6 / 10
今村ダイ
第1話 入学式
しおりを挟む
4月7日(木)
けやき市――。
県の中心部から1時間くらい離れたその町は、中心部に比べればまだ静かな町だった。
そんな町に、一つの学園がある。
私立せせらぎ学園――。
不登校の生徒の受け入れを謳い文句にしているこの学園には、県のあちらこちらから不登校の生徒が集まっていた。
私立なので決して費用は安くないにも関わらず……である。それだけ、今の時代には不登校の生徒は多いということだろう。
また、遠方からわざわざこの学園のことを聞きつけてやってくる子どももいた。それ故、寮設備もきちんと用意されている。
学生寮とは別に教師用の寮も存在しており、休日にもかかわらず教師の部屋に遊びに行く生徒もいる。
それは教師にとっては負担であるはずなのだが、この学園ではそれを嫌がる教師は少なかった。
寮に入るということはそういう負担もあるということを事前に知った上で入居しているからだ。
そして、それでも一定数の教師が寮に入っているのは、教師に生徒を支えたいという意識が強いということなのかもしれない。
私、小川《おがわ》タカヒロもそんな教師になろうとする一人だ。
けやき市に住んでいながら、生徒と触れ合う時間を増やしたいためにわざわざ教師用の寮に入った、人からは「変わり者」と言われてしまう分類の人間だ。
「さて、今日は入学式。新しい生徒たちが入ってくるんだな。先生方の話だと、新入生は物凄く緊張してるって言ってた。顔を会わせたときには、ちゃんと笑顔で接しよう」
私は手早く身支度を整え、学校へ向かって歩き出した。寮から学校へ続く並木道には、満開の桜が咲き誇っていた。
「見事な入学式日和だなぁ。やっぱり、入学式といえば桜だよな」
私はそう一人で呟きながら桜並木を歩いていた。
そして、校門で一人の生徒と出会うことになるのだが、それはまた別のお話である。
********************
4月8日(金)
今日は始業式。
2年生や3年生にとっては、今日が始まりの日だ。私は新しく赴任した教師の一人として、軽い挨拶をする場があった。
「小川タカヒロです。現代文の教師で、基本的に1年生の授業を見ることになります。ですが、2年生や3年生のみんなも気軽に話しかけてくれると嬉しいです」
「後は……そうだなぁ。教師用の寮に住んでいるので、休みの日に用がある人は寮まで来てください。まだ若干、引越しの荷物が残っていますが歓迎します」
私はそう挨拶すると、頭を下げて自分の席に戻った。相変わらず、自己紹介というのは苦手だ。
自己を紹介する……なんて言っても、自分がどんな人間なのか、言葉にするのは難しい。
「私は優しい先生です」なんていうわけにもいかないしなぁ。
しかし、今まで受け持った生徒からは「優しい」とか「お母さんみたい」という評価を貰っていた。
反面、教師仲間からは「甘い」と言われていたが。「優しい先生」は得てして「甘い先生」になりがちだから気をつけないとなぁ。
月曜からもしばらくは自己紹介をする場面があるだろう。少し、自己紹介の練習をしておく必要があるかもしれない。
けやき市――。
県の中心部から1時間くらい離れたその町は、中心部に比べればまだ静かな町だった。
そんな町に、一つの学園がある。
私立せせらぎ学園――。
不登校の生徒の受け入れを謳い文句にしているこの学園には、県のあちらこちらから不登校の生徒が集まっていた。
私立なので決して費用は安くないにも関わらず……である。それだけ、今の時代には不登校の生徒は多いということだろう。
また、遠方からわざわざこの学園のことを聞きつけてやってくる子どももいた。それ故、寮設備もきちんと用意されている。
学生寮とは別に教師用の寮も存在しており、休日にもかかわらず教師の部屋に遊びに行く生徒もいる。
それは教師にとっては負担であるはずなのだが、この学園ではそれを嫌がる教師は少なかった。
寮に入るということはそういう負担もあるということを事前に知った上で入居しているからだ。
そして、それでも一定数の教師が寮に入っているのは、教師に生徒を支えたいという意識が強いということなのかもしれない。
私、小川《おがわ》タカヒロもそんな教師になろうとする一人だ。
けやき市に住んでいながら、生徒と触れ合う時間を増やしたいためにわざわざ教師用の寮に入った、人からは「変わり者」と言われてしまう分類の人間だ。
「さて、今日は入学式。新しい生徒たちが入ってくるんだな。先生方の話だと、新入生は物凄く緊張してるって言ってた。顔を会わせたときには、ちゃんと笑顔で接しよう」
私は手早く身支度を整え、学校へ向かって歩き出した。寮から学校へ続く並木道には、満開の桜が咲き誇っていた。
「見事な入学式日和だなぁ。やっぱり、入学式といえば桜だよな」
私はそう一人で呟きながら桜並木を歩いていた。
そして、校門で一人の生徒と出会うことになるのだが、それはまた別のお話である。
********************
4月8日(金)
今日は始業式。
2年生や3年生にとっては、今日が始まりの日だ。私は新しく赴任した教師の一人として、軽い挨拶をする場があった。
「小川タカヒロです。現代文の教師で、基本的に1年生の授業を見ることになります。ですが、2年生や3年生のみんなも気軽に話しかけてくれると嬉しいです」
「後は……そうだなぁ。教師用の寮に住んでいるので、休みの日に用がある人は寮まで来てください。まだ若干、引越しの荷物が残っていますが歓迎します」
私はそう挨拶すると、頭を下げて自分の席に戻った。相変わらず、自己紹介というのは苦手だ。
自己を紹介する……なんて言っても、自分がどんな人間なのか、言葉にするのは難しい。
「私は優しい先生です」なんていうわけにもいかないしなぁ。
しかし、今まで受け持った生徒からは「優しい」とか「お母さんみたい」という評価を貰っていた。
反面、教師仲間からは「甘い」と言われていたが。「優しい先生」は得てして「甘い先生」になりがちだから気をつけないとなぁ。
月曜からもしばらくは自己紹介をする場面があるだろう。少し、自己紹介の練習をしておく必要があるかもしれない。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
平々凡々に芸能人と
ルルオカ
BL
平々凡々な日々を送る、平々凡々な高校男児のはずが、友人は地元のスターであり、全国的に顔と名が知れた芸能人。どうして、釣り合わない関係が長つづきしているのか、自分でも不思議がりつつ、取り立てて何が起こるでもない日常を、芸能人と過ごす男子高生の話。
カップリングが曖昧で、青春物語っぽくありながらも、一応BL小説です。
※昔、二次創作で書いたのを、オリジナルに直したものになります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
僕にそのスイッチを切らせてください
まゆゆ
BL
長らくDom×subユニバースを見てて…
これを、いつかエ○の少ないライト系BLにしたい!
と無謀な構想を練り始め…
書いて消してを繰り返し…
出来上がったのが、スイッチ性を持つの高校教師でもある 見能 宙 (ミノウ ヒロ)と Dom性を持ちながらも、Domの性質に悲観的な考えを持つ 続木 集 (ツヅキ シュウ) の2人が、考える関係性にしたかったと、して書きましたが…
書いている途中も、書き上げている途中も…題材が、難しかった…
本当のDom×sub好きの方達からすると…物足りないと、言われるかもしれません…
表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる