【完結】私立せせらぎ学園 〜先生と生徒の恋愛未満な物語〜

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今村ダイ

第1話 入学式

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4月7日(木)

 けやき市――。
 県の中心部から1時間くらい離れたその町は、中心部に比べればまだ静かな町だった。
そんな町に、一つの学園がある。

 私立せせらぎ学園――。
 不登校の生徒の受け入れを謳い文句にしているこの学園には、県のあちらこちらから不登校の生徒が集まっていた。
私立なので決して費用は安くないにも関わらず……である。それだけ、今の時代には不登校の生徒は多いということだろう。

 また、遠方からわざわざこの学園のことを聞きつけてやってくる子どももいた。それ故、寮設備もきちんと用意されている。
学生寮とは別に教師用の寮も存在しており、休日にもかかわらず教師の部屋に遊びに行く生徒もいる。
それは教師にとっては負担であるはずなのだが、この学園ではそれを嫌がる教師は少なかった。

 寮に入るということはそういう負担もあるということを事前に知った上で入居しているからだ。
 そして、それでも一定数の教師が寮に入っているのは、教師に生徒を支えたいという意識が強いということなのかもしれない。

 私、小川《おがわ》タカヒロもそんな教師になろうとする一人だ。
 けやき市に住んでいながら、生徒と触れ合う時間を増やしたいためにわざわざ教師用の寮に入った、人からは「変わり者」と言われてしまう分類の人間だ。

「さて、今日は入学式。新しい生徒たちが入ってくるんだな。先生方の話だと、新入生は物凄く緊張してるって言ってた。顔を会わせたときには、ちゃんと笑顔で接しよう」

 私は手早く身支度を整え、学校へ向かって歩き出した。寮から学校へ続く並木道には、満開の桜が咲き誇っていた。

「見事な入学式日和だなぁ。やっぱり、入学式といえば桜だよな」

 私はそう一人で呟きながら桜並木を歩いていた。
 そして、校門で一人の生徒と出会うことになるのだが、それはまた別のお話である。

********************

4月8日(金)

 今日は始業式。
 2年生や3年生にとっては、今日が始まりの日だ。私は新しく赴任した教師の一人として、軽い挨拶をする場があった。

「小川タカヒロです。現代文の教師で、基本的に1年生の授業を見ることになります。ですが、2年生や3年生のみんなも気軽に話しかけてくれると嬉しいです」

「後は……そうだなぁ。教師用の寮に住んでいるので、休みの日に用がある人は寮まで来てください。まだ若干、引越しの荷物が残っていますが歓迎します」

 私はそう挨拶すると、頭を下げて自分の席に戻った。相変わらず、自己紹介というのは苦手だ。
 自己を紹介する……なんて言っても、自分がどんな人間なのか、言葉にするのは難しい。

 「私は優しい先生です」なんていうわけにもいかないしなぁ。
 しかし、今まで受け持った生徒からは「優しい」とか「お母さんみたい」という評価を貰っていた。

 反面、教師仲間からは「甘い」と言われていたが。「優しい先生」は得てして「甘い先生」になりがちだから気をつけないとなぁ。
 月曜からもしばらくは自己紹介をする場面があるだろう。少し、自己紹介の練習をしておく必要があるかもしれない。
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