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4話 黒騎士
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そんなある日。父ケイオスの誘いによって一人の男がエルドバーンの屋敷に向かっていた。ケイオスよりも更に大きな体躯をしている白髭を蓄えた初老の男であった。
その男の名はブルーム・ドラグノフ。剣聖がいない今、最強と呼ばれる男である。その所作に隙はなく、その眼光は射竦められる程に鋭かった。
男は屋敷の庭に入ると2人の子供が模擬戦を行なっていた。その模擬戦は年の割にはなかなかのものであると男は思った。きっとケイオスの言っていた子供とはこの子達のことを言っているのだろう。庭の隅で素振りをしている子供はまだ幼すぎるようだ。
男が屋敷に入ると使用人がケイオスを呼んできた。
「お久しぶりです、ドラグノフ師。遠路はるばるこの様な僻地にお越し願えて恐縮です」
「いやいやこちらこそ久しぶりじゃなケイオス。いや、今はエルドバーン辺境伯か、偉くなったもんじゃのう。なに、旅行がてらにふらっと寄ってみたまでのことじゃ」
「本日は我が息子を見ていただきたくてお呼びいたしました。息子は今、庭で稽古をしているはずですが」
「その子達なら今、今しがた見てきたわ。なかなかに筋がいい。だが手紙に書いてある程の天才とは思えないのう」
「それはどうでしょうか?今から庭に見に行きましょう」
ドラグノフ師を伴って庭に出たケイオスは3人の兄弟を呼び寄せた。
「ドラグノフ師、こちらが我が息子の上からレッド、ヨハン、そしてレオンです。手紙でお伝えしたのは一番下のレオンです」
ドラグノフ師は意外な顔をした。この子は幼すぎる。ケイオスの親バカなのかもしれないなと思った。
「この方は偉大なる『黒騎士』ブルーム・ドラグノフ師だ。私が若い頃に師事していたお方だ。ご挨拶するように」
「初めましてドラグノフ師」
元気に3人が挨拶する。
「やはりレオン君は少し幼すぎるようだが」
ドラグノフ師は少し困惑していた。
「しかし驚くべき事に私が手加減できないほどの実力を持っています」
「正直信じられないが、まあケイオスがそこまで言うのなら、少し手合わせしてみようか。レオン君、木刀を持って庭の中央へ行きなさい。私にも木刀をもらえるかな」
ドラグノフ師が木刀を受け取るとつかつかと庭の中央に進んで行き、レオンもそれに続いた。
対峙すると、ドラグノフ師には圧倒的な威圧感があり、それは自分がかつて持っていたそれに近いものであった。さすがは『黒騎士』などと呼ばれるだけはある。恐らく今の自分では敵わないと確信する。
隙が全くない上、生半可な攻撃は全て返されるように感じられた。
足を動かし間合いを大きく取る。このレベルの相手は踏み込みで一瞬にして間合いを詰めてくる。
「なかなかやるではないか。この間合いの取り方は正しい。なるほど天稟を感じるのう。しかしこれならどうかな?」
そう言うと鋭い踏み込みで一瞬に間合いを詰めてきた。しまった!この間合いでも近かったか。
「これを躱せるか」
そう言ってドラグノフ師は上段から剣を大きく振り下ろした。
「フーン」
ドラグノフ師がそう叫ぶと剣はまるでゆっくりにも見える大きな軌跡を描いて自分に向かってくる。簡単に躱せそうで躱せない。
剣で受け止め自分から後ろに飛んで衝撃を和らげる。後ろに飛んでなお衝撃が大きい。
そして素早く前に出て横薙ぎに切り払うも軽々と受け止められた。反撃がくる前にすぐに後退する。
恐ろしいスピードと威力、今の自分では到底敵わない。体は悲鳴を上げているが、もはや秘剣を出すしかない。そう決意した時だった。
「ここまででいいじゃろう。その動きはまだその体には耐えきれまい。ようやった」
そう言うとドラグノフ師は剣を収めた。
「なるほど!面白いのう。足りないのは身体能力だがこれはこれからいくらでも強くなる。ケイオスはただ見てくれとだけ言ったが、ふむ、この地にしばらく残って鍛えてみるのも悪くない」
「おお、『黒騎士』が自ずからお教えいただけるのですか?それは素晴らしい」
「まあ、弟子達のことはアンドレスがいるから特に問題ないしのう。それにこの子が気に入った。これは将来剣聖になるやもしれんぞ」
そう言ってドラグノフ師は豪快に笑った。
「剣聖とおっしゃいましたが、剣聖は黒騎士とはまた違うのですか?」
「2代剣聖レオン・デイマー様の高弟の4人が、白・黒・赤・青の騎士を名乗りそれを受け継いでいる。この騎士を継いだ者は剣聖にならないのが暗黙のルールになっている。その弟子が剣聖を継ぐことはあったがの」
なるほど、黒騎士は剣聖に近い剣士と言うことか。ならば剣士としては当代最高峰。前世より進化した剣技の数々が手に入る。そしてそれは、幻影の中に存在するあの男レイチェル・ミッドガルを凌駕できる足がかりになるはずだ。
その男の名はブルーム・ドラグノフ。剣聖がいない今、最強と呼ばれる男である。その所作に隙はなく、その眼光は射竦められる程に鋭かった。
男は屋敷の庭に入ると2人の子供が模擬戦を行なっていた。その模擬戦は年の割にはなかなかのものであると男は思った。きっとケイオスの言っていた子供とはこの子達のことを言っているのだろう。庭の隅で素振りをしている子供はまだ幼すぎるようだ。
男が屋敷に入ると使用人がケイオスを呼んできた。
「お久しぶりです、ドラグノフ師。遠路はるばるこの様な僻地にお越し願えて恐縮です」
「いやいやこちらこそ久しぶりじゃなケイオス。いや、今はエルドバーン辺境伯か、偉くなったもんじゃのう。なに、旅行がてらにふらっと寄ってみたまでのことじゃ」
「本日は我が息子を見ていただきたくてお呼びいたしました。息子は今、庭で稽古をしているはずですが」
「その子達なら今、今しがた見てきたわ。なかなかに筋がいい。だが手紙に書いてある程の天才とは思えないのう」
「それはどうでしょうか?今から庭に見に行きましょう」
ドラグノフ師を伴って庭に出たケイオスは3人の兄弟を呼び寄せた。
「ドラグノフ師、こちらが我が息子の上からレッド、ヨハン、そしてレオンです。手紙でお伝えしたのは一番下のレオンです」
ドラグノフ師は意外な顔をした。この子は幼すぎる。ケイオスの親バカなのかもしれないなと思った。
「この方は偉大なる『黒騎士』ブルーム・ドラグノフ師だ。私が若い頃に師事していたお方だ。ご挨拶するように」
「初めましてドラグノフ師」
元気に3人が挨拶する。
「やはりレオン君は少し幼すぎるようだが」
ドラグノフ師は少し困惑していた。
「しかし驚くべき事に私が手加減できないほどの実力を持っています」
「正直信じられないが、まあケイオスがそこまで言うのなら、少し手合わせしてみようか。レオン君、木刀を持って庭の中央へ行きなさい。私にも木刀をもらえるかな」
ドラグノフ師が木刀を受け取るとつかつかと庭の中央に進んで行き、レオンもそれに続いた。
対峙すると、ドラグノフ師には圧倒的な威圧感があり、それは自分がかつて持っていたそれに近いものであった。さすがは『黒騎士』などと呼ばれるだけはある。恐らく今の自分では敵わないと確信する。
隙が全くない上、生半可な攻撃は全て返されるように感じられた。
足を動かし間合いを大きく取る。このレベルの相手は踏み込みで一瞬にして間合いを詰めてくる。
「なかなかやるではないか。この間合いの取り方は正しい。なるほど天稟を感じるのう。しかしこれならどうかな?」
そう言うと鋭い踏み込みで一瞬に間合いを詰めてきた。しまった!この間合いでも近かったか。
「これを躱せるか」
そう言ってドラグノフ師は上段から剣を大きく振り下ろした。
「フーン」
ドラグノフ師がそう叫ぶと剣はまるでゆっくりにも見える大きな軌跡を描いて自分に向かってくる。簡単に躱せそうで躱せない。
剣で受け止め自分から後ろに飛んで衝撃を和らげる。後ろに飛んでなお衝撃が大きい。
そして素早く前に出て横薙ぎに切り払うも軽々と受け止められた。反撃がくる前にすぐに後退する。
恐ろしいスピードと威力、今の自分では到底敵わない。体は悲鳴を上げているが、もはや秘剣を出すしかない。そう決意した時だった。
「ここまででいいじゃろう。その動きはまだその体には耐えきれまい。ようやった」
そう言うとドラグノフ師は剣を収めた。
「なるほど!面白いのう。足りないのは身体能力だがこれはこれからいくらでも強くなる。ケイオスはただ見てくれとだけ言ったが、ふむ、この地にしばらく残って鍛えてみるのも悪くない」
「おお、『黒騎士』が自ずからお教えいただけるのですか?それは素晴らしい」
「まあ、弟子達のことはアンドレスがいるから特に問題ないしのう。それにこの子が気に入った。これは将来剣聖になるやもしれんぞ」
そう言ってドラグノフ師は豪快に笑った。
「剣聖とおっしゃいましたが、剣聖は黒騎士とはまた違うのですか?」
「2代剣聖レオン・デイマー様の高弟の4人が、白・黒・赤・青の騎士を名乗りそれを受け継いでいる。この騎士を継いだ者は剣聖にならないのが暗黙のルールになっている。その弟子が剣聖を継ぐことはあったがの」
なるほど、黒騎士は剣聖に近い剣士と言うことか。ならば剣士としては当代最高峰。前世より進化した剣技の数々が手に入る。そしてそれは、幻影の中に存在するあの男レイチェル・ミッドガルを凌駕できる足がかりになるはずだ。
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