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今村ダイ
第4話 ヒーロー
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4月21日(木)
1日の仕事を終え、校門を出たその時だった。1人の女生徒が慌てて校門まで走ってきたのである。
「どうしたんだい? そんなに慌てて」
私がそう声をかけると、女生徒は自分が不良に絡まれたこと、そして、自分を助けるために今村くんが今は絡まれてしまっていることを伝える。
「悪いけど、職員室まで行って他の先生にも知らせて。私はすぐに現場に駆けつけるから」
私はそう言うと、今村くんがいるであろう学生寮への道を全力で走った。程なくして、2人の他校生に絡まれている今村くんを発見した。
「今村くん!」
私が声をかけると、今村くんは痛みで顔を歪めたままこちらを見た。顔には殴られた痕がある。
「君たち、私の生徒に酷いことをしてくれるね。すぐに他の先生方も駆けつける。逃げるんなら今のうちだよ?」
私はそう言って牽制をかけながら彼らの着ている制服を観察し、隣町の高校の生徒であることを確認する。
だが、彼らはひるまずに「俺らもこいつに殴られたんだ。歯がぐらついてやがる」と言ってきた。
「それはありえないね。全財産かけたって構わないくらいだ」
そう言った私の言葉に、他校生たちは私の胸倉を掴み「全財産? だったら、慰謝料払いやがれ」と言ってくる。
「慰謝料払えって言うのなら、一緒に病院まで行こうか」
私はそう言って他校生の手を掴む。ちょうどそのタイミングで、通行人が携帯電話を取り出してどこかに電話をかけ始めた。
それを見た他校生たちは、警察に通報されると思ったのか、慌てて手を離して逃げ出した。
「大丈夫かい? 今村くん」
私は彼らが逃げると、膝をついて今村くんの怪我の具合を確認した。
「これくらい、大したことねーよ」
今村くんはそう言いながらも、辛そうに顔を歪め腹を押さえている。
「腹を殴られたのかい? 他に殴られた場所はない?」
「大丈夫だって言ってんだろ! 女子を逃がした時に一発食らっただけで、後はちゃんと避けたよ」
今村くんはそう言いながら、歩き出そうとする。だが、痛みが走ったのか体が傾く。私は慌てて今村くんの体を支えた。
「おぶさりなさい。念のため、保健の先生に診てもらおう」
「んな、恥ずかしい真似できるか!」
私の言葉に、今村くんは顔を真っ赤にして怒る。
これは怒って真っ赤なのか、照れて真っ赤なのか。よくわからなかったが、それでも私は背中を向けて腰を下ろした。
「ずっと、ここにいても仕方がないでしょ? 下校時間も過ぎてるし、今なら誰にも見られないって」
「下校時間過ぎてるって……。俺も逃がした女子も下校時間だからここにいたんだろうが!」
私の言葉に、今村くんはもっともな意見を言う。確かに、ピークは過ぎているがまだまだ下校する生徒はいるかもしれない。
「わかったよ。じゃあ、保健の先生に来てもらうから、そこの公園のベンチまでだけ身体預けて」
「だから! そんな恥ずかしい真似できるか!」
「ここで私と押し問答しているほうが、よっぽど恥ずかしいと思うけど」
「うっ……」
私の言葉に、今村くんは泣く泣く私の背に身体を預ける。
「よ……っと」
私はしっかり今村くんを支えると、公園へと歩き出す。幸い、公園のベンチまで他の生徒に出会う事はなかった。
「恥ずかしい思いさせてごめんね。すぐに保健の先生に電話するから」
私がそう言って保健の先生に電話をかけると、すでに他の先生と一緒に向かっているとのことだった。
私が電話をかけている間、今村くんは静かに横に座っていた。気になって、声をかけてみる。
「どうした? やっぱり痛む? それとも、無理やり連れてきたことを怒ってる?」
私が質問を並べると、今村くんは首を振った。そして、顔を上げてこう言った。
「そうじゃねぇ。あんたは他のセンコーとは違って、俺のことを信じてくれた。だから、その……サンキュー」
そう言った今村くんの目は、とても澄んでいた。そう、今村くんは悪い生徒ではないのだ。こうして心から感謝の言葉が言える、素直な良い生徒なんだ。
「女の子を助ける正義のヒーローを疑ったりしないさ」
「誰がヒーローだっ」
そう照れながらそう言う今村くんはちょっとかわいらしかった。
その後、救急箱を引っさげてやってきた保健の先生から今村くんの怪我は腹を蹴られた打撲だけだということだった。
幸い、内蔵などにダメージがいくほどではなかったらしく、念のために痛みが続くようならすぐに伝えるということで話は終わった。
保健の先生が触診をしている間にダメージも回復したらしく、今村くんはしっかりと自分の足で学生寮まで帰っていった。
********************
4月28日(木)
「よっしゃー! 明日から連休だぜー!」
今村くんは部活が終わるとそう言って伸びをする。
昭和の日、土曜、日曜と3連休を満喫するつもりらしい。
その後も、月曜は授業があるものの火曜から木曜までゴールデンウィークである。
「月曜が休みなら、7連休だったのにね」
私が何気なくそう言うと、今村くんが悪い顔をする。
「じゃあ、俺、月曜はサボるから」
そして、そんなことを言ってのける。個人的には別に休んでもいいと思うのだが、教師である私の前で言わなくてもいいのに。
そこでふと、今村くんの成績のことを思い出す。
私の授業はそんなことはないが、聞いたところでは授業態度が悪くて全然勉強していないらしい。
「そんなこと言わないで、学校来ようね。というか、授業はちゃんと聞くように」
そう言ってみると、今村くんは私をにらみつける。
「あんたに関係ねーだろっ」
「関係なくないよ。ゴールデンウィークが終わればすぐに中間テストだし。赤点取られても困るし」
今村くんの言葉に、本気で私は困ってしまう。
「赤点取ったって、追試を合格すれば良いだけだろ」
私が困っていることには気づかず、今村くんはそう言ってのける。
「そういう問題じゃないよ。追試の前に補習もあるし。何より追試じゃ内申が悪くなっちゃうこともあるんだから」
私の言葉に、今村くんは慌てて立ち上がる。
「補習? そんなの無理無理。土日は俺は用事があるんだから!」
そう言って、今村くんは私に詰め寄ってくる。
「いや、私に言われても。じゃあ、補習を受けなくてすむようにちゃんと勉強するんだね」
そう言うと、今村くんは下を向いてしまう。
「んなこと言っても……。最近は授業の内容がさっぱりわかんねーんだよ……」
今村くんがぼそっと呟く。うちの学校では最初のうちは中学で習った内容を復習するようにしているんだけどなー。
その辺の授業を聞いていなければ、高校の内容に入ってきてさっぱりわからなくなるという可能性は十分にあるかもしれない。
困った。授業を聞いているかどうかまでは、教師側ではどうしようもないしなぁ……。
「土日は用事がある……と言うことは、ゴールデンウィークなら用事はない?」
「へ? まあ、今のところは遊びに行く予定は立ててないけど」
今村くんは何のことだとばかりにぶっきらぼうに答える。
「じゃあ、ゴールデンウィークに一緒に勉強しようか」
「な、なんでだよっ」
私の言葉に今村くんが慌てる。
「悪いけれど、今のままだと赤点の可能性が非常に高い。ゴールデンウィーク中に授業に追いつけるように勉強しよう」
私の言葉に、今村くんは嫌な顔をする。
「なんで、ゴールデンウィークにまで勉強しなくちゃならねーんだ」
「授業中に真面目に授業を受けてなかったんだから、仕方ないね」
今村くんの言葉に、あっさりと答えてやる。
「ふざけんなよ……。でも、授業についていけてないのは確かだし……」
今村くんは頭を抱えて悩みだす。
「一度、授業に追いついてしまえば、後は普通に授業を受けてればついていけるはずだよ」
私の言葉に、遂に今村くんが折れた。
「わかったよ。ゴールデンウィークに補習すればいいんだろ。その代わり、わかりやすく教えろよなっ」
今村くんはそう捨て台詞を残して、部室を出て行った。う~ん、素直じゃないなぁ……。
1日の仕事を終え、校門を出たその時だった。1人の女生徒が慌てて校門まで走ってきたのである。
「どうしたんだい? そんなに慌てて」
私がそう声をかけると、女生徒は自分が不良に絡まれたこと、そして、自分を助けるために今村くんが今は絡まれてしまっていることを伝える。
「悪いけど、職員室まで行って他の先生にも知らせて。私はすぐに現場に駆けつけるから」
私はそう言うと、今村くんがいるであろう学生寮への道を全力で走った。程なくして、2人の他校生に絡まれている今村くんを発見した。
「今村くん!」
私が声をかけると、今村くんは痛みで顔を歪めたままこちらを見た。顔には殴られた痕がある。
「君たち、私の生徒に酷いことをしてくれるね。すぐに他の先生方も駆けつける。逃げるんなら今のうちだよ?」
私はそう言って牽制をかけながら彼らの着ている制服を観察し、隣町の高校の生徒であることを確認する。
だが、彼らはひるまずに「俺らもこいつに殴られたんだ。歯がぐらついてやがる」と言ってきた。
「それはありえないね。全財産かけたって構わないくらいだ」
そう言った私の言葉に、他校生たちは私の胸倉を掴み「全財産? だったら、慰謝料払いやがれ」と言ってくる。
「慰謝料払えって言うのなら、一緒に病院まで行こうか」
私はそう言って他校生の手を掴む。ちょうどそのタイミングで、通行人が携帯電話を取り出してどこかに電話をかけ始めた。
それを見た他校生たちは、警察に通報されると思ったのか、慌てて手を離して逃げ出した。
「大丈夫かい? 今村くん」
私は彼らが逃げると、膝をついて今村くんの怪我の具合を確認した。
「これくらい、大したことねーよ」
今村くんはそう言いながらも、辛そうに顔を歪め腹を押さえている。
「腹を殴られたのかい? 他に殴られた場所はない?」
「大丈夫だって言ってんだろ! 女子を逃がした時に一発食らっただけで、後はちゃんと避けたよ」
今村くんはそう言いながら、歩き出そうとする。だが、痛みが走ったのか体が傾く。私は慌てて今村くんの体を支えた。
「おぶさりなさい。念のため、保健の先生に診てもらおう」
「んな、恥ずかしい真似できるか!」
私の言葉に、今村くんは顔を真っ赤にして怒る。
これは怒って真っ赤なのか、照れて真っ赤なのか。よくわからなかったが、それでも私は背中を向けて腰を下ろした。
「ずっと、ここにいても仕方がないでしょ? 下校時間も過ぎてるし、今なら誰にも見られないって」
「下校時間過ぎてるって……。俺も逃がした女子も下校時間だからここにいたんだろうが!」
私の言葉に、今村くんはもっともな意見を言う。確かに、ピークは過ぎているがまだまだ下校する生徒はいるかもしれない。
「わかったよ。じゃあ、保健の先生に来てもらうから、そこの公園のベンチまでだけ身体預けて」
「だから! そんな恥ずかしい真似できるか!」
「ここで私と押し問答しているほうが、よっぽど恥ずかしいと思うけど」
「うっ……」
私の言葉に、今村くんは泣く泣く私の背に身体を預ける。
「よ……っと」
私はしっかり今村くんを支えると、公園へと歩き出す。幸い、公園のベンチまで他の生徒に出会う事はなかった。
「恥ずかしい思いさせてごめんね。すぐに保健の先生に電話するから」
私がそう言って保健の先生に電話をかけると、すでに他の先生と一緒に向かっているとのことだった。
私が電話をかけている間、今村くんは静かに横に座っていた。気になって、声をかけてみる。
「どうした? やっぱり痛む? それとも、無理やり連れてきたことを怒ってる?」
私が質問を並べると、今村くんは首を振った。そして、顔を上げてこう言った。
「そうじゃねぇ。あんたは他のセンコーとは違って、俺のことを信じてくれた。だから、その……サンキュー」
そう言った今村くんの目は、とても澄んでいた。そう、今村くんは悪い生徒ではないのだ。こうして心から感謝の言葉が言える、素直な良い生徒なんだ。
「女の子を助ける正義のヒーローを疑ったりしないさ」
「誰がヒーローだっ」
そう照れながらそう言う今村くんはちょっとかわいらしかった。
その後、救急箱を引っさげてやってきた保健の先生から今村くんの怪我は腹を蹴られた打撲だけだということだった。
幸い、内蔵などにダメージがいくほどではなかったらしく、念のために痛みが続くようならすぐに伝えるということで話は終わった。
保健の先生が触診をしている間にダメージも回復したらしく、今村くんはしっかりと自分の足で学生寮まで帰っていった。
********************
4月28日(木)
「よっしゃー! 明日から連休だぜー!」
今村くんは部活が終わるとそう言って伸びをする。
昭和の日、土曜、日曜と3連休を満喫するつもりらしい。
その後も、月曜は授業があるものの火曜から木曜までゴールデンウィークである。
「月曜が休みなら、7連休だったのにね」
私が何気なくそう言うと、今村くんが悪い顔をする。
「じゃあ、俺、月曜はサボるから」
そして、そんなことを言ってのける。個人的には別に休んでもいいと思うのだが、教師である私の前で言わなくてもいいのに。
そこでふと、今村くんの成績のことを思い出す。
私の授業はそんなことはないが、聞いたところでは授業態度が悪くて全然勉強していないらしい。
「そんなこと言わないで、学校来ようね。というか、授業はちゃんと聞くように」
そう言ってみると、今村くんは私をにらみつける。
「あんたに関係ねーだろっ」
「関係なくないよ。ゴールデンウィークが終わればすぐに中間テストだし。赤点取られても困るし」
今村くんの言葉に、本気で私は困ってしまう。
「赤点取ったって、追試を合格すれば良いだけだろ」
私が困っていることには気づかず、今村くんはそう言ってのける。
「そういう問題じゃないよ。追試の前に補習もあるし。何より追試じゃ内申が悪くなっちゃうこともあるんだから」
私の言葉に、今村くんは慌てて立ち上がる。
「補習? そんなの無理無理。土日は俺は用事があるんだから!」
そう言って、今村くんは私に詰め寄ってくる。
「いや、私に言われても。じゃあ、補習を受けなくてすむようにちゃんと勉強するんだね」
そう言うと、今村くんは下を向いてしまう。
「んなこと言っても……。最近は授業の内容がさっぱりわかんねーんだよ……」
今村くんがぼそっと呟く。うちの学校では最初のうちは中学で習った内容を復習するようにしているんだけどなー。
その辺の授業を聞いていなければ、高校の内容に入ってきてさっぱりわからなくなるという可能性は十分にあるかもしれない。
困った。授業を聞いているかどうかまでは、教師側ではどうしようもないしなぁ……。
「土日は用事がある……と言うことは、ゴールデンウィークなら用事はない?」
「へ? まあ、今のところは遊びに行く予定は立ててないけど」
今村くんは何のことだとばかりにぶっきらぼうに答える。
「じゃあ、ゴールデンウィークに一緒に勉強しようか」
「な、なんでだよっ」
私の言葉に今村くんが慌てる。
「悪いけれど、今のままだと赤点の可能性が非常に高い。ゴールデンウィーク中に授業に追いつけるように勉強しよう」
私の言葉に、今村くんは嫌な顔をする。
「なんで、ゴールデンウィークにまで勉強しなくちゃならねーんだ」
「授業中に真面目に授業を受けてなかったんだから、仕方ないね」
今村くんの言葉に、あっさりと答えてやる。
「ふざけんなよ……。でも、授業についていけてないのは確かだし……」
今村くんは頭を抱えて悩みだす。
「一度、授業に追いついてしまえば、後は普通に授業を受けてればついていけるはずだよ」
私の言葉に、遂に今村くんが折れた。
「わかったよ。ゴールデンウィークに補習すればいいんだろ。その代わり、わかりやすく教えろよなっ」
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