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東洲斎写楽

写楽

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 そうかもしれない。
 



 実際、美人画では歌麿に分があるだろうが浮世絵師としては北斎こそ日本一だろう。


 それは間違いない。



 蔦重は、当代随一の北斎をようして、謎の浮世絵師、東洲斎写楽を仕立て上げた。


 出来も最高だ。
 背景をキラ摺りし、インパクトも絶大だ。

 
 大首絵、二十八枚を大々的に売り出した。
 これで売れないはずはない。


 しかし江戸の町民には殊の外、不評だった。



 結局、十ヶ月間で百四十点もの作品を世に送り出したものの反響はない。


 なぜか写楽の浮世絵が売れることはなかった。
 
 だが蔦重は、いつの日にか必ず写楽のブームが訪れると考えていただろう。



 だからこそ正体を伏せたまま亡くなったのだ。



 浮世絵類項では写楽の正体は阿波の須賀藩のお抱え能役者、斎藤十郎兵衛とされているが、定かではない。



 いずれ写楽がブームなれば写楽の正体を突き止めようとするに違いない。



 そうすれば、間違いなく版元の蔦屋重三郎の事も調べなくてはならない。


 北斎や歌麿ら浮世絵師の名前は後世まで残るだろう。



 だが、どんなに有名な版元でもいずれ時が経てば忘れ去られる。


 けれども東洲斎写楽を謎の浮世絵師のまま口を閉ざせば、写楽を調べる際、必ず蔦重のことにも触れることになるだろう。










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