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9話 兄の旅立ち
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そして、日々が過ぎていき、明日は長兄のレッドが騎士学校試験を受験するために王都に旅立つ日である。
まったくと言っていいほどに机に向かうことはなかったが、試験が間近になってからはさすがに焦ったのか朝から晩まで勉強するようになった。
騎士学校試験は実技試験の前に筆記試験があり、難易度は低いがここで不合格となると、実技試験を受けることもできず不合格となってしまう。
主に常識的な問題、地理、歴史、算数などが出題される。昔は実技試験しかなかったようであるが、あまりにも非常識な者が入学することがあり、筆記試験が導入されたらしい。
筆記試験の難易度は高くはないが全体の三分の一程度が落ちるらしく、何もせずに合格するのはさすがに無理らしい。とはいえレッドも筆記試験の勉強を始めたのはわずか2ヶ月前、今まで勉強は本当にさぼっていただけに厳しいことになるのではないかと心配している。
「レッド兄さん、筆記試験は大丈夫ですか?」
「ああ、レオンもそのことを言うんだな。まあ、一通りはやったとは言えなくもない」
なんとも歯切れが悪い。
「今にして思えばクロエさんの座学だけでも受けておいたら良かったと思うよ。まあ、ヨハンもレオンも筆記試験では俺のように困ったりしないんだろうな」
クロエ先生は一般的な知識を教えてくれてもいた。ケイオスに筆記試験の対策もするように言われていたらしい。ヨハン兄さんも魔術の授業は出なかったがそれだけは出席していた。
「実技は自信があるんだけどな。俺も黒騎士に鍛えられたからな」
「とんでもなく強いのと当たったりして」
「騎士学校の実技試験は2勝すれば合格で1敗までは許されるからな。大丈夫だよ」
横で話を聞いていたヨハン兄さんが話に加わる。
「来年は僕が受験することになるから、どんな感じか教えてくださいね」
「そういえばヨハンも来年受験だったな。準備はできてるか?」
「今の時点でも兄さんよりは準備ができていますよ」
「そうかよ。まあ、レオンはまだまだ先だけど当然大丈夫だろう。となると一番やばいのは俺になるのか。騎士学校を不合格になるのはさすがにちょっと許されないからな。冒険者学校にでも入れられてしまう」
「騎士学校や魔導学校を落ちた貴族の子弟が、冒険者学校に入れられるのはよく聞く話ですよね。冒険者学校は無試験ですもんね」
「まあ、冒険者学校も面白そうではあるんだけどな。けどそんなことしたら家から追い出されることになるしな。騎士学校に入って、王国騎士団に入って何年か後に退団して領地に戻ると。そんなお決まりのルートがあるのも事実だよな」
「そのルートにそわないと後継者にもなれませんしね」
「そうなんだよヨハン……って、お前後継者狙ってんの?」
「選ばれても恥ずかしくないように日々精進しております」
「レオンは?」
「よくわからないですね。兄さん達のどちらかでいいのではないですか。今のところヨハン兄さんを推しますが」
「うるせえよレオン。まあ父上が決めることだからな。骨肉の争いとかはしたくないよなぁ」
「それは同意します。けどレオンがなる可能性も結構高いですよ」
「確かにレオンは才能が桁違いだからな。でも仮にレオンが後継になってもきっちり補佐させてもらうぜ。辺境伯軍の軍師とかな」
「無理でしょう」
そんな会話を交わした翌日レッド兄さんは旅立つことになった。
「見送りありがとう。ヨハン、レオン」
「お気をつけて兄さん」
「レッド兄さん試験、頑張ってください」
「おう、もちろん合格してくるぜ!」
腕を突き上げたレッド兄さんはそのまま馬車に乗って出発した。馬車には使用人が1名、護衛が1名同乗する。また、別にレッド兄さんを乗せた馬車を護衛する冒険者達を乗せた馬車、あと荷馬車がそれに続く。
辺境伯領から王都までの道のりは長く、道中で魔物が出現するところもあり護衛が必要なのである。護衛の冒険者は辺境伯領内で最高の冒険者で、なんでもA級冒険者と呼ばれる国内でも有数の実力者らしい。
レッド兄さんが旅立ってから1ヶ月もたったころ、兄さんからの手紙が届いた。家族で集まって父が手紙を読んだところ、試験には見事合格したとのことであった。
それから兄さんの手紙は、筆記試験はほとんどできなかったがなんとか合格したこと、実技試験は大したことない相手に2勝したこと。国内からすごい奴が集まってきているので入ってからも気が抜けないこと、最後には来年はヨハン頑張れよ、待ってるぞと締め括られていた。
「兄さんが合格なら大丈夫そうですね」
とヨハン兄さんは言った。ヨハン兄さんの剣の腕はレッド兄さんに匹敵する者であり、レッド兄さんが猛攻を得意とする力の剣であるなら、ヨハン兄さんは受け流しを得意とする柔の剣であろうか。
その翌年、今度は次兄のヨハン兄さんが騎士学校受験のため旅立っていった。試験の結果は当然のように合格であった。
兄達がいなくなって屋敷は少し寂しくなった。剣の練習も相手がいないと模擬戦ができないなど不都合が生じていた。
まったくと言っていいほどに机に向かうことはなかったが、試験が間近になってからはさすがに焦ったのか朝から晩まで勉強するようになった。
騎士学校試験は実技試験の前に筆記試験があり、難易度は低いがここで不合格となると、実技試験を受けることもできず不合格となってしまう。
主に常識的な問題、地理、歴史、算数などが出題される。昔は実技試験しかなかったようであるが、あまりにも非常識な者が入学することがあり、筆記試験が導入されたらしい。
筆記試験の難易度は高くはないが全体の三分の一程度が落ちるらしく、何もせずに合格するのはさすがに無理らしい。とはいえレッドも筆記試験の勉強を始めたのはわずか2ヶ月前、今まで勉強は本当にさぼっていただけに厳しいことになるのではないかと心配している。
「レッド兄さん、筆記試験は大丈夫ですか?」
「ああ、レオンもそのことを言うんだな。まあ、一通りはやったとは言えなくもない」
なんとも歯切れが悪い。
「今にして思えばクロエさんの座学だけでも受けておいたら良かったと思うよ。まあ、ヨハンもレオンも筆記試験では俺のように困ったりしないんだろうな」
クロエ先生は一般的な知識を教えてくれてもいた。ケイオスに筆記試験の対策もするように言われていたらしい。ヨハン兄さんも魔術の授業は出なかったがそれだけは出席していた。
「実技は自信があるんだけどな。俺も黒騎士に鍛えられたからな」
「とんでもなく強いのと当たったりして」
「騎士学校の実技試験は2勝すれば合格で1敗までは許されるからな。大丈夫だよ」
横で話を聞いていたヨハン兄さんが話に加わる。
「来年は僕が受験することになるから、どんな感じか教えてくださいね」
「そういえばヨハンも来年受験だったな。準備はできてるか?」
「今の時点でも兄さんよりは準備ができていますよ」
「そうかよ。まあ、レオンはまだまだ先だけど当然大丈夫だろう。となると一番やばいのは俺になるのか。騎士学校を不合格になるのはさすがにちょっと許されないからな。冒険者学校にでも入れられてしまう」
「騎士学校や魔導学校を落ちた貴族の子弟が、冒険者学校に入れられるのはよく聞く話ですよね。冒険者学校は無試験ですもんね」
「まあ、冒険者学校も面白そうではあるんだけどな。けどそんなことしたら家から追い出されることになるしな。騎士学校に入って、王国騎士団に入って何年か後に退団して領地に戻ると。そんなお決まりのルートがあるのも事実だよな」
「そのルートにそわないと後継者にもなれませんしね」
「そうなんだよヨハン……って、お前後継者狙ってんの?」
「選ばれても恥ずかしくないように日々精進しております」
「レオンは?」
「よくわからないですね。兄さん達のどちらかでいいのではないですか。今のところヨハン兄さんを推しますが」
「うるせえよレオン。まあ父上が決めることだからな。骨肉の争いとかはしたくないよなぁ」
「それは同意します。けどレオンがなる可能性も結構高いですよ」
「確かにレオンは才能が桁違いだからな。でも仮にレオンが後継になってもきっちり補佐させてもらうぜ。辺境伯軍の軍師とかな」
「無理でしょう」
そんな会話を交わした翌日レッド兄さんは旅立つことになった。
「見送りありがとう。ヨハン、レオン」
「お気をつけて兄さん」
「レッド兄さん試験、頑張ってください」
「おう、もちろん合格してくるぜ!」
腕を突き上げたレッド兄さんはそのまま馬車に乗って出発した。馬車には使用人が1名、護衛が1名同乗する。また、別にレッド兄さんを乗せた馬車を護衛する冒険者達を乗せた馬車、あと荷馬車がそれに続く。
辺境伯領から王都までの道のりは長く、道中で魔物が出現するところもあり護衛が必要なのである。護衛の冒険者は辺境伯領内で最高の冒険者で、なんでもA級冒険者と呼ばれる国内でも有数の実力者らしい。
レッド兄さんが旅立ってから1ヶ月もたったころ、兄さんからの手紙が届いた。家族で集まって父が手紙を読んだところ、試験には見事合格したとのことであった。
それから兄さんの手紙は、筆記試験はほとんどできなかったがなんとか合格したこと、実技試験は大したことない相手に2勝したこと。国内からすごい奴が集まってきているので入ってからも気が抜けないこと、最後には来年はヨハン頑張れよ、待ってるぞと締め括られていた。
「兄さんが合格なら大丈夫そうですね」
とヨハン兄さんは言った。ヨハン兄さんの剣の腕はレッド兄さんに匹敵する者であり、レッド兄さんが猛攻を得意とする力の剣であるなら、ヨハン兄さんは受け流しを得意とする柔の剣であろうか。
その翌年、今度は次兄のヨハン兄さんが騎士学校受験のため旅立っていった。試験の結果は当然のように合格であった。
兄達がいなくなって屋敷は少し寂しくなった。剣の練習も相手がいないと模擬戦ができないなど不都合が生じていた。
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