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4話
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暗い森の中、暗闇に紛れて男が蠢いていた。男は目の前の女を蹂躙していた。男は女の首を力一杯締める。女は苦しそうにもがき、白目を剥きながらよだれをダラダラと流していた。
女の力が抜け、女が動かないことを確認すると男は女の下半身の衣服を剥ぎ取った。
男は徐にズボンを下ろすと、自分のペニスを女に擦り付けていく。
「やっぱり食欲より女欲だよな~」
男は狂ったような目で女を見つめる。女のあらわになった膣に自分のペニスを無理やり挿入しようとする。女は全く反応を示さない。目を見開き、口はだらしなく垂れ下がっている。女はもう死んでいるようだ。
男は夢中で腰を動かす。欲望のままに、細かく腰を動かす。
男が絶頂を迎えようとしたその時だった。男の体がふわりと女の体から離れた。男はそのまま後ろに大きく倒れた。
男の下半身から夥しい量の血が吹き出す。男のペニスが刈り取られたようだ。男はその痛みのあまり白目をむき、ガクガクと痙攣している。その様子を感情のない目で道化が見下ろしていた。このまま放置していても男は痛みでショック死するだろう。道化にとっては好都合だった。
道化はそばで死んでいる女に一瞥する。柔らかそうな女の肉は道化には最高の遊び相手だ。けど、女は道化が殺した獲物ではない。その辺は道化も変にわきまえているようだ。
道化はすぐに醜く泡を吹いている男に向き直った。まだ生きているのか死んでいるのか、判断はできない。だが、そんなことは道化には関係がなかった。
道化はいつものように鎖骨の間にナイフを突き立てる。皮を切り裂き、腑を引き摺り出す。その下。あるはずの睾丸がなくなっている場所。その場所を道化は不思議そうに眺める。今まで数多くの人間を殺してきた。男も多かった。しかし、道化がその場所に興味を示すことはなかった。女も同じだ。道化には性への興味はない。
道化は睾丸があったあたりの場所を踏みつけた。少しだけ血が飛び散る。道化が望むような激しい血飛沫を飛ばすほど、男の体内に血液は残ってはいない。
道化はすぐに興味を失い、暗い闇の中へと歩き出した。
ユーキ達一行は今日も森の探索を続ける。もうこの森に連れてこられてそこそこの日数が経つが、慎重に調査を進めているため、森の大部分を把握できていなかった。食料すらまともに入手できていない。本当にこのままでいいのか。皆に焦りの色が見られるようになってきた。
薄暗い森の中を昨日とは違う方角へ進んでいく。あたりを最新の注意を払いながゆっくりと。
「ん? なんか臭うな……」
シタラが微かな異臭を感じ取り立ち止まった。他のメンバーもあたりを伺う。
「こっちか……」
シタラは皆を先導して臭いの方向へと歩いて行った。
臭いの原因にたどり着いた一行は息を呑んだ。
男女の死体だ。それも酷い殺され方をしている。女の方はレイプされたであろう殺され方。男の方はというと、胸から腹にかけてを中心にズタズタに切り裂かれていた。
「ひっ! 氷日の……」
ノロが小さな声を上げた。
ここにいる誰もが氷日のピエロの仕業だと思った。本当に実在するのか。
「ふ、二人ともピエロが?」
ユーキが聞く。
「どうだろうね。男の方も下半身を露出している。陰部あたりのダメージを考えるとセックスの最中に殺されたんじゃないかな?」
アランは意外と冷静に状況を分析している。
ガサ。
その時だった。背後の草むらに気配を感じ、5人は一斉に振り返った。
そこには涙目の男が包丁を握りしめて立っていた。その手は怒りに震えている。
「お、お、お前達が殺したのか?」
男は叫んだ。
「ち、違う! これは……」
アランが誤解を解こうと声を上げた。しかし、その声は男には届かない。
「あ、アヤー!! アヤだろ? お前達、アヤを」
男は殺された女を見て発狂した。
「ば、ばか。誤解だって」
いつも強気なシタラも相手の必死の形相に慌てている。
「ふ、ふざけるな! アヤを。俺のアヤを返せよー!!」
男は気が狂ったように包丁を振り回し、5人に向かってきた。皆が散り散りに包丁を避ける。男は狙いをヒョウに向けたようだった。ヒョウは持っているナタを構えた。
「ああああああああ!」
男は体ごとヒョウに向かっていく。手のナタは吹き飛ばされ、ヒョウの小さな体は地面に吹き飛ばされた。
「ヒョウ!」
ユーキが叫ぶ。だが、ヒョウには返事を返す余裕はない。
「ひ、ひひひひ」
男は気が狂ったように叫びながらヒョウとの間をっていく。ヒョウはジタバタと地面を這って逃げ惑う事しか出来ない。
「や、やめろー。僕の妹なんだ。やめてくれー」
ユーキは必死に叫ぶ。
「お、お前たちだって俺の家族のアヤを奪ったろ! その報いは受けさせるべきだよな?な?」
男は包丁を振り上げた。
「やめろって言ってるだろー‼︎」
ユーキが叫びながら男の背中にぶつかっていく。ゴツっと鈍い音が響いた。男の後頭部がパックリと割れ、ドロリと血が流れる。男はそのまま目を見開き、ゆっくりとした動作で草むらに倒れていった。ユーキの手には血に染まったナタが握られていた。
「ぼ、僕は……」
ユーキはまだ思考回路がうまく回っていない。いや、自分が殺したことを受け入れられないでいるだけか。
「しょうがない。気にするな」
シタラが震えるユーキの首をガッシリと抱く。ユーキは黙ったままだ。手にはあの気持ち悪い感触だけが残っている。
「と、とにかくこの場から離れようか」
怯えるヒョウを立たせてあげながらアランは言った。
しかし、すぐにその場を立ち去ることが出来なかったら。もう一人、五人の前に客が現れたのだ。スラリと細身の男だ。スーツに身を包み、髪の毛をピシッと整えている。この森の中では不釣り合いな格好をしている。目には細いシルバーフレームのメガネをかけていた。
「お、お前は……」
ノロは顔見知りのようだ。だが男は特に顔色を変えない。
「こ、これは違うんだ。僕たちは別に好んで殺しをしているわけではない」
アランが説明しようとする。この状況だ。また殺し合いに発展しないとも限らない。
しかし男はこの状況にさして興味を示さないと言った感じで淡々と話し始めた。
「君たち、この状況を打開したいとは思わないですか?」
太くしっかりとした声が森の静寂の中に響いた。
「は?」
思いがけない提案に皆答えられないでいた。
「状況判断のために少し情報をあげましょう。この森は無人島の中にあります。私たちが調査したところによると半径5キロほどの小さな島です。つまりなんらかの方法でこの島より脱出するのが我々の取れる最善の方法だと考えます。私たちはこの島を脱出するために協力者を求めている」
男はメガネスッと触った。
「俺たちも前にあいつに会った時に同じことを言われたんだ」
ノロが言った。そう言ったノロはどうするか判断する気はないようだ。ユーキも放心状態で意見を言える感じではない。シタラはアランの顔を見た。アランは小さく頷き男に言った。
「わかった。とりあえず詳しい話を聞かせてもらえないか?」
「わかりました。近くに寄ります。待っていてください」
アランの返事を聞いた男は草むらを進んできた。5人のすぐ近くまで来ると立ち止まり、話し始めた。
「私はカノエ。そうですね……。まぁ、テロリストのようなことをしているものです。それはいいでしょう。私たちは数名で団体を組み、この島を調査していました。それは先ほどもお話ししましたね。しかし、この島の海岸から様子を見たのだですが、陸地は見当たらないのです。どの海岸からでもです。陸地までどのくらいの距離があるかわからない以上下手な装備で海に出るわけにはいかない。そして、我々をここに集めた者がそんな私たちの動きを黙って見ているとも考えらえない。そこで、多くの味方を取り込み、対策を練ろうと考えたわけなのです」
カノエは淡々と説明していった。
「それで、今どのくらい集まってるんだ?」
「……私以外にあと3人です」
「そ、それだけか?」
聞いたシタラも予想外の少なさに驚いていた。
「本当はもっといたのですが、殺されました」
「ピ、ピエロか?」
ノロが声を上げた。
「ピエロ? それは違います。目撃者の話では、どれも大柄の男だそうです。大きな鋭い刃物を持っているとのことでした」
カノエは答えた。その言葉をユーキはぼーっと聞いていた。ふと一つの映像が浮かび上がる。アキラが殺された時の映像だ。あの時の男も大きな男だった。
「ア、アキラさんの?」
ユーキが消え入りそうな声で言った。
「あ、あの時の男か?」
アランが思い出したように言った。
「あの時?」
シタラはその時の状況を見てはいない。
「あ、ああ。前に話したろ? アキラって男が殺された時のことを。あの時の犯人も大きな刃物を持った大柄の男だった」
「じ、じゃぁ、氷日のピエロは大柄の男なのか?」
皆息を呑んだ。それほどまでに恐ろしい殺人鬼がこの森を彷徨いているのだ。
「なるほど。やはりこの森の中には人智を超えた殺人鬼がうろついているようですね。なら、尚更チームを組んで脱出に向けて動いたほうがいいでしょう。どうだろうか?」
カノエは言った。アランが答える。
「わ、わかった。とりあえず話を聞こう。それに、なぜ僕たちに目をつけたんだい? 他にも僕たちのような人間はいるだろう?」
「さすがですね。君は冷静にモノを判断できる人間のようだ。率直に言いましょう。君たちのアジトにしている建物が気になっています」
そうカノエが答えた時だった。キーと以前に聞いたようなハウリング音があたりに鳴り響いた。
「?」
皆が当たりを警戒し始める。
「こんにちは皆さん。楽しんでいるようで何よりです。順調に殺し合ってくれているようで嬉しいです。ここの住人も半数になりましたね。引き続きここでの生活を楽しんでください」
放送の男はそう言うとあたりに静寂が戻った。
「な、なんだったんだ?」
シタラはまだ当たりをキョロキョロと見渡している。
「さぁ? 意図はわからないですが、はっきりはしましたね。声の主はこの島のどこかにいる可能性が高い」
「はぁ? なんでそんなことが……」
「そうだね。それは僕も感じるよ」
食いつこうとしたシタラをアランが止めた。
「あぁ。放送の男はこの島の様子をタイムリーに知ることができるのです。私たちが調べた範囲では外部に情報を送ることはできないでしょう。こんな島の中です。通信設備があるとは思えないですしね。かといって定期的に島に訪問して状況を把握するのは難しいでしょう。我々は海岸の監視を一番の重点において活動してきました」
なるほどとアランは腕を組んだ。
「そこでなおさら君たちの協力が欲しいのです。君たちのアジト。この島には君たちのアジトに使ってるもの以外建物はないんです。中を調べたい」
「し、調べるって?」
シタラが聞き返した。
「ああ。誰かが潜んでいる可能性があると考えています。それが放送の男ならいいのですが。脱出の足掛かりになるかもしれません」
一同は唾を飲み込んだ。自分たちが安心して休んでいたところに何者かが潜んでいるかもしれないのだ。
「わかった。煉瓦の家を調べよう」
皆で煉瓦の家に戻ることにした。
「ここですか」
そう言いカノエは建物の中に入っていった。他の者もカノエにならい、捜索を始めた。自分たちがいた寝室以外はそこまで詳しくは調べていない。
「おい。見てください」
カノエが何かを見つけたようだ。皆を集めた。そこは1階2つ目の部屋。2階に上がる階段の裏手の床に奇妙な取っ手がついていたのだ。
「……引きます」
カノエの問いかけに皆頷く。
ズズズ。鈍い音とともに蓋が開き、地下に続く階段が現れたのだった。
女の力が抜け、女が動かないことを確認すると男は女の下半身の衣服を剥ぎ取った。
男は徐にズボンを下ろすと、自分のペニスを女に擦り付けていく。
「やっぱり食欲より女欲だよな~」
男は狂ったような目で女を見つめる。女のあらわになった膣に自分のペニスを無理やり挿入しようとする。女は全く反応を示さない。目を見開き、口はだらしなく垂れ下がっている。女はもう死んでいるようだ。
男は夢中で腰を動かす。欲望のままに、細かく腰を動かす。
男が絶頂を迎えようとしたその時だった。男の体がふわりと女の体から離れた。男はそのまま後ろに大きく倒れた。
男の下半身から夥しい量の血が吹き出す。男のペニスが刈り取られたようだ。男はその痛みのあまり白目をむき、ガクガクと痙攣している。その様子を感情のない目で道化が見下ろしていた。このまま放置していても男は痛みでショック死するだろう。道化にとっては好都合だった。
道化はそばで死んでいる女に一瞥する。柔らかそうな女の肉は道化には最高の遊び相手だ。けど、女は道化が殺した獲物ではない。その辺は道化も変にわきまえているようだ。
道化はすぐに醜く泡を吹いている男に向き直った。まだ生きているのか死んでいるのか、判断はできない。だが、そんなことは道化には関係がなかった。
道化はいつものように鎖骨の間にナイフを突き立てる。皮を切り裂き、腑を引き摺り出す。その下。あるはずの睾丸がなくなっている場所。その場所を道化は不思議そうに眺める。今まで数多くの人間を殺してきた。男も多かった。しかし、道化がその場所に興味を示すことはなかった。女も同じだ。道化には性への興味はない。
道化は睾丸があったあたりの場所を踏みつけた。少しだけ血が飛び散る。道化が望むような激しい血飛沫を飛ばすほど、男の体内に血液は残ってはいない。
道化はすぐに興味を失い、暗い闇の中へと歩き出した。
ユーキ達一行は今日も森の探索を続ける。もうこの森に連れてこられてそこそこの日数が経つが、慎重に調査を進めているため、森の大部分を把握できていなかった。食料すらまともに入手できていない。本当にこのままでいいのか。皆に焦りの色が見られるようになってきた。
薄暗い森の中を昨日とは違う方角へ進んでいく。あたりを最新の注意を払いながゆっくりと。
「ん? なんか臭うな……」
シタラが微かな異臭を感じ取り立ち止まった。他のメンバーもあたりを伺う。
「こっちか……」
シタラは皆を先導して臭いの方向へと歩いて行った。
臭いの原因にたどり着いた一行は息を呑んだ。
男女の死体だ。それも酷い殺され方をしている。女の方はレイプされたであろう殺され方。男の方はというと、胸から腹にかけてを中心にズタズタに切り裂かれていた。
「ひっ! 氷日の……」
ノロが小さな声を上げた。
ここにいる誰もが氷日のピエロの仕業だと思った。本当に実在するのか。
「ふ、二人ともピエロが?」
ユーキが聞く。
「どうだろうね。男の方も下半身を露出している。陰部あたりのダメージを考えるとセックスの最中に殺されたんじゃないかな?」
アランは意外と冷静に状況を分析している。
ガサ。
その時だった。背後の草むらに気配を感じ、5人は一斉に振り返った。
そこには涙目の男が包丁を握りしめて立っていた。その手は怒りに震えている。
「お、お、お前達が殺したのか?」
男は叫んだ。
「ち、違う! これは……」
アランが誤解を解こうと声を上げた。しかし、その声は男には届かない。
「あ、アヤー!! アヤだろ? お前達、アヤを」
男は殺された女を見て発狂した。
「ば、ばか。誤解だって」
いつも強気なシタラも相手の必死の形相に慌てている。
「ふ、ふざけるな! アヤを。俺のアヤを返せよー!!」
男は気が狂ったように包丁を振り回し、5人に向かってきた。皆が散り散りに包丁を避ける。男は狙いをヒョウに向けたようだった。ヒョウは持っているナタを構えた。
「ああああああああ!」
男は体ごとヒョウに向かっていく。手のナタは吹き飛ばされ、ヒョウの小さな体は地面に吹き飛ばされた。
「ヒョウ!」
ユーキが叫ぶ。だが、ヒョウには返事を返す余裕はない。
「ひ、ひひひひ」
男は気が狂ったように叫びながらヒョウとの間をっていく。ヒョウはジタバタと地面を這って逃げ惑う事しか出来ない。
「や、やめろー。僕の妹なんだ。やめてくれー」
ユーキは必死に叫ぶ。
「お、お前たちだって俺の家族のアヤを奪ったろ! その報いは受けさせるべきだよな?な?」
男は包丁を振り上げた。
「やめろって言ってるだろー‼︎」
ユーキが叫びながら男の背中にぶつかっていく。ゴツっと鈍い音が響いた。男の後頭部がパックリと割れ、ドロリと血が流れる。男はそのまま目を見開き、ゆっくりとした動作で草むらに倒れていった。ユーキの手には血に染まったナタが握られていた。
「ぼ、僕は……」
ユーキはまだ思考回路がうまく回っていない。いや、自分が殺したことを受け入れられないでいるだけか。
「しょうがない。気にするな」
シタラが震えるユーキの首をガッシリと抱く。ユーキは黙ったままだ。手にはあの気持ち悪い感触だけが残っている。
「と、とにかくこの場から離れようか」
怯えるヒョウを立たせてあげながらアランは言った。
しかし、すぐにその場を立ち去ることが出来なかったら。もう一人、五人の前に客が現れたのだ。スラリと細身の男だ。スーツに身を包み、髪の毛をピシッと整えている。この森の中では不釣り合いな格好をしている。目には細いシルバーフレームのメガネをかけていた。
「お、お前は……」
ノロは顔見知りのようだ。だが男は特に顔色を変えない。
「こ、これは違うんだ。僕たちは別に好んで殺しをしているわけではない」
アランが説明しようとする。この状況だ。また殺し合いに発展しないとも限らない。
しかし男はこの状況にさして興味を示さないと言った感じで淡々と話し始めた。
「君たち、この状況を打開したいとは思わないですか?」
太くしっかりとした声が森の静寂の中に響いた。
「は?」
思いがけない提案に皆答えられないでいた。
「状況判断のために少し情報をあげましょう。この森は無人島の中にあります。私たちが調査したところによると半径5キロほどの小さな島です。つまりなんらかの方法でこの島より脱出するのが我々の取れる最善の方法だと考えます。私たちはこの島を脱出するために協力者を求めている」
男はメガネスッと触った。
「俺たちも前にあいつに会った時に同じことを言われたんだ」
ノロが言った。そう言ったノロはどうするか判断する気はないようだ。ユーキも放心状態で意見を言える感じではない。シタラはアランの顔を見た。アランは小さく頷き男に言った。
「わかった。とりあえず詳しい話を聞かせてもらえないか?」
「わかりました。近くに寄ります。待っていてください」
アランの返事を聞いた男は草むらを進んできた。5人のすぐ近くまで来ると立ち止まり、話し始めた。
「私はカノエ。そうですね……。まぁ、テロリストのようなことをしているものです。それはいいでしょう。私たちは数名で団体を組み、この島を調査していました。それは先ほどもお話ししましたね。しかし、この島の海岸から様子を見たのだですが、陸地は見当たらないのです。どの海岸からでもです。陸地までどのくらいの距離があるかわからない以上下手な装備で海に出るわけにはいかない。そして、我々をここに集めた者がそんな私たちの動きを黙って見ているとも考えらえない。そこで、多くの味方を取り込み、対策を練ろうと考えたわけなのです」
カノエは淡々と説明していった。
「それで、今どのくらい集まってるんだ?」
「……私以外にあと3人です」
「そ、それだけか?」
聞いたシタラも予想外の少なさに驚いていた。
「本当はもっといたのですが、殺されました」
「ピ、ピエロか?」
ノロが声を上げた。
「ピエロ? それは違います。目撃者の話では、どれも大柄の男だそうです。大きな鋭い刃物を持っているとのことでした」
カノエは答えた。その言葉をユーキはぼーっと聞いていた。ふと一つの映像が浮かび上がる。アキラが殺された時の映像だ。あの時の男も大きな男だった。
「ア、アキラさんの?」
ユーキが消え入りそうな声で言った。
「あ、あの時の男か?」
アランが思い出したように言った。
「あの時?」
シタラはその時の状況を見てはいない。
「あ、ああ。前に話したろ? アキラって男が殺された時のことを。あの時の犯人も大きな刃物を持った大柄の男だった」
「じ、じゃぁ、氷日のピエロは大柄の男なのか?」
皆息を呑んだ。それほどまでに恐ろしい殺人鬼がこの森を彷徨いているのだ。
「なるほど。やはりこの森の中には人智を超えた殺人鬼がうろついているようですね。なら、尚更チームを組んで脱出に向けて動いたほうがいいでしょう。どうだろうか?」
カノエは言った。アランが答える。
「わ、わかった。とりあえず話を聞こう。それに、なぜ僕たちに目をつけたんだい? 他にも僕たちのような人間はいるだろう?」
「さすがですね。君は冷静にモノを判断できる人間のようだ。率直に言いましょう。君たちのアジトにしている建物が気になっています」
そうカノエが答えた時だった。キーと以前に聞いたようなハウリング音があたりに鳴り響いた。
「?」
皆が当たりを警戒し始める。
「こんにちは皆さん。楽しんでいるようで何よりです。順調に殺し合ってくれているようで嬉しいです。ここの住人も半数になりましたね。引き続きここでの生活を楽しんでください」
放送の男はそう言うとあたりに静寂が戻った。
「な、なんだったんだ?」
シタラはまだ当たりをキョロキョロと見渡している。
「さぁ? 意図はわからないですが、はっきりはしましたね。声の主はこの島のどこかにいる可能性が高い」
「はぁ? なんでそんなことが……」
「そうだね。それは僕も感じるよ」
食いつこうとしたシタラをアランが止めた。
「あぁ。放送の男はこの島の様子をタイムリーに知ることができるのです。私たちが調べた範囲では外部に情報を送ることはできないでしょう。こんな島の中です。通信設備があるとは思えないですしね。かといって定期的に島に訪問して状況を把握するのは難しいでしょう。我々は海岸の監視を一番の重点において活動してきました」
なるほどとアランは腕を組んだ。
「そこでなおさら君たちの協力が欲しいのです。君たちのアジト。この島には君たちのアジトに使ってるもの以外建物はないんです。中を調べたい」
「し、調べるって?」
シタラが聞き返した。
「ああ。誰かが潜んでいる可能性があると考えています。それが放送の男ならいいのですが。脱出の足掛かりになるかもしれません」
一同は唾を飲み込んだ。自分たちが安心して休んでいたところに何者かが潜んでいるかもしれないのだ。
「わかった。煉瓦の家を調べよう」
皆で煉瓦の家に戻ることにした。
「ここですか」
そう言いカノエは建物の中に入っていった。他の者もカノエにならい、捜索を始めた。自分たちがいた寝室以外はそこまで詳しくは調べていない。
「おい。見てください」
カノエが何かを見つけたようだ。皆を集めた。そこは1階2つ目の部屋。2階に上がる階段の裏手の床に奇妙な取っ手がついていたのだ。
「……引きます」
カノエの問いかけに皆頷く。
ズズズ。鈍い音とともに蓋が開き、地下に続く階段が現れたのだった。
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