昇りきった。


「ふぅ……」ようやくひと息ついた。
　かなりの高台だ。