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2章

2-14 カウナス家

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新たな使用者が欲しいとおねだりをしたのだが、男は嫌だと言ったら厳しいと言われた。
まぁ、普通に考えても戦いは男の仕事だよな。
ましてや、6年ぶりに出産可能の年となった。
女の幸せのためにみんな恋に励んでおり、わざわざ鎧を着てダンジョンに行こうって人間はいないらしい。
そうだよな・・・失敗したよ。
ましてや、合体したら問答無用で死ぬ可能性があるのだから、そりゃ着ようという人間がいるほうがおかしい。

「わたしが着ます」

妹ちゃんだった。

「いや・・しかし・・」
「貴女様だって領地を監督する領主なんですよ?」
「万が一のことがあった時、姉妹そろって犠牲にするというのは・・・ちょっと・・・」
「問題ですな」
「外聞が悪い」

うん、せめて安全が担保されてからの方がいいと思うよ。

「それにあの胸はさすがに入らないのでは・・・」
「特注品でもないと無理じゃろうな」
「おっぱいおっぱい」
「・・・もげればいいのに」

おい、最後の二人は誰だ?
MPさえ回復すれば鎧のデザインは変えられることは書いておこう。

「姉の結末は自ら見届けないと納得できません。
幸い、その機会はここにあります。
それにどのみち選択肢がありませんの。
姉も叔父も今回のことで亡くなってしまいましたもの。
くろがねさんの協力なしに、ダンジョン探索の義務を果たすのは困難になっています。
うちの領地に軍を維持する金も支度金を用意することも不可能ですし」

「いや今回のテレサ殿の果たした功績は大きい。
報奨金は出るから数年はその金でダンジョン探索の義務は果たせるはずじゃ」

んん?
数年先延ばしにしても意味ないんじゃ・・・?

「それにくろがねさんは姉の形見の品ですからそばに置いておきたいんです」

「そこは・・・くろがね殿が考えることじゃのう・・・」

ん~~なんか違和感があるなぁ。
この人が言葉に詰まるなんて珍しい。
辺境伯を指さして「何を隠しているんですか?」と書いてみた。

「いや・・・別に・・・隠しているわけでは・・・」

「あなた、疑惑をもたれている以上ははっきりと理由を述べたほうがいいですわよ?」

辺境伯夫人に水を向けられて観念したようだ。

「は~~~、仕方あるまい。
現状ではまだくろがね殿はカウナス家の物という扱いなのだ」

あれ?
妹ちゃんの家の物って俺はどういう扱いになる予定だったの?

「普通、叙爵アイテムは王家の物よね?」
「王家で半ば強引に買い取っておるな」
「まぁ、カウナス家は借金だらけだから・・・」
「・・・周囲も人道的にも貸さないわけにはいかなかったし」
「王家負担の借金を相殺してプラスお小遣いってところか」
「金額的には妥当だな。財政的にもどうせ返ってくるあてのなかった金だ」
「腹は痛まんだろうな」
「そう、契約はなされ丸く収まる予定じゃった。
だが、まだ正式な契約はされていない。
額が額じゃからな・・・さすがに展開が早すぎた」

そういえば妹ちゃんの家は借金が相当すごいんだっけ?

「カウナス家は同情すべき点が多いな」
「領地の大半をダンジョンに居座られちゃいましたからね」
「領民を借金してまで救出した手腕はお見事でしたが」
「耕す畑がなくなってしまったからのう」
「税を納められない領民ばかりいても財政は助からんからなぁ」

えっと・・・どういうこと?
だれか説明して。

「簡単に説明いたしますわね」

辺境伯夫人が理解できていない俺のために教師役を買って出てくれた。
横長の楕円を書いてカウナス領って書かれた。

「北方に山が2割、南方に平地が7割ってところだったはずです。
農耕が盛んで小麦の有名な産地でしたわ」

山に川に平地と確かに農業には向いた地形に見えるな。

「ですが、ある時ここに地下から大型のダンジョンが出てきました」

と言って平地のほとんどを横切るようにさっきの楕円よりもう少し細めの横長な楕円を書いた。
平地と言っていたところのほとんどをダンジョンで覆われてしまった。

「ダンジョンは瘴気を放ち、この世のものを拒絶します。
草も生えません。
小麦色の畑が不毛の山脈になり、住民はダンジョン山脈の各所に取り残されました。
彼らを保護して他領に逃がしたんですのよ。
それ自体は立派なことですし国も周辺の領主も同情しお金を融資しましたが、返済能力は当然のように失われてしまっていて・・・」

なるほど。
志は立派だが、金を貸した貴族から見れば借金は返してほしいよな。
でも、返済能力がないのは明らかだし、事情も事情だから責めることもできないと。

「特に気の毒なのはダンジョンの入り口」

入り口?
疑問に思っているとカウナス領と書かれた楕円の隣にもうひとつ円をつなげる。
そして、アルマトゥイ領って書いた。
さっき書いたダンジョンと書かれた楕円はカウナス領をわずかにはみ出しており、そこはアルマトゥイ領と書かれた円の中にはいている。

まさか・・・

そこにダンジョン入り口と書き足される。

「ダンジョンの外殻は不毛の地ですが、ダンジョンの入り口は冒険者や貴族、騎士が集まるのでモンスターの氾濫などの危険はありますが豊かな街になるんですのよ」

テレサはいろいろな意味で運が偏っていないか?
ヴィストブ・ゲルタニィに出会ったり俺に出会ったり、こんな領地に生まれたり奇運の星の下に生まれた人だったんだな。

「そんなわけで悪意はないんじゃよ。
カウナス家は借金が減り少額とはいえ資金が手に入る。
くろがね殿は貴族の仲間入りじゃ。
モンスターとはいえ、そうなれば王家の保証付きじゃからな。
テレサ殿のこともあるし足の引っ張り合いでダンジョン探索が滞るのは避けたかったのじゃ」

えっと・・・つまり??

「現時点で鎧ちゃんをどうするかの決定権はカウナス家当主のクリスティーナちゃんが持っているのよ。
この人としてはテレサちゃんみたいなダンジョン探索に役立つ人材を使用者にしてダンジョン探索を進めたいの。
でも、クリスティーナちゃんは若いし優しいから戦士向きではないし、鎧ちゃんが嫌がることを無理強いできないと思うのよ。
その点は鎧ちゃんにとって都合がいいと思うけど、この人の心配も馬鹿にできないのよ。
王家の叙爵宝具なら手を出すバカはいないけどただの魔道具なら騙したり盗んだり言いがかりをつけてでも手に入れたがる人が出てきそうなのよ。
借金だらけで世間知らずなお嬢様のクリスティーナちゃんに海千山千の連中の相手ができると思う?
鎧ちゃんはそういう連中が群がるだけの価値がある魔道具よ」

おお?
俺は意外と高評価?
それなら俺が叙爵宝具だっけ?になってから妹ちゃんを選べばいいのでは?

「ええ、そうね。
でもそれはダンジョン探索が生きがいのこの人にとっては最適解ではないのよ」

ああ・・・テレサがいる時、俺も同じこと考えたもんな。
前衛と後衛が合わさってもオールラウンダーにはなっても強力な戦力にはならないって。
まぁ、ダンジョン探索を避けられるならそれでもいいのだろうけど。
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