上 下
4 / 4
1章 私の望むケーキを用意できないなんてありえない

1ー4

しおりを挟む
 私は自室で時間が過ぎるのを待った。とにかくパティシエの処刑はなんとか阻止しなければならない。ただでさえ姫さまの評判は悪過ぎる。私的な理由で善良な国民を処刑したとなればそれなりの反発があるだろう。

「ナロ? いるか?」

 私は近くで待機しているはずのナロを呼んだ。

「はい。リューイ様、お呼びでしょうか?」

 ドアの外でナロが返事をした。

「上階が静かになった。アリンス姫も少しは落ち着いただろう。私が話に行く。ナロは念の為、奴らの動向を探っておいてくれ」

「奴らですね。かしこまりました」

 そう言うとドアの外からナロの気配が消えた。
 私は書き途中の日誌を閉じ、姫さまの部屋へと向かう。


 コンコン。ノックの乾いた音が静かな廊下に響いた。返事はない。しかし、私はアリンス姫がこのノクを聴いていることを知っている。

「姫さま。気分はいかがでしょうか?」

 私はドア越しにアリンス姫に声をかけた。

「最悪よ」

 予想通りの返事だ。

「そうでしょう。お気持ちお察しします。あの夫婦の処分について提案があってきました」

「何よ!? 私の気持ちを裏切ったのよ。その上、あんな口を聞いて。死んでしまって当然だわ」

 怒りは収まっていないようだ。

「ええ。それはわかっています。姫様のお考えに異論を唱えるつもりはございません。しかし、タイミングが悪ございます」

 私の話をきちんと聞く気になったようだ。ドアが少し開き、アリンス姫の美しい顔が半分だけのぞいた。

「どう言うことよ」

 眉間に皺を作り、こちらを睨みつけている。

「はい。今は国王、お妃ともに国外への視察に出ています。帰国まであと半月はかかるでしょう」

「そんなの知ってるわよ」

「そこが問題なのです。もちろん姫様を傷つけた者を許すつもりは毛頭ありません。しかし、この国の法律では、国民を死刑にできるのは国王だけと決まってございます。いくら姫様でも国王の許可なしに刑を執行したら問題になってしまう可能性がございます。ここは国王が帰国するまで刑の執行は待った方が賢明かと……」

「ふん」

 姫様は強がって鼻を鳴らしたが、正論をぶつけられ、少し戸惑ったように見えた。

「……。仕方ないわね。本当はあんなやつ、一刻も早くいなくなればいいと思うのだけど……。我慢してあげるわ。その代わり、父上がお戻りになったら、すぐに刑の執行の許可をとるわ」

「寛大なお言葉、ありがとうございます」

 私は頭を深く下げた。これで少なくとも国王が帰国するまでの半月ほどの猶予ができた。


 アリンス姫の寝室を後にした私はナロに様子を探らせている者達の居所へと向かった。この国の考え方に異論を唱え、国家の転覆を狙っている反乱分子の溜まり場だ。最近はアリンス姫の行動が目立つせいか、姫をダシにし、王族をこの国より排除しようと躍起になっているようだ。

「どうだ? 動きは?」

 私は天井裏に忍び込み、先に見張っていたナロに耳打ちした。

「はい。今回の事件も情報が既に伝わっているようです。かなり怒っていますね。何か事が起きるかもしれません」

 やはりか。彼らにしたら何も罪のない国民が極悪な姫に捕らえられ、処刑されようとしているのだ。無理はない。
 私も下で行われている話し合いに耳を傾ける。

「だから言ってるだろう!? これ以上アリンスを野放しにはできない。このままでは何人犠牲が出るか!!」

「ああ。俺も同意見だ」

「どうする? 俺たちだけで攻め入れるか?」

「王は今は不在だぞ?」

「アリンスだけでも始末するか」

 物騒な話し合いがなされている。それよりも私の愛しいアリンス姫が呼び捨てにされている方が引っかかるのだが。

「明日の公務も予定は?」

「ああ。これだ。ふん。ろくなことしてないな……」

「そんなことはいい。ここだ。ここで少し城外へ出る。このタイミングで待ち伏せすれば襲える。警護がいるだろうが決死の覚悟で挑めば討てるかもしれない」

「やろう!」

「ああ。そうだ。エンフィールア王国の平和のためだ!」

 完全に我々が悪で相手方が正義だな。それも仕方ない。しかし、そうならないために私がいるのだ。今回の事件も大ごとになる前に処理しなければ。私とナロは気付かれないように反乱分子のアジトを後にした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

現代に生きる勇者の少年

マナピナ
ファンタジー
幼なじみの圭介と美樹。 美樹は心臓の病のため長い長い入院状態、美樹の兄勇斗と圭介はお互いを信頼しあってる間柄だったのだが、勇斗の死によって美樹と圭介の生活があり得ない方向へと向かい進んで行く。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~

榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。 彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。 それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。 その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。 そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。 ――それから100年。 遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。 そして彼はエデンへと帰還した。 「さあ、帰ろう」 だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。 それでも彼は満足していた。 何故なら、コーガス家を守れたからだ。 そう思っていたのだが…… 「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」 これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

世界の十字路

時雨青葉
ファンタジー
転校生のとある言葉から、日常は非日常に変わっていく――― ある時から謎の夢に悩まされるようになった実。 覚えているのは、目が覚める前に響く「だめだ!!」という父親の声だけ。 自分の見ている夢は、一体何を示しているのか? 思い悩む中、悪夢は確実に現実を浸食していき――― 「お前は、確実に向こうの人間だよ。」 転校生が告げた言葉の意味は? 異世界転移系ファンタジー、堂々開幕!! ※鬱々としすぎているわけではありませんが、少しばかりダーク寄りな内容となりますので、ご了承のうえお読みください。

処理中です...