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1章 とある父親の運命
父親の運命4
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街外れの古い家だった。とても裕福な家とは言えない外観だったが、そこまで見窄らしさも感じない。石造りの小さな家だ。ガーボスは娘の名前を呼びながら、家の中に入っていった。
「アン。いるか?今帰ったぞ」
家の中は特に部屋に仕切られているわけではなく、家の中が一つの部屋になっていた。部屋の端には小さなベッドが一つ置かれていて、少女が一人、腰掛けていた。
「アン。起きていて大丈夫なのか?」
「平気。今日はなんだか調子がいいの」
アンと呼ばれた少女は、頬がコケ、とても痩せて見えた。ガーボスは9歳と話していたが、もっと幼く見える。顔も青白い。ハトは運命の書より、この子が半年後に病気で死ぬことを知っているので特別思うことはないが、何も知らない人が見たらこの少女に何があったのか、と驚くことだろう。
ガーボスは娘のベッドに近づき、隣に腰を下ろした。娘の頬を撫でる。まだ命があることを感じるように娘に触れ続けた。
「パパ。あの人は?」
アンは不思議な表情でハトを見ていた。それもそうだろう。父親が病気を治してやると家を飛び出したと思ったら、見知らぬ少年を連れてきたのだ。医者でもなんでもないただの少年を。
「あ、あぁ。彼はハトといってな。パパが旅の途中で出会ったんだ。残念ながら、今回の旅でもアンの病気を治す方法は見つからなかった。けど、ハトさんも一緒に探してくれるんだ。心強いだろ?」
今回の旅でもと言うことは、ガーボスは今回の旅だけではなく、何度もアンの病気を治すために旅に出かけていたのだろう。必死に運命に抗おうとする親子が儚く、ハトは悲しい気持ちで二人のやりとりを見つめていた。決して心強くはないだろう。しかし、ハトはこの親子の力になりたいと強く思った。
「ありがとうございます。ハトさん。私はもう、このベッドから自由に動くことができません。せっかく来ていただいたのに、おもてなしもできなくって」
ハトは無言で首を振ることしかできなかった。
「じゃぁ、パパはハトさんに少しこの街を案内してくるよ。今日は夜までには帰るからな」
そう言うとガーボスはアンの頭を優しく撫で、立ち上がった。
家の外に出ると、ガーボスは大きく息をはいた。まるで、家の中では上手く息ができていなかったようだった。
「こんな調子だ。体もどんどん動かなくなってきやがる。顔もまるで死人のようだろ?」
「すいません。なんといったらいいか」
「い、いや。こちらそすまんな。やりきれなくてな。娘の顔を見るたびに、俺は何かを呪わざるを得なくなる。世界を、運命を」
「…。時間がありません。ガーボスさん。まずはドガーという男を探しましょう」
「しかしな。この街というだけではな」
ここ、モノタリはかなり大きな街だ。人口も120万人はいる。そんな広く、沢山の人が暮らす街で、一人の男を探すのは絶望的なことのように思えた。
「しかし、病気の治療法を見つけた人なら、きっと医者の方なのでしょうか」
ハトは言った。
「病気の治療法だからな。薬剤師かもしれんし、研究者かもしれん。とにかく、この街一番の病院へ行ってみよう」
ガーボスの提案で病院に行った。モノタリの街で、一番大きな病院だ。ここ、ハドホックの世界で病気とは、たんに体の問題だけではない。魔法による呪いや悪魔による魔性、魔物から受ける魔素毒なんかもあり、病院は様々な専門家が入り乱れる場所だった。しかし、こんな大きな病院にかかれるのは余程の金持ちだけだろう。もちろんアンが診てもらえるわけもなく、ガーボスも足を踏み入れたことはなかった。
戸惑っているガーボスとは裏腹にハトは堂々とした様子で病院の中に入っていった。受付と思われる場所にいる女性に声をかけた。
「あ、あの。僕たちドガーさんと言う方を探しているのですが…」
「ちょっとお待ちください」
受付の女性は名簿のような紙に目を通している。この病院に関わっている人のリストのようだ。
「こちらにはドガーという方は在籍していませんが…」
「だったら…」
後ろからガーボスが割って入っていった。ガーボスはアンの病気の名前を告げ、この病気に詳しい人はいないかと聞いた。受付の女性の後ろで、一人の男が話を聞いていたのか、声をかけてきた。
「それは遺伝性の不治の病だね。今ではかなり珍しくなったな」
彼は医学に詳しいようだ。この病院の医師だろうか。男はさらに続けた。
「この病気は治療法がない。この先も見つかることはほぼないだろう。ここの病院でもこの病気の研究をしている者は、もういないよ。学問所でもこの病気を詳しく研究している学者さんんはまずいないだろう。一人だけ、町外れの診療所のドクターが細々と研究を続けていると聞いてるよ。確か、名前はルーロという男だ」
ハト達は男性医師に感謝の言葉を告げ、病院を後にした。手に入れた唯一の手がかり、ルーロという男に会うためである。運命が、少しづつ動き始めている。ハトはそんな実感を感じていた。
「アン。いるか?今帰ったぞ」
家の中は特に部屋に仕切られているわけではなく、家の中が一つの部屋になっていた。部屋の端には小さなベッドが一つ置かれていて、少女が一人、腰掛けていた。
「アン。起きていて大丈夫なのか?」
「平気。今日はなんだか調子がいいの」
アンと呼ばれた少女は、頬がコケ、とても痩せて見えた。ガーボスは9歳と話していたが、もっと幼く見える。顔も青白い。ハトは運命の書より、この子が半年後に病気で死ぬことを知っているので特別思うことはないが、何も知らない人が見たらこの少女に何があったのか、と驚くことだろう。
ガーボスは娘のベッドに近づき、隣に腰を下ろした。娘の頬を撫でる。まだ命があることを感じるように娘に触れ続けた。
「パパ。あの人は?」
アンは不思議な表情でハトを見ていた。それもそうだろう。父親が病気を治してやると家を飛び出したと思ったら、見知らぬ少年を連れてきたのだ。医者でもなんでもないただの少年を。
「あ、あぁ。彼はハトといってな。パパが旅の途中で出会ったんだ。残念ながら、今回の旅でもアンの病気を治す方法は見つからなかった。けど、ハトさんも一緒に探してくれるんだ。心強いだろ?」
今回の旅でもと言うことは、ガーボスは今回の旅だけではなく、何度もアンの病気を治すために旅に出かけていたのだろう。必死に運命に抗おうとする親子が儚く、ハトは悲しい気持ちで二人のやりとりを見つめていた。決して心強くはないだろう。しかし、ハトはこの親子の力になりたいと強く思った。
「ありがとうございます。ハトさん。私はもう、このベッドから自由に動くことができません。せっかく来ていただいたのに、おもてなしもできなくって」
ハトは無言で首を振ることしかできなかった。
「じゃぁ、パパはハトさんに少しこの街を案内してくるよ。今日は夜までには帰るからな」
そう言うとガーボスはアンの頭を優しく撫で、立ち上がった。
家の外に出ると、ガーボスは大きく息をはいた。まるで、家の中では上手く息ができていなかったようだった。
「こんな調子だ。体もどんどん動かなくなってきやがる。顔もまるで死人のようだろ?」
「すいません。なんといったらいいか」
「い、いや。こちらそすまんな。やりきれなくてな。娘の顔を見るたびに、俺は何かを呪わざるを得なくなる。世界を、運命を」
「…。時間がありません。ガーボスさん。まずはドガーという男を探しましょう」
「しかしな。この街というだけではな」
ここ、モノタリはかなり大きな街だ。人口も120万人はいる。そんな広く、沢山の人が暮らす街で、一人の男を探すのは絶望的なことのように思えた。
「しかし、病気の治療法を見つけた人なら、きっと医者の方なのでしょうか」
ハトは言った。
「病気の治療法だからな。薬剤師かもしれんし、研究者かもしれん。とにかく、この街一番の病院へ行ってみよう」
ガーボスの提案で病院に行った。モノタリの街で、一番大きな病院だ。ここ、ハドホックの世界で病気とは、たんに体の問題だけではない。魔法による呪いや悪魔による魔性、魔物から受ける魔素毒なんかもあり、病院は様々な専門家が入り乱れる場所だった。しかし、こんな大きな病院にかかれるのは余程の金持ちだけだろう。もちろんアンが診てもらえるわけもなく、ガーボスも足を踏み入れたことはなかった。
戸惑っているガーボスとは裏腹にハトは堂々とした様子で病院の中に入っていった。受付と思われる場所にいる女性に声をかけた。
「あ、あの。僕たちドガーさんと言う方を探しているのですが…」
「ちょっとお待ちください」
受付の女性は名簿のような紙に目を通している。この病院に関わっている人のリストのようだ。
「こちらにはドガーという方は在籍していませんが…」
「だったら…」
後ろからガーボスが割って入っていった。ガーボスはアンの病気の名前を告げ、この病気に詳しい人はいないかと聞いた。受付の女性の後ろで、一人の男が話を聞いていたのか、声をかけてきた。
「それは遺伝性の不治の病だね。今ではかなり珍しくなったな」
彼は医学に詳しいようだ。この病院の医師だろうか。男はさらに続けた。
「この病気は治療法がない。この先も見つかることはほぼないだろう。ここの病院でもこの病気の研究をしている者は、もういないよ。学問所でもこの病気を詳しく研究している学者さんんはまずいないだろう。一人だけ、町外れの診療所のドクターが細々と研究を続けていると聞いてるよ。確か、名前はルーロという男だ」
ハト達は男性医師に感謝の言葉を告げ、病院を後にした。手に入れた唯一の手がかり、ルーロという男に会うためである。運命が、少しづつ動き始めている。ハトはそんな実感を感じていた。
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