宝石のお姫さま

近衛いさみ

文字の大きさ
上 下
5 / 15
宝石姫とエルフ

宝石姫とエルフ1

しおりを挟む
 ここは石の国です。石の町の裏路地にある小さな宝石店。ここは、石の国のお姫さま、ベリルのお店です。ベリルは今日も城を抜け出し、宝石店に立ちます。
 今日はどんな人や宝石たちに出会えるでしょうか?


「メノウ? 近くにいるかしら?」

 宝石のお姫さま、ベリルがメノウを呼びます。メノウはアゲートの宝石から生まれた、宝石の精霊です。

「なんだい? 姫さま」

「メノウ。ちょっと宝石たちのお手入れをしたいんだけど、棚に手が届かないの。椅子の上に登るから、押さえててくれないかしら?」

 ベリルは棚の上から宝石の入った箱を取ろうとしているようです。うんうんと背伸びをしているのですが、届きそうにありません。

「別にいいけど。大丈夫かい? 俺が椅子の上に乗ろうか?」

「大丈夫よ。そんなことまで、あなたにさせられないわ」

 ベリルは近くにあった店番の時に使う椅子を持ってきました。メノウは宝石の姫であるベリルを手助けするために生まれてきた精霊です。そんなメノウに気を遣うなんて、姫さまは優しすぎるとメノウは少し呆れていました。

「わかったよ。椅子を押さえているから、気をつけてよ」

 メノウは諦めて椅子を押さえます。椅子の上ではベリルが必死に箱に向かって腕を伸ばします。

「あらららら」

 やっぱりこうなったかとメノウは思いました。ベリルはバランスを崩し、床に尻餅をついてしまいました。

「だから、俺がやると言ったのに」

 メノウが姫さまを起こそうとした時でした。

「あ、あのう」

 店の入り口から声がしました。このバタバタで、二人とも店にお客さんが入ってきたことに気がつかなかったのです。

「すみません。気がつかずに」

 ベリルは急いで立ち上がりました。
 店の入り口にいたお客さんは美しい女性でした。水面にうつる月のように、透き通る青の髪をしていました。美しく、整った顔。特徴的な耳。エルフのようです。エルフはこの世界で人間に似た種族です。
 エルフの女の子は言いました。

「あ、あの。きれいになれる宝石が欲しいんです」

 その言葉を聞いて、ベリルは目を輝かせました。こんなに綺麗な女の子に宝石を選んであげられるなんて、嬉しくないはずがありません。

「わかりました。では、その前にあなたのことを教えてくださいな」

 ベリルは明るく聞きました。

「私はミイナです。隣の森の国から来ました」

 ミイナは少しもじもじしています。何か言いにくいことがあるようです。

「ミイナさん。遠慮はしないでください。なんでも聞きますよ?」

 ミイナは勇気を出して聞きました。

「私はエルフです。エルフに物を売ってはいけないと言うのであれば、諦めます」

 残念なことに、エルフと人間は仲が悪いのです。エルフは人間より長生きです。そして、不思議な魔法を使えるのもエルフの特徴なのです。そんなエルフを人間は不気味に思い、仲良くしませんでした。
 しかし、ベリルにはそんな感情は全くありません。なぜそのようなことを聞くのかわからないと言った顔をしています。
 そんなベリルにメノウが説明をしました。

「エルフのほとんどは森の国で暮らしてる。エルフのことを良く思わない人間が多いのさ。それは石の国でも、森の国でも同じだよ。エルフがいじめらちゃうことも多いんだ」

「なぜ?」

 ベリルは聞きました。本当に理由がわからないようです。

「怖いんだろ。自分と違う物を持っているのが、人間は怖いのさ」

 メノウは言いました。ベリルは悲しい顔をして答えます。

「それはひどいですね。エルフも人間も、きっと仲良くなれるのに」

「ほ、本当にそう思いますか?」

 ベリルとメノウの話を聞いていたミイナが話に入って来ました。

「ええ。私はそう思いますよ。きっと私とミイナさんも仲良くなれますし、ミイナさんも沢山の人間と仲良くなれますよ」

「そうだといいんですが……」

 ミイナは少し辛そうな顔をしています。何か事情があるようです。

「何かあったのですか?」

 ベリルは優しく聞きました。まただとメノウは思いました。困っている人を放っておけない姫さまの性格です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さくら色の友だち

村崎けい子
児童書・童話
うさぎの女の子・さくらは、小学2年生。さくら色のきれいな毛なみからつけられた名前がお気に入り。 ある日やって来た、同じ名前の てん校生を、さくらは気に入らない――

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

料理人ボイジャーと聖剣の鍛冶屋さん

近衛いさみ
児童書・童話
奇跡の料理人ボイジャー。彼の料理は人々の心を救う不思議な料理だ。伝説の剣を作り続ける聖剣の鍛冶屋さんコッコもボイジャーに心を救われた。今、二人の旅が始まる。ボイジャーの料理を待つ人は世界中にいるのだ。 今日もおいしい料理を必要な人に届けるために、旅を続ける。 学童向けに書いています。対象は小学校高学年から中学校向け

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

表と裏と狭間の世界

雫流 漣。
児童書・童話
夢を無くした ファンタジー小説家の卵と やぶ睨みの不気味な老人。 得体の知れぬ監視人たち。 現実と幻想… 日常に潜む異質。 親友リックの 不自然な事故をきっかけに 次第に未知の世界へと 引きずり込まれてゆく 孤高の青年、カイ。 全ては、小さな田舎町での 運命の出会いから始まる。 蔦に覆われた古い骨董品店、 その重く軋んだ 樫の木の扉を押し開け いざゆかん 表と裏と狭間の世界へ。

月夜のフクロウ

弓屋 晶都
児童書・童話
外の世界にあこがれる家猫と、外の世界に生きるフクロウのお話。

委員長はかわいいものに癒されたい!

花梨
児童書・童話
陽乃葉は、小学校では「学級委員長」であり、家では祖母や双子の妹の世話をする「お姉ちゃん」。 人から頼りにされることがうれしくてがんばりすぎてしまい、日々疲れている。 そんな陽乃葉の疲れを癒してくれるのは、クマのぬいぐるみのあむちゃん。あむちゃんはかけがえのない大切な存在だけど、「小六にもなってぬいぐるみが好きなんて」「委員長なのに頼りない」と思われるのが嫌で、ひみつにしている。 でもある時、クラスメイトの桐ケ谷の夢が「ぬいぐるみ作家になりたい」と知って……。 「あたしも本当のことを言うべき?それともキャラじゃないから言わない方がいい?」 迷いつつ、悩みつつ、がんばりすぎる女の子に癒しを与えるぬいぐるみの世界へようこそ!

ヲカカ童話集

ヲカカ
児童書・童話
童話を書きます。見てみてください。 時々気が向いたら出します。

処理中です...