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揚羽の里へ……✨✨✨

揚羽の里へ……✨✨

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 長い道中だ。こんなに歩いたことは初めてだ。
 草履もすぐにいたんだ。安物なので仕方がない。

「どうぞ。清雅様。新しい草履です」
 お蝶は手慣れたものだ。俺のために予備の草履を揃えていた。

「ああァ、どうも」
「六文ほどなので、次の宿へ着いたらさっそく買い替えて下さい」


「なるほど知らなかった。旅慣れた人はそうやっているのですね」
 草履は傷んだら、こまめに買い替えた方が良いようだ。傷んだ草履は道中に捨てていく。やがて肥やしになるらしい。それが自然の摂理なのだろう。

 
 
 長く苦しい旅もようやく終わりが見えてきた。
 山の谷間に隠れ里があった。

 ここが揚羽の里と呼ばれる谷間の集落だ。
 俺たちは高台から里を見下ろした。

 風が強い。滝が流れている。
 『ゴォーゴォーーッ』と轟音が鳴り響く。まるでヌエ咆哮ほうこうのようだ。

 見ると草原の上をたくさんの揚羽蝶が舞っていた。

「フフゥン、信さん。やっとここまで着いたわね」
 お蘭が、はしゃいで信乃介に抱きついた。
「ああァ……」ここまでくれば信乃介もひと安心だろう。
「でも凄い風ねえェ……」お蘭が髪の毛が舞うのを手で押さえた。
「うん、そうだな」
 俺もお蝶の肩を抱き寄せた。

「ここが揚羽の里か……」
 俺にとっては、どこかで見たような光景だ。
「ハイ……」かすかにお蝶も頷き微笑んだ。

 おっかぁと二人、ここから里を見下ろしたような記憶が蘇えった。

 この匂い。滝の音も懐かしい。
 そうだ。幾度となく夢で見た里の光景だった。

 何度も夢を見た。真っ赤な花が咲く花畑の上を無数の揚羽蝶が舞っていく。
 なんて感慨深い光景なんだろう。

「清雅様……、かつてはこの川に沿って一面に揚羽蝶が飛んでいたと云われていました」
 お蝶が説明をした。
「この川を……」清らかな川が流れている。

「ケッケケ、ッで『揚げ羽の里』かァ。風情があるねェ……」
 ヒデが肩をすくめて笑った。
「フフゥン……、キツいぜ。老体には」
 源内も大きく息をついた。腰が痛いのか、トントンと叩いている。

「何か……、懐かしいような」
 俺も郷愁を感じ、胸がいっぱいになった。

『おっかぁ……、ついに俺はここまで来たんだ』
 懐かしいような。それでいて身震いするほど怖いような気分だ。

「さァ、行きましょう。清雅様」
 お蝶が俺の手を取り、先を急がせた。
 まだ俺たちの旅は終わってはいない。
 
 ここへ来ることが最終目的ではないのだ。
 俺たちの目的は、この揚羽の里で『平家の隠し財宝』を見つけ出すことだ。

 やがて、俺たちの行く手を堅牢な門が立ち塞がっていた。
 将宗等が話しをつけると、門が開き俺たちは平家の落人の里へ招かれた。

 ホッとした気分だ。
 だけれども、ここで平家の隠し財宝を巡り血で血を洗ういさかいが起こるとは思いもしなかった。








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