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[17] 鉱山
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翌朝、宿屋の人たちにお礼とともに見送られつつ鉱山跡へ出発。いいことをしたと思えてなんとなく気分がいい。人間として善良な方向で生きる利点はそのようなところにある。
だったらそうした喜びをまったく感じない、悪いことをしたところで心につゆほど痛みを覚えない、などという人がいた場合、彼が善良に生きる意味があるのだろうか?
正直なところ私にはよくわからない。少なくともその程度には善良に生きることは、私にとって不安定なように思える。
それも力を持ちすぎているせいかもしれない。要検討。
太陽がてっぺんに登りきる前に目的地に到着する。
入り口掲示板にチョークで入坑時刻と人数を書き込んでおく。ついでに最近入った人の情報を見てったところ、都合のいいことにここ数週間、誰も入っていないようだ。
もちろんこっそり侵入した人がいる可能性はなくならないが。こうして後の人にも自分のためにもなる情報を残しておかないとすれば、なんらか後ろ暗いところがあるはずで、そうした人間と人目の着かないところででくわすとなれば、まあ面倒なことになるだろう。
現時点ではひとまずそんなことが起きないよう願うしかない。
「行くぞ」
ヘンリエッタが先頭に立って鉱山内へと侵入する。
昨日今日観察した限り、彼女の所作は洗練されている。案外ほんとにいいとこのお嬢さんである可能性がある。それがなんで冒険者をやってるか知らない。
その後ろをぴたりと翠蘭が付き従う。ついでりっちゃん、最後尾は私がつとめる。
ひんやりとした冷たい空気。冒険者になるための試験のことを私は思い出していた。まあ正確には私はただの付き添いだったのだけれど。
あれからまだ半年もたっていない。だのにりっちゃんはすでに蒼竜亭で注目されている、ついでに私も。幼馴染が規格外で目立ちたがり屋な性格なのは知っていたから、ある程度は仕方のないことだと言える。
けれども早すぎる。急激な上昇はさらなる視線を集める。非常にまずい。
が、りっちゃんの好きにさせてる以上、これは避けられないことだ。私は私でできる限りのことをしよう――私自身のために。
「今さらですがお二方は洞窟探索の経験はおありでしょうか」
「あるよ。苔とりにいったら蜥蜴がいたから倒した」
「その一度きりです。天然の洞窟でしたし、こことは多少勝手が違うでしょう」
歩きながらの翠蘭の質問にりっちゃんが元気よく答える。その話だけではわかりにくいかもしれないから私が補足しておく。
「こうした鉱山跡だと手つかずの自然の状態と比べて強度に問題があることが多いですね」
むき出しの岩盤に視線をやりながら翠蘭は語る。
経験はないが知識としては私も知っていた。自然が強固でまったく崩れない、なんてことはないが、人間が雑に手を加えてる分、脆い部分が出てくる。しかも跡となれば放置されて久しい場所だ。突発的な事故がどう起きても不思議ではない。
崩落に巻き込まれたらどれだけ魔力があっても意味がない。いや私だったら力づくでどうにかなるかも?
そんなのは例外で無視するとして、要するに鉱山跡探索の勘所はその脆い部分をいかに避けていくかということになってくるわけだ。
「構造解析やっておいた方がよさそうですね」
私は提案しながら自分じゃなくて誰か得意な人がやってくれたらいいなと考える。そのあたりのことを私の言い方で察してもらえるとありがたい。
できなくはないが鉱山跡全体を解析するとなると、膨大な魔力を注ぎ込んでやる必要がでてくる。りっちゃんと2人きりならいくらでもごまかしがきくけど、他の人がいるこの状況ではなるべくなら隠しておきたい。
「私苦手ー」
りっちゃんは属性が水に偏ってるし直線的に展開するのが得意だから解析に向いてない。あと気質的にちまちました魔法は扱いが下手だ。魔法で何ができるかに当人の性格はわりと影響を受ける。
先頭を歩いていたヘンリエッタは立ち止まると振り返って言った。
「そういうことなら任せておけ!」
頼もしい限り。
ヘンリエッタは地面に座って両手をつくと目を閉じ集中する。
なるほど、彼女は土に適性があるらしい。徒手で戦ってたから射程が短いと思ってたけど、直に触れることでそれを補っているようだ。
しばらくたってから大きく息を吐きだす。翠蘭が近寄ってその額の汗をぬぐった。
「だいたいの感じはつかめた」
その解析は適切だったようで、崩落に巻き込まれることなく無事に鉱山跡を進むことができた。
2、3時間も歩いたところ大きな縦穴に出くわす。
直径3Mぐらいはあるだろう、覗き込んでも暗闇ばかりで底は見えない。普通に考えれば危険すぎる、避けて通るのが常道だろうが、一応解析した当人の意見を聞いておく。
「どうします?」
「この穴を降りれば、鉱石の豊富にある場所まで、近道になるが――」
これははっきり私の失敗だった。話を聞く前にりっちゃんのことをつなぎとめておくべきだったのに!
ヘンリエッタが最後まで語り終わる前に、「先行くね!」と言ってりっちゃんは縦穴へと飛び込んでしまっていた。
だったらそうした喜びをまったく感じない、悪いことをしたところで心につゆほど痛みを覚えない、などという人がいた場合、彼が善良に生きる意味があるのだろうか?
正直なところ私にはよくわからない。少なくともその程度には善良に生きることは、私にとって不安定なように思える。
それも力を持ちすぎているせいかもしれない。要検討。
太陽がてっぺんに登りきる前に目的地に到着する。
入り口掲示板にチョークで入坑時刻と人数を書き込んでおく。ついでに最近入った人の情報を見てったところ、都合のいいことにここ数週間、誰も入っていないようだ。
もちろんこっそり侵入した人がいる可能性はなくならないが。こうして後の人にも自分のためにもなる情報を残しておかないとすれば、なんらか後ろ暗いところがあるはずで、そうした人間と人目の着かないところででくわすとなれば、まあ面倒なことになるだろう。
現時点ではひとまずそんなことが起きないよう願うしかない。
「行くぞ」
ヘンリエッタが先頭に立って鉱山内へと侵入する。
昨日今日観察した限り、彼女の所作は洗練されている。案外ほんとにいいとこのお嬢さんである可能性がある。それがなんで冒険者をやってるか知らない。
その後ろをぴたりと翠蘭が付き従う。ついでりっちゃん、最後尾は私がつとめる。
ひんやりとした冷たい空気。冒険者になるための試験のことを私は思い出していた。まあ正確には私はただの付き添いだったのだけれど。
あれからまだ半年もたっていない。だのにりっちゃんはすでに蒼竜亭で注目されている、ついでに私も。幼馴染が規格外で目立ちたがり屋な性格なのは知っていたから、ある程度は仕方のないことだと言える。
けれども早すぎる。急激な上昇はさらなる視線を集める。非常にまずい。
が、りっちゃんの好きにさせてる以上、これは避けられないことだ。私は私でできる限りのことをしよう――私自身のために。
「今さらですがお二方は洞窟探索の経験はおありでしょうか」
「あるよ。苔とりにいったら蜥蜴がいたから倒した」
「その一度きりです。天然の洞窟でしたし、こことは多少勝手が違うでしょう」
歩きながらの翠蘭の質問にりっちゃんが元気よく答える。その話だけではわかりにくいかもしれないから私が補足しておく。
「こうした鉱山跡だと手つかずの自然の状態と比べて強度に問題があることが多いですね」
むき出しの岩盤に視線をやりながら翠蘭は語る。
経験はないが知識としては私も知っていた。自然が強固でまったく崩れない、なんてことはないが、人間が雑に手を加えてる分、脆い部分が出てくる。しかも跡となれば放置されて久しい場所だ。突発的な事故がどう起きても不思議ではない。
崩落に巻き込まれたらどれだけ魔力があっても意味がない。いや私だったら力づくでどうにかなるかも?
そんなのは例外で無視するとして、要するに鉱山跡探索の勘所はその脆い部分をいかに避けていくかということになってくるわけだ。
「構造解析やっておいた方がよさそうですね」
私は提案しながら自分じゃなくて誰か得意な人がやってくれたらいいなと考える。そのあたりのことを私の言い方で察してもらえるとありがたい。
できなくはないが鉱山跡全体を解析するとなると、膨大な魔力を注ぎ込んでやる必要がでてくる。りっちゃんと2人きりならいくらでもごまかしがきくけど、他の人がいるこの状況ではなるべくなら隠しておきたい。
「私苦手ー」
りっちゃんは属性が水に偏ってるし直線的に展開するのが得意だから解析に向いてない。あと気質的にちまちました魔法は扱いが下手だ。魔法で何ができるかに当人の性格はわりと影響を受ける。
先頭を歩いていたヘンリエッタは立ち止まると振り返って言った。
「そういうことなら任せておけ!」
頼もしい限り。
ヘンリエッタは地面に座って両手をつくと目を閉じ集中する。
なるほど、彼女は土に適性があるらしい。徒手で戦ってたから射程が短いと思ってたけど、直に触れることでそれを補っているようだ。
しばらくたってから大きく息を吐きだす。翠蘭が近寄ってその額の汗をぬぐった。
「だいたいの感じはつかめた」
その解析は適切だったようで、崩落に巻き込まれることなく無事に鉱山跡を進むことができた。
2、3時間も歩いたところ大きな縦穴に出くわす。
直径3Mぐらいはあるだろう、覗き込んでも暗闇ばかりで底は見えない。普通に考えれば危険すぎる、避けて通るのが常道だろうが、一応解析した当人の意見を聞いておく。
「どうします?」
「この穴を降りれば、鉱石の豊富にある場所まで、近道になるが――」
これははっきり私の失敗だった。話を聞く前にりっちゃんのことをつなぎとめておくべきだったのに!
ヘンリエッタが最後まで語り終わる前に、「先行くね!」と言ってりっちゃんは縦穴へと飛び込んでしまっていた。
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