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揚羽の里へ……✨✨✨

清継邸……✨✨✨

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 その時、不意に目の前に大きな屋敷が見えてきた。

「おおォ、あれが目指す本丸か?」
 ヒデが飛び跳ねて歓声をあげた。

「いえ、あれは分家の闇御前、清継様のお屋敷です」
 お蝶が説明した。
「ぬうぅッ!」闇御前の屋敷か。

「ええェ……、ウソだろう。あれが分家なのか。スゲェ豪勢なのに」
 ヒデの云う通り、確かにもの凄い豪邸だ。
「じゃァ、本家は……」
 俺もお蝶に尋ねた。
「あれよりは遥かに大きいでしょう。三倍、いや五倍以上は」

「ひゅゥ、ホントなの。あれよりも五倍も大きかったら、ただの城だろう」
 またヒデは大げさに肩をすくめ戯けてみせた。

「ええェ……、そうですね。まさにお城と云ったおもむきです」
 お蝶が苦笑いを浮かべ応えた。
「ううゥン……」これが平家の落人の里の分家の屋敷なのか。
 これならば、隠し財宝の噂もあながち眉唾ものとは云えないかもしれない。

 その時、背後からガサゴソと人の気配がした。

「ン……」振り返って見ると木々の合間から妖艶な美女が現れた。
 手には鮮やかな紅い花を持っていた。周りにはお付きの女中等が控えている。

『あッ、美鬼ミキ……!』俺は彼女の顔を見て叫びそうになった。
 そうだ。数日前に旅籠で会ったくノ一の美鬼ミキによく似ている。だが彼女のはずはない。
 彼女は後頭部をしたたかに殴られて旅籠で安静にしているはずだ。
 その彼女が俺達よりも先回りして、この里にいるのは可笑しい。

「ああァら、これはこれは、清貴様。お元気そうで。今日は、遥々こんな所までお散歩ですか」
 美女は愛想よく俺に微笑んだ。
「え……、あのォ、いや、俺は清貴様ではありません。
 俺は……」
 慌てて、訂正しようとして言葉に詰まってしまった。

「こちらは清雅様ですよ。お真姫マキ様!
 清貴様ではありません」
 お蝶が代わって俺の事を紹介した。

「おマキ様……?」
 では、やはり美鬼ミキではないのか。
 云われてみれば、顔はそっくりだが衣装など雰囲気はまったく違っている。高貴で気品が感じられる。

「フフゥン、清雅様……。そう、よく似ているから間違えてしまったわ」
 真姫マキは少し照れたように微笑んだ。

「どうも清雅です。俺はその清貴様に似ているんでしょうか」
 さっきも老婆が俺の顔を見て『貴方様は……』と驚いていたが。兄の清貴と云う方と間違えたのだろうか。

「そうね。そう言われてみれば、清貴様がこんな恰好をするはずはないし……、今も病床で伏せているッて話しだものね」

「え、清貴様は、ご病気なんですか」
 疑問に思って聞き返した。
「そうよ。知らないの。ああァ、そうか。この方が例のお女中との……」
 だが謎の美女は答えをはぐらかした。
「ハイ、お舘様とおマサ様との落としだねの清雅様です」
「フフゥン、貴方が例の清雅様なのねえェ……」
 真姫は値踏みをするように俺を見つめた。
 妖しく大きな瞳を光らせる。

 何かの香なのだろうか。濃厚でしびれるほど甘美な匂いが鼻孔をくすぐった。
「ど、どうも……」思わず心臓がドキドキしてしまいそうだ。傍らにはお蝶がジッと見つめている。

「フフゥン、私は真姫マキですわ。分家の長女よ」
 まるで唇が触れ合うほど顔を近づけて微笑んだ。

「ンうゥ……、お真姫マキ様……」とっさに俺は仰け反るようにして避けた。

「安心したわ。貴方あなたのような方が清雅様で」
「はッ、ハァ……、何かあるのでしょうか」
 俺と彼女の間で。

「フフゥン、まさかなんにも知らないの。お舘様の命令で貴方は私と夫婦めおとになるのよ」
 妖しく真姫マキは笑みを浮かべて応えた。

「ええェ……?  夫婦めおとに……」
 チラッとお蝶の顔をうかがった。

「……」彼女は無言で表情が硬い。
 そういえば、お蝶は俺が揚羽の里へ帰れば許嫁者いいなずけが居ると云っていた。

 もしかしたら、本当にこの分家の娘、真姫マキが俺の許嫁者いいなずけなのだろうか。










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