宝石のお姫さま

近衛いさみ

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宝石姫と村娘

宝石姫と村娘1

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 ここは石の国。全部が、石でできた国です。家も、机も、お城も、全部石です。そんな、石の国に一人のお姫さまが暮らしていました。名前はベリル。すきとおるような赤の、ふわふわの髪の毛をした、小さな女の子です。町の人からも、お城の人からも、誰からも好かれる、可愛いお姫様です。

 しかし、ベリルには秘密があります。石の国の町。その裏路地にある小さな宝石屋さん。そこはベリルのお店です。今日もベリルは城を抜け出し、宝石店のお店に立ちます。


 ベリルは宝石が大好き。今日も、宝石に囲まれて、幸せでした。

 カランカラン。店の入り口のベルがなります。誰かがお店に来たようです。

「いらっしゃいませ」

 ベリルは笑顔でお客さまを迎えます。店の入り口には一人の女性が立っていました。20歳くらいでしょうか?ベリルより少し年上のようです。白いワンピースを着てますが、少々薄汚れてしまっています。

「あ、あの。ここは宝石屋さんですか?」

「そうですよ」

 お客さまの質問に、ベリルは元気な声で答えました。ここに来るお客さまは、まさかお姫さまが店番をしているとは思いません。そもそも、石の国では、お姫さまと会ったことがある人の方が少ないのです。

「すみません。私は宝石を買いに来たわけではないんです」

 お客さまは頭を下げました。ベリルはお客さまがなぜあやまっているのかがわかりませんでした。

「あやまることはありませんよ。お姉さん。まずはお名前を教えていただけますか?」

 頭をあげたお客さまは少し戸惑いながら、ベリルに言いました。

「はい。私はシンスです。石の国の外。砂漠の村で暮らしています」

 石の国は裕福な国です。そんな裕福な石の国では暮らせな貧しい人は、外に広がる砂漠で村を作って生活しています。

「シンスさん。よろしくおねがいします。それで、この宝石店になんのようですか?」

 ベリルはシンスに聞きました。宝石を買いにきたわけではないのであれば、何か理由があるはずです。

「この宝石を見てください。この宝石をお金に変えたいんです」

 シンスは大切に手に持っていた宝石をベリルに見せました。

「綺麗な宝石ですね」

 ベリルは一粒の宝石を眺ます。透き通るような宝石の中に、うっすらと黄色が混ざった色です。

「この宝石は亡くなった父が、母に贈ったものなんです」

 シンスはそう、説明しました。

「そんな大切なものを手放していいのですか?」

 ベリルはやんわりと聞きました。

「命には変えられませんから。ウチには病気の母に薬を買うお金もないんです」

 優しいベリルはその宝石の価値を伝えることを迷っていました。そして、困ってる目の前の女性を放っておけなくなってるのも、ベリルの性格なのです。

「この宝石はジルコンという名前の石です。凄く古い時代の石で、見た目も美しい宝石です。しかし……言いにくいのですが、宝石としての価値はほとんどありません。お金には変えられないでしょう」

 ベリルは思い切って打ち明けました。シンスは悲しい顔をしています。

「しかし、このジルコンの宝石にはとても凄い力が眠っています。私ならそれをとりだし、シンスさんの力になれると思います」

 そう言うと、ベリルはシンスさんの手からジルコンを受け取りました。

「このジルコンはうっすらと黄色の色が入ってます。美しいですね。それに、ジルコンの名前の由来には、『金』が入っています」

 そう言うとベリルは自分の手のひらで、そっとジルコンを包みました。ベリルの手がうっすらと輝いているように見えます。
 シンスはその、不思議な光景を見つめていました。そんなシンスにベリルは言います。

「私は宝石の持つ力を感じることが出来ます。そして、その力を取り出してあげることができるんですよ。ほら……」

 開いたベリルの手のひらの中には、とても価値のある黄金が一粒乗っていました。

「これが、あの宝石?母のあの宝石ですか?」

 シンスは驚いて、ベリルに聞きました。

「ええ。そうです。私が宝石の中に眠ってる力を引き出しました。これは、紛れもなく、あなたのお母さまの宝石です。これで、お母さまの病気を治してあげてくださいな」

 ベリルはシンスの手に、ぽとりと黄金を置いた。この大きさの黄金なら、薬はもちろん。1ヶ月くらいなら食事にも困らないでしょう。

「なんと、お礼を言ったらいいか」

 シンスは何度も何度も、深く頭を下げながら店を後にしました。
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