十秒探偵『ナポレオン＆トモロー』 すべての謎はナポレオンに解かれたがっている！

神倉海岸

神倉海岸

　ボクがポルシェに乗り込むと香水の匂いだろうか。


　甘美で蠱惑的な香りがボクの鼻孔をくすぐっていった。
　全身がしびれるほど甘い匂いだ。


　すぐさまナポレオンがスピーカーで連絡して来た。


『やァクリス、ごきげんよう。今日も目が覚めるようにキレイだね』
　とても小学生とは思えないような挨拶だ。

　ナンバーワンホストみたいにクリスを褒ほめちぎった。



「フフゥン、いったい何なの。どうして私がボクちゃんのアッシーを務めなきゃならないのよ。こっちだって忙しいんだから！」
　ガムを噛みながらカーステレオのボリュームを上げた。


　すぐに重低音のラップミュージックが掛かった。

　ズゥンズゥンと内臓に響くようだ。



「はァどうも、すみません」
　取り敢えずボクは波風が立たないように謝った。
　人間関係において気配りは基本だ。



『いやァトモローが是非とも神倉海岸で起きたダイイングメッセージは『へ』って、事件を解決したいって言うから仕方ないだろう』
　ナポレオンはボクのせいにして神倉海岸へ向かわせようとしていた。



「あ、あのですね。ボクは関係ありませんよ。だいたい何なんですか。ダイイングメッセージは『へ』って？」
　間の抜けた事件だ。

　そんなおかしな事件が本当にあるのだろうか。



「フフゥン、そうよね。ボクちゃんの言うとおりよ。死ぬ間際、ダイイングメッセージで『へ』なんて残すと思うの。ナポレオン？」
　美人弁護士のクリスも聞き返した。



『さァねえェ。まだ事件の詳細がわかってないからね。さすがにボクでもなんとも言えないな』
　まだナポレオンもわからないみたいだ。




「ううゥン」
　ボクもない知恵を絞って考えてみた。


　取り敢えず、思いついたアイディアを口にした。


「やっぱり容疑者の中に『へ』のつく人がいるんでしょうか」
　誰もが考えることだろう。




「そうねえェ。辺見とか、塀内とか？」
　クリスが運転しながら聞き返した。



『ああァそうだね。そういえば平家って言うのもあるね』
　ナポレオンも例題を出した。


「なるほどねえェ。容疑者の中に平家の子孫がいるのかな？」
　それならばダイイングメッセージが『へ』と言うのもわからなくはない。