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1章 私の望むケーキを用意できないなんてありえない
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私は自室で時間が過ぎるのを待った。とにかくパティシエの処刑はなんとか阻止しなければならない。ただでさえ姫さまの評判は悪過ぎる。私的な理由で善良な国民を処刑したとなればそれなりの反発があるだろう。
「ナロ? いるか?」
私は近くで待機しているはずのナロを呼んだ。
「はい。リューイ様、お呼びでしょうか?」
ドアの外でナロが返事をした。
「上階が静かになった。アリンス姫も少しは落ち着いただろう。私が話に行く。ナロは念の為、奴らの動向を探っておいてくれ」
「奴らですね。かしこまりました」
そう言うとドアの外からナロの気配が消えた。
私は書き途中の日誌を閉じ、姫さまの部屋へと向かう。
コンコン。ノックの乾いた音が静かな廊下に響いた。返事はない。しかし、私はアリンス姫がこのノクを聴いていることを知っている。
「姫さま。気分はいかがでしょうか?」
私はドア越しにアリンス姫に声をかけた。
「最悪よ」
予想通りの返事だ。
「そうでしょう。お気持ちお察しします。あの夫婦の処分について提案があってきました」
「何よ!? 私の気持ちを裏切ったのよ。その上、あんな口を聞いて。死んでしまって当然だわ」
怒りは収まっていないようだ。
「ええ。それはわかっています。姫様のお考えに異論を唱えるつもりはございません。しかし、タイミングが悪ございます」
私の話をきちんと聞く気になったようだ。ドアが少し開き、アリンス姫の美しい顔が半分だけのぞいた。
「どう言うことよ」
眉間に皺を作り、こちらを睨みつけている。
「はい。今は国王、お妃ともに国外への視察に出ています。帰国まであと半月はかかるでしょう」
「そんなの知ってるわよ」
「そこが問題なのです。もちろん姫様を傷つけた者を許すつもりは毛頭ありません。しかし、この国の法律では、国民を死刑にできるのは国王だけと決まってございます。いくら姫様でも国王の許可なしに刑を執行したら問題になってしまう可能性がございます。ここは国王が帰国するまで刑の執行は待った方が賢明かと……」
「ふん」
姫様は強がって鼻を鳴らしたが、正論をぶつけられ、少し戸惑ったように見えた。
「……。仕方ないわね。本当はあんなやつ、一刻も早くいなくなればいいと思うのだけど……。我慢してあげるわ。その代わり、父上がお戻りになったら、すぐに刑の執行の許可をとるわ」
「寛大なお言葉、ありがとうございます」
私は頭を深く下げた。これで少なくとも国王が帰国するまでの半月ほどの猶予ができた。
アリンス姫の寝室を後にした私はナロに様子を探らせている者達の居所へと向かった。この国の考え方に異論を唱え、国家の転覆を狙っている反乱分子の溜まり場だ。最近はアリンス姫の行動が目立つせいか、姫をダシにし、王族をこの国より排除しようと躍起になっているようだ。
「どうだ? 動きは?」
私は天井裏に忍び込み、先に見張っていたナロに耳打ちした。
「はい。今回の事件も情報が既に伝わっているようです。かなり怒っていますね。何か事が起きるかもしれません」
やはりか。彼らにしたら何も罪のない国民が極悪な姫に捕らえられ、処刑されようとしているのだ。無理はない。
私も下で行われている話し合いに耳を傾ける。
「だから言ってるだろう!? これ以上アリンスを野放しにはできない。このままでは何人犠牲が出るか!!」
「ああ。俺も同意見だ」
「どうする? 俺たちだけで攻め入れるか?」
「王は今は不在だぞ?」
「アリンスだけでも始末するか」
物騒な話し合いがなされている。それよりも私の愛しいアリンス姫が呼び捨てにされている方が引っかかるのだが。
「明日の公務も予定は?」
「ああ。これだ。ふん。ろくなことしてないな……」
「そんなことはいい。ここだ。ここで少し城外へ出る。このタイミングで待ち伏せすれば襲える。警護がいるだろうが決死の覚悟で挑めば討てるかもしれない」
「やろう!」
「ああ。そうだ。エンフィールア王国の平和のためだ!」
完全に我々が悪で相手方が正義だな。それも仕方ない。しかし、そうならないために私がいるのだ。今回の事件も大ごとになる前に処理しなければ。私とナロは気付かれないように反乱分子のアジトを後にした。
「ナロ? いるか?」
私は近くで待機しているはずのナロを呼んだ。
「はい。リューイ様、お呼びでしょうか?」
ドアの外でナロが返事をした。
「上階が静かになった。アリンス姫も少しは落ち着いただろう。私が話に行く。ナロは念の為、奴らの動向を探っておいてくれ」
「奴らですね。かしこまりました」
そう言うとドアの外からナロの気配が消えた。
私は書き途中の日誌を閉じ、姫さまの部屋へと向かう。
コンコン。ノックの乾いた音が静かな廊下に響いた。返事はない。しかし、私はアリンス姫がこのノクを聴いていることを知っている。
「姫さま。気分はいかがでしょうか?」
私はドア越しにアリンス姫に声をかけた。
「最悪よ」
予想通りの返事だ。
「そうでしょう。お気持ちお察しします。あの夫婦の処分について提案があってきました」
「何よ!? 私の気持ちを裏切ったのよ。その上、あんな口を聞いて。死んでしまって当然だわ」
怒りは収まっていないようだ。
「ええ。それはわかっています。姫様のお考えに異論を唱えるつもりはございません。しかし、タイミングが悪ございます」
私の話をきちんと聞く気になったようだ。ドアが少し開き、アリンス姫の美しい顔が半分だけのぞいた。
「どう言うことよ」
眉間に皺を作り、こちらを睨みつけている。
「はい。今は国王、お妃ともに国外への視察に出ています。帰国まであと半月はかかるでしょう」
「そんなの知ってるわよ」
「そこが問題なのです。もちろん姫様を傷つけた者を許すつもりは毛頭ありません。しかし、この国の法律では、国民を死刑にできるのは国王だけと決まってございます。いくら姫様でも国王の許可なしに刑を執行したら問題になってしまう可能性がございます。ここは国王が帰国するまで刑の執行は待った方が賢明かと……」
「ふん」
姫様は強がって鼻を鳴らしたが、正論をぶつけられ、少し戸惑ったように見えた。
「……。仕方ないわね。本当はあんなやつ、一刻も早くいなくなればいいと思うのだけど……。我慢してあげるわ。その代わり、父上がお戻りになったら、すぐに刑の執行の許可をとるわ」
「寛大なお言葉、ありがとうございます」
私は頭を深く下げた。これで少なくとも国王が帰国するまでの半月ほどの猶予ができた。
アリンス姫の寝室を後にした私はナロに様子を探らせている者達の居所へと向かった。この国の考え方に異論を唱え、国家の転覆を狙っている反乱分子の溜まり場だ。最近はアリンス姫の行動が目立つせいか、姫をダシにし、王族をこの国より排除しようと躍起になっているようだ。
「どうだ? 動きは?」
私は天井裏に忍び込み、先に見張っていたナロに耳打ちした。
「はい。今回の事件も情報が既に伝わっているようです。かなり怒っていますね。何か事が起きるかもしれません」
やはりか。彼らにしたら何も罪のない国民が極悪な姫に捕らえられ、処刑されようとしているのだ。無理はない。
私も下で行われている話し合いに耳を傾ける。
「だから言ってるだろう!? これ以上アリンスを野放しにはできない。このままでは何人犠牲が出るか!!」
「ああ。俺も同意見だ」
「どうする? 俺たちだけで攻め入れるか?」
「王は今は不在だぞ?」
「アリンスだけでも始末するか」
物騒な話し合いがなされている。それよりも私の愛しいアリンス姫が呼び捨てにされている方が引っかかるのだが。
「明日の公務も予定は?」
「ああ。これだ。ふん。ろくなことしてないな……」
「そんなことはいい。ここだ。ここで少し城外へ出る。このタイミングで待ち伏せすれば襲える。警護がいるだろうが決死の覚悟で挑めば討てるかもしれない」
「やろう!」
「ああ。そうだ。エンフィールア王国の平和のためだ!」
完全に我々が悪で相手方が正義だな。それも仕方ない。しかし、そうならないために私がいるのだ。今回の事件も大ごとになる前に処理しなければ。私とナロは気付かれないように反乱分子のアジトを後にした。
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