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あなたと一つに
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建吾さんに抱き上げられて寝室に運ばれた私は、そのままベッドの上に囚われた。
「んっ……」
温かい唇が重なる。唇の間から舌が私の中に入り込んできた。
「ん、んんっ、は……んっ」
逞しい首筋に両腕を回して、もっともっとと口を開けた。歯茎を舐められるのも、舌を吸われるのも、唇を舐められるのも、そのどれもが痺れる程気持ちがいい。
(あたた……かい)
大きな手がパジャマの裾を捲り上げ、露わになった肌に直接触れてくる。両方の胸を包み込んでいる手のひらが、熱い。
「んあっ、ああっ」
盛り上がった柔らかな肉に、長い指が沈み込む。膨らみ全体を揉まれた後、彼の手のひらが乳房を下から持ち上げるように動く。優しい動きに、唇から喘ぎ声が漏れた。
「ありさ」
「っ……!」
左耳へ移った唇から囁かれる甘い声に、肌が震えてしまう。
(私の……名前)
紛れもなく、自分の名前。それが熱を帯びた声で呼ばれてる。
「け、んごさん……」
涙が次々と零れ落ちた。その涙を、建吾さんの唇が優しく受け止めてくれる。私に触れる指も唇も堪らなく優しくて、涙が止まらなくなりそう。
(こんなに……こんなに嬉しいもの、だったのね……)
好きな人が自分の名を呼んでくれる事が。それだけで、魂が震えるように嬉しい。
(――あの時。りりかの身代わりでもいいからと、流されてしまわなくて良かった……)
そんな不純な思いで関係を持ったところで、きっと後悔する事になっただろうから――新人も私も。
じんと感動に浸っていると、建吾さんの指が左の胸の先をきゅっと抓んだ。
「ひゃあんっ!?」
びくんと身体を震わせると、建吾さんが首筋に舌を這わせ始めた。
「俺がここにいるのに考え事か? 何を考えてる」
そう言いながら、彼は私の胸の先端を指の腹で擦り始めた。鋭い刺激が胸から下腹部へと伝わっていく。
「あ、あん」
顔を上げた建吾さんが、私の顔をじっと見下ろした。その瞳に燻る熱の激しさに、自分の心の内が全て暴かれてしまう気がする。
「ありさ」
ああ、この声に逆らえない。私は何とか声を絞り出した。
「嬉しい……の」
「……」
「建吾さんに、名前を呼んでもらって……嬉しかった、のっ……んんっ!」
私の言葉は途中で途切れた。さっきよりも性急に重ねられた唇は、食べられてしまいそうなくらい激しかった。互いの唾液が混ざり合う、厭らしい音が口の中に響く。
舌が触れ合い、背筋がぞくぞくする。滑らかで柔らかくて熱い舌が、歯茎を舐め、そしてまた私の舌に絡んでくる。
「はっ、あっ、はあっ……」
唇を離された時、私の息は完全に上がってしまっていた。
「ありさ」
両腕を上げさせられ、一気にバジャマの上着を脱がされる。建吾さんの視線に晒された胸の先端は、痛いくらいに硬くなっていた。建吾さんもワイシャツと肌着を脱ぎ捨て、逞しい胸筋を露わにしている。滑らかで張りのある肌に、引き締まったお腹。
本当に綺麗な、整った身体……
思わず見惚れていると、建吾さんの両手がまた動き出した。両胸が温かい手に包まれる。
「綺麗だ」
「あ、はあんっ」
とっくに尖っている先端は指で弄ばれてる。私が思わず声を上げると、薄い唇が綺麗な弧を描いた。
「赤く染まって……食べて欲しいと言ってるみたいだ」
「あああっ!?」
建吾さんの唇が、左胸に吸い付いた。乳首を舐められ、ちゅくちゅくと音を立てて吸われる度に、どうしようもなく身体が震えてしまう。
「あっ、あ、あ……っ……」
こんなのは知らない。こんな身体が溶けてしまいそうな感覚は、知らない。
彼の唇が右胸に移り、乳輪をなぞるように舐める。それだけで、胸の先端が痛いくらい疼く。
もっと……もっと、触って欲しい……
身体の奥から湧き上がってくるのは、訳の分からない熱。建吾さんの指が、唇が、舌が、匂いが、触れた肌の感触が、その全てが私を狂わせていく。
「んっ」
胸の膨らみを強く吸われる。小さく悲鳴を上げた私を見る建吾さんは、獲物を前にした肉食獣の顔をしていた。
「白い肌に俺の痕を残したかった……ありさが俺のモノだと分かるように」
強い光を宿した瞳が、あからさまな独占欲を映している。それを見て、ゾクゾクする程……嬉しかった。
「そんな事、しなくたって……っ、ああああんっ!」
――そんな事しなくても、私はあなたのものなのに
そう言いたくても、言わせてもらえない。口から零れるのは、荒い息と呻き声だけ。肌を撫でられ、舐められ、吸われるのが、こんなに気持ちがいいなんて、知らなかった。
「あ、……う、あっ」
自分でも聞いた事のない、甘ったるい声。それを聞いている建吾さんは、満足気に微笑んでいる。
「好きだ、ありさ」
(――ああ……!)
胸が痛いくらい熱くなった。私がずっと求めていたのは、これだったんだ。ゲームじゃない、今のありさを、この自分を……愛して欲しかったんだ。
「建吾、さん」
建吾さんの顔が、涙で滲んでいる。私は両手を伸ばして、彼の首にしがみ付いた。彼の顔を引き寄せ、左耳に囁く。
「私も建吾さんが、好きです。建吾さんを好きになって……良かった」
「――っ、」
私はぎゅっと広い胸に抱き締められていた。私の肌と重なった建吾さんの肌が熱い。
「もう、離さないぞ」
低い声が左耳に注がれ、身体の奥が熱くなる。
「はい」
「……他の男を見るな。俺だけ見ていろ」
(他の……?)
「そんなっ、んんんっ」
そんな事していない。そう言おうとしたけれど、建吾さんの唇に遮られてしまう。少し腫れて敏感になった唇を、彼の唇が優しく覆っていく。再び絡め合った舌の感触が、震える程気持ちいい。
「んっ……は、あ」
私の唇と建吾さんの唇の間に、透明な線が伸びている。ぺろりと私の下唇を舐めた建吾さんの瞳は、煮えたぎるような熱さを抱えていて、ただ見つめられただけで、溶けてしまいそう……
「甘いな……」
「あ、んっ!」
硬く尖った胸の先端をくりっと抓まれた。快楽というには鋭すぎる感覚が身体を走る。なにもかもが気持ち良くて、気持ち良すぎて、怖い。
(こんな、の)
こんなのは知らない。こんな全身が蕩けてしまうような感覚なんて、知らない。こんな甘くて熱くて苦しい思いなんて、知らない。
「ああっ、あんっ……あ、うっ」
また彼の唇が左胸を啄み始めた。右胸は長い指に弄られたまま。先端だけでなく、膨らみごと大きな手で掴まれた。
「全部俺のモノだ」
「ああっ!?」
胸の先端を強く吸われた私は、大きく身体を震わせた。胸の膨らみをやわやわと揉む指が、胸の蕾を舐める音が、私のナカに熱を溜め込んでいく。
「ん、くっ……!」
触られているのは胸なのに、熱がどんどん下の方に溜まっていく。身体の奥で何かが蠢いてる。じんじんと熱くなっている部分をなだめようと、いつの間にか太腿を擦り合わせていた。
彼の舌が胸からお腹へと下りてくる。ところどころで強く肌を吸われ、その度に唇から甘い悲鳴が漏れた。
「あっ、あん、あ……」
私の声じゃないみたい。こんな声……恥ずかしい。声を出さないように、きゅっと唇を噛む。
そんな私に気が付いたのか、建吾さんが顔を上げた。薄い唇が、にやりと弧を描く。
「声を聞かせてくれ。俺の手で甘く悶えるありさの声を」
頬に一気に熱が集まった。両手で顔を隠して、建吾さんの視線を遮る。
「や、っ……はずか、し」
「そんな事をいうなら、お仕置きだな」
肌の熱さが遠ざかった。私の上に圧し掛かっていた建吾さんが起き上がり、ベッドから離れる。顔を隠したまま身体を横向きにした私は、何かを求めて疼いている熱を鎮めようと、シーツの上でもじもじ動いた。
「ん、きゃあっ!?」
突然両手首を掴まれた私は、思わず悲鳴を上げる。えっと目を見張る私の前で、手首が青い布でくるくる巻かれて固定されてしまった。
「け、建吾さん!?」
(これ、建吾さんのネクタイじゃない!)
ネクタイで縛られた両手首が、そのまま上に持ち上げられる。建吾さんが縛られた手首を左手で押さえつけていた。吊るし上げられたような格好で、ベッドに横たわる私。その上に覆い被さる建吾さん。熱くなった頬も、疼く身体も、もう隠せない。
「これで隠せないだろう? 潤んだ瞳も、赤く染まった頬も、熱を帯びた身体も」
こんな顔見た事がない。意地悪な笑みを浮かべる唇をぺろりと舐めた舌を見て、ずくんと身体に衝撃が落ちた。
「やあ、これ、外してっ」
身体を左右に捻っても、建吾さんの力の方が強い。ふるふると首を横に振るうちに、涙がじわりと滲んできた。
建吾さんの舌にまなじりを舐められ、そのまま軽く肌を吸われる。彼の右手が、喉元から鎖骨の辺り、そして胸の膨らみを軽く撫で、ウェストから腰に移動していく。
「あ、くう、んっ」
膝を曲げられ、パジャマのズボンと下着が一気に取り去られた。なのに、手を縛られていて動けない。建吾さんの瞳が妖しく光った。
「綺麗だ……ありさ」
「け、んごさ……あうっ!?」
太腿の間に忍び込んだ長い指が、濡れた肌の間を前後に動く。
(そんなところ触った事なんかないのにっ)
恥ずかくて脚を伸ばして閉じようとしたけれど、伸ばせたのは右脚だけ。それ以上は許してくれない。彼の指が優しく撫でる度に襲ってくる、痺れるような快感に逆らえない。
「あっあっ、あう、あん」
「感じてるのか、ありさ? もうこんなに濡らして」
耳に注ぎ込まれる甘い声に身体が震えた。身体の奥から溢れてくる熱い何か。建吾さんの指が、熱さが零れてしまいそうな入り口付近をじっくりと撫で回している。
「はっ、はあっ、はあっ……あ、ああっ、そこっ……!」
突然襲ってきた衝撃に、唇から漏れる声が一層高くなった。ビクンと跳ねた身体は、また彼に押え付けられる。
「ここ、か?」
「ひうっ!?」
触れられただけで、鋭い快感が走る場所。そこを指の腹でぐりぐりと押される。目の前で火花がぱちぱちと散るような感覚がした。
「あ、あああ――っ、ひゃ、あああんっ、ああ、あ」
身体の奥に生まれた熱い波が、うねりながら私を呑み込んでいく。指の動きに太腿が小刻みに震え、何かが溜まって溜まって溜まって……
「あっ……ああああああっ!」
極限まで高まった熱が一気に弾け飛ぶ。自分の意識とは関係なく、粘着性のある熱がどろりと身体から流れ出た。
はあはあと荒い息が口から零れる。ベッドから降りて服を脱いでいる建吾さんが、霞んだ目に映った。
(あ……)
何も身に纏っていない建吾さんは、ギリシャ神話の英雄の彫像みたい。彫像と違うのは……
視線を下に向けた私は大きく目を見開いた。全身が、かっと熱を帯びる。その事に気がついたのか、建吾さんがにやりと不敵に笑った。
「これが今からお前のナカに入るんだ、ありさ」
「っ……」
もちろん見るのは初めてだ。先端が赤黒く染まったそれは、腹筋につきそうな勢いでそそり立っている。開いた傘の先端が濡れているように見えた。
(これがナカに入る、の……?)
思わず生唾を飲み込む。どう見ても、簡単に入りそうにない大きさと太さだった。浮き出た筋が妙に生々しい。縛られた両手を胸の前に置いた私は、じっと彼を見つめる事しか出来なかった。
「ありさ」
ぎしとベッドが音を立てた。建吾さんの身体が、また私の上に戻ってくる。目を見開いたままの私の手首から、するりとネクタイが解かれた。自由になった私の右手は、自然に彼の身体へ伸びる。
「建吾、さん」
ゆるりと彼の身体が動いた。濡れた襞に熱いモノが当てられる。太腿の間、襞を擦るようにゆるりと前後に動いているのは、さっき見たあの……
「あ、っ、はあ、んっ」
熱い塊に擦られて、身体のナカがおかしくなっていく。まだ挿入ってもいないのに、ぬちゃぬちゃと厭らしい水音がした。
先端が敏感な芽を擦る。硬い芯が襞に触れる。じりじりと焦げるように身体が熱い。じれったい。思わず彼の左腕に爪を立ててしまう。
「はっ、は、あああっ……!」
何度びりびりと身体が震えたのか。
大きく仰け反った私の太腿に、彼の両手が掛かる。膝を立てられ、熱い塊がひくひくと蠢く入り口に当てられた時――私のナカは淫らな期待で溢れそうになっていた。
「ありさ……っ!」
「んんっ、ああああっ――っ!」
ぐっと襞を割って熱いモノが侵入してきた。狭い道をこじ開けられている様な、鋭い痛みに襲われた私は、思わず歯を食いしばる。
「んん、っ……!」
「ありさ」
痛い。引き裂かれそう。痛い……っ……!
ぎゅっと目を瞑り、逞しい二の腕に縋りながら痛みに耐えた。熱くて硬いモノが、内壁を擦りながらゆっくりと進む。
やがて奥に何かが当たり、私のナカが熱さでいっぱいになった時――建吾さんが大きく息を吐いた。
「大丈夫か?」
「んっ、う、ん……っ……」
涙がぽろぽろと零れ落ち、優しい唇が涙を拭きとる。目を開けると、瞳をギラギラと光らせ、頬を紅潮させた建吾さんが見えた。
(建吾、さん)
その瞳に映る荒々しい熱に、痛いはずの身体の奥がずくんと震える。
建吾さんが、私のナカにいる……一つになれたんだ……
心が、震えた。
私は……私はずっと、こうなりたかったんだ……
好きな人と、私を好きだと言ってくれた人と、一つに溶け合いたかったんだ……
ここがゲームの世界だと気付いてから、私の心を縛り付けていた黒い鎖が、鈍い音を立てて千切れていく。
このままゲームの結末になってしまうんじゃないか。
好きになった人に好きになってもらえないんじゃないか。
そして――好きになってもらえないまま、死んでしまうんじゃないのか。
どうしても拭えなかった、心の奥底の恐怖。それが今、身体の奥に感じる建吾さんの熱に溶かされて――なくなっていくのを感じる。
泣きたくなるくらい、幸せ――
涙ぐんでいる私の肌を、優しい手が滑るように撫でる。さっき感じていた敏感な部分にも彼の指が触れた。
「あああっ」
痛みとは別の感覚に、背中が仰け反る。まだじくじくと痛いけれど、少しずつ他の感覚が浮かび上がってきた。
私の顔を見下ろした建吾さんが、口を開く。
「ありさ、動くぞ」
「ひ、あああっ、んっ」
両手で私の腰を掴んだ建吾さんが、ゆっくりと動き始めた。ずんずんと最奥を突かれ、振動と痛みと――そして。
そうじゃないナニかが、身体を支配しようとしている。
「あ、あうっ……あああっ」
襞が彼に擦られ、引き摺られる。濡れた肉同士が擦れ合う、卑猥な音が聞こえた。
建吾さんの半開きの唇から漏れる荒い息が妙に色っぽくて、身体の奥がきゅんと締まる。その感覚は、もう痛みではなかった。
熱いモノに満たされた私のナカが、もっと欲しいと蠢いている。
「あ、ああ、は、ああああっ」
ゆっくりだった彼の動きが、次第に速く激しくなった。にちゃにちゃと掻き回される音が、突かれる度に揺れる身体が、彼の身体から落ちる汗が、身体の奥で燃えている飢えに似た渇望が、その全てが混ざり合って、私の身体を犯していく。
「あああっ、や、あああーっ、あ、」
大きな快楽の波に何度も何度も高みに押し上げられては、身体ごと砕け散って落ちて、そしてまた高みへと、その繰り返し。
「あ、っ、はう、んっ、あ、ああ」
ゆさゆさと揺さぶられ、熱いモノで貫かれ、もう私の身体は私のものではなくなっていた。
「ありさっ……!」
苦しそうな彼の呻き声とともに、私のナカでぶわりと重量を増す熱い楔。
「あっ、けん、ごさっ……あああああ!」
熱さが弾けたその瞬間――私の身体が大きく仰け反った。
息が止まるぐらいの激しい衝撃に目の前が真っ白になる。どくどくと熱い飛沫が私のナカに注ぎ込まれた。建吾さんの熱で、いっぱいに満たされる感覚に、身体が心が、また震える。
「は、はあっ、はあ、あ」
「……っは、」
建吾さんがぶるりと身を震わせる、その動きにすら感じてしまう。奥に熱を取り込もうと動く襞は、まだ存在を保っている彼に纏わり付いていたけれど、襲ってきた心地よい気怠さに、瞼が重くなってしまう。
「ありさ……好きだ」
優しく唇を重ねながら、そう囁く建吾さんの声は――胸が痛くなるくらい優しかった。愛おしさが心から溢れそうになったけれど、もう眠たくて動けない。なんとかこの想いを伝えたくて、口を動かした。
「私、も……建吾さん、が……」
……すき
かろうじて、それだけを告げた私は――そのまま温かくて優しい闇に包まれてしまったのだった。
***
「建吾、さんが……」
小さく『すき』と呟いた後、ありさの瞳は閉じてしまった。俺の腕の中で、ぐったりと力の抜けた白い身体。愛おしい存在を見ながら息を整えた。
汗にまみれ上気した肌から立ち昇るかぐわしい匂い。それを嗅いだだけでまた欲望が甦ってくる。
(さっき吐き出したばかりだというのに)
自嘲しながら、俺はありさのナカから自分自身を引き抜いた。蜜口から白い欲望の証がどろりと零れ落ちている。ああもっと、彼女のナカを俺で満たしたい。そんな昏い思いが胸に込み上げてきた。
だが、初めての彼女に無理をさせる訳にもいかない。明日も仕事がある。
……仕事に行きたくない、と思ったのは、これが初めてかもしれない。
俺はまだ未練の残る身体を起こして、バスルームでホットタオルを作り、彼女の肌を拭いた。俺の痕が散る白い肌が艶めかしい。拭いている間もありさは身じろぎ一つしない。どうやら、かなり深く寝入ってしまったようだ。
ざっと後処理をした俺は、ありさに上掛けを掛けて立ち上がる。パジャマを着た後、寝室を出てリビングのソファに座り、スマホを手に取った。
『――建吾か?』
夜中にも関わらず、ツーコールで出たという事は……俺の連絡を予測していたということか。
(相変わらず食えない人だ)
「建吾です。夜分遅くに失礼いたします、会長」
『何だ?』
祖父の声色が少し変わった。俺が『会長』呼びする理由に思い当たったらしい。
「――私は」
眠っているありさの顔が目に浮かぶ。やっと手に入れた彼女を守るためにも、俺は――
(ありさには不安な思いをさせるかもしれないが……)
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「明日朝一番で手続きを済ませて、本社に行きます。その件でご相談したい事が――」
俺が話し終わるまで黙って聞いたじいさんは、『分かった』としか言わなかった。詳しい事は明日話すと俺は電話を切る。
電話を終えた後、俺は寝室に戻り、寝ているありさに寄り添った。すうすうと寝息を立てているありさを後ろから抱き締める。
「ありさ」
首筋にキスを落とした俺は、温かくて柔らかい身体を感じながら、目を閉じた。
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