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嵐の中の惨劇✨✨✨

嵐の中の惨劇……

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『ぐっわァァァァァーーッ』
 不意に旅籠内に男のものと思われる断末魔の叫び声が轟いた。

「うッ、ううゥ……」いったい何ごとだろう。
 俺もお蝶も絶叫の聞こえた方を振り返った。
 未だに外では嵐が吹きすさんでいる。
 この嵐の中、これだけの絶叫が響くのは尋常ではない。

 俺たちは取るものも取り敢えず、浴衣を羽織り廊下へ出た。
 隣りの信乃介も同様なのだろう。旅籠の廊下で信乃介と顔を見合わせた。

「しッ、信さん?  今の絶叫は」
 俺も警戒して辺りを見回し、信乃介に訊いた。
「いや、俺にもわからない。向こうの……、本陣の方から聞こえたようだ」
 信乃介も首を横に振った。背後からお蘭も不満げな顔を覗かせた。

「ぬうぅ、本陣ですか」
 確か本陣には闇御前が逗留していると聴いた。もちろん部外者の俺たちとは会うこともない。

 幼き頃、顔に火傷をしたため誰ひとり正体を知らない男だ。
 しかし本陣の前には屈強な護衛の者が見張りについているはずだ。

 ザワザワと嫌な予感がしてくる。旅籠の中も騒然としてきた。
 相変わらず強い雨が降り注いでいた。
「信さん……、なんなの?」お蘭は眠そうに瞼を擦った。
「お蘭は危ないから部屋の中で休んでいろ。ちゃんと、つっかえ棒をするんだぞ!」
「ええェ……?  ヤダァ」
 しかし信乃介は嫌がるお蘭を無理やり部屋へ押し込んだ。
 取り敢えず、俺と信乃介は本陣の方へ向かった。 

「お前ら何をしておるんだァァァーー!」
 いきなり本陣の方角から若い男の叱責する声が響いた。

 俺たちも何事かと覗いて見た。
 本陣の前には屈強な護衛の者たちが全員、廊下に倒れている。

「いったい……、なにがあったんだ」
 扉の前には酒を飲んだ痕跡がある。しかも宴会でも開いていたのか、扉の周りは食い物の残骸や飯の残りなど無残な有り様だ。

「ぬうぅ、薬を盛られたか?」
 頭目のような男が憎らしげにつぶやいた。
 あの男は、将宗とかいう土蜘蛛衆の頭目だ。かなりの色男だ。
 護衛の男どもは眠り薬か、それとも毒でも盛られたのだろうか。正体もなく寝ているようだ。

「おい、力鬼リキッ。起きんかァ!!」
 将宗は巨漢の横腹をつま先で軽く蹴るがまったく反応がない。

「起きろォ。者ども!  いったい何があったんだ!」
 なおも、他の手下共をつま先で小突くが起きないようだ。

「御前様!  起きてください!   御前様!!  如何なされましたァァ!!」
 一方、加助は本陣の扉を強引に開けようとドンドンと叩いた。

 明らかに異様だ。
 これだけ本陣の外で騒いでいれば、普通ならば何らかの応答があっても良さそうだ。
 普通ならば……。

 しかし一切、応答はない。
「ええェい、構わぬ。扉を叩っ斬れ!!」
 我慢できず頭目の将宗が怒鳴りつけるように命じた。

「しかし……、もし御前様に何事もなければ、闇御前は決して開けてはならぬと仰っしゃられておりました」
 加助は闇御前の命令に忠実のようだ。
「ぬうぅ……」将宗も闇御前が火傷した顔を隠している事は承知だ。決して他人には見られたくないのだろう。

「御前様!  ご返事をなさってください。御前様ァァァーー!」
 加助が必死に扉を開けようとするが、どうしても外からでは開かないようだ。

「ええェい。退けえェ。何事か遭ってからでは遅いだろう!!  うッりゃァァ」
 将宗は刀剣を抜き、扉を思いっきり袈裟がけに叩き斬った。

『バッサァーッ』
 音を立てて扉が壊れ、全員が中を改めた。
 その刹那、まばゆいばかりの閃光が疾走り轟音が響いた。
 
「おおおォォーー……!!」
 覗き込んだ俺たち一同の目に異様な光景が映った。無意識に息を飲んだ。
「な、なんだァーー……!!」
 血まみれになった首のない男と全裸の美女が倒れている。美女はうつ伏せの状態だ。こちらの方に尻を向けている。
 思わず、目を見張るような見事な尻だ。

「こ、これは!」
 だが、中はおびただしいほど血まみれの状態だ。
 吐き気を催すような血臭が漂っていた。
「うッううゥ……」
 むせ返るほど生臭い刺激臭だ。
 本陣の中は血の海だ。
 しかも男の首は切断され、どこかへ持ち去られているようだ。

「ぬうぅ!   バカな」生きたまま首を切断したのか。
 ゾクゾクと戦律が走った。
 
 壁にはおどろおどろしい血文字で、『おごる平家はひさしからず』と書き遺してあった。
「こ、これは……」
 平家に怨みのある者の犯行なのだろうか。


 





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