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8話 魔術の授業(3)

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「大規模術式とは何ですか?」

「後で教えることになるけど、大人数の魔術師が集まって、魔法陣をつないで行う魔術よ」

 魔力を放出し、その際に属性をイメージすることによって魔術は発生する。しかし、魔力の放出量は例え魔力がどんなに多くとも、一度に放出できる量は限られている。

 魔力の放出量は鍛えることはできるが、ある程度までで通常は魔力量の1割ぐらい、多くても2割ぐらいらしい。自分もだいたい2割ぐらいだ。

「つまり魔力の放出量は人それぞれだけど限界があるの。そこで魔法陣を使うことによって最大で5割ぐらいまで魔力を放出できるようにするの。魔法陣は日々改良されてたくさん種類があるけど、高威力の魔法陣は紋様が複雑で覚えるのが難しいわ」

 前世での魔術は魔法陣なんてなかったなと思い返していた。

「では、さっそく魔法陣を使ってみましょう。本当は魔法陣を足元にイメージするんだけど、さすがにいきなりそれは難しいから地面に魔法陣を書いてそれでイメージするの。まあそれでも難しいんだけど」

 と言うとクロエ先生は地面に木の枝で魔法陣を描いていく。

「さあ、この上にのって、魔法陣をイメージして」

 魔法陣の上にのって、魔法陣をイメージする。

「そうね、ウインドカッターでも出してみて」

 言われるがままにウインドカッターを出してみる

「ウインドカッター!」

 確かに威力は普段の倍ぐらいの威力が出ているような気がする。

「飲み込みが早いわね。これなら書かれた魔法陣ならいくらでも行けるかも」

 そう言ってクロエ先生は地面に……恐ろしく複雑な巨大な紋様を描き始めた。

「さっきの魔法陣は初心者向け。今度のは今の最先端の魔法陣よ。今度はこっちでやって」

 恐る恐る魔法陣の上に乗って、魔法陣をイメージする。さすがにイメージするのが難しい。

「ウインドカッター!」

 先ほどの何倍もの大きさの風刃が飛び出した。

「1回でできたわね。これはたいしたのものよ。でも書かれた魔法陣がなくてもできるようにならないといけないから頑張って覚えないとね。大規模魔術ならあらかじめ描いておくことも多いんだけど」

「でも初心者向けの魔法陣は簡単に覚えられるから一度覚えてやってみて。魔力量は大丈夫よね?」

 実際、今の2撃で魔力はごっそり持っていかれたけどまだちょっとありそうだ。頑張って魔法陣を暗記し、試してみる。

「ウインドカッター!」

 最初のウインドカッターと同じくらいの魔法が出せた。

「結構難しいはずなんだけど、すぐにできたね。さすがはレオン君。今日はこのくらいにしておきましょうか」

 そうして今日の修行が終わった。後で聞いたのだが大規模魔術はこの魔法陣を多人数でつなげて行うものらしい。

 それから毎日魔力量の鍛錬、5属性魔法の練習、魔法陣の練習と割とハードな修行を行った。それに加えて剣術の修行も欠かさずに行ったから、毎日修行が終わるとベッドに倒れ込むような日々が続いた。

 やはり日中はクロエ先生はだらだら過ごしているようだ。

 「レオン君、これで魔術の授業も概ね終わったわ。騎士学校で魔術を学んでも本当に基礎的なものだからきっと退屈でしょうね。実力的には魔導学校に進む実力はあると思うの。もしよかったら騎士学校を卒業したら年齢もちょうど入れるはずだし、騎士団へは行かずに魔導予備学校に進んでみても面白いかもってお父様に怒られるわね」

 それは面白いなとも思った。まあ、騎士学校に入るのもまだまだ先のことではあるが。

「なので、今日でレオン君の家庭教師は終わりになるわ。この歳でここまでできるようなら大したものよ。レオン君がここまでできるなんて正直予想外。これからも頑張ってね。いい魔道士になれるわよ。剣と魔術の両立もあながち無理とは言えないわ」

そう言うとクロエ先生はウインクした。

「ここの生活は結構魅力的だったのね。美味しい食事に美味しいお茶にお菓子。これから味気ない宮廷魔導士に戻るのがぞっするわ。」

「でもクロエ先生ももう少し生活のこと考えた方がいいですよ」

「太ってなんかいません!……ちょっとしか」

「いや、そんなこと言ってませんよ」

「そう聞こえました!……でもまあ、いいわ。許してあげる。あとね、剣と魔術の両立だけど2代剣聖の晩年に魔術に傾倒していたようね。あながち的外れでもないのかも」

 その後もクロエ先生はここの生活が名残惜しいようだったが、いいかげん戻らないといけないようなので、皆で送別会を行ったのち王都へと帰って行った。
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