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72話 二人の婚約者

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 そして冬になり、王宮での婚約発表会が近づいて来た。私の周りも慌しくなって来た。

 しかし私はというと衣装合わせも終わり、暇を持て余していた。まさか冒険に出かける訳にも行かない。

 王都の屋敷で周りがバタバタするのを眺めているしかなかった。

 冒険者仲間には招待状を送ったが、なぜかエマだけは返事がなかった。どうしたのだろう?

 今できるのは、そのエマから借りたメテオラの魔導書を読むことぐらいだ。なんとかこの魔法を使えるようになりたいものだ。

 そうしているうちに婚約発表会当日になった。

 私は父ケイオスと母カーラと一緒に馬車に乗って王宮に出発した。兄さん達も別の馬車に乗って後ろに続いた。

「レオンも大きくなったわね」

 母カーラは感慨深そうに言った。

 そして馬車が王宮に着くとモリスと呼ばれていた男がやって来た。

「そう言えば自己紹介をしていませんでした。私はモリス・バロー。王宮の警護長をしてます」

 モリスはそう言うと一礼した。

「さあ、今回の婚約発表会では王宮でも、もっとも華やかな場所である庭園にご準備いたしました。ささ、王が待っております」

 そして応接室でしばらく王と歓談した。

 次に庭園に案内された。庭園には冬なのに一面に花が咲き誇っていた。そして会食ができるような準備がなされている。

 気になったのは私の席の両隣に席が設けられてあることだ。

 そして事前に婚約者に会うように言われ、控室に向かった。

 部屋の中には美しいドレスを着たマリアンナ……とエマ?

「レ、レオン!わ、私と婚約しなさい!」

 エマは言った。

「え?」

「とにかく、はいって言うの」

「……はい」

 勢いに押されて思わず言ってしまった。

 するとエマが抱きついてきた。そして私の両頬にキスをした。

「ほら、レオンもするの」

 促されて私もエマの両頬にキスをした。

「これで私達婚約者ね」

 エマの背中越しにマリアンナの姿が見えた。

「マリアンナ、君はこれでいいのか?」

「いいの。どうせ側室は必要だもの。だったらエマになってもらった方が都合がいいのよ。私達仲良しだし。それにエマは有能だしね。とにかく無能な女が側室になるのだけはイヤ」

 マリアンナは続けた。

「それにエマは前からレオンのことが好きだったのよ。レオンもエマのこと好きでしょ。好き同士は繋がった方がいいのよ。でもレオンが一番好きなのは私だから、間違えないでね」

 こうしてよく分からないまま相手の婚約者が2人と言う前代未聞の婚約発表会が行われた。

 私は右手でマリアンナを、左手でエマの手を引いて入場した。

 これにはさすがの王も驚いた。

「さすがはレオン……私もこういう事がしたかった」

 父と母は驚きを通り越して倒れそうになっていた。

 ルアール伯爵はこのことを知っていたのか落ち着いていた。

 しかし、婚約発表会自体は盛大に行われた。出席者は皆私達を祝福してくれた。

 そして例の儀式も行われた。私はマリアンナと両頬にキスし合うと今度はエマと両頬にキスし合った。

 キスが終わると会場からは割れんばかりの拍手が響き渡った。

「レオン、次の結婚式もこの庭園でやりなさい」

 王は上機嫌でそう言った。

 こうして破天荒な婚約発表会は幕を閉じた。

 婚約発表会が終わるとエマが言った。

「これでずーーーと一緒に冒険できるわね。私とレオンがいる限り『風を追う者』は不滅なのよ」

「まだパーティーは健在だろ」

「しばらくは大丈夫だけれど、でもダリルとか突然いなくなりそうだし、ヴィンセントもレオンを倒すための武者修行の旅とか言って出て行っちゃいそうだし。まあ、アメリアは大丈夫だと思うけど」

確かにダリルは一匹狼なところがあり、一つの場所に留まっていられない性分なのかもしれない。……ヴィンセントの武者修行はありえるな。

「言っとくけどレオン、あなたが武者修行に出る時はついていくからね」

 そういえばダライア帝国に行くんだったな。パーティー全員で行ければいいんだが。
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