上 下
42 / 119
嵐の中の惨劇✨✨✨

嵐の中で……

しおりを挟む
「ハァハァ、御前様の首が見つかりました!!」
 手下が肩で息をして報告した。

「なにィィィ!  首が!  どこでだ!!」
 すぐさま将宗が聞き返した。

「ハイ、そ、それが煮えたぎる風呂釜の中で」
「ぬうぅ……、風呂釜だと」
 将宗も小さく呻いた。
「なんだってェ……?」いったいなんのために。

「なるほど、正体を隠すためか」
 信乃介がつぶやいた。
「ううゥ……!!」そうか。
 確かに顔をわからぬように煮えたぎる風呂釜へつけたのだろう。
 だがいったいなんのためにそんな事をする必要があるんだ。
 闇御前への怨みか。
 ゾロゾロと揃って見に行くと風呂釜は肉塊が煮える異様な臭いが立ち込めていた。
 すでに御前の首は引き上げられたていたが、もちろん顔は焼けただれていて判別不可能だ。

「ううゥ……、これは」
 むごたらしい有り様に一同、顔をそむけた。
「キャァ」お蘭はひと目見て悲鳴を上げた。

「闇御前の顔にこちらの夜叉羅刹の面をかぶせられていました」
 手下は面を指差した。
「夜叉羅刹の面……?」精巧にできた夜叉の面だ。

「ぬうぅ、あの女だ。あの美鬼ミキの仕業に違いない!!」
 将宗は怒り心頭で手下を連れ本陣へ引き返した。

「待て。彼女の後頭部の怪我は背後から何者かに殴られた傷だ。自分でつけられるはずはない!」
 信乃介が尤もな理由を云うが聞き入れる相手ではない。

「知るか。それもこれもすべて身体に訊いてくれるわァーーッ!  たっぷりとなァ!!」 
 将宗はギラギラと双眸を光らせた。怒りで理性を喪っているようだ。
 しかし本陣で待ち構えていたのは防風竜巻にも似た力鬼リキと言う怪物だった。
 眠り薬から目覚めたみたいだ。

「うッおおおおォォーーーーッ!!  姉御ォーー」
 顔に幾つも傷のある怪物が吠えた。

 裸で倒れていた美鬼ミキを守ろうと暴れている。まさに怪物だ。もはや敵も味方もない。
 誰ひとり寄せつけないほど荒れ狂っていた。

「ぬうぅ、よせ。鎮まれェ!  力鬼リキィ!!」
 慌てて声を掛けるが味方の土蜘蛛衆も制御不能だ。
「黙れェ……! 姉御をこんな目に遭わせたヤツはどこのどいつだァァーー」
 まさに鬼のような形相で暴れ回っていた。
 このままでは全滅しかねない。

「待て、待てえェー……。鎮まれェ……!  これ以上、同士討ちをして、どうする!!」
 さすがに、土蜘蛛衆の頭目もこれだけ暴れまくっていれば手に負えない。

「お前らが御前様を本陣の前で警備していたんじゃないのか」
 敢然と信乃介が立ちはだかり力鬼リキに訊いた。

「ぬうぅ、そうだ。ワシら土蜘蛛衆が本陣の前で護衛をしていた……」
 多少は理性が残っているようだ。信乃介の問いに頷いて応えた。

「酒を酌み交わしてか」
「ううゥ……、この程度の酒などでは酔わぬ」

「どうやら酒の中に眠り薬が混入してあったようだ」
「ぬうぅ、眠り薬だとォ……」
「お前らが正体なく眠っている間に、本陣では御前様が首を斬られて亡くなり、そこにいる美鬼ミキと云う女性にょしょうも裸にされ、そこへ放っておかれたんだ」
 信乃介は顎で美しい裸の女人を差した。

「な、なにィ、御前様が殺された」
 ようやく少しだけ心穏やかになった力鬼リキも首のない亡き骸を睨んだ。
「ぬうぅ……」途端に、また小さく呻いた

「おそらく何者かが、美鬼ミキ下手人げしゅにんに仕立て上げようとたくらんでの仕業に違いない」
 信乃介が推理を述べた。
「ぬうぅ……、何者かが」
 憤怒の形相で睨みつけていた力鬼リキもようやく落ち着きを取り戻したようだ。









☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚




しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

猿の内政官の息子 ~小田原征伐~

橋本洋一
歴史・時代
※猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~という作品の外伝です。猿の内政官の息子の続編です。全十話です。 猿の内政官の息子、雨竜秀晴はある日、豊臣家から出兵命令を受けた。出陣先は関東。惣無事令を破った北条家討伐のための戦である。秀晴はこの戦で父である雲之介を超えられると信じていた。その戦の中でいろいろな『親子』の関係を知る。これは『親子の絆』の物語であり、『固執からの解放』の物語である。

佐々木小次郎と名乗った男は四度死んだふりをした

迷熊井 泥(Make my day)
歴史・時代
巌流島で武蔵と戦ったあの佐々木小次郎は剣聖伊藤一刀斎に剣を学び、徳川家のため幕府を脅かす海賊を粛清し、たった一人で島津と戦い、豊臣秀頼の捜索に人生を捧げた公儀隠密だった。孤独に生きた宮本武蔵を理解し最も慕ったのもじつはこの佐々木小次郎を名乗った男だった。任務のために巌流島での決闘を演じ通算四度も死んだふりをした実在した超人剣士の物語である。

処理中です...