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[19] 人形
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まがりくねった細い道を抜ければ広い空間に出てくる。
手に持ったわずかな明かりのみでは見通せないほどに高い天井。ヘンリエッタの解析によればこのあたりで大量の鉱石が採掘できるという。
思ったより簡単に依頼がすんだ。帰りがあるのに私はそんなことを考えていた。
まだ問題は残っている。その帰りというやつ。あの縦穴をどうやって戻るか。私だけなら風を操ってしまえば容易である。ついでにりっちゃん1人ぐらいなら抱えて登れる。だがここまで協力してもらっておきながらあの2人をおいていくのは人としてどうかと思う。彼らに何か手段がないなら別ルートを探すことも考えよう。
不意に目の中に光が飛び込んでくる。壁の明かりがついたようだ。等間隔に設置されたそれらが私たちに近い方から順々に光を放つ。
いやな予感。システムがまだ生きてるなんて。
ついで警報音が鳴り響いた。すばやくヘンリエッタが反応した。
「なんだ!?」
どうやら私の悪い予感は正解だったらしい。当たったところで全然うれしくないけど。
明るくなったことでその部屋の全体像が浮かび上がる。直径100M、高さも10Mはある円柱状の空間。地下にもともとあった空洞に人の手を加えてある程度整えたものと推測される。
この鉱山跡にはすでにたくさんの人が入っている。なのになぜいまさらこんなものが見つかったのか? おそらくだがあの縦穴に飛び込んだ人は今までいなかったのだろう。あるいはいたとしても戻ってこられなかった。
空間中央にあった高さ約1Mのクリスタルがびかりと光った。つづけてもこもことその周辺の土が盛り上がると、目鼻のない形だけの土人形となる。
その数ざっと数十体。運がいいのか、悪いのか。りっちゃんなら間違いなく運がいいと答えるだろう。なぜなら戦うことが好きだから。
「ウォータージャベリン!」
りっちゃんは短剣を抜き放てばその切っ先を土くれたちへと向ける。
ほとんど同時に言葉の通りに水の槍を放出する。水流に押し流され動きの鈍い土人形が数体崩れ落ちた。
珍しく技名を叫んでいる。普段はそんなことしないのに。気分の問題かもしれない。
呑気なことを考えいたら再び土が盛り上がって新たな人形たちが生まれてきた。その増殖はとどまるところを知らず今にも100に届く勢い。
ヘンリエッタが飛び出す。手近にあった1体を殴り飛ばせば簡単に崩れる。
翠蘭もまたその傍に寄り添うと細い指先を動かした。何かが空中できらきら輝くのが見えた。
なんだろう? と思っているうちにその周囲の土くれがばらばらに切り刻まれていた。
銀色の糸が翠蘭の指先から伸びる。本来であればそんなものが触れただけで切断されることはありえない。けれどもそれに魔力が流し込んであるなら話は違ってくる。
触れるものすべてを切り裂く鋼糸。珍しい武器。非常に繊細な魔力操作が要求されるだろう。
私も別にさぼっているわけではない。空気の塊をぶつけて相手の進行を食い止めている。はっきり言って風は土に相性が悪い。単純な物量で押されると対処が難しい。
魔力と時間を大量に消費していいなら私にも手はある。例えばこの空間を丸ごと風化させてしまうとか。残念ながら今とれる手段ではない。
戦線は膠着状態。向こうが土人形を生むスピードとこっちが土人形を壊すスピードがだいたい同じ。
このままつづければどうなるか? 残り魔力量が少ない方が負ける。どうしたのものか、撤退も視野に入れるべき?
こういう急場の判断は私より向いてる人材がいる。
「りっちゃん、作戦たてて!」
私はばかすか水の槍をぶっぱなしてるりっちゃんに呼びかけた。
3秒間。りっちゃんは戦場の真っただ中で手を止め、視野全体の状況を整理する。
ピキーン! そんな効果音が聞こえた、ような気がした。
「中央突破だ!」
りっちゃんが宣言する。
その言葉はヘンリエッタと翠蘭にも伝わったようで2人は動きを変える、クリスタルへと向き直った。
4対の瞳がすべて中央へと向けられる。クリスタルもまたそれを感じ取ったのだろう、土人形を周囲へと集合させる。
まずは私。練り上げた空気の塊を人形の群れへと衝突させる。やはり実体のあるものを風で破壊するのは難しい。けれども足止めができればそれで十分。
つづけて翠蘭。静止した標的をずんばらりと切り刻む。矢面に立たされていた十数体がそれで倒れた。土煙が舞い上がる。
そんなもの意にも留めずにりっちゃんは叫んだ。
「ウォータージャベリン・グレートマグナム!」
意味はない。多分あとで本人に聞いても忘れてるだろう。
全長10Mはあろうかという水の槍を頭上に掲げると、りっちゃんはそれをクリスタルに向けて投擲した。あの質量なら土人形の壁をぶち抜いてそのままコアまで破壊できるはずだ。
薄くなっていく土煙の中、巨大なシルエットが浮かび上がる。土人形、ただしとてつもなく大きい、天井にまで届くぐらいのサイズ。
それが私たちとクリスタルの間に立ちはだかっていた。おそらく残った魔力をすべてつぎ込んだ、クリスタルの最終防衛手段。
巨人の胸のあたりには斜めに大きな傷跡が走るが、時間とともにじわじわと修復されていく。依然として再生能力を維持している。周囲は土だらけ。その魔力の限り、それがどれほどか不明だが、再生しつづける。
このでかぶつ相手に正面からぶち抜くのはさすがに無理か? ――だが問題ない。ここまでは私たちの読みの範疇だから。
手に持ったわずかな明かりのみでは見通せないほどに高い天井。ヘンリエッタの解析によればこのあたりで大量の鉱石が採掘できるという。
思ったより簡単に依頼がすんだ。帰りがあるのに私はそんなことを考えていた。
まだ問題は残っている。その帰りというやつ。あの縦穴をどうやって戻るか。私だけなら風を操ってしまえば容易である。ついでにりっちゃん1人ぐらいなら抱えて登れる。だがここまで協力してもらっておきながらあの2人をおいていくのは人としてどうかと思う。彼らに何か手段がないなら別ルートを探すことも考えよう。
不意に目の中に光が飛び込んでくる。壁の明かりがついたようだ。等間隔に設置されたそれらが私たちに近い方から順々に光を放つ。
いやな予感。システムがまだ生きてるなんて。
ついで警報音が鳴り響いた。すばやくヘンリエッタが反応した。
「なんだ!?」
どうやら私の悪い予感は正解だったらしい。当たったところで全然うれしくないけど。
明るくなったことでその部屋の全体像が浮かび上がる。直径100M、高さも10Mはある円柱状の空間。地下にもともとあった空洞に人の手を加えてある程度整えたものと推測される。
この鉱山跡にはすでにたくさんの人が入っている。なのになぜいまさらこんなものが見つかったのか? おそらくだがあの縦穴に飛び込んだ人は今までいなかったのだろう。あるいはいたとしても戻ってこられなかった。
空間中央にあった高さ約1Mのクリスタルがびかりと光った。つづけてもこもことその周辺の土が盛り上がると、目鼻のない形だけの土人形となる。
その数ざっと数十体。運がいいのか、悪いのか。りっちゃんなら間違いなく運がいいと答えるだろう。なぜなら戦うことが好きだから。
「ウォータージャベリン!」
りっちゃんは短剣を抜き放てばその切っ先を土くれたちへと向ける。
ほとんど同時に言葉の通りに水の槍を放出する。水流に押し流され動きの鈍い土人形が数体崩れ落ちた。
珍しく技名を叫んでいる。普段はそんなことしないのに。気分の問題かもしれない。
呑気なことを考えいたら再び土が盛り上がって新たな人形たちが生まれてきた。その増殖はとどまるところを知らず今にも100に届く勢い。
ヘンリエッタが飛び出す。手近にあった1体を殴り飛ばせば簡単に崩れる。
翠蘭もまたその傍に寄り添うと細い指先を動かした。何かが空中できらきら輝くのが見えた。
なんだろう? と思っているうちにその周囲の土くれがばらばらに切り刻まれていた。
銀色の糸が翠蘭の指先から伸びる。本来であればそんなものが触れただけで切断されることはありえない。けれどもそれに魔力が流し込んであるなら話は違ってくる。
触れるものすべてを切り裂く鋼糸。珍しい武器。非常に繊細な魔力操作が要求されるだろう。
私も別にさぼっているわけではない。空気の塊をぶつけて相手の進行を食い止めている。はっきり言って風は土に相性が悪い。単純な物量で押されると対処が難しい。
魔力と時間を大量に消費していいなら私にも手はある。例えばこの空間を丸ごと風化させてしまうとか。残念ながら今とれる手段ではない。
戦線は膠着状態。向こうが土人形を生むスピードとこっちが土人形を壊すスピードがだいたい同じ。
このままつづければどうなるか? 残り魔力量が少ない方が負ける。どうしたのものか、撤退も視野に入れるべき?
こういう急場の判断は私より向いてる人材がいる。
「りっちゃん、作戦たてて!」
私はばかすか水の槍をぶっぱなしてるりっちゃんに呼びかけた。
3秒間。りっちゃんは戦場の真っただ中で手を止め、視野全体の状況を整理する。
ピキーン! そんな効果音が聞こえた、ような気がした。
「中央突破だ!」
りっちゃんが宣言する。
その言葉はヘンリエッタと翠蘭にも伝わったようで2人は動きを変える、クリスタルへと向き直った。
4対の瞳がすべて中央へと向けられる。クリスタルもまたそれを感じ取ったのだろう、土人形を周囲へと集合させる。
まずは私。練り上げた空気の塊を人形の群れへと衝突させる。やはり実体のあるものを風で破壊するのは難しい。けれども足止めができればそれで十分。
つづけて翠蘭。静止した標的をずんばらりと切り刻む。矢面に立たされていた十数体がそれで倒れた。土煙が舞い上がる。
そんなもの意にも留めずにりっちゃんは叫んだ。
「ウォータージャベリン・グレートマグナム!」
意味はない。多分あとで本人に聞いても忘れてるだろう。
全長10Mはあろうかという水の槍を頭上に掲げると、りっちゃんはそれをクリスタルに向けて投擲した。あの質量なら土人形の壁をぶち抜いてそのままコアまで破壊できるはずだ。
薄くなっていく土煙の中、巨大なシルエットが浮かび上がる。土人形、ただしとてつもなく大きい、天井にまで届くぐらいのサイズ。
それが私たちとクリスタルの間に立ちはだかっていた。おそらく残った魔力をすべてつぎ込んだ、クリスタルの最終防衛手段。
巨人の胸のあたりには斜めに大きな傷跡が走るが、時間とともにじわじわと修復されていく。依然として再生能力を維持している。周囲は土だらけ。その魔力の限り、それがどれほどか不明だが、再生しつづける。
このでかぶつ相手に正面からぶち抜くのはさすがに無理か? ――だが問題ない。ここまでは私たちの読みの範疇だから。
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