上 下
55 / 119
本家大邸宅✨✨✨

本家……✨✨✨

しおりを挟む
 奥でくつろいでいる方がお舘様の清国であろう。
 両腕に美しい女ばかりをはべらかせている。お松よりも若くあでやかだ。 
 ゆっくりと清国の手が美女の胸元で蠢《うごめ》いている。何とも、淫らで嫌らしい手つきだ。
「ああァ……ン」
 若い美女はすでに感じているように喘いだ。

「ケッケケ……」
 さっそくヒデが卑猥な顔で笑っている。物欲しそうに舌なめずりして美女の胸元を見つめていた。

「ほほォ、お前が、おマサの子か」
 清国は俺を見て満足げに微笑んだ。なおも手は美女の胸をまさぐったままだ。
「あッああァン、お舘様ァ……」淫靡な雰囲気に呑まれてしまいそうだ。

「ハ、ハイ、清雅と申します」
 俺もまともに見ていられず、かしこまって正座し頭を下げた。

「フフゥン、清貴お兄様にそっくりね」
 派手な着物を着た美少女が笑みを浮かべた。何処かで会ったような美少女だ。だが今はそれどころではない。まったく思い出せない。

「ううゥむ……、確かに。清貴に瓜二つじゃ!
 でかしたぞ。お蝶!」
 当主はご満悦だ。

「ハイ、お褒めの言葉。ありがとうございます」
 お蝶も畏まって頭を下げた。俺を敬うように一歩下がっている。

「お待ちください。お舘様。まさかこのワケの解らぬ、清雅とか云うやからをお世継ぎにさせる気では」
 正妻のお律が、上から目線で云った。気の強そうな女性だ。

「ぬうぅ……!」さすがに、聞き捨てならない言葉だ。
「おいおい、やからって、そんな言い方はねえェだろォ……」
 ヒデは眉をひそめつぶやいた。

「フフゥン、そんなことは決まっておろう。本来なら清貴をワシの世継ぎにするところだが、病いに伏した状態ではままならぬ……。ならば、この清雅を世継ぎにするしかあるまい!!」
 当主、清国も悔しそうな顔をした。

「ですが……」まだお律は不服な様子だ。反論しようとしたが。

「ぬうぅ、小賢しい。このワシが決めたことに口を挟むな。律!」
「は、はァ……、ですが、息子の清斎キヨときを」

「ンうゥ……、清斎キヨときか。そやつはワシのタネか、どうか怪しいだろう!!」
 当主、清国は眉をひそめ視線を逸らせた。

「なッ」清斎キヨときは目を剥いた。
「なにを証拠に。この子はお舘様の子に間違いありません」
 思わず、お律も声を荒げる。
「そ、そうですよ。いくら父上でも心外です」
 清斎も反論しようとした。

『ケッケケェ……、ややっこしい相続問題だな』
 背後でヒデがヒソヒソと信乃介に囁いた。

「シィー」お蘭が口に人差し指を立ててヒデに注意した。

「しかし……、そこまでおっしゃるなら申しますが、その清雅と云うやからも単に清貴様に瓜二つと云うだけで何処どこの馬の骨かわからないじゃありませんか」
 カッとして律が文句を云った。

「ぬうゥ……」悔しいが返す言葉がない。
「もぉ、云うに事欠いて、馬の骨って酷いわ」
 黙って聞いていたお蘭が唇を尖らせて不満を漏らした。
「しーッ」
 信乃介がなだめるように制した。源内も気が気でない。

「そうです。この馬の骨だって、お舘様の子だと云う確たる証拠はあるのでしょうか!」
 清斎キヨときも母親の律に加勢した。

「ふぅむ、確たる証拠か」当主も腕を組んだ。
「そうです。清斎キヨときを差し置いて本家の跡取りなど承服しかねます」
 律が断言した。

「フフゥン、お律、このワシに口応えは赦さん!!」
「ううゥ……」
「お前が承服しようとしまいと、世継ぎはワシの一存で決める!」

「はァ……」お律が小さく呻いた。
「だが、よかろう。お蝶!  あれを一同に見せろ」
 当主、清国は顎で差し、お蝶に指示を送った。

「ハイ、畏まりました」
 おもむろに、お蝶は荷をほどき、お舘様の前へ羽子板を差し出した。

「そ、それは……」お律と清斎が尋ねた。










☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

猿の内政官の息子 ~小田原征伐~

橋本洋一
歴史・時代
※猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~という作品の外伝です。猿の内政官の息子の続編です。全十話です。 猿の内政官の息子、雨竜秀晴はある日、豊臣家から出兵命令を受けた。出陣先は関東。惣無事令を破った北条家討伐のための戦である。秀晴はこの戦で父である雲之介を超えられると信じていた。その戦の中でいろいろな『親子』の関係を知る。これは『親子の絆』の物語であり、『固執からの解放』の物語である。

佐々木小次郎と名乗った男は四度死んだふりをした

迷熊井 泥(Make my day)
歴史・時代
巌流島で武蔵と戦ったあの佐々木小次郎は剣聖伊藤一刀斎に剣を学び、徳川家のため幕府を脅かす海賊を粛清し、たった一人で島津と戦い、豊臣秀頼の捜索に人生を捧げた公儀隠密だった。孤独に生きた宮本武蔵を理解し最も慕ったのもじつはこの佐々木小次郎を名乗った男だった。任務のために巌流島での決闘を演じ通算四度も死んだふりをした実在した超人剣士の物語である。

処理中です...