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東洲斎写楽

写楽の正体

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『まァ、でも議論の余地はないんだけどねェ』


「えェ、ナポレオンは写楽の正体を知っているの?」


『ああァ、もちろんだよ。すべての謎は、このナポレオンに解かれたがっているんだからねえェ』
 相変わらず減らず口を叩いた。


「ううゥ……」なんて強気なヤツなんだ。


『写楽の絵を描いた浮世絵師は間違いなく……、フフゥン』
 そこで焦らすように間を明け微笑んだ。


「だ、誰なんだよ?」

『トモローもよく知っている浮世絵師さァ』

「え、ボクが知っている。誰なんだ。有名な人か?」

『もちろんだよ。無名の浮世絵師なんて言っても誰も驚かないだろう』


「そりゃァそうかもしれないけど。誰なんだ。写楽の正体は?」



『フフゥン、北斎さァ』


「えェ、北斎?」



『そう、葛飾北斎は変わり者でね。三十回以上、改名しているんだ!』


「えェ、三十回も?」
「」


『そうなんだ。駆け出しの頃の『春朗』から始まり、宗理、為一、卍などを経て葛飾北斎と名乗ったんだよ。その後も画狂老人と名乗ったらしい』


「そんなに?」


『浮世絵師に限らず普通、芸術家は自分のペンネームを大事にするんだ。もちろんお金のためもあるが、後世に名前を残すためにもね』
 


「なるほどねえェ」
 普通の芸術家はあまり名前を変えないものだ。




『ところが北斎は名前をコロコロ変えていた。なにしろ貧乏だったらしく、画名を弟子に売って金に変えていたらしい』

「弟子に画名を?」


『ああァ着るものにも無頓着でいつもボロボロの着の身着のままだったんだ』



「ふぅん、浮世絵師って儲からないの?」



『いや、かなり金は貰っていたらしい。だけどそれ以上に金を使ってたんだ。だから版元の蔦屋重三郎にも借金を繰り返していたんだよ!』



「借金って、ギャンブルか何かにハマっていたの?」





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