最強の魔法使いに転生したけど

緑窓六角祭

文字の大きさ
上 下
17 / 27

[17] 鉱山

しおりを挟む
 翌朝、宿屋の人たちにお礼とともに見送られつつ鉱山跡へ出発。いいことをしたと思えてなんとなく気分がいい。人間として善良な方向で生きる利点はそのようなところにある。
 だったらそうした喜びをまったく感じない、悪いことをしたところで心につゆほど痛みを覚えない、などという人がいた場合、彼が善良に生きる意味があるのだろうか?
 正直なところ私にはよくわからない。少なくともその程度には善良に生きることは、私にとって不安定なように思える。
 それも力を持ちすぎているせいかもしれない。要検討。

 太陽がてっぺんに登りきる前に目的地に到着する。
 入り口掲示板にチョークで入坑時刻と人数を書き込んでおく。ついでに最近入った人の情報を見てったところ、都合のいいことにここ数週間、誰も入っていないようだ。
 もちろんこっそり侵入した人がいる可能性はなくならないが。こうして後の人にも自分のためにもなる情報を残しておかないとすれば、なんらか後ろ暗いところがあるはずで、そうした人間と人目の着かないところででくわすとなれば、まあ面倒なことになるだろう。
 現時点ではひとまずそんなことが起きないよう願うしかない。

「行くぞ」
 ヘンリエッタが先頭に立って鉱山内へと侵入する。
 昨日今日観察した限り、彼女の所作は洗練されている。案外ほんとにいいとこのお嬢さんである可能性がある。それがなんで冒険者をやってるか知らない。
 その後ろをぴたりと翠蘭が付き従う。ついでりっちゃん、最後尾は私がつとめる。
 ひんやりとした冷たい空気。冒険者になるための試験のことを私は思い出していた。まあ正確には私はただの付き添いだったのだけれど。
 あれからまだ半年もたっていない。だのにりっちゃんはすでに蒼竜亭で注目されている、ついでに私も。幼馴染が規格外で目立ちたがり屋な性格なのは知っていたから、ある程度は仕方のないことだと言える。
 けれども早すぎる。急激な上昇はさらなる視線を集める。非常にまずい。
 が、りっちゃんの好きにさせてる以上、これは避けられないことだ。私は私でできる限りのことをしよう――私自身のために。

「今さらですがお二方は洞窟探索の経験はおありでしょうか」
「あるよ。苔とりにいったら蜥蜴がいたから倒した」
「その一度きりです。天然の洞窟でしたし、こことは多少勝手が違うでしょう」
 歩きながらの翠蘭の質問にりっちゃんが元気よく答える。その話だけではわかりにくいかもしれないから私が補足しておく。
「こうした鉱山跡だと手つかずの自然の状態と比べて強度に問題があることが多いですね」
 むき出しの岩盤に視線をやりながら翠蘭は語る。
 経験はないが知識としては私も知っていた。自然が強固でまったく崩れない、なんてことはないが、人間が雑に手を加えてる分、脆い部分が出てくる。しかも跡となれば放置されて久しい場所だ。突発的な事故がどう起きても不思議ではない。

 崩落に巻き込まれたらどれだけ魔力があっても意味がない。いや私だったら力づくでどうにかなるかも?
 そんなのは例外で無視するとして、要するに鉱山跡探索の勘所はその脆い部分をいかに避けていくかということになってくるわけだ。
「構造解析やっておいた方がよさそうですね」
 私は提案しながら自分じゃなくて誰か得意な人がやってくれたらいいなと考える。そのあたりのことを私の言い方で察してもらえるとありがたい。
 できなくはないが鉱山跡全体を解析するとなると、膨大な魔力を注ぎ込んでやる必要がでてくる。りっちゃんと2人きりならいくらでもごまかしがきくけど、他の人がいるこの状況ではなるべくなら隠しておきたい。
「私苦手ー」
 りっちゃんは属性が水に偏ってるし直線的に展開するのが得意だから解析に向いてない。あと気質的にちまちました魔法は扱いが下手だ。魔法で何ができるかに当人の性格はわりと影響を受ける。
 先頭を歩いていたヘンリエッタは立ち止まると振り返って言った。
「そういうことなら任せておけ!」
 頼もしい限り。

 ヘンリエッタは地面に座って両手をつくと目を閉じ集中する。
 なるほど、彼女は土に適性があるらしい。徒手で戦ってたから射程が短いと思ってたけど、直に触れることでそれを補っているようだ。
 しばらくたってから大きく息を吐きだす。翠蘭が近寄ってその額の汗をぬぐった。
「だいたいの感じはつかめた」
 その解析は適切だったようで、崩落に巻き込まれることなく無事に鉱山跡を進むことができた。

 2、3時間も歩いたところ大きな縦穴に出くわす。
 直径3Mぐらいはあるだろう、覗き込んでも暗闇ばかりで底は見えない。普通に考えれば危険すぎる、避けて通るのが常道だろうが、一応解析した当人の意見を聞いておく。
「どうします?」
「この穴を降りれば、鉱石の豊富にある場所まで、近道になるが――」
 これははっきり私の失敗だった。話を聞く前にりっちゃんのことをつなぎとめておくべきだったのに!
 ヘンリエッタが最後まで語り終わる前に、「先行くね!」と言ってりっちゃんは縦穴へと飛び込んでしまっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

処理中です...