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神倉海岸

ダイイングメッセージ

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『真犯人が第一発見者を装って通報するって事はよくあることさァ』
 さっそくナポレオンは名探偵気取りだ。
 


「じゃァもう真犯人もわかったことだし。神倉海岸へ行く必要はないじゃん」
 ボクは呆れ返った。
 あっという間に事件は解決だ。


 せっかく意気込んでいたのに、あっけなく事件が解決して拍子抜けだ。
 


『フフゥン、これだから世の中から冤罪えんざい事件はなくならないんだよ』
 だがナポレオンは意味深に微笑んだ。



「えッ、今の推理じゃァ冤罪えんざいだって言うのか?」
 どうしてだ。
 真犯人は第一発見者の辺見レイカじゃないのか。


『ああァ、違うねえェ』
 ナポレオンは断言した。


「だって、ダイイングメッセージの『へ』にも当てはまるじゃん。辺見レイカなんだろう!」
 ボクはダイイングメッセージにも着目した。




『いいか。トモロー。このナポレオンの辞書に不可能と解けない謎はないんだ!』
 圧倒的な自信だ。


 ボクより年下のクセに、どこからそんな言葉が出てくるのか不思議だ。




「え、ああァそうか、動機か。その容疑者の辺見レイカには動機がないのか?」
 さすがに夜明け前の浜辺で首を切って殺すのに動機がないのはおかしい。


 運転しながらクリスが笑った。



「フフッ、最近は動機がなくっても大量殺戮するヤツもいるしねェ」


「はァ、なるほど」
 クリスの言うとおりだ。

 近頃は動機なき殺人が横行していた。

 怖ろしい世の中になったものだ。



 映画やドラマでも殺人快楽主義者などチートキャラが蔓延していた。

 動機がないだけになかなか容疑者にリストアップされない。




『フフゥン、ボクの見立てでは辺見レイカは真犯人じゃないよ』
 ナポレオンは静かに首を振って微笑んだ。



「ううゥ、どうしてだ。辺見レイカには幡地を殺害する動機がないって言うのか?」
 確かに動機は殺人における重要なファクターだ。



『動機は充分すぎるほどあるよ。被害者の幡地は元半グレ集団『ヘルズドラゴン』の幹部で相当なクズ野郎だったらしいからね』



「ふぅん」ボクは腕時計を確認した。
 まだ事件が発覚して数時間だ。



 警察でもないのにナポレオンの情報収集には舌を巻く思いだ。




 さすが龍宮寺財閥の御曹司と言って良いだろう。









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