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18 怪獣大戦争

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前門の中ボス後門のスカルベンジャー。
作戦のようだが、絶体絶命のピンチ。
絶対これ作戦ミスだろ!!

大体、2匹とも命中の数値と筋力の数値が馬鹿げて高い化け物だ。
鑑定で見た数値上はいくら合体していてもあいつとスカルベンジャーの範囲攻撃は避けきれない。
ゲームなんかでは大型の怪物を狩るのは一般的だが、一撃必殺ではないし回避中の無敵とかちゃんと勝てるようにシステムが作られている。
では、この現実はどうか。
あんな鑑定の能力値だけで実際の性能を示しきることはできるわけがない。
筋力といっても色々な筋肉があるし、防御力といっても色々な硬さや丈夫さがある。
あんな少ない項目で全性能を示せるわけがない。
だから、命中の数値がいくら高くても何か避ける方法があるとはおもうが、分が悪いのは間違いないよな。

「▲☆◎!!!!」

商人さんの怒鳴り声を合図に全員が中ボスに向かっていった。
それを追うようにスカルベンジャーも来る。
先頭の人間が石壁の穴に差し掛かった時、中ボスが動いた。
反時計方向に回していた鉄球を投げたのだ。
中ボスの攻撃は俺たちよりもはるか先の左手方向の壁にぶち当たり、鉄球はあっさりと石壁を砕き鎖は石壁を斬りながら鉄球を俺たちの方へと走らせた。
障子紙じゃねえんだぞ、石壁は!!!!
破壊音で耳がおかしくなりそうな轟音のなか、全速力で走り石壁の穴をくぐってスライディングする。
鎖が地上1mの高さで通り過ぎる。
そのまま鉄球は別の場所の石壁を吹き飛ばし中ボスの上空へと戻り再び反時計回りで回転し落ちた回転速度を再び上げていく。

12人全員が無事とはいかなかった。
1人が鎖で斬られ、1人は消えた。
鉄球に擦りつぶされたのか石壁に潰されたのか、どこかにはじかれたのか、それは確認していない。
ただ、いなくなった。

商人さんが何やら叫び、全員が起き上がり中ボスに向かおうとする。
だが、全員が動けたわけではない。
極度の緊張状態は痛覚を感じさせないことがある。
起き上がれないことでやっと気が付くことができたのだ。
起き上がれない人間は飛来した大きな石によって足が砕かれ明後日の方向を向いていることに今気づいた。
獣は本能からか転がる肉よりも動きのおかしい動物から襲う。
スカルベンジャーの敏捷性が低いのは残酷だ。
避けられない死が迫っていることが分かっていてもただ見ていることしかできないのだから。
知り合いが恐怖におびえもがき逃げまどいながら食われるのを見ているしかできないのだ。

たった数m進んだ。
それだけで2人が死に1人は行方不明だ。
商人さんが叫び声をあげながら中ボスに向かって走っていく。
テレサも続く。
他の冒険者たちも続く。
手に持つのは武器ではなく、捌いたオオカミの肉。
いや、これこそが武器。
スカルベンジャーを誘うための武器。
だからこそ途中で足を止めてはならない。
途中で死んではならない。
死ねばスカルベンジャーが食事のために足を止めるから。

再び、中ボスが鎖を走らせる。
やはり、また鉄球による薙ぎ払い(鉄鎖術の戦技「砕薙ぎ」だろう)が来た。
今度は半径が短く石壁まで届かない。
それにより先程よりもいくらか早いが、一度見た技であり壁の穴をくぐっている最中でもない。
誰も被害を受けなかった。
また、今の技を見てみんなまっすぐ中ボスの向かう方法から弧を描くように渦巻き状に反時計方向に回り込むように走り出した。
技の出始めより途中の方がタイミングが読みやすいからな。
速度の関係上、テレサが圧倒的に早く中ボスの迫っていた。
それが目障りだったのか、今度は直線的にテレサに向かって鉄球が飛んできた。
だが、中ボスまではまだいくらか距離がある。
銃弾のように目にも見えない速さではない。
範囲が広く避けにくいといってもこの距離ならなんとか躱せる。
外れた鉄球がテレサのいた位置の石畳を砕き地面に沈み込む。
衝撃で周囲の石畳も浮き、地面が露出する。
そのあとに続く、鎖が浮いた石畳を砕き大蛇のように踊る。
その舞い踊る鎖に向かってテレサは剣を突き下ろした。
もちろん、こんな攻撃でテレサの腰回りほどもある鎖が一気に切れることはない。
だが鎖には当然穴があり、テレサはその穴を通し鉄球を地に縫い付けたのだ。

へ??

中ボスが鉄球を引く力に剣が悲鳴を上げる。
しかし、この剣は俺の一部にして半ば魔剣化している。
俺が死ぬまでこの剣は砕けない。
中ボスが鉄球を引くたびに俺のHPが削られるのだ。
それはもうガシガシと。
ぎゃ~~~死ぬ死ぬ!!!
しかもMPがないから意思疎通もできない!
合体している俺たちのHPは283ある。
剣は丈夫なので防御力は高いほうが適用されているはずだ。
ひょっとしたらそれ以上に高い可能性が強い。
にもかかわらず引かれるだけでHPは200以上削られた。
そのことに気付いたのか、テレサは死んだ仲間の形見のバスタードソードを取り出して俺の剣の前で鎖を縫いとめる杭として使い俺は剣を抜いてくれた。
でも、なんでテレサはHPが減っているの気づいたんだろう?

攻撃がテレサに向かっている間に、みんなは中ボスに近づく。
そしてある程度近づいたところで肉を中ボスに向かって投げた。
商人さんに至っては中ボスの近くでマジックボックスから取り出して肉の山を築いた。
そして死んだ仲間を食らったスカルベンジャーは破れた壁の隙間を押し広げやってきた。
餌につられ、スカルベンジャーは我々から見て左手、中ボスからみて右手からやってきた。
そして、テレサが鎖を抑えたため無防備になっている右肩にその大口を食い込ませた。

金属同士がぶつかり合うような音が響く。
中ボスの右肩から延びる太い鎖は2匹の怪物の力に引かれ、砕け散った。
形見のバスタードソードも剣の中腹からあっさりと千切られた。
あ・・・危なかった。
あの丈夫なバスタードソードが千切られるってありえねぇよ。
中ボスはかみついたスカルベンジャーを振りほどかんとするが、力だけならスカルベンジャーのほうが強い。
ましてや片腕を失った中ボスに簡単に振り払われるスカルベンジャーではなかった。
噛み千切らんばかりに中ボスを振り回そうとする。
しかし、ダンジョンから生えている中ボスが振り回されることはなかった。
中ボスは左腕の鉄球を振り回し、下から突き上げるようにスカルベンジャーに鉄球を叩き込んだ。
大木が倒れるような破砕音と共にスカルベンジャーが一瞬浮いた。
退化した小さな右腕はひしゃげ体に埋まった。
体には鉄球の形にクレーターができ骨が体を突き破り血をにじませていた。
それでもスカルベンジャーを食いちぎらんばかりにさらに牙を食い込ませる。
それに対し、中ボス=ヴィストブ・ゲルタニィは首を蛇のように伸ばし頭部の鉄球をスカルベンジャーの頭頂部へと叩き込んだ。
スカルベンジャーの頭がひしゃげその生命を終えた。
しかし、スカルベンジャーの執念かヴィストブ・ゲルタニィの失策か。
スカルベンジャーの牙の形にヴィストブ・ゲルタニィは右半身をえぐられたのであった。

『経験値2000、魂魄62を取得しました』
『最大HPが8 最大MPが1 筋力が4 敏捷が4 命中が4 防御が2 抗魔が1 アップしました』
『HPとMPが回復します』
『最大HPが8 最大MPが1 筋力が4 敏捷が4 命中が4 防御が2 抗魔が1 アップしました』
『HPとMPが回復します』
『最大HPが8 最大MPが1 筋力が4 敏捷が4 命中が4 防御が2 抗魔が1 アップしました』
『HPとMPが回復します』
「▽☆◎★◆!!」
『最大HPが8 最大MPが1 筋力が4 敏捷が4 命中が4 防御が2 抗魔が1 アップしました』
『HPとMPが回復します』
『最大HPが8 最大MPが1 筋力が4 敏捷が4 命中が4 防御が2 抗魔が1 アップしました』
『HPとMPが回復します』

く~~~~っ!!!
「きゃぅ~~~~ん!!!・・ンはぁ・・はぁ・・・はぁ・・・」
うめぇ~~~!!!
なにこの芳醇な魂!!
共闘扱いでこんなにうまい魂が食えるのかよ??
さすがスカルベンジャー、レベルアップを告げる神の声が鳴りやまねぇ。

あれ?なんかすごいエロい声がテレサから聞こえたような???
勘違いか?
でも、なんか口抑えてなんか咳き込んだように「ンンッ!ンンッ!」と言っている?
風邪かな?

ってあれ?なんか商人さん叫んだ?
あれ?そういえば神の声のレベルアップ時にも叫んでいたような・・・。
その叫び声に合わせ、一人を除き全員が入ってきた左側ではなく妹さんたちが行方をくらませた右側に逃げ出した。
俺たちの入ってきた左側からは落とし穴の上に石弓と小型の投石器を並べ、脱出の手助けとなる攻撃をしてくれている。
だから危なくて向こうには逃げられないともいうが。
逃げなかった一人というのは俺ではないからね。
商人さんの所の人。
彼はなんと危険を冒してスカルベンジャーの死体を回収したのだった。
中ボスことヴィストブ・ゲルタニィは大ダメージによって怒りゲージがたまり発狂モードにでもなったようなアクションをしていた。
赤黒いオーラが立ち上っているし鉄球にトゲが生えた。
そんな状況下で足元でモンスターの死体回収。
・・・無茶しやがって。
回収後、必死で逃げるが一番最後になったのは当然の結果であった。
何とか手の届かない程度の距離を取ったのだが、左手の鉄球も鎖が伸びてきて分銅スタイルに変わった。
これではまだまだ射程範囲だ。
だが、テレサが剣を抜き鉄球が男を狙って投げられる瞬間を待つ姿勢を見せたことによりヴィストブ・ゲルタニィは攻撃に踏み切らなかった。
再び鎖を縫いとめられるのは避けたかったのだろう。
鉄球を左手に戻し、地面を叩いて憤慨している。
うん、とても怖い。
戦いたくないからさっさと逃げよう。
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