上 下
25 / 27

もう一人の来訪者 ???視点

しおりを挟む
 ちょっと不味いかな。
 あいつ、弱いくせに突っ込みすぎだろ。
 せっかく主が悪巧みしながらみんなの配置を調整していたのに。
 なんでいきなりさくらの所まで一直線に来るのかなぁ? もっと大喰らいの所とか最強の樹の所とか他に行くとこあるだろ! 
 主が殺さないギリギリ位までって言ってたのにこのままだとすぐに殺されるぞ。

 てかそもそもコークの奴、またあの暗くて狭い部屋に篭って”げーむ“ばかりしている。
 きっとあいつは根っからの”ひっきー“ってやつなんだろうなぁ。それでも主の言う事は絶対だろうが。
 主も何故か「仕事の一環」とか言って容認してるけど俺は許さんぞ。
 なんのために第一階層を任されているんだよ。

 あのさくらだってちっこいのにちゃんと手伝ったりしているのに、コークの野郎、最近は画面越しでしか会ってない。
 まあ助かった時もあったけど、前見た時なんか「遠隔操作で侵入者をぶっ殺せば良いじゃん。絶対にボクは部屋から出ない!」って言ってたし絶対にダメな方に偏って行ってしまっている気がする。

 しかも結局はあいつが来てから殆ど何もしないで、「CDが間に合わなかったから今回はパスで!」とか言ってふて寝してるし。
 コークはなにを考えているのか全くわからない。
 ついつい思わず小さな溜息が漏れてしまった。
 
「どしたー? ため息なんかついちゃって、らしくないなぁー?」

 主はいつの間にか本を閉じていた様で、軽いノリで聞いてきた。
 よく見ると主の持っている本から桜の模様が頭を出していた。
 狐模様の栞が近くにあったのにそっちを使うなんて、最近は桜模様の栞が気に入っている様だ。いつの間に取ってきていたんだろう? 
 てゆうかそんな事よりよく今のが聞こえたな。
 隣で寝転んでいるフェイですら気付いてないのに。
 その聴力を是非とも日常でも活かしてほしいものだ。

「主、いろいろ計画が狂ってきてるけど本当に大丈夫か?」
「大丈夫、ではないね。もうあいつが死なない様にする必要はないよ。」

 主は焦ってるのか、少し食い気味だった。 前に主は死なない程度にって言ってたのにな、まあ主がいいって言うのなら良いんだろう。

 じゃああいつに会った時は手加減しない方がいいかな。
 会った時には少しでも歯ごたえがあるやつになっていると良いんだけど。
 でも、もしかしたら先にさくらに殺されてるかもな。
 さくらは俺らと比べて桁違いで成長速度が速いし一番将来有望な奴だからな。
 まったく、ガキの成長は怖いよ。

 でも、そのさくらに勝ったら良くなると思う。
 さっきまで見ていた感じ、あいつは実戦で死にかけながら成長していくみたいに見えたし。
 前の戦闘の時なんて血まみれでニヤついてたしな。あいつって、もしかしてドMだったりする? まあどうだって良いか。

 出来ればあいつには是非とも生きていて欲しい。俺と種族的に似ているし、俺にとっては初めての客だし。
 でも、戦うとなれば全力で殺しに行くがな。

「大丈夫、会った時にはぶっ殺しちゃって」
「了解」

 やっぱり何かに焦ってる様に見える。今日の主は何かおかしいな。

「今日はどうかした?」
「ああ、そういえば言ってなかったね、お客さんがもう一匹来た」

 と主は神妙な面持ちで言った。

「しかも二匹目はおそらく、かなり凶悪でだからもしかしたら全員殺されるかも、幸いにも進行速度は遅いけど、一匹目にあらかた片付けられているせいで、足止めがすぐには出来ない。だから進行を遅らせる為にも早めにやっちゃった方が良いって感じ」

 主はそう言って迷宮の地図が映っているボードを出した。
 久しぶりに見たなこれ。
 え~と、迷宮内で今の状況が見える地図だったっけ?、形がステータス画面と似ているから分かりづらいな。
 そいつ、今は”びょういん“の鎧兄弟のいるホールか。
 鎧兄弟は確かに復活するまでまだ時間が掛かるみたいだな。
 それと狼のあいつはどうやら、もうさくらに接触してるな。
 弱いくせに無駄に行動は速い。

「そういえばあいつらのことなんて呼べば良いかな?」

 わりとあいつの事をあいつって呼ぶのもなんかめんどくさいし、なんか呼び名を付けた方がいいんじゃないかな。
 二人も出てきて呼び分けるのがムズい。

「うーん、そもそも私達が本人の許可無く決めちゃって良いのかな?」
「いいでしょ、俺だったらあいつ呼びの方が嫌だぞ」

 主は地図を閉じて、少し黙ってから言った。なんで今のに少し考えた? 
 少なくとも俺はあいつそいつと言われる方がイヤだし、名前とまではいかなくてもあだ名みたいなので呼ばれる方がいいな。主は何かが引っ掛かっているみたいで、乗り気では無さそうだ。

「確かに、じゃあフェンが決めたら? 種族も近いし」

 若干主の目が泳いでいる。もしかして主、名前決めれない?
 こちらの考えている事が分かったのか、主の肩が跳ねた。

「う……、だって私ネーミングセンス無いもん。そこのフェイだってフェイクキャットだからフェイ、とかそんなのしか付けられないもん、無理! フェンがやって!」

 とうとう白状した。
 でも、覚え易いし分かり易いから変な所を取らなければ全然ありだと思うけども主は気に食わないらしい。
 主がこうなったら意地でも意見を譲らないし、仕方ないか……。
 あいつは、狼系統なのはわかるけど、種族って何だろう? 主ならわかるか。
 主に聞いてみると、視線が心なしか鋭くなった気がしたけど、さっきの地図のボードをいじって調べてくれてる。

「先に来た方がクリスタルウルフ、さっき来たのが……人族? なにか違和感を感じるけど、そう出たよ」
 
 ふーん、違和感の所が気になるな。
 そうしたら考えられるのは鑑定偽装か、精神操作、もしくはただの主の気のせいかって所だけど、主のレベル的に有り得ないからやっぱり主の気のせいかな。
 もしくは考えられないけど主のレベルを上回っているのかも。
 ……流石にそれは無いか。

 まあひとまず、名前を決めちゃおう。
 あいつはクリスタルウルフだし、クリスで良いかな。
 それともう一人はどうしよう、人族だとどこも切り抜けないな。
 とりあえずあいつはクリスで良いか。
 とりあえずクリスで良いのか聞いてみると、主がなんとも言えない目でこちらを見てきた。

「それじゃあ私と変わらないじゃんか! 私はそうじゃなくて種族名以外で決めたかったんだよ!」

 いきなり主が大きめな声を上げた。そんな事を言われても、そんなにそいつらの事は知らないからなぁ。それ以外には特になにも思い浮かばない。

「フェンも私と一緒でネーミングセンス無かったんだね……。じゃあ、もう仕方ないから『にばんめ』と『さんばんめ』って呼ぶ事にしといて、それでもっと良い名前が出てきたらそれに変えるって事で良いんじゃない?」

 それもそれでどうかと思うけど、それ以外は思い浮かばないわけだし、妥協案としてはいいかな。いや、良いのか? まあ主が良いなら良いか。でもなんで二番目からなんだろう?

「二番目からなのは、まだフェンが生まれていない頃にも一度、来訪者が来た事が有ったんだよ。そいつは人族だったから、ヒトって種族名で呼んでいたけど、そいつも名前が未定だったから、そいつも含めていち、に、さんばんめって感じ。」
 
 確かに主は俺らが生まれていない頃にも来訪者が来ていて、その時は迷宮自体が壊滅寸前にまで追い込まれたとかよく言っていた。種族名は初めて聞いたけど、あまり強そうではないな。

 前回の二の舞いになってしまわぬ様にも今回の来訪者には全力で当たろうじゃないか。
 にばんめ、さんばんめ、どちらにもこの迷宮ダンジョンは攻略させない。
 今度は絶対に。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

処理中です...