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第壱話 カネは悪魔なり
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5月、それは入学や入社というプロセスを終えて、その場に慣れてきたりする時期だ。
俺と春が出会ってから、もう一月が経った。
一生懸命に会話をしたり、いろんな場所に出かけたりしたおかげなのか、
春はよく笑顔を見せるようになった。
が未だに喋ろうとはしなかった。
だけど少しずつ字を書けるようになってきたため、スケッチブックを使ってなら会話が出来るようになった。
「さ、買い物に行くぞ」
そういうと春は喜んで付いてくる。
今日はお気に入りの白いワンピースに麦わら帽子を被っている。
これが春のお気に入りの服装みたいだ。
春はスーパーに行くと、いつも何かを見つける。
迷子の子供や財布などといったさまざまなものだ。
俺はそれについては、本当に細かいところを見ているなと感じていた。
まぁそのおかげなのかサービスカウンターの人に顔を覚えられ、春が来ると「今日も何か見つけて来たわね」と言わんばかりの笑顔で対応してくれる。
正直言ってとてもありがたい。
俺だけではなくいろんな人と関われるからだ。
スーパーは日曜日の昼近くということもあり大勢の人が買い物に来ていた、
今日も春が指をさしながら服の袖を引っ張てくる。
俺は心の中で「何か見つけたな」と思いながらまず春を見る。
春は「あそこ!」と言わんばかりに何処かに指をさす。
春の指が示す方向には春と同じ年齢位のバックを背負っている男の子が自分の付近を通る人を見ていた。
「わかった。今日は彼か」
俺はいつものようにその子に近づき話しかける。
「君迷子?誰と来たの?」
「僕迷子じゃないもん。お父さんとここで待ち合わせてるだけだもん」
なるほどこうきたか。
いつもなら「迷子」と言いながら泣いたり怯えられたりするのだがこの子はそのパターンには当てはまらなかった。
それに待ち合わせねぇ。
「じゃあお父さんを待つためにあそこのサービスカウンター行こうか。その方がお父さんも君のこと見つけやすいから」
「...わかった」
なんだか彼が渋々ついてきているように思えるな。
というか彼さっきからの春を見ているような...
まさか一目ぼれでもしたのか!
そうかそうか。今どきの子はませてんなー。
なんて事を思っているとサービスカウンターに着いた。
「あのー、すみません」
「あら今日は迷子なのね」
いつものように話が進み、俺と春は買い物を続ける。
30分後だろうかまた放送があり「澤村聡さん澤村聡さんお子さんがお待ちです」と放送が流れる。
これはおかしいと感じ、買い物を済ませ、サービスカウンターにもう一度行く。
それでもまだ来ていないらしく、少しここに来た経緯を聞いてもらうことにした。
彼の名前は澤村俊、歳は10歳で、このスーパーで父親と合流する予定だったらしい。
でもスーパーで合流ってなんで家で一緒に来なかったんだ?今日は日曜日だぞ?
「あのねお父さん言ったんだ。毎週の日曜日のお昼はここにいてって、
毎週この時間誰かお客さんが来るからって」
「それで、それで?」
サービスカウンターのお姉さんは親身になって聞いてくれている。
客が来るからって家の中にはいさせるだろ、それなのにここで合流だなんて...
よっぽど息子に合わせたくない客なんだろうか?。
しかしそんな相手早々いないぞ?
「でね!でもね今日はお客さんが早く来ちゃったみたいだった。だって僕を玄関からお家出てないもん」
その言葉を聞いて俺は直ぐに江釣子に電話をかけた。
「だーかーらー、なんで俺に電話するんだよ!」
怒られた。
事件のような気がしたから電話したのに。
「まぁいい。確かに事情を聞けば異常性はあるな」
そう言って彼は唇に指を当て考える。
これは彼の考えるときの癖だ。
「ちょっと待ってろ」
そう言って江釣子は誰かに電話をかけ始めた。
「それであれから何か分かりましたか?椎名さん」
椎名とは今日のサービスカウンターの受付の人だ。
こうなった以上名前を知っとかないと不便だからな。
「いえあまり、ただ俊君が起きた時には怒号が聞こえていたって...」
怒号か...
穏便なことではないな...
「おい一件ヒットしたぞ」
江釣子は俺らにそう言う。
詳細は移動してからというのと、俊君を警察署で保護してもらうと言った。
つまりそういうことなのだろう。
直ぐにパトカーが到着し、俊君はパトカーで警察署に一度送られていった。
その後、俺らは江釣子の車で事件現場に向かった。
「さて、詳細を話す。
被害者の名前は澤村聡(さとし)38歳男性会社員。
結婚はしているが結婚相手は2年前に死去。
そして子供がいてその子の名前が澤村俊、つまりあの子だ」
だからあの子は母親って単語が出てこなかったのか...
「それで?」
「あぁ、そして澤村聡だが1時間前に仏さんになって出てきた」
「そうか...」
彼はもうあの年で一人なのか...
俺は別に
「発見までの流れなんだが、由比ヶ浜でうつ伏せで倒れている男性をサーファーが発見。
声を掛けてみるも返事がなく、仰向けにしてみると死んでいた。というわけらしい。さ着いたぞ」
由比ヶ浜には人だかりが出来ており、彼らの視線の中心点が澤村聡の発見現場だろう。
「はいちょっと通してね」
江釣子は野次馬の中を突っ切る、俺もその後ろから通ろうとし、いつもの流れで春の手を握り規制線の前まで来てしまった。
「捜査一課の江釣子です。それとこちらがあの広田信です」
その一言でその場に居た全員が俺を見る。
「ほう、あれがあの噂の」
そんな声が至る所から聞こえる。
もう慣れたが。
「だが子連れとは聞いてないぞ?」
「え?」
俺は間抜けな声とともに婦警さんに春を預けず、現場に連れてきたことを思い出す。
やばい、やってしまった!
春は隣におらず俺は焦りすぐ春を探す。
すると春は無謀にも死体に近づいてしまう。
「春!」
俺は反射的に春を死体から遠ざける。
「すみません。」
俺は皆に謝り、一度現場を離れ春を車の中に居させようとする。
だけれども春は現場に戻ろうともがく。
この1ヶ月間こんな事はなかったのに。
「信、まさかとは思うがこの子何かを感じたんじゃないか?」
江釣子は春のその様子を見て何かを察したのか「後で写真を見せるから待ってて」と春に言うと急におとなしくなった。
こいつなんか手慣れてやがる。
俺も「ちょっとだけ待ってな」と言う。
すると春は頷く。
その様子を見て俺らは頷き、現場に入る。
さて被害者は両手両足は縄で縛られていた。
後頭部から出血した痕がある。
気絶させられたわけでもなく、完全に撲殺が死因と断定される。
服装はスーツで、内ポケットからは財布が出てきており中身は免許証が入っているだけだった。
外傷は死因となった後頭部にのみあり、争った形跡はなかった。
「他殺だが犯人像が浮かんでこないぞ」
江釣子は俺にそう言う。
補足として言うが彼は俺抜きでも名刑事として名がはせている。
「濡れていたりと少し死亡日時はわからないが、あの少年の話だと1,2時間前と思うんだが...」
「どうした?」
「いや何でもない」
何かに気づいたと思うのだがそれを彼は言わない。
「...さて被害者宅に向かうぞ」
「わかった」
さて犯人はどうやって海岸に死体を捨てたのだろうか?
捨てるとしたら、殺害時間的に日中に捨てるしかない。
今日の浜辺にはそこまで多いわけではないが、そこそこの人数が砂浜で遊んだりサーフィンをしていたはずだ。
そんな中目立たずどうやって?
そんな事を考えていると、江釣子の携帯に電話がかかってきた。
「はいもしもし。はいはい、はい分かりました。ありがとうございます。それでは」
おい刑事が電話しながら運転すんなよ。
だけどその声色から何か進展があったと俺は思い「どうした?」と聞く。
すると
「容疑者が出たらしい」
と返ってきた。
容疑者はすでに任意同行という名目で、取調室にいるという。
なので俺達は先に取調室に向かった。
取調室には3人の刑事とその容疑者が居た。
容疑者の名前は吉田浩介(よしだこうすけ)28歳。現在会社員。
過去に容疑者との接点は無いとのことだった。
「接点がないのに、どうして彼が容疑者になったんだ?」
俺は当たり前の疑問を江釣子に言う。
すると即答で教えてくれた。
「なんでも被害者宅に行くと彼がいたらしい。それに被害者殺害に使ったとされる灰皿を持っていたとさ」
なるほど。
つまり彼は由比ヶ浜に死体を捨てた後に現場に戻ったと。
それはいくらなんでも不自然すぎないか?
犯人は犯行現場に戻る。なんて言うがおかしいな。
俺は犯人はこいつではないな、とそう思う。
多分この人たちもそう思っていると勝手に決めつけた。
そして俺たちが来てからは初めて吉田が喋る。
「だから俺は殺してないって!俺は今日が返済日だから澤村さんの家に行っただけだ!」
容疑者である吉田はそう言って机を叩く。
吉田の顔には明らかに焦りが有った。
何かをばれたくないようなそんな焦りが。
「だから、何の返済日なんだ?」
金だな。
皆そう思う。
「それは......金です」
おそらく俺らが着くまでにも何回か聞かれたと思うが口を割らなかったらしい。だがさすがに耐えられなくなったのか吉田は自供し始めた。
なんで金を借りたのか、何故家に勝手に入ってたのか、何故あの時間だったのかなど、自分に対し不利なことまでも自白した。
当然その中に自分が殺したなんて出てくるわけもなく、今回の事情聴取は終わっていた。
「さて、被害者宅に行くか。っとその前にあれ貰って来るから、はるちゃん迎えにいったら先に車に乗って。これ車のカギな」
と鍵を投げてくる。
俺はそれをキャッチすると、江釣子は既に居なくなっていた。
つかあれってなんだよ?
そして俺は受付に向かい、春を迎えに行った。
「あの、広田です。春を迎えに来ました。」
「少々お待ちください」
春は婦警さんに連れられて直ぐに出てきた。
本当はこんなことはして貰えないのだが今回は特例で承諾してくれた。
「すいません。お仕事の邪魔とかしませんでしたか?」
俺は第一に心配していた事を聞く。
「凄くおとなしかったですよー」
良かった。何か迷惑をかけていかも、なんて考えていたからな。
「それじゃ行こうか、春」
春は頷き後ろを振り返り、手を振る。
俺達は江釣子の車で待っていると「すまん遅くなった」そう言って江釣子が車に乗る。
彼の手には茶封筒を持っていた。
「春ちゃん、これ約束の物。」
それを春に渡した。
中身は被害者の発見時の写真やこれから行く被害者宅と思われる写真だった。
「お前!これ見せたらダメだろ!」
「大丈夫大丈夫、見るのはお前って事にしてあるから」
俺は焦るが江釣子は気楽に大丈夫と言ってくる。
そこから春はその写真には釘付けなっていた。
写真越しだが死体を見ても悲鳴も上げずにいるその姿に少しだけ恐怖を感じた。
一頻り写真を見た後、春は寝てしまった。
「まさか本当に見せるとは思わなったよ」
俺は春が寝ていると確信をしてから江釣子び話しかける。
「本当はな、死体を見たら見るのをやめるんじゃないかと思ってたんだがな」
そう言いから「あはは...」とため息交じりに笑う。
「だけど春ちゃんがこんなに事件に興味を持つとは思わなかった。それに単なる好奇心ってわけでもなさそうなのがなおさらな」
「あぁそうだな」
何か微妙な空気がその場に流れる。
「とりあえず参考としてそれはあげるよ」
「ありがとう」
春が散らばした写真を含め、それをかたずけカバンにしまう。
「さ、着いたぞ」
着いた先は一軒家だ。
表札には澤村と彫ってあり規制線と玄関の前に2人警察官が立っていた。
つまりここが被害者宅なのだろう。
「さ、入りな」
俺らは寝ている春をそのまま車の中で寝かせておき、被害者宅へと入っていった。
玄関を入ると、すでに血痕が伸びており、それはリビングの血だまりにつながっていた。
部屋は物が散乱していた。
「ここで被害者は殺された。そして玄関の方まだ被害者を持っていき、恐らく何かに包み由比ヶ浜で捨てた」
多分これが大まかな流れだろう。
だがどうして被害者は殺されたのだろうか。
この家には今のところヒントになりそうな物は...
引き出しやタンスを開けてみていくと一つのファイルを見つけた。
「これは?」
「どした?」
江釣子は俺がファイルを開くと同時に横から覗いてくる。
そのファイルには、
2月26日 関 #稔___みのる__# 800万
3月12日 長曾我部 守 500万
などとこの他にも違う日付、名前、金額が記載されていた。
確かあの吉田という男は今日が金の返済期限だったと言っていたな。
つまり澤村は金貸しをしていた。多分個人でと推測される。
だけど澤村はそんな金をどうやって手に入れたのだろうか?
「なぁこれ見てみろよ」
江釣子はコルクボードに貼ってあった新聞の切り抜きを指さす。
その記事はとある銀行強盗の記事だった。
2010年 12月 22日
5人組の強盗が県内の銀行に押し入り占拠。
20億円を盗みだし未だ逃走中
どうやら10年前の銀行強盗の記事のようだ。
「こいつらまだ一人も捕まってないんだよ...」
「なぁ澤村がこのうちの一人だったりしたら、こんなに金を貸せる事につじつまが合うと思うんだが」
「まさか」
「だよな」
そういって俺らは笑う。
一度鑑識が調べてはいるが、俺たちは何かないかと思い探す。
「おい、これなんだと思う?」
江釣子が箪笥の隙間から写真の切れ端を見つける。
「なんだこれ?」
その写真は下半分しかなく、アスファルトと5人分の足が見える。
その他にも、いくつか大きなバックもあった。
「これは...もう半分見つけるしかないな」
......
20分ほど探したが見つからなかった。
仕方ないのであきらめることにした。
「もう目ぼしいもんはないな」
「そうだな」
「一度帰るか」
俺らは一度車に戻った。
すると春は車でまだ寝ていた。
「そういえばまだ春ちゃん喋らないんだな」
「あぁ...」
だけど1ヶ月前よりかは表情豊かになったのだ。進歩はある。
「それでこの後はどうするんだ?」
「そうだな、少し大神のとこに行こうかなと」
「げっ、あいつのとこかよ...」
江釣子は大神に苦手意識があるようで、露骨に嫌な声を出す。
「外で待っていていいから。それにまだ春が起きそうにないし、見といて欲しいんだ」
俺が最もらしい理由を付け加えると江釣子は渋々「わかった」と言い車を走らせる。
車を走らせて数十分、ぼろい一軒家の前に車を止める。
ここが目的地だ。
「少し待って」
そう言い俺は車から降りる。
この家はインターホンが壊れているため、俺は玄関をコンコンと二回ノックし開ける。
そこは玄関とは言えないほど改造されており、いくつかの部屋の壁を取っ払っているため広間となっている。
その中心に一つの机と椅子がある。その椅子に一人の男性が座っている。
「よう。今日は何が聞きたいんだ?」
男はそう言いにやける。
間違いなくこいつは大神海斗だ。
「少し聞きたいことがあってな。ん?なんだ客が居たのか?」
俺は大神の横にうつ伏せになっている人を見つけ、一度時間を改めようと外に出ようとする。
「違う違う。こいつ強盗」
「あぁそう。ならいいか」
俺は強盗という答えに納得し、話を続けることにした。
この家には何故か1週間に一度くらいは強盗がくるため、俺はこの状況に慣れていた。
「それで今日は誰の情報を知りたいんだ?」
「あぁ、澤村聡についてだ」
「ほう」
大神は名前を聞いただけで何処に住んでいるかを当てた。
ここいらではこいつは情報屋としてかなり有名だ。
大神とは25の頃からの付き合いで、とある依頼の時に出会った。
”情報は金にする”がモットーで情報を高額で売ってくる、いわゆる情報屋だ。
そして俺は今回の事件のことを話す。
「あー死んだのか。まぁだろうな」
「だろうな?」
「あぁ、あいつ金貸ししてたんだよ。南雲組に内緒で」
「まさかばれたのか?」
「3日前にな」
南雲組はこの辺の裏を仕切っているヤクザだ。
裏の仕事は南雲組に許可を取らなければいけないと言う暗黙のルールがこの街にはある。
それを破れば殺される。とも言われているほど。
「で、聞きたいのはそれだけか?」
大神は俺の心を見透かしたように、まだあるんだろ?と言いたげな声のトーンで聞いてくる。
「いやもう一つ。澤村はどうやって1億以上の金を手に入れた?」
「ほう。そこを聞いてくるか」
俺は思い出す。
あのファイルに記されていた金額の合計を。
1億なんてものではない、下手したら10億位はある。
「教えてやってもいいんだが、流石にそこは有料だ」
有料って事は大事といことか...
「いくらだ?」
「そうだなー、10万ってとこだな」
10万もかよ。
俺はしょうがないかと思い「分かった。明日持って来るよ」と言うと大神はニッと笑みを浮かべ話す。
「まず澤村聡が金貸しを始めたのがおよそ9年前のだ。奴は元々借金をしていたいろんな所にな。総額6000万程だ。だが奴は2010年12月 24日に借金を返済した、一括でな。その一か月後だ澤村聡が金貸しを始めたのは。さて勘のいいお前ならばどうやって澤村聡がそんな大金を手に入れたのかわかるよな?」
俺はその話を聞き、あの新聞の切り抜きを思い出す。
「まさか、本当にあいつが強盗の一人だと?!」
俺はその可能性に驚きながらいう。
その発言に大神は頷き「お前がすべきことは分かったな」といい目を閉じる。
「そうだな。ありがとう」
俺は大神にそういい、車に戻る。
「その顔は何かヒントを得たな」
「あぁもちろんだ。だが肝心の犯人はまだわからん」
「そのことだがさっき電話があってな、容疑者が吉田以外に2人浮上した」
そういって江釣子は俺に携帯の画面を見せる。
1人は34歳男性 岩田宗次
もう一人は 28歳男性 本橋健太郎
と記載されていて顔写真付きだった。
「どうしてこいつらなんだ?」
俺は何故この人達なのかが一番気になった。
ファイルにはもっと大勢の名前があった。
もしこの2人があのファイルから導き出されたのなら、何か特別な理由があると思ったからだ。
「なんでもこの二人はアリバイがなく、それに澤村聡と昔からの顔馴染みらしい。それと二人ともここ一年澤村の家に一か月一回は家に入っていくとこを近隣住民が目撃していたらしい」
なるほどだが本当にそれだけなのか?
それだけで容疑者になるほど簡単ではないはずだ。
「あぁ、でもこいつらは金を借りていないらしい」
「なに?」
金を借りていないだと?
「とりあえず今事情聴取をしている所だ。それが終わり次第情報を渡すよ。今日はもう帰りな時間も時間だし、春ちゃんはまだ起きないし」
「あぁそうだな」
俺は空を窓から見上げる赤く染まってきていることに気付く。
もうこんな時間なのか。
こうして今日が終わった。
あの後は家に帰り、目を覚まさない春を布団に入れてから夜ご飯食べ風呂に入った。
それから事件のことを整理し、寝ようと思い布団に入った時にはもう時計の針が0時を過ぎていた。
そんな時間になっても春は起きなかった。
少し死んでいるんじゃないか、と思って心臓の鼓動を確認したところきちんと心臓は動いていた。
俺は安心していそのまま意識が落ちた。
カリカリという何かを書く音で、俺は目を覚ました。
時計を見ると、時刻はまだ4時だった。朝日はまだ昇っておらず外はまだ暗かったが、リビングの明かりがついている事に気づいた。
まさかとは思い俺は隣に目を向ける。
春を寝かせていた布団には春はおらず、リビングにいるのが春だと俺は確信した。
リビングに近づけば近づくほどカリカリという音は大きくなる。
ドアを開け見ると春が机と向き合ってずっと何かを書いていた。
俺は静かに近づきそれを見てみる。
そこには書いてあったのは、事件の事だった。
事件の起きた日時、場所、後頭部のどの辺に当たったか、死体が身に着けていた物など様々な事が書かれていて、
さらにそのうちの何枚かは推理とは呼べそうにはないものの、この事件が起きるまでまた起きた理由などの可能性も記載されていた。
「春これは...」
俺はそれを見て畏怖した。
これが少女が考えることなのかと。
春はそんな俺に気づき、紙に『どうしたの?』と書き聞いてくる。
俺は「あぁ何でもない。早いけど朝ごはんにしようか」と言い、話を露骨にそらした。
「いただきます」
今日はベーコンエッグトーストだ。
食べ終えた後、俺は春の書いた可能性を見る。
もちろん春に許可を取ってからだが。
そこには気味が悪いくらいの状況把握と現実味のある可能性ばかりが書かれていた。
それはもうこの年では考えられないことばかりだった。
「なぁ春どうしてこんなに思い付いたんだ?」
この発想は本能とは言えなかった。
明らかに誰かに教え込まれたと感じたから聞くが、回答が返ってくるとは思わなかった。
だけど意外にもその答えは返ってきた。
『すいりしょうせつを書いている人にじょうきょうをはくしろとおしえられたから』
と、だけどこれは教えられたでは済まない量だ。
だから俺は数時間かけて、そのすべてを読んだ。自分の考えと照らし合わせたりしながら。
時計の針が11時を指すころ俺は江釣子に電話をした。
12時にインターホンが鳴り江釣子が来た事を知らせた。
「これは...」
江釣子もそれを見て驚愕した。
「春ちゃん、その教えてくれた人の名前分かる?」
江釣子は春に繋がる人が初めて出てきそうで少し興奮気味だったがそんな江釣子の期待を裏切るかの如く春は首を横に振る。
「だめかぁ」
彼は露骨にため息をつく。
「あぁそうそう、死亡した日だが昨日の昼ではなく一昨日の昼だと司法解剖の結果分かった」
「昨日じゃないだと?」
じゃぁ昨日でなければ、あの子が聞いた怒号は誰が?
「それと、あの家を全体的に指紋などを調べたんだがな、一部の部屋、そう例えばリビングとかだな。まぁその辺の部屋から一切指紋が出てこなかった」
「一切だと?」
犯人は何で直ぐ逃げず、指紋をふき取ったんだ?
それにそしたらいろいろとおかしいぞ?
「さて考えてるとこ申し訳ないが、俺はこの後事情聴取を見に行くつもりだがどうする?」
と聞かれ俺はもちろん「行く」と言った。
取調室には本橋健太郎が事情聴取を受けていた。
「で、なに?」
「一昨日の昼何をしていましたか?」
「あぁ?一昨日の昼?あーパチ屋で打ってたよ」
本橋は足を組みそっぽを向いて話す。
「なら澤村に何か恨みはあるか?」
「恨み?そりゃあ長い付き合いだからな、恨みの一つ二つありますよ。ただそのどれもがあいつを殺したいと思うほどの物じゃないよ。まぁ例えばだが、俺とあいつはよく一緒にパチ打ってた時に俺はぼろ負けあいつは勝ちなんて事とかな」
その後もそんなことばかりを話していた。
少しお昼休憩をはさんだ後に岩田宗次の事情聴取だ。
「一昨日の昼何をしていましたか?」
「お、一昨日ですか?一昨日は図書館で本を読んでましたね」
「図書館でねぇ、それを証明できる人は?」
「証明できるかわかりませんが、昨日本を借りているのでそれが使えるのなら」
なぜだろう彼の言葉には少し不安が感じられる。
その後もそんな状態が続いた。
「すまんな、無理言って春も観させてくれてな」
実は春のあれを見てから俺は春にが何か思いつくんじゃないかと思い、江釣子に無理言って取り調べの様子を見せてもらっていたのだ。
「いんだよ。それに春ちゃんがこの事件解決しちゃうかもだし」
江釣子はそういいシシッと笑う。
「そうそう後これも春ちゃんにあげる」
そう言ってまた江釣子は春に茶封筒を渡す。
「中身は前回と違って、部屋の写真と澤村俊くんの一昨日から昨日にかけての、お父さんの様子について聞いたこととかが入ってるから、お前も見るんだぞ」
「おう、ありがとな」
俺たちは一度家に帰り一緒に渡されたものを見る。
写真については俺はすでに見たことある光景だったため、写真を春に渡し俺は澤村聡の証言をまとめた紙を見る。
一昨日は僕は起きてからずっと部屋でゲームをしていた。
するとお父さんは今日は部屋からあんまり出ちゃダメと言ってきたの。ご飯は部屋の前に持っていくからって。
そんなのよくあることだったから部屋からは出なかった。
それで夜トイレに行ったとき、ちらっと見えたお父さんは急に帽子を被っていたんだ。
その後お父さんが珍しくホットミルクを用意してくれてそれ飲んだら眠くなったからその日は寝たんだ。
次の日起きたらもうお昼だったんだ!
部屋を出たら僕の靴と紙があってね紙にはね、
今日は玄関からじゃなくて自分の部屋から外の出てね。もうお客さんが来ちゃってるからって。
だから僕は自分の部屋の窓から外に出ていつもの場所にいたんだ!
そのあとは俺らに会いと、書かれていた。
「なるほどな...」
俺は口では余裕そうなことをつぶやくが、実際はあまりわかってはいなかった。
春は写真を見終わったのか、俺の方によってきて紙を覗いてきた。
春は1分も経たずにそのままの姿勢で寝てしまった。
「またか...」
俺はため息をつきながら、春を布団に入れる。
俺は江釣子に無理言って裏取りに付き添った。
まずは本橋が良く通っていたとされるパチ屋からだ。
「警察だ。一昨日の昼の監視カメラ調べさせてもらっても?」
江釣子が妙に警察らしい時は?と聞かれたら俺は真っ先に裏取りしている時といえるほど、この時の口調はどんな時よりも刑事らしい。
「別にいいですよ」
店長は快く事務所に通してくれた。
「どうだ、いたか?」
「ちょっと待ってくださいねー」
俺は何もできないので、ただただ座って待っている。
すると江釣子が話しかけてきた。
「なぁまさかと思うんだが春ちゃん考えるたびに寝てないか?」
「まぁそうだな」
「そういう体質?」
「さぁな、だが考えるから寝ているって可能性もある。」
「そうだな」
「出ました。本橋です」
そんな会話をしていたら、どうやら本橋が入店したところまで巻き戻ったようだ。
「時間は...11時17分か。それで出てったのは何時だ?」
「ちょっと待っててください。えーっとですね、15時32分です。その間トイレに行くために席を立ったぐらいで、その時間も2分足らずで席に戻ってきています」
「なら本橋が殺すのは無理か...」
江釣子はまたあの癖をし、指示を出す。
「うし、次図書館に行くぞ」
「はい」
江釣子の部下は元気がいいな。
俺は今回彼と出会うのは初めてだ。
彼の名前は梶ヶ谷徹。歳は26だそうだ。
「そういえば徹君はなんで警察になったの?」
これは俺が初めての人には大体聞く質問だ。
理由は特にないが、なぜか聞いてしまう。俺も知りたがりということなのだろうか。
「自分はですね、父親が警察なんです。それで幼いころから父の職場で働くことが夢でそれで警察になりました!」
「そいつの親父、警視監だぞ」
「は?」
警視監それは警察という組織の階級でいえば2番目に偉い立場にいる。
「いやーマジ...」
江釣子の目の奥から光が失われている気がする。
でもまぁ警視監の息子だもんなー...
ご愁傷様、江釣子。
「さて着いたぞ」
そういって、江釣子はすたすたと入っていく。
「警察ですが一昨日の監視カメラ見してもらってもよろしいですか?」
「あぁはい、いいですよ」
そんなこんなで裏に通される。
「多分こいつだと思うんですけど...」
監視カメラに写っていたのは帽子を深くかぶり、完全に顔が見えない状態だった。
「これは...怪しいな」
「そうだな、全力で自分が犯人です。アリバイ作りました。って言われてる気がする」
その場の全員が同意見だった。
帰りがけ、対応したと思われる職員の方がいたので、岩田の顔写真と共にその映像を見てもらったが、「顔はよく見えなかったからわからない」との事だった。
「さてと、俺達は一回戻るが、信はどうする?」
「まぁ普通に俺も帰るさ」
「そか、なんか思い付いたんだろ?」
「まぁな」
「じゃ、明日には解決してるんだろな」
警察が他力本願かよ。
「それじゃぁな、なんかあったら言えよな」
「おう、ありがとな」
俺達はそう言って別々の方向へと帰る。
俺が家に着くが、まだ春は寝ていた。
よく寝ると思いつつ、俺は夕飯を作る。
それからは少し状況把握の為、紙にまとめてみるがどうも何かが足りない気がしてならなかった。
俺はその感情をリセットするため、布団に入りその日はもう寝た。
...
......
「いいか小僧。人はな一人だけじゃ生きてけんのさ。」
その人は俺の手を握りながらそう俺に言う。
それは確かに自分に向けられた言葉だったが、同時にその人が誰かにそう言われたことがあったかのように、どこかその言葉を懐かしんでいた。
「誰かが整備しているから今歩いている道があるように、お前さんもいつか誰かの役に立つときがくるさ」
そうだ。こんなことを毎日言ってたな、銀次は。
どんな時も口癖のように、そして自分に言い聞かせるかのように...
死ぬ寸前まで......
...
「っう」
俺は飛び起きた。
悪い夢でも見たかのように全身は汗でびっちょり濡れていた。
時刻は午前7時。隣を見るとやはり春は居なかった。
俺は一度洗面所へと向かい汗を流し着替えてから、リビングへと向かった。
春は数枚の紙の中、寝落ちしたのかすやすやと寝ていた。
夜中に起きたのか。多分前回と同じなんだろうな...
俺は春のその体質なのか何なのかに目をそらし、可能性の紙を見て回る。
その中の一枚が異様に目だっており、俺はそれの紙を見る。
それはどの可能性よりも現実じみていたが、
何かが足りなかった。けれどここからでは何かはわからない。
だから俺は再構成する。
春のそのすべての可能性から、自分の前日の状況把握から、現場の痕跡から、死体から、俺はそれぞれから情報を得てそれを最適解へと構成する。
そうこれは推理じゃない...ただのパズルだ。
「ふぅ。こいつはやばいな」
俺はその最適解を紙に書き、江釣子を電話で呼ぶ。
「これは...」
それを見た江釣子は謎に鳥肌が立っていた。
「無理やり起こされてイラっとしたけど、そんなの気にならない位やばいな...」
すまん江釣子...
俺は心の中で謝る
「だが、もしだぞ?もしこいつが事実なら相当やばいぞ。俺ら表彰もんだぞ」
その通りだ。それだけは俺もなんとなくそう感じてはいた。
「少しカマかけてみるか」
その提案に俺は乗った。
そこからはどうカマをかけるのか、と作戦を練り、
少し手間取ったが、なんとか江釣子の上司を説得しその作戦を実行することができた。
いろんな準備の末、勝負はその夜となった。
暗い倉庫の中、俺たちは息をひそめ犯人が罠にかかるのを待つ。
「あの!先輩方どういうことですか?!ここに呼び出しだなんて!」
誰かが誰かを呼ぶ声がする。
そう犯人が罠にかかった証拠だ。
「おい出て来てくださいよ!」
その誰かがそう言ったとたん辺りがライトで照らされる。
「さて堪忍しろ!岩田宗次!」
彼の周りは警察で囲まれている。
「くそ!」
そういって岩間は逃げようとするが、当然逃げられるわけもなくあっさりと捕まった。
後日談というよりも今回の事件の真相。
岩田宗次は10年前の強盗の一人だった。
彼らは盗みに成功したが、一つミスをしていた。
それは澤村聡が強盗をした後からずっと後をつけられていたとも知らず、顔を隠していた覆面を取ってしまい素顔を晒してしまった事だ。
澤村は「これは!」と思い彼らを一人一人脅して回る。
10年前はその1度だけだったがここ一位年ほとんど毎週のように誰かを呼び出し脅していたそうだ。
それに耐え兼ねた強盗5人は5人の中では下っ端だった岩田が彼を殺すこととなった。
殺した後、仲間が澤村の死体を海に捨て、岩田自身は変装し澤村の家に残った。
その理由は自分たちがそこにいたという証拠を消すことと、澤村が持っていた一枚の写真の入手のためだった。
それがあの謎の写真の切れ端の本体だった。
彼らは10年越しに写真を取られていることに気づきそれを必死に探した。
見つかったのは顔が写っている方だった。
それで彼はよしとしたらしい。
そしてここ1年呼び出されていたため、彼らは澤村の息子の行動もある程度把握ができていた。
それを利用して殺害日の次の日に殺害したように見せたかったとのことだった。
そのため今回のような不可思議な事が起きたのだ。
ちなみに他の銀行強盗のメンバーは芋ずる式で捕まっていったそうだ。
これを機に江釣子は昇進、俺は感謝状を授与することになった。
何故江釣子が昇進したのかは空席を埋めたかったってことらしい。
「なるほどな」
江釣子はコーヒー片手にソファーに座り、春の書いたその紙をまた見ながらそうつぶやく。
その事件解決から一週間が過ぎた。
世間はもう10年前の銀行強盗が捕まったことなんて報道しちゃいない。
それだけ世間とは廃れるのが速いものだ。
「なんだこんなとこでサボってていいのか?刑事部長さんよ」
「ちげーよ。今日もお前に相談しに来たんだよ!」
また今日もか。
刑事部長になってからのこの一週間こいつは毎日のように依頼してくるようになった。
この国は平和だが物騒な世の中だ。
「はいはい、だが少し違うだろ?俺と春にだろ?」
「うっせー」
俺が動けば春も付いてくるからな、合理的ではあるがな。
「なぁ春のあれどう思う?」
「あれ?一様言っとくが俺はロリコンじゃないぞ?」
「そうじゃねーよ!また事件の半分くらいの真相は当ててたこだ」
「なんだそっちか」
そっち以外に何があんだよ...
それになんかお約束みたいなことをしやがって!
江釣子は急に顔が険しくなりさっきの問いに答えだす。
「そうだな...正直気味が悪いさ」
暗く重たい言い方で江釣子はそう言う。
「だが...俺は事件が解決できるなら何でもいいがな!」
重たい空気から一変して江釣子はそう言って笑う。
俺はそれにつられ「なんなんだよ」と言いながら笑ってしまう。
「さてと、あぁそうだ信。”安城光輝って知ってるか?」
「誰だそれは?」
「いやな、あの強盗のリーダーが未だにその名前を繰り返し言うらしいんだ。取り調べ中ずっと」
またよくわかんないことを言うな、こいつは。
俺は完全に嘘だと思って「そんなバカなことがあるのかよ?催眠じゃあるまいし」と冗談半分に言う。
すると、
「だがよ、調べると確かに出てくるんだよ。職業は推理小説家って、ネットでだけど」
ネットかよ。
「まさかそいつを調べろなんて言うんじゃないだろうね?」
「ピンポーン正解。だってよーなんか怪しいじゃん?」
はぁ、こいつはいつもそうだ。つかこんなのが刑事部長で大丈夫かよ...
「でもな安城はまだ一冊も出版していないはずなんだよ。なのにそのリーダーの家からは安城の本が一冊出てきたんだ。おかしいだろ?」
「それは確かに奇妙だな...」
「だろ?!こっちでも調べてみるからさ、そっちでも調べてみてよ。ちゃんと報酬は渡すからさ」
「分かった。やろう」
俺は報酬という言葉に弱い。ちなみに俺の座右の銘は”物には対価を”だからな。
だから俺は報酬という言葉に弱いのを知って江釣子は報酬という言葉を出した。
「くっはめやがったな!」
「お前とは長い付き合いだからな、癖なんてお見通しだ!」
「まぁいいがな」
「んで春ちゃんは?」
江釣子は急に話を変える。
「今は、ほれこの前本屋に連れてったろ?あの時に買った推理小説を読んでるよ」
「そうか。春ちゃんの方も分かったら連絡するよ。つか大神に聞けばわかるんじゃないのか?」
「あぁそれなんだが、この前代金渡しに言った時聞いたんだよ。そしたら『あの子については俺もお前と出会ってからしかわからないんだ』って言ってたぞ」
「お前それからかわれてるんじゃ...」
「いややけに落ち込んでたぞ」
「まじか」
大神は何でも知っていなきゃイライラする性格なのだ。
その時16時を告げる時計の音が聞こえる。
「おっとそろそろ戻らんとな。それじゃ頼んだぞ」
「おう」
俺はそう言い資料をまとめ、夜ご飯を作る。
そしてまた今日も「春ーご飯できたぞー」そんな声が響く。
あぁそういえばなんで澤村は金貸しを始めたんだろうか...
気になるな。
そんなもやもやが残る事件だった。
俺と春が出会ってから、もう一月が経った。
一生懸命に会話をしたり、いろんな場所に出かけたりしたおかげなのか、
春はよく笑顔を見せるようになった。
が未だに喋ろうとはしなかった。
だけど少しずつ字を書けるようになってきたため、スケッチブックを使ってなら会話が出来るようになった。
「さ、買い物に行くぞ」
そういうと春は喜んで付いてくる。
今日はお気に入りの白いワンピースに麦わら帽子を被っている。
これが春のお気に入りの服装みたいだ。
春はスーパーに行くと、いつも何かを見つける。
迷子の子供や財布などといったさまざまなものだ。
俺はそれについては、本当に細かいところを見ているなと感じていた。
まぁそのおかげなのかサービスカウンターの人に顔を覚えられ、春が来ると「今日も何か見つけて来たわね」と言わんばかりの笑顔で対応してくれる。
正直言ってとてもありがたい。
俺だけではなくいろんな人と関われるからだ。
スーパーは日曜日の昼近くということもあり大勢の人が買い物に来ていた、
今日も春が指をさしながら服の袖を引っ張てくる。
俺は心の中で「何か見つけたな」と思いながらまず春を見る。
春は「あそこ!」と言わんばかりに何処かに指をさす。
春の指が示す方向には春と同じ年齢位のバックを背負っている男の子が自分の付近を通る人を見ていた。
「わかった。今日は彼か」
俺はいつものようにその子に近づき話しかける。
「君迷子?誰と来たの?」
「僕迷子じゃないもん。お父さんとここで待ち合わせてるだけだもん」
なるほどこうきたか。
いつもなら「迷子」と言いながら泣いたり怯えられたりするのだがこの子はそのパターンには当てはまらなかった。
それに待ち合わせねぇ。
「じゃあお父さんを待つためにあそこのサービスカウンター行こうか。その方がお父さんも君のこと見つけやすいから」
「...わかった」
なんだか彼が渋々ついてきているように思えるな。
というか彼さっきからの春を見ているような...
まさか一目ぼれでもしたのか!
そうかそうか。今どきの子はませてんなー。
なんて事を思っているとサービスカウンターに着いた。
「あのー、すみません」
「あら今日は迷子なのね」
いつものように話が進み、俺と春は買い物を続ける。
30分後だろうかまた放送があり「澤村聡さん澤村聡さんお子さんがお待ちです」と放送が流れる。
これはおかしいと感じ、買い物を済ませ、サービスカウンターにもう一度行く。
それでもまだ来ていないらしく、少しここに来た経緯を聞いてもらうことにした。
彼の名前は澤村俊、歳は10歳で、このスーパーで父親と合流する予定だったらしい。
でもスーパーで合流ってなんで家で一緒に来なかったんだ?今日は日曜日だぞ?
「あのねお父さん言ったんだ。毎週の日曜日のお昼はここにいてって、
毎週この時間誰かお客さんが来るからって」
「それで、それで?」
サービスカウンターのお姉さんは親身になって聞いてくれている。
客が来るからって家の中にはいさせるだろ、それなのにここで合流だなんて...
よっぽど息子に合わせたくない客なんだろうか?。
しかしそんな相手早々いないぞ?
「でね!でもね今日はお客さんが早く来ちゃったみたいだった。だって僕を玄関からお家出てないもん」
その言葉を聞いて俺は直ぐに江釣子に電話をかけた。
「だーかーらー、なんで俺に電話するんだよ!」
怒られた。
事件のような気がしたから電話したのに。
「まぁいい。確かに事情を聞けば異常性はあるな」
そう言って彼は唇に指を当て考える。
これは彼の考えるときの癖だ。
「ちょっと待ってろ」
そう言って江釣子は誰かに電話をかけ始めた。
「それであれから何か分かりましたか?椎名さん」
椎名とは今日のサービスカウンターの受付の人だ。
こうなった以上名前を知っとかないと不便だからな。
「いえあまり、ただ俊君が起きた時には怒号が聞こえていたって...」
怒号か...
穏便なことではないな...
「おい一件ヒットしたぞ」
江釣子は俺らにそう言う。
詳細は移動してからというのと、俊君を警察署で保護してもらうと言った。
つまりそういうことなのだろう。
直ぐにパトカーが到着し、俊君はパトカーで警察署に一度送られていった。
その後、俺らは江釣子の車で事件現場に向かった。
「さて、詳細を話す。
被害者の名前は澤村聡(さとし)38歳男性会社員。
結婚はしているが結婚相手は2年前に死去。
そして子供がいてその子の名前が澤村俊、つまりあの子だ」
だからあの子は母親って単語が出てこなかったのか...
「それで?」
「あぁ、そして澤村聡だが1時間前に仏さんになって出てきた」
「そうか...」
彼はもうあの年で一人なのか...
俺は別に
「発見までの流れなんだが、由比ヶ浜でうつ伏せで倒れている男性をサーファーが発見。
声を掛けてみるも返事がなく、仰向けにしてみると死んでいた。というわけらしい。さ着いたぞ」
由比ヶ浜には人だかりが出来ており、彼らの視線の中心点が澤村聡の発見現場だろう。
「はいちょっと通してね」
江釣子は野次馬の中を突っ切る、俺もその後ろから通ろうとし、いつもの流れで春の手を握り規制線の前まで来てしまった。
「捜査一課の江釣子です。それとこちらがあの広田信です」
その一言でその場に居た全員が俺を見る。
「ほう、あれがあの噂の」
そんな声が至る所から聞こえる。
もう慣れたが。
「だが子連れとは聞いてないぞ?」
「え?」
俺は間抜けな声とともに婦警さんに春を預けず、現場に連れてきたことを思い出す。
やばい、やってしまった!
春は隣におらず俺は焦りすぐ春を探す。
すると春は無謀にも死体に近づいてしまう。
「春!」
俺は反射的に春を死体から遠ざける。
「すみません。」
俺は皆に謝り、一度現場を離れ春を車の中に居させようとする。
だけれども春は現場に戻ろうともがく。
この1ヶ月間こんな事はなかったのに。
「信、まさかとは思うがこの子何かを感じたんじゃないか?」
江釣子は春のその様子を見て何かを察したのか「後で写真を見せるから待ってて」と春に言うと急におとなしくなった。
こいつなんか手慣れてやがる。
俺も「ちょっとだけ待ってな」と言う。
すると春は頷く。
その様子を見て俺らは頷き、現場に入る。
さて被害者は両手両足は縄で縛られていた。
後頭部から出血した痕がある。
気絶させられたわけでもなく、完全に撲殺が死因と断定される。
服装はスーツで、内ポケットからは財布が出てきており中身は免許証が入っているだけだった。
外傷は死因となった後頭部にのみあり、争った形跡はなかった。
「他殺だが犯人像が浮かんでこないぞ」
江釣子は俺にそう言う。
補足として言うが彼は俺抜きでも名刑事として名がはせている。
「濡れていたりと少し死亡日時はわからないが、あの少年の話だと1,2時間前と思うんだが...」
「どうした?」
「いや何でもない」
何かに気づいたと思うのだがそれを彼は言わない。
「...さて被害者宅に向かうぞ」
「わかった」
さて犯人はどうやって海岸に死体を捨てたのだろうか?
捨てるとしたら、殺害時間的に日中に捨てるしかない。
今日の浜辺にはそこまで多いわけではないが、そこそこの人数が砂浜で遊んだりサーフィンをしていたはずだ。
そんな中目立たずどうやって?
そんな事を考えていると、江釣子の携帯に電話がかかってきた。
「はいもしもし。はいはい、はい分かりました。ありがとうございます。それでは」
おい刑事が電話しながら運転すんなよ。
だけどその声色から何か進展があったと俺は思い「どうした?」と聞く。
すると
「容疑者が出たらしい」
と返ってきた。
容疑者はすでに任意同行という名目で、取調室にいるという。
なので俺達は先に取調室に向かった。
取調室には3人の刑事とその容疑者が居た。
容疑者の名前は吉田浩介(よしだこうすけ)28歳。現在会社員。
過去に容疑者との接点は無いとのことだった。
「接点がないのに、どうして彼が容疑者になったんだ?」
俺は当たり前の疑問を江釣子に言う。
すると即答で教えてくれた。
「なんでも被害者宅に行くと彼がいたらしい。それに被害者殺害に使ったとされる灰皿を持っていたとさ」
なるほど。
つまり彼は由比ヶ浜に死体を捨てた後に現場に戻ったと。
それはいくらなんでも不自然すぎないか?
犯人は犯行現場に戻る。なんて言うがおかしいな。
俺は犯人はこいつではないな、とそう思う。
多分この人たちもそう思っていると勝手に決めつけた。
そして俺たちが来てからは初めて吉田が喋る。
「だから俺は殺してないって!俺は今日が返済日だから澤村さんの家に行っただけだ!」
容疑者である吉田はそう言って机を叩く。
吉田の顔には明らかに焦りが有った。
何かをばれたくないようなそんな焦りが。
「だから、何の返済日なんだ?」
金だな。
皆そう思う。
「それは......金です」
おそらく俺らが着くまでにも何回か聞かれたと思うが口を割らなかったらしい。だがさすがに耐えられなくなったのか吉田は自供し始めた。
なんで金を借りたのか、何故家に勝手に入ってたのか、何故あの時間だったのかなど、自分に対し不利なことまでも自白した。
当然その中に自分が殺したなんて出てくるわけもなく、今回の事情聴取は終わっていた。
「さて、被害者宅に行くか。っとその前にあれ貰って来るから、はるちゃん迎えにいったら先に車に乗って。これ車のカギな」
と鍵を投げてくる。
俺はそれをキャッチすると、江釣子は既に居なくなっていた。
つかあれってなんだよ?
そして俺は受付に向かい、春を迎えに行った。
「あの、広田です。春を迎えに来ました。」
「少々お待ちください」
春は婦警さんに連れられて直ぐに出てきた。
本当はこんなことはして貰えないのだが今回は特例で承諾してくれた。
「すいません。お仕事の邪魔とかしませんでしたか?」
俺は第一に心配していた事を聞く。
「凄くおとなしかったですよー」
良かった。何か迷惑をかけていかも、なんて考えていたからな。
「それじゃ行こうか、春」
春は頷き後ろを振り返り、手を振る。
俺達は江釣子の車で待っていると「すまん遅くなった」そう言って江釣子が車に乗る。
彼の手には茶封筒を持っていた。
「春ちゃん、これ約束の物。」
それを春に渡した。
中身は被害者の発見時の写真やこれから行く被害者宅と思われる写真だった。
「お前!これ見せたらダメだろ!」
「大丈夫大丈夫、見るのはお前って事にしてあるから」
俺は焦るが江釣子は気楽に大丈夫と言ってくる。
そこから春はその写真には釘付けなっていた。
写真越しだが死体を見ても悲鳴も上げずにいるその姿に少しだけ恐怖を感じた。
一頻り写真を見た後、春は寝てしまった。
「まさか本当に見せるとは思わなったよ」
俺は春が寝ていると確信をしてから江釣子び話しかける。
「本当はな、死体を見たら見るのをやめるんじゃないかと思ってたんだがな」
そう言いから「あはは...」とため息交じりに笑う。
「だけど春ちゃんがこんなに事件に興味を持つとは思わなかった。それに単なる好奇心ってわけでもなさそうなのがなおさらな」
「あぁそうだな」
何か微妙な空気がその場に流れる。
「とりあえず参考としてそれはあげるよ」
「ありがとう」
春が散らばした写真を含め、それをかたずけカバンにしまう。
「さ、着いたぞ」
着いた先は一軒家だ。
表札には澤村と彫ってあり規制線と玄関の前に2人警察官が立っていた。
つまりここが被害者宅なのだろう。
「さ、入りな」
俺らは寝ている春をそのまま車の中で寝かせておき、被害者宅へと入っていった。
玄関を入ると、すでに血痕が伸びており、それはリビングの血だまりにつながっていた。
部屋は物が散乱していた。
「ここで被害者は殺された。そして玄関の方まだ被害者を持っていき、恐らく何かに包み由比ヶ浜で捨てた」
多分これが大まかな流れだろう。
だがどうして被害者は殺されたのだろうか。
この家には今のところヒントになりそうな物は...
引き出しやタンスを開けてみていくと一つのファイルを見つけた。
「これは?」
「どした?」
江釣子は俺がファイルを開くと同時に横から覗いてくる。
そのファイルには、
2月26日 関 #稔___みのる__# 800万
3月12日 長曾我部 守 500万
などとこの他にも違う日付、名前、金額が記載されていた。
確かあの吉田という男は今日が金の返済期限だったと言っていたな。
つまり澤村は金貸しをしていた。多分個人でと推測される。
だけど澤村はそんな金をどうやって手に入れたのだろうか?
「なぁこれ見てみろよ」
江釣子はコルクボードに貼ってあった新聞の切り抜きを指さす。
その記事はとある銀行強盗の記事だった。
2010年 12月 22日
5人組の強盗が県内の銀行に押し入り占拠。
20億円を盗みだし未だ逃走中
どうやら10年前の銀行強盗の記事のようだ。
「こいつらまだ一人も捕まってないんだよ...」
「なぁ澤村がこのうちの一人だったりしたら、こんなに金を貸せる事につじつまが合うと思うんだが」
「まさか」
「だよな」
そういって俺らは笑う。
一度鑑識が調べてはいるが、俺たちは何かないかと思い探す。
「おい、これなんだと思う?」
江釣子が箪笥の隙間から写真の切れ端を見つける。
「なんだこれ?」
その写真は下半分しかなく、アスファルトと5人分の足が見える。
その他にも、いくつか大きなバックもあった。
「これは...もう半分見つけるしかないな」
......
20分ほど探したが見つからなかった。
仕方ないのであきらめることにした。
「もう目ぼしいもんはないな」
「そうだな」
「一度帰るか」
俺らは一度車に戻った。
すると春は車でまだ寝ていた。
「そういえばまだ春ちゃん喋らないんだな」
「あぁ...」
だけど1ヶ月前よりかは表情豊かになったのだ。進歩はある。
「それでこの後はどうするんだ?」
「そうだな、少し大神のとこに行こうかなと」
「げっ、あいつのとこかよ...」
江釣子は大神に苦手意識があるようで、露骨に嫌な声を出す。
「外で待っていていいから。それにまだ春が起きそうにないし、見といて欲しいんだ」
俺が最もらしい理由を付け加えると江釣子は渋々「わかった」と言い車を走らせる。
車を走らせて数十分、ぼろい一軒家の前に車を止める。
ここが目的地だ。
「少し待って」
そう言い俺は車から降りる。
この家はインターホンが壊れているため、俺は玄関をコンコンと二回ノックし開ける。
そこは玄関とは言えないほど改造されており、いくつかの部屋の壁を取っ払っているため広間となっている。
その中心に一つの机と椅子がある。その椅子に一人の男性が座っている。
「よう。今日は何が聞きたいんだ?」
男はそう言いにやける。
間違いなくこいつは大神海斗だ。
「少し聞きたいことがあってな。ん?なんだ客が居たのか?」
俺は大神の横にうつ伏せになっている人を見つけ、一度時間を改めようと外に出ようとする。
「違う違う。こいつ強盗」
「あぁそう。ならいいか」
俺は強盗という答えに納得し、話を続けることにした。
この家には何故か1週間に一度くらいは強盗がくるため、俺はこの状況に慣れていた。
「それで今日は誰の情報を知りたいんだ?」
「あぁ、澤村聡についてだ」
「ほう」
大神は名前を聞いただけで何処に住んでいるかを当てた。
ここいらではこいつは情報屋としてかなり有名だ。
大神とは25の頃からの付き合いで、とある依頼の時に出会った。
”情報は金にする”がモットーで情報を高額で売ってくる、いわゆる情報屋だ。
そして俺は今回の事件のことを話す。
「あー死んだのか。まぁだろうな」
「だろうな?」
「あぁ、あいつ金貸ししてたんだよ。南雲組に内緒で」
「まさかばれたのか?」
「3日前にな」
南雲組はこの辺の裏を仕切っているヤクザだ。
裏の仕事は南雲組に許可を取らなければいけないと言う暗黙のルールがこの街にはある。
それを破れば殺される。とも言われているほど。
「で、聞きたいのはそれだけか?」
大神は俺の心を見透かしたように、まだあるんだろ?と言いたげな声のトーンで聞いてくる。
「いやもう一つ。澤村はどうやって1億以上の金を手に入れた?」
「ほう。そこを聞いてくるか」
俺は思い出す。
あのファイルに記されていた金額の合計を。
1億なんてものではない、下手したら10億位はある。
「教えてやってもいいんだが、流石にそこは有料だ」
有料って事は大事といことか...
「いくらだ?」
「そうだなー、10万ってとこだな」
10万もかよ。
俺はしょうがないかと思い「分かった。明日持って来るよ」と言うと大神はニッと笑みを浮かべ話す。
「まず澤村聡が金貸しを始めたのがおよそ9年前のだ。奴は元々借金をしていたいろんな所にな。総額6000万程だ。だが奴は2010年12月 24日に借金を返済した、一括でな。その一か月後だ澤村聡が金貸しを始めたのは。さて勘のいいお前ならばどうやって澤村聡がそんな大金を手に入れたのかわかるよな?」
俺はその話を聞き、あの新聞の切り抜きを思い出す。
「まさか、本当にあいつが強盗の一人だと?!」
俺はその可能性に驚きながらいう。
その発言に大神は頷き「お前がすべきことは分かったな」といい目を閉じる。
「そうだな。ありがとう」
俺は大神にそういい、車に戻る。
「その顔は何かヒントを得たな」
「あぁもちろんだ。だが肝心の犯人はまだわからん」
「そのことだがさっき電話があってな、容疑者が吉田以外に2人浮上した」
そういって江釣子は俺に携帯の画面を見せる。
1人は34歳男性 岩田宗次
もう一人は 28歳男性 本橋健太郎
と記載されていて顔写真付きだった。
「どうしてこいつらなんだ?」
俺は何故この人達なのかが一番気になった。
ファイルにはもっと大勢の名前があった。
もしこの2人があのファイルから導き出されたのなら、何か特別な理由があると思ったからだ。
「なんでもこの二人はアリバイがなく、それに澤村聡と昔からの顔馴染みらしい。それと二人ともここ一年澤村の家に一か月一回は家に入っていくとこを近隣住民が目撃していたらしい」
なるほどだが本当にそれだけなのか?
それだけで容疑者になるほど簡単ではないはずだ。
「あぁ、でもこいつらは金を借りていないらしい」
「なに?」
金を借りていないだと?
「とりあえず今事情聴取をしている所だ。それが終わり次第情報を渡すよ。今日はもう帰りな時間も時間だし、春ちゃんはまだ起きないし」
「あぁそうだな」
俺は空を窓から見上げる赤く染まってきていることに気付く。
もうこんな時間なのか。
こうして今日が終わった。
あの後は家に帰り、目を覚まさない春を布団に入れてから夜ご飯食べ風呂に入った。
それから事件のことを整理し、寝ようと思い布団に入った時にはもう時計の針が0時を過ぎていた。
そんな時間になっても春は起きなかった。
少し死んでいるんじゃないか、と思って心臓の鼓動を確認したところきちんと心臓は動いていた。
俺は安心していそのまま意識が落ちた。
カリカリという何かを書く音で、俺は目を覚ました。
時計を見ると、時刻はまだ4時だった。朝日はまだ昇っておらず外はまだ暗かったが、リビングの明かりがついている事に気づいた。
まさかとは思い俺は隣に目を向ける。
春を寝かせていた布団には春はおらず、リビングにいるのが春だと俺は確信した。
リビングに近づけば近づくほどカリカリという音は大きくなる。
ドアを開け見ると春が机と向き合ってずっと何かを書いていた。
俺は静かに近づきそれを見てみる。
そこには書いてあったのは、事件の事だった。
事件の起きた日時、場所、後頭部のどの辺に当たったか、死体が身に着けていた物など様々な事が書かれていて、
さらにそのうちの何枚かは推理とは呼べそうにはないものの、この事件が起きるまでまた起きた理由などの可能性も記載されていた。
「春これは...」
俺はそれを見て畏怖した。
これが少女が考えることなのかと。
春はそんな俺に気づき、紙に『どうしたの?』と書き聞いてくる。
俺は「あぁ何でもない。早いけど朝ごはんにしようか」と言い、話を露骨にそらした。
「いただきます」
今日はベーコンエッグトーストだ。
食べ終えた後、俺は春の書いた可能性を見る。
もちろん春に許可を取ってからだが。
そこには気味が悪いくらいの状況把握と現実味のある可能性ばかりが書かれていた。
それはもうこの年では考えられないことばかりだった。
「なぁ春どうしてこんなに思い付いたんだ?」
この発想は本能とは言えなかった。
明らかに誰かに教え込まれたと感じたから聞くが、回答が返ってくるとは思わなかった。
だけど意外にもその答えは返ってきた。
『すいりしょうせつを書いている人にじょうきょうをはくしろとおしえられたから』
と、だけどこれは教えられたでは済まない量だ。
だから俺は数時間かけて、そのすべてを読んだ。自分の考えと照らし合わせたりしながら。
時計の針が11時を指すころ俺は江釣子に電話をした。
12時にインターホンが鳴り江釣子が来た事を知らせた。
「これは...」
江釣子もそれを見て驚愕した。
「春ちゃん、その教えてくれた人の名前分かる?」
江釣子は春に繋がる人が初めて出てきそうで少し興奮気味だったがそんな江釣子の期待を裏切るかの如く春は首を横に振る。
「だめかぁ」
彼は露骨にため息をつく。
「あぁそうそう、死亡した日だが昨日の昼ではなく一昨日の昼だと司法解剖の結果分かった」
「昨日じゃないだと?」
じゃぁ昨日でなければ、あの子が聞いた怒号は誰が?
「それと、あの家を全体的に指紋などを調べたんだがな、一部の部屋、そう例えばリビングとかだな。まぁその辺の部屋から一切指紋が出てこなかった」
「一切だと?」
犯人は何で直ぐ逃げず、指紋をふき取ったんだ?
それにそしたらいろいろとおかしいぞ?
「さて考えてるとこ申し訳ないが、俺はこの後事情聴取を見に行くつもりだがどうする?」
と聞かれ俺はもちろん「行く」と言った。
取調室には本橋健太郎が事情聴取を受けていた。
「で、なに?」
「一昨日の昼何をしていましたか?」
「あぁ?一昨日の昼?あーパチ屋で打ってたよ」
本橋は足を組みそっぽを向いて話す。
「なら澤村に何か恨みはあるか?」
「恨み?そりゃあ長い付き合いだからな、恨みの一つ二つありますよ。ただそのどれもがあいつを殺したいと思うほどの物じゃないよ。まぁ例えばだが、俺とあいつはよく一緒にパチ打ってた時に俺はぼろ負けあいつは勝ちなんて事とかな」
その後もそんなことばかりを話していた。
少しお昼休憩をはさんだ後に岩田宗次の事情聴取だ。
「一昨日の昼何をしていましたか?」
「お、一昨日ですか?一昨日は図書館で本を読んでましたね」
「図書館でねぇ、それを証明できる人は?」
「証明できるかわかりませんが、昨日本を借りているのでそれが使えるのなら」
なぜだろう彼の言葉には少し不安が感じられる。
その後もそんな状態が続いた。
「すまんな、無理言って春も観させてくれてな」
実は春のあれを見てから俺は春にが何か思いつくんじゃないかと思い、江釣子に無理言って取り調べの様子を見せてもらっていたのだ。
「いんだよ。それに春ちゃんがこの事件解決しちゃうかもだし」
江釣子はそういいシシッと笑う。
「そうそう後これも春ちゃんにあげる」
そう言ってまた江釣子は春に茶封筒を渡す。
「中身は前回と違って、部屋の写真と澤村俊くんの一昨日から昨日にかけての、お父さんの様子について聞いたこととかが入ってるから、お前も見るんだぞ」
「おう、ありがとな」
俺たちは一度家に帰り一緒に渡されたものを見る。
写真については俺はすでに見たことある光景だったため、写真を春に渡し俺は澤村聡の証言をまとめた紙を見る。
一昨日は僕は起きてからずっと部屋でゲームをしていた。
するとお父さんは今日は部屋からあんまり出ちゃダメと言ってきたの。ご飯は部屋の前に持っていくからって。
そんなのよくあることだったから部屋からは出なかった。
それで夜トイレに行ったとき、ちらっと見えたお父さんは急に帽子を被っていたんだ。
その後お父さんが珍しくホットミルクを用意してくれてそれ飲んだら眠くなったからその日は寝たんだ。
次の日起きたらもうお昼だったんだ!
部屋を出たら僕の靴と紙があってね紙にはね、
今日は玄関からじゃなくて自分の部屋から外の出てね。もうお客さんが来ちゃってるからって。
だから僕は自分の部屋の窓から外に出ていつもの場所にいたんだ!
そのあとは俺らに会いと、書かれていた。
「なるほどな...」
俺は口では余裕そうなことをつぶやくが、実際はあまりわかってはいなかった。
春は写真を見終わったのか、俺の方によってきて紙を覗いてきた。
春は1分も経たずにそのままの姿勢で寝てしまった。
「またか...」
俺はため息をつきながら、春を布団に入れる。
俺は江釣子に無理言って裏取りに付き添った。
まずは本橋が良く通っていたとされるパチ屋からだ。
「警察だ。一昨日の昼の監視カメラ調べさせてもらっても?」
江釣子が妙に警察らしい時は?と聞かれたら俺は真っ先に裏取りしている時といえるほど、この時の口調はどんな時よりも刑事らしい。
「別にいいですよ」
店長は快く事務所に通してくれた。
「どうだ、いたか?」
「ちょっと待ってくださいねー」
俺は何もできないので、ただただ座って待っている。
すると江釣子が話しかけてきた。
「なぁまさかと思うんだが春ちゃん考えるたびに寝てないか?」
「まぁそうだな」
「そういう体質?」
「さぁな、だが考えるから寝ているって可能性もある。」
「そうだな」
「出ました。本橋です」
そんな会話をしていたら、どうやら本橋が入店したところまで巻き戻ったようだ。
「時間は...11時17分か。それで出てったのは何時だ?」
「ちょっと待っててください。えーっとですね、15時32分です。その間トイレに行くために席を立ったぐらいで、その時間も2分足らずで席に戻ってきています」
「なら本橋が殺すのは無理か...」
江釣子はまたあの癖をし、指示を出す。
「うし、次図書館に行くぞ」
「はい」
江釣子の部下は元気がいいな。
俺は今回彼と出会うのは初めてだ。
彼の名前は梶ヶ谷徹。歳は26だそうだ。
「そういえば徹君はなんで警察になったの?」
これは俺が初めての人には大体聞く質問だ。
理由は特にないが、なぜか聞いてしまう。俺も知りたがりということなのだろうか。
「自分はですね、父親が警察なんです。それで幼いころから父の職場で働くことが夢でそれで警察になりました!」
「そいつの親父、警視監だぞ」
「は?」
警視監それは警察という組織の階級でいえば2番目に偉い立場にいる。
「いやーマジ...」
江釣子の目の奥から光が失われている気がする。
でもまぁ警視監の息子だもんなー...
ご愁傷様、江釣子。
「さて着いたぞ」
そういって、江釣子はすたすたと入っていく。
「警察ですが一昨日の監視カメラ見してもらってもよろしいですか?」
「あぁはい、いいですよ」
そんなこんなで裏に通される。
「多分こいつだと思うんですけど...」
監視カメラに写っていたのは帽子を深くかぶり、完全に顔が見えない状態だった。
「これは...怪しいな」
「そうだな、全力で自分が犯人です。アリバイ作りました。って言われてる気がする」
その場の全員が同意見だった。
帰りがけ、対応したと思われる職員の方がいたので、岩田の顔写真と共にその映像を見てもらったが、「顔はよく見えなかったからわからない」との事だった。
「さてと、俺達は一回戻るが、信はどうする?」
「まぁ普通に俺も帰るさ」
「そか、なんか思い付いたんだろ?」
「まぁな」
「じゃ、明日には解決してるんだろな」
警察が他力本願かよ。
「それじゃぁな、なんかあったら言えよな」
「おう、ありがとな」
俺達はそう言って別々の方向へと帰る。
俺が家に着くが、まだ春は寝ていた。
よく寝ると思いつつ、俺は夕飯を作る。
それからは少し状況把握の為、紙にまとめてみるがどうも何かが足りない気がしてならなかった。
俺はその感情をリセットするため、布団に入りその日はもう寝た。
...
......
「いいか小僧。人はな一人だけじゃ生きてけんのさ。」
その人は俺の手を握りながらそう俺に言う。
それは確かに自分に向けられた言葉だったが、同時にその人が誰かにそう言われたことがあったかのように、どこかその言葉を懐かしんでいた。
「誰かが整備しているから今歩いている道があるように、お前さんもいつか誰かの役に立つときがくるさ」
そうだ。こんなことを毎日言ってたな、銀次は。
どんな時も口癖のように、そして自分に言い聞かせるかのように...
死ぬ寸前まで......
...
「っう」
俺は飛び起きた。
悪い夢でも見たかのように全身は汗でびっちょり濡れていた。
時刻は午前7時。隣を見るとやはり春は居なかった。
俺は一度洗面所へと向かい汗を流し着替えてから、リビングへと向かった。
春は数枚の紙の中、寝落ちしたのかすやすやと寝ていた。
夜中に起きたのか。多分前回と同じなんだろうな...
俺は春のその体質なのか何なのかに目をそらし、可能性の紙を見て回る。
その中の一枚が異様に目だっており、俺はそれの紙を見る。
それはどの可能性よりも現実じみていたが、
何かが足りなかった。けれどここからでは何かはわからない。
だから俺は再構成する。
春のそのすべての可能性から、自分の前日の状況把握から、現場の痕跡から、死体から、俺はそれぞれから情報を得てそれを最適解へと構成する。
そうこれは推理じゃない...ただのパズルだ。
「ふぅ。こいつはやばいな」
俺はその最適解を紙に書き、江釣子を電話で呼ぶ。
「これは...」
それを見た江釣子は謎に鳥肌が立っていた。
「無理やり起こされてイラっとしたけど、そんなの気にならない位やばいな...」
すまん江釣子...
俺は心の中で謝る
「だが、もしだぞ?もしこいつが事実なら相当やばいぞ。俺ら表彰もんだぞ」
その通りだ。それだけは俺もなんとなくそう感じてはいた。
「少しカマかけてみるか」
その提案に俺は乗った。
そこからはどうカマをかけるのか、と作戦を練り、
少し手間取ったが、なんとか江釣子の上司を説得しその作戦を実行することができた。
いろんな準備の末、勝負はその夜となった。
暗い倉庫の中、俺たちは息をひそめ犯人が罠にかかるのを待つ。
「あの!先輩方どういうことですか?!ここに呼び出しだなんて!」
誰かが誰かを呼ぶ声がする。
そう犯人が罠にかかった証拠だ。
「おい出て来てくださいよ!」
その誰かがそう言ったとたん辺りがライトで照らされる。
「さて堪忍しろ!岩田宗次!」
彼の周りは警察で囲まれている。
「くそ!」
そういって岩間は逃げようとするが、当然逃げられるわけもなくあっさりと捕まった。
後日談というよりも今回の事件の真相。
岩田宗次は10年前の強盗の一人だった。
彼らは盗みに成功したが、一つミスをしていた。
それは澤村聡が強盗をした後からずっと後をつけられていたとも知らず、顔を隠していた覆面を取ってしまい素顔を晒してしまった事だ。
澤村は「これは!」と思い彼らを一人一人脅して回る。
10年前はその1度だけだったがここ一位年ほとんど毎週のように誰かを呼び出し脅していたそうだ。
それに耐え兼ねた強盗5人は5人の中では下っ端だった岩田が彼を殺すこととなった。
殺した後、仲間が澤村の死体を海に捨て、岩田自身は変装し澤村の家に残った。
その理由は自分たちがそこにいたという証拠を消すことと、澤村が持っていた一枚の写真の入手のためだった。
それがあの謎の写真の切れ端の本体だった。
彼らは10年越しに写真を取られていることに気づきそれを必死に探した。
見つかったのは顔が写っている方だった。
それで彼はよしとしたらしい。
そしてここ1年呼び出されていたため、彼らは澤村の息子の行動もある程度把握ができていた。
それを利用して殺害日の次の日に殺害したように見せたかったとのことだった。
そのため今回のような不可思議な事が起きたのだ。
ちなみに他の銀行強盗のメンバーは芋ずる式で捕まっていったそうだ。
これを機に江釣子は昇進、俺は感謝状を授与することになった。
何故江釣子が昇進したのかは空席を埋めたかったってことらしい。
「なるほどな」
江釣子はコーヒー片手にソファーに座り、春の書いたその紙をまた見ながらそうつぶやく。
その事件解決から一週間が過ぎた。
世間はもう10年前の銀行強盗が捕まったことなんて報道しちゃいない。
それだけ世間とは廃れるのが速いものだ。
「なんだこんなとこでサボってていいのか?刑事部長さんよ」
「ちげーよ。今日もお前に相談しに来たんだよ!」
また今日もか。
刑事部長になってからのこの一週間こいつは毎日のように依頼してくるようになった。
この国は平和だが物騒な世の中だ。
「はいはい、だが少し違うだろ?俺と春にだろ?」
「うっせー」
俺が動けば春も付いてくるからな、合理的ではあるがな。
「なぁ春のあれどう思う?」
「あれ?一様言っとくが俺はロリコンじゃないぞ?」
「そうじゃねーよ!また事件の半分くらいの真相は当ててたこだ」
「なんだそっちか」
そっち以外に何があんだよ...
それになんかお約束みたいなことをしやがって!
江釣子は急に顔が険しくなりさっきの問いに答えだす。
「そうだな...正直気味が悪いさ」
暗く重たい言い方で江釣子はそう言う。
「だが...俺は事件が解決できるなら何でもいいがな!」
重たい空気から一変して江釣子はそう言って笑う。
俺はそれにつられ「なんなんだよ」と言いながら笑ってしまう。
「さてと、あぁそうだ信。”安城光輝って知ってるか?」
「誰だそれは?」
「いやな、あの強盗のリーダーが未だにその名前を繰り返し言うらしいんだ。取り調べ中ずっと」
またよくわかんないことを言うな、こいつは。
俺は完全に嘘だと思って「そんなバカなことがあるのかよ?催眠じゃあるまいし」と冗談半分に言う。
すると、
「だがよ、調べると確かに出てくるんだよ。職業は推理小説家って、ネットでだけど」
ネットかよ。
「まさかそいつを調べろなんて言うんじゃないだろうね?」
「ピンポーン正解。だってよーなんか怪しいじゃん?」
はぁ、こいつはいつもそうだ。つかこんなのが刑事部長で大丈夫かよ...
「でもな安城はまだ一冊も出版していないはずなんだよ。なのにそのリーダーの家からは安城の本が一冊出てきたんだ。おかしいだろ?」
「それは確かに奇妙だな...」
「だろ?!こっちでも調べてみるからさ、そっちでも調べてみてよ。ちゃんと報酬は渡すからさ」
「分かった。やろう」
俺は報酬という言葉に弱い。ちなみに俺の座右の銘は”物には対価を”だからな。
だから俺は報酬という言葉に弱いのを知って江釣子は報酬という言葉を出した。
「くっはめやがったな!」
「お前とは長い付き合いだからな、癖なんてお見通しだ!」
「まぁいいがな」
「んで春ちゃんは?」
江釣子は急に話を変える。
「今は、ほれこの前本屋に連れてったろ?あの時に買った推理小説を読んでるよ」
「そうか。春ちゃんの方も分かったら連絡するよ。つか大神に聞けばわかるんじゃないのか?」
「あぁそれなんだが、この前代金渡しに言った時聞いたんだよ。そしたら『あの子については俺もお前と出会ってからしかわからないんだ』って言ってたぞ」
「お前それからかわれてるんじゃ...」
「いややけに落ち込んでたぞ」
「まじか」
大神は何でも知っていなきゃイライラする性格なのだ。
その時16時を告げる時計の音が聞こえる。
「おっとそろそろ戻らんとな。それじゃ頼んだぞ」
「おう」
俺はそう言い資料をまとめ、夜ご飯を作る。
そしてまた今日も「春ーご飯できたぞー」そんな声が響く。
あぁそういえばなんで澤村は金貸しを始めたんだろうか...
気になるな。
そんなもやもやが残る事件だった。
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