ホラー短編集

長谷川 まさる

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ドッキリ

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 「それじゃ、また」 俺はそう言って彼女に手を振る。

 周りに人がいない事を確認して、彼女の家からそっと出ていく。

 芸人としてそこそこ知名度のある俺は、常に周囲の目を気にしながら行動しなくてはいけない。人気者はそれなりに大変だ。

 タクシーに乗って自宅へと到着する。

 鍵を回し家に入ると、すぐさまソファに寝そべる。今日も劇場で何本かネタを披露したので体は疲れているようだ。

 三十分くらいテレビを見たところで、寝巻きに着替えようと押し入れを開ける。

 すると、ハンガーにかけてある衣服の影に見知らぬオッサンがいることに気づいた。

 「うわぁっ!!」

 俺は大声をあげ背中から倒れこむ。

 「あ、あなた誰ですか?」 尻もちをつき茫然としたまま聞くが、オッサンから返事は無い。

 しばらくして事の重大さに気がついた俺は、警察に連絡しようとスマホを探す。

 するとそこでドタバタと足音が聞こえ、カメラマンと音声さんが部屋に入ってきた。

 「ドッキリです」

 数秒たってそれを理解した俺は、「ふざけんなよぉ、もう」とカメラにむかって怒る。

 「どうでした?」

 「いやこんなの怖すぎますわぁ。いい加減にして下さいよ」 俺は安堵した表情で答える。

 隠しカメラを回収し無事撮影が終わったらしき後、「いい画が撮れました」とスタッフは満足そうにして帰っていった。

 まったく、タチの悪いドッキリを考えたものだ。まぁテレビ的に面白いのならそれはそれで良いが。

 今度こそ寝巻きに着替えた俺は、部屋の電気を消して毛布にくるまる。

 が数分後、なかなか眠れない俺は何か人の気配があることに気づいた。多分ベッドの下だ。

 直感的にまだドッキリが続いていることを悟りつつも、いちおうベッドの下を覗く。

 暗くてよく見えなかったが案の定、人の形をしたものがうずくまっていた。

 「どわぁ!!」と少しオーバー気味のリアクションをとる。

 そしてわざとらしく動揺しながら部屋の明かりをつける。

 「もう、なんなんですかぁ」

 するとベッドの下から髪の長い女性が出てきた。しかし、今度は見覚えのある顔だ。

 「あれ、おまえ優子か?」 それは久々に会う元カノだった。

 「あなた、相変わらず窓の鍵開けたままなのね」 

 優子はそう言って包丁を持った右手を振りかぶり、こちらへ近づいてくる。

 “グサッ”

 咄嗟のことで反応できず、俺の体には包丁が突き刺さった。

 俺はその場に仰向けで倒れる。

 「ちょっ、待っ、、」

 「いったいあなたの下積み時代に面倒みてあげたのはどこの誰よ!! それなのに、ちょっと売れたからって私を捨ててあんな女と……。絶対に許さない」

 優子は大声をあげ涙を流しながら、何度も何度も俺の体を突き刺した。

 床には大量の赤い血が流れた。


 ー編集室ー

 「うわ、なんだこれ!!」

 「どうした。何か問題でもあったのか?」

 「いやぁ、この角度のカメラにね。ほら、ベッドの下からこっちを見つめる女性が映ってるんですよ」



 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 

 

 
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