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112話 沈黙の谷

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 私達は、次の日も休息に充てる事にした。私はヴィンセントと軽く稽古をしただけで、あとは妻達と街を散策した。

 出発の日、私達は冒険者ギルドに行き、ギルド長に挨拶をした。

「そうか、出発するのか。気をつけてな。馬車で行くのか?」

「いえ、アークライトで発明された乗り物で行きます」

「ほう、それは一度見てみたいものだな」

「念のため、街外れに隠してあるんで」

「なるほど、帰りには見せてもらえるかな?」

「そうですね、帰りならばお見せできるかと」

「君達の冒険の成功を祈っているよ」

 冒険者ギルドを出た私達は食料品店と道具屋で荷物を受け取った。男性陣は荷物持ちである。

「こんな事なら車で街に入ればよかったよ」

「ダリルが念のために街外れに隠しておこうって行ったんじゃないか」

 そうして私達は街外れに置いてある魔導自動車に向った。

 私とヴィンセント、ダリル、トマス、レッド兄さんの男性陣で荷物を輸送用の自動車に積み込む。

 そして私達は車に乗り込み沈黙の谷を目指す。馬車なら半日はかかるが自動車なら数時間で着くであろう。

 そして、わずか3時間後に私達は沈黙の谷の近くにまで来た。

「これが沈黙の谷……なんて美しい」

 アメリアが呟いた。

 それは大自然が描く芸術のようであった。

 沈黙の谷に近づくと村が見えた。ギルド長が言っていた冒険者のための村だろう。

 私達は用心のため、村から少し離れたところに車を隠し、村へ向かった。

 村に着くと食料品店に武器・防具店、道具屋、宿屋があった。もっとも店は小さく、品揃えは乏しい。食料品店にはパンと塩漬けの肉しか置いていなかった。

「例のパンか……」

 騎士学校時代の寄宿舎の食堂で出た石のように固いパンに酷似している。

「懐かしいな、レオン。騎士学校時代を思い出す」

 ヴィンセントが言う。

 宿屋も大部屋に簡易ベッドが並んでいるだけであった。

 とりあえずギルド長にもらった書状を各店に見せにまわった。とりあえず、今は優先的にしてもらうことはなさそうだが。

 そして宿屋の主人に迷宮の場所を聞き、そこに向かった。

 村から10分程度歩いたところに迷宮の入り口はあった。小さな洞窟の中に階段がある。

 迷宮の入り口を確認したら、私達は車を入り口の近くに移動させ、荷物を降ろして車を隠した。

 荷物にはマリアンナの言っていた小屋の材料も含まれており、私達は迷宮の入り口から少し離れた所に小屋を組み立てた。

 2時間ほどの作業で小屋は完成した。

「じゃあ、私はここで指揮を取るわね」

 マリアンナが言った。

 レッド兄さんとサリアさんもここでマリアンナの護衛をするようだ。

 小屋の中は魔道暖房具のおかげで暖かい。

「今回はこれを使う!」

 ダリルは小さな箱のような物を取り出した。

「なんだそれは?」

「魔道通信具だ。これで離れた場所でも会話ができる」

「本当かよ」

 私は通信具を持ってダリルから離れた。すると、箱からダリルの声がした。

「ダリルだ、聞こえるか?」

「ああ、聞こえるぞ」

 私はダリルの元に戻った。

「驚いた!これはどれぐらいの距離まで話せるんだ?」

「ふむ、ここからカラムの街ぐらいなら、ゆうに通じるぞ」

「凄いな」

「ああ、凄いだろう」

「ダリルは魔道具屋に集中した方がいいんじゃないか?」

「俺もたまにそう思う。だが、これらの魔道具は隠しておいた方がいいと思うんだ。戦争が起きてしまう」

「それで、これでどうするんだ?」

「魔導通信具は3台ある。1台はマリアンナに、1台は風を追う者に、最後の一台は風の守護者がそれぞれ持って連絡し合う」

「なるほど、それなら安全だな」

「まあ、念のためだ。使うのは定時連絡ぐらいになるだろう」

 風を追う者はリーダーのエマが、風の守護者はリーダーのシズではなく後衛のミーアが通信具を持つ事になった。

 話をしていると体が冷えてきた。

「今日はこの小屋で寝て、明日の朝より冒険を始めるわよ」

 全員に向かってマリアンナ言った。この小屋に全員入るだろうか?

 小屋の中は雑魚寝になったが、なんとか全員が寝ることができた。
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