上 下
33 / 119
嵐の中の惨劇✨✨✨

湯治場で……

しおりを挟む
「残念ね。じゃァ、子供が寝静まったあとでお願いしようかしら!」
 かなり強烈な嫌味を云い嗤った。
「何よ。お蘭は子供じゃないわよ。信さんとは夫婦めおと同然なんだから」
 お蘭は信乃介の腕にしがみついて嫉妬したように唇を尖らせた。

「フフ……」思わず信乃介も苦笑し困惑気味だ。

「フフゥン……、ああァら、やっぱり先生たらモテるのね」
 妖艶な美女は少し羨ましそうだ。
「そうそう、信さんはモテるんだよ。だからオイラとどう」
 負けずに山師のヒデは積極的に誘いかける。

「そう言えば、まだ名前を訊いてませんでしたね」
 信乃介はくノ一らしき謎の美女に尋ねた。
「フフ、私は美鬼ミキよ。美しい鬼と書いてミキ」

「ほォ……、美しい鬼で、美鬼ミキさんですか」
「ええ、お武家様は?」
「信乃介先生は信長の末裔なのよ」
 誇らしげにお蘭が笑ってみせた。

「フフゥン、なるほど……。面白いわね。信長の末裔が平家の落としだねの護衛をしてるッてワケねえェ……?」
 チラッと俺とお蝶の顔を見た。

「別に、護衛をしてるワケじゃないよ」

「フフゥン、祇園精舎の鐘の声……、諸行無常の響きあり……、沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをなす、おごれる者はひさしからず、ただ春の夜の夢のごとし」
 不意に、くノ一の美鬼ミキは謳いだした。

「何よ。バカ僧侶の花の色ッて……」
 お蘭が唇を尖らせて聞き返した。

「沙羅双樹の花の色だよ。平家物語の一節ですね」
 信乃介が説明した。

「フフゥン、そうおごれる者はひさしからず……」
 美鬼ミキは含み笑いを浮かべた。
 怜悧な笑みに、背筋がゾッとしてきた。

「おごる平家は……、ですか?」
 信乃介も肩をすくめ苦笑した。

「ええェ……、平家にあらずは人にあらずよ」
 チラッと俺の顔を見て嗤った。

「なるほど怨まれても仕方ないですね」
 信乃介も多少は俺に気兼ねするように応えた。
「……」
 俺もお蝶も黙ってミキと云う謎の女人と信乃介のやり取りを聴いていた。

 平家である限り、知らぬ間に怨みを買われているだろう。

「フフゥン、今夜は闇御前もこちらへ泊まるそうよ」

「ほォ……、闇御前ですか……」信乃介が聞き返した。

「そうよ。せいぜい清雅様もお気をつけなさい!」
 今度は俺を見て意味深に微笑んでみせた。

「……」やはり土蜘蛛衆のくノ一に違いない。
 その時、地鳴りのような雷鳴が轟いた。

 まるで行く末を案じるように、外は荒れ狂った嵐が来襲していた。











☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

赤松一族の謎

桜小径
歴史・時代
播磨、備前、美作、摂津にまたがる王国とも言うべき支配権をもった足利幕府の立役者。赤松氏とはどういう存在だったのか?

おぼろ月

春想亭 桜木春緒
歴史・時代
「いずれ誰かに、身体をそうされるなら、初めては、貴方が良い。…教えて。男の人のすることを」貧しい武家に生まれた月子は、志を持って働く父と、病の母と弟妹の暮らしのために、身体を売る決意をした。 日照雨の主人公 逸の姉 月子の物語。 (ムーンライトノベルズ投稿版 https://novel18.syosetu.com/n3625s/)

局中法度

夢酔藤山
歴史・時代
局中法度は絶対の掟。 士道に叛く行ないの者が負う責め。 鉄の掟も、バレなきゃいいだろうという甘い考えを持つ者には意味を為さない。 新選組は甘えを決して見逃さぬというのに……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...