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101話 魔導自動車

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「レオン、高度は何メートルだ?」

「今4,000メートルだ。安定している」

 私は例の巨大飛行機に乗ってダリルと空の上にいる。

「よし、北東に進むぞ」

「なあ、ダリル」

「なんだ?」

「飛行機ってやつはさ、滑走路がないと降りられないのか?」

「そうだな、滑走路ではなくてもいいが広い平地が必要だ」

「沈黙の谷にこれで行くとして、どこに降りるんだよ」

「……それは考えていなかった……確かに降りられる保証はないな」

「考えてなかったのかよ」

「作るのに夢中でな……」

 ダリルは明らかに動揺していた。

 微妙な空気の中、飛行機は進んでいき、帰路についた。

 着陸後、飛行機から降りると、明らかに落胆したダリルがいた。

「レオン、どうすればいい……」

 ダリルは地面にガックリと膝をついた。

 私はまさかダリルがここまで落胆するとは思わなかった。なんとかしなければ……

「そうだ、ダリル、魔導で動く馬車なんてどうだ?」

「何を言っているんだレオン、馬車が魔導で動いたからどうだって言うんだ」

「馬の代わりに魔導で動いたら便利じゃないか。馬は疲れるし、寒さや暑さにも弱い」

「おお!それだレオン!魔導なら馬よりも早く走れる!」

「何だ、考えてなかったのか」

「そうだな……馬車は既にあるからな」

「できそうか?」

「それならば簡単だ、馬車を改造すればいい」

 ダリルと別れてから数日後、ダリルが屋敷にやって来た。

「レオン!できたぞ!」

「ずいぶん早くできたな」

「ああ、基本的には魔導飛行機と同じ機関で大丈夫だ。あとは車体の方を作っただけだ」

「ちょっと、面白そうじゃない、私も行くわよ」

 エマがついて来た。

 ダリルに連れられて工場に行った私とエマはそこで奇怪な物を見せられた。

 それはまるで箱に4本のタイヤが付いたような物だった。

「何だか変わった形ね」

「ああ、これは鉄でできているんだ。ドアが付いているだろう、ここから乗り降りできる。

 なるほど、これなら乗り降りしやすそうだ。

「じゃあ、ちょっと走ってみるか」

 ダリルはそう言ってドアを開け、運転席に乗り込む。私は助手席に、エマは後部座席に乗り込んだ。

「じゃあ出発するぞ」

「これ、なんて言う乗り物なの?」

「魔導自動車だ」

 ダリルが言い終わると自動車は発進した。

「馬車より早いわね」

「もっとスピードは出るぞ」

 ダリルがそう言うとスピードを上げた。かなりのスピードである。

 敷地内を一回りすると工場まで戻って来た。

「うん、これならいいんじゃないか、沈黙の谷までの行程が短くなる」

「飛行機ほどではないがな」

「これ、私にも運転できる?」

「練習すればできるぞ」

「じゃあ、練習する」

 ダリルはエマに運転を教えている。私もその説明を横で聞いていた。

「じゃあ、私、運転するね」

 エマはハンドルを握ると発車した。

「面白いわね、これ、うふふ」

 エマの顔つきが変わった。

 エマはその後急発進し、工場の敷地を飛び出し、暴走の限りを尽くした。奇跡的に事故は起こらなかったが、私は今後エマに運転させるのはよそうと考えた。

 何とか工場まで戻ってくると私とダリルの顔は青くなっていた。

「あ~面白かった。どうしたの2人とも?」

「いや、何でもない……」

 私とダリルはそろってため息をついた。

「沈黙の谷に行くのならもっとたくさん人が乗れた方がいいわね」

「ああ、それは今設計している。今回のは実験車だ」

「しかし、飛行機も惜しいな。エルドバーン辺境伯領になら頼めば滑走路を作ってもらえそうだが」

「それは良い考えだ。レオン頼んでくれ」

「頼んでおくよ」

 私は父に手紙を送ったところ、空いている土地なら好きにして良いとの返事を得た。

 ダリルに伝えたところ、ダリルはエルドバーン領まで自動車で走っていった。
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