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旅路✨✨✨

旅路✨✨

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 はじめのうちこそ、お蘭も意気揚々と信乃介の腕にぶら下がるようにたのしんでいた。

「フフゥン、信さん。このままお蘭と夫婦めおとになっちゃう?」
 お蘭は可愛らしく微笑んだ。まるで幼い娘にねだられる父親の気分だろう。

「おいおい……、俺はもっと成熟した大人の女が好きなんだよ」
「ああァら、ご執心のお蝶さんはキヨさんと出来ちゃってるのよ。今さら信さんの出る幕はないわ」
 お蘭は唇を尖らせ、チラッとお蝶と俺を一瞥した。
「そんなァ、出来てるワケじゃ……」
 思わず、俺もお蝶と顔を見合わせた。

「ほらねェ……。二人は良い仲なのよ。信さんなんて眼中にないの。残念ねェ。フッフフ」
 馬鹿にするように嘲り笑った。
「あのなァ……、ほっとけよ」
 ムッとして信乃介もをした。
「そんなふて腐れた顔しないで。ほぉら、信さんはお蘭が癒やしてあげるわねェ」

「ふゥン、子供に癒やしてもらうほど、落ちぶれちゃいないよ」
「ああァら、知らないのね。お蘭は、もう子供じゃないのよ」
「う、ううゥ……、バカを言ってるな」
「あとで、旅籠へ着いたら、たっぷり信さんを癒やしてあげるわね」

「いやいや、だから遊び半分で来るなら、とっとと引き返せッて云ってるだろう」
「無理よ。もォ……、ここまで来たら引き返せないわ」
「ぬうぅ……」彼女の云う通り、もはや文句を言っても手遅れだ。
 このまま道中を急いだ。


 人里離れた山道へ差し掛かった。
 夕刻からは天候が崩れると予想された。
 雨の降り始めるまで、出来るだけ距離を稼いでおきたい。
 俺たちは旅の途中、お蝶はヤケに背後を気にしていた。

 振り返って見ると何やら人影が木々の合間に隠れた。
「どうかしたのか。さっきから背後を気にして。お蝶?  何者かが尾行して来るのか」
 俺も気になり、それとなく背後を伺った。
 
「いえ、どうやら犬がついてきているようです」
 まだ距離があるみたいだが用心に越したことはない。

「え、犬?  どこどこ」
 お蘭は、まだ事の重大さをわかっていないのだろう。本当の犬かと思っている。

「よせ。相手を刺激するな」
 信乃介がお蘭をたしなめた。すでに信乃介も背後の敵を用心しているみたいだ。

「フフゥン……」まだお蘭は無邪気に肩をすくめ苦笑いを浮かべる余裕がある。
 だが、さすがに険しい山道を昇ると口数も少なくなってきた。
 
 更に昼を過ぎると一気に、雲行きが怪しくなってくる。かすかに遠雷が響いてきた。
 思ったよりも早く天候が崩れてきたみたいだ。

「おい、急ぐぞ。雨が本格的に降り出すまで旅籠へ着かないと大変だ」
 信乃介もお蘭やヒデを促した。
 夕刻までには、この山を越えなくてはならない。
 山中で嵐の中、一夜を越すのは無謀だ。

「ひェ、本気かよ……」
 さっそく山師のヒデやお蘭は泣き言を言い出した。
「だから遊びにいくワケじゃないんだ」
 信乃介も困惑気味だ。













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