上 下
17 / 119
平家伝説財宝殺人事件✨✨

夢の中へ……✨✨✨

しおりを挟む
朝早くに駐屯地に向かい、昨日から王都に配備した兵を解放する。テオが機転をきかせて、交代制にしたおかげで、兵の疲労は少なかった。テオを労い、ここしばらくの兵の配備スケジュールを決め、駐屯地に拘束していた傭兵たちと、ヴァイツ卿の引き渡しについて書類を武官に渡したところで、今日は帰ることにした。


屋敷に帰ると、ノアは使用人たちに囲まれていた。俺の顔を見るなり、使用人たちはザザッとノアから離れる。なにをされていたのか一目瞭然だった。

「アシュレイ、おかえりなさい!」

ノアは今日も朝から興奮していたのか、真っ赤な顔で俺に挨拶をする。

「ノア、その服はどうしたのだ?」

その質問に答えたのは女中だった。

「アシュレイ様。ノア様はしばらくこの屋敷に身を寄せるとのことでしたので、私の息子のおさがりを持ってきました。あのお召し物では、生活しづらいかと思い……」

「そうか、失念していた。ありがとう。とても良い洋服だが、借りても構わないのか?」

ノアの着せられている服は、シャボのついたシャツに、豪華な刺繍のベストやパンツ。ジャケットまで羽織っていた。

「息子はもう大きくなってしまって。捨てるには忍びないと思っていたのです。もしよろしければ着てやってください。とてもお似合いですよ、ノア様」

女中は可愛くて仕方がないといった表情で、ノアの裾を引っ張り、服の形を正す。髪も結ってもらったのか、ノアは上流貴族のお坊ちゃんといった上品さを纏っていた。

「ノア、とても似合っているぞ。それで王都に出たら様になるな」

ノアは一層顔を赤くして、我慢がならないのか吃りながら大きな声を出す。

「ぼ、僕も! アシュレイのように、ご婦人方に、か、か、格好良いと思ってもらえますか!?」

その言葉に、俺も女中たちも吹き出してしまった。

「ええ、ええ。ここにいる女中はノア様の格好良さに夢中ですよ」

ノアは嬉しいのか、目を潤ませ、口をキュッと結んだまま黙ってしまう。

「さあ、その格好で王都に行こう。おいで」

担ぐと子ども扱いになるかと思い、手を差し伸べた。ノアは嬉しそうに手を握り、ギクシャク歩き出しはじめる。かわいらしいとノアを見つめる女中たちに再度お礼を言い、馬に跨る。ノアとの約束通り、王都の中心地、市場へと向かった。


王都の中心地に着くと、ノアの興奮は最高潮に達した。茹で上げられたように顔を真っ赤にして、見るもの全てに感動していた。

「こ、こんなに! こんなに人がいる場所は、初めてです!」

「そうだな。孤児院にも子どもはたくさんいたが、大人がこんなに集まるのは、ここだけかもしれん」

どこか見て回りたいところはあるか? と聞こうとしたら、ノアが突然鼻を高くあげて匂いを嗅ぎ始めた。よく見ると、少し先にいつもの花売りが立っていた。

「ノア、好きに歩いたって構わないぞ。はぐれないように手は握っていてくれ」

その言葉で、ノアは俺の手を引きぐんぐんと歩き出した。てっきり花をねだられるのかと思っていたから、花売りを素通りした時には驚いた。花売りも俺に気付いたので曖昧に笑ってやり過ごす。

ノアに手を引かれついた先は菓子屋だった。見ているだけで胃もたれしそうな色の菓子が出店に並んでいる。

「ノア、お腹が空いたのか?」

「いえ、いえ! 先ほど朝食はいただきました! ルイスの料理は美味しいですが、アシュレイの家の食事もとてもとても美味しかったです!」

顔を真っ赤にしながら、しかし俺の顔を見ない。菓子を見つめながらノアは一生懸命に話す。

「あまり甘いものを食べると、昼飯が入らなくなるからな。ひとつだけ買ってあげよう」

さっきまで菓子しか映っていなかった瞳が急に俺を見つめる。もはや焦点があっていなかった。

「本当ですか!? 本当ですか!? 買ってくださるのですか!?」

「あ、ああ。ノア。あまり興奮するな。顔が茹で上がってしまうぞ」

俺の言葉など完全に聞いていなかった。ノアは銅貨1枚の菓子を、宝石さながらに鑑定し始める。こんなことならば、ひとつとは言わず、おやつ用にいくつか買ってやればよかった。そう思うほどに長い時間をかけて選び抜き、ノアは派手な装飾のされた菓子をひとつ差し出した。

「こ、これ」

差し出された菓子を受け取ると同時に、ノアを担ぎ上げる。今日はノアを紳士として扱おうと思っていたが、あまりの可愛らしさに耐えられなかった。

ノアを抱えたまま、店主に銅貨を差し出す。

「坊ちゃん今日はお兄ちゃんとお買い物かい? 優しいお兄ちゃんだね。いい子にはおまけをあげようね」

そう言い、店主は包装された菓子とは別に、小さな飴をノアに渡した。ノアは震える手でその飴をもらい、胸に抱いた。

「あ、あ、ありがとうございます!」

「よかったな。ノア。ありがとうございます」

店主にお礼を言い、歩き始める。ノアは飴を何度も何度も見るので、目があったときに大きく頷いた。ノアは嬉しそうに飴の包みをあけて、飴を頬張る。美味しいのか嬉しいのかわからないが、感極まってノアは俺の首に抱きついた。

ノアの背中を撫でながら思う。ノアは花より、お菓子の方が良さそうだな。今度塔に行くときには菓子を持って行こう、そう心に決めた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

猿の内政官の息子 ~小田原征伐~

橋本洋一
歴史・時代
※猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~という作品の外伝です。猿の内政官の息子の続編です。全十話です。 猿の内政官の息子、雨竜秀晴はある日、豊臣家から出兵命令を受けた。出陣先は関東。惣無事令を破った北条家討伐のための戦である。秀晴はこの戦で父である雲之介を超えられると信じていた。その戦の中でいろいろな『親子』の関係を知る。これは『親子の絆』の物語であり、『固執からの解放』の物語である。

処理中です...