上 下
28 / 119
旅路✨✨✨

嵐の中で……

しおりを挟む
『ドッドドドォォォーーンン』

 地鳴りのような音を立てて落雷が起きた。
「キャァーーッ!」またお蘭が悲鳴を上げ信乃介に抱きついていく。
 きつく腰を擦りつけているようだ。
「うううゥ……」信乃介も小さく呻いた。
 天を切り裂くような稲妻がきらめく。

 篠つく雨が旅籠の屋根を叩き、わずらわしいほどだ。ほとんど会話が聞き取れない。
 一気に気温が下がっていくみたいだ。
 急に、肌寒くなってきた。
 このままいつまでも濡れた着物姿でいると風邪を引くだろう。
 俺たち男は濡れた着物を脱ぎ捨てるように風呂場へ直行した。

「ケッケケ、ほらァ、信さん。俺たちも行こうぜ」
 山師のヒデは陽気に信乃介を誘い、洗い場へ入っていった。
 信乃介と俺や源内も後に続いた。洗い場へ入ると白い湯気がパッと広がっていく。

 軽く湯浴みをし、俺たちは湯船へ浸かった。
「ふうゥ……」大きくため息をついた。
 ちょうど良い熱さだ。

 肩まで浸かると身体の芯まで温まって生き返るようだ。
 寒さに縮こまっていたアソコも温められ息を吹き替えしてくる。

「ケッケケ、楽しみだな。お蝶さんとお蘭の裸は」
 ヒデは湯に浸かりながら嫌らしく相好そうこうを崩した。
「まァ、お蘭はともかくな。お蝶のは……」
 信乃介も満更ではないようだ。苦笑いを浮かべた。彼もお蝶の全裸は見ものなのだろう。
「フフゥン」まだ源内も枯れてはいないようだ。嬉しそうにニヤついている。

「キャァァーーッ」歓声とともにスゴい勢いで、お蘭が洗い場へ駆け込んできた。
 もちろん手ぬぐいで可愛らしい胸を隠しているが、なんとも無邪気だ。

「信さァァーん!!」
 そのままの勢いでお蘭は湯船の中へ飛び込むつもりか。
「おいおい、お蘭!」
 信乃介も両腕で上手く受け止めないと怪我をしそうだ。

「信さァァん、受け止めてェー」
 満面の笑顔でお蘭は空を舞っていく。
『バッシャーン!!』
 波しぶきを立ててお蘭が湯船の中の信乃介へ飛びついた。
 受け止めた信乃介も勢いで、湯の中へ突っ込んでしまいそうだ。
「ぐッううゥ……」
 さすがの剣豪もお転婆娘には叶わない。弾みで溺れてしまいそうになった。

「だッ、大丈夫ですか。信乃介先生!」
 すかさず俺は湯に沈みかけた彼の身体を引き上げた。

「こッ、殺す気かァ!  お蘭!!」
 ようやく信乃介は浮き上がって怒鳴った。
「フフゥン、どう?  信さん、参った」
「バカか、お蘭!  遊んでる場合か。さっきまで、疲れだの足が痛いだのさんざん泣きごとを云ってたクセに!」
 確かに信乃介の云う通りだ。
 








 ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚
しおりを挟む

処理中です...