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[14] 鍛冶屋
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「こんなところにガキが何の用だ」
「蒼竜亭主人の紹介で参りました、冒険者です。剣の手入れをしていただきたく」
「なんだ、ちゃんとした客か、失礼した。とりあえず剣を見せろ」
どうやら転生したっぽいけどなんかの手違いで私だけMPがめっちゃあった。他の人が100でなんとかやりくりしてるとすれば、私だけ100万以上でまさにけた違い(正確には調べてないので不明)。
別段それを積極的に利用するつもりはなくて、平穏無事に暮らせたらいいなとなんとなく考えていたのだけれど、幼馴染のりっちゃん(かわいい)が冒険者になるというので私もそれについていって冒険者になった。
最初は地味に依頼をこなしていたところ店のトップのアシュリーさんに誘われて偽人退治へ。途中予想外のトラブルもあったが無事に切り抜け冒険者としてのステップアップを果たした。
あれから2週間かわらず薬草採取をやっていた。多少評判がよくなったとて、ほいほい指名で高額な依頼が舞い込んでくる、なんてうまい話はないのである。
人間地道に生きるが肝心。どんな英雄だって語られてないところではひたすら地味な仕事ばかりやってるものだ、多分おそらく。
踏原の街に来た当初からなじみの鍛冶屋を作りたいと思っていたが、いろいろあってのびのびになっていた。近頃さすがに薬草採りに使っているナイフの具合が悪くなってきたので(りっちゃんの方も切れ味が悪くなっていらいらしてた)、所属してる店の主人に相談したら近所にある老舗の鍛冶屋を紹介してもらえた。
見事に禿げあがった、上半身裸で筋骨隆々の、といっても見せかけでない実質がぎっりしつまった感じの、色黒の中年男にひるむことなく、りっちゃんはカウンターの上に短剣を叩きつけるように置いた。
「こいつだ。最近、切れない。いい感じにしてくれ」
「生意気なガキにしちゃ、なかなかの上物使ってるじゃねえか」
「よくわかなったな。そいつは古くて汚いけどすごいやつだ!」
鍛冶屋はりっちゃんの短剣を手に取って子細に眺める。慣れた手つきで柄を外すなり驚いて目を見開いた。
「お前、これをどこで手に入れた?」
「家の物置にあったから餞別にもらってきた」
「こいつはわしの師匠の作だ。そこらに放ってあるようなもんじゃないんだがなあ」
私にはわかる。多分だけど勝手に持ってきたやつだ、あれ。でもまあ院長も「道具は大事にとっとくためにあるんじゃねえ、使ってやれ」と言ってたから問題ないはず。
りっちゃんに任せると話がこんがらがるだろうから私がわかる範囲で説明する。短剣はもともと孤児院にあったもので、旅立つにあたって持ち出してきた(無許可で)。ついでに院長はうちの店主の知り合いらしいことを付け加えておいた。なんかあの人この街だとそこそこ有名な人だったようだ。
「なるほど、お前ら、あの暴れ熊の弟子ってわけだ」
「え、院長ってそんな風に呼ばれてたんですか。弟子ってこともないんですけど、まあいろいろ教わりました」
「うーん、あいつがなあ、ガキの面倒みてるなんて随分丸くなったもんだ」
鍛冶屋は感慨深そうにつぶやく。院長の過去の方は私にとってわりとどうでもいいことだ。いやそれなりに慕ってはいるが、本人が話してなかったことだしあえて深掘りするつもりはない。
大事なのはりっちゃんの短剣の方で、よくわからないが結構いい代物だったらしい。あのごちゃごちゃした物置からそんな一品を見つけ出すなんて、りっちゃんの眼力はやっぱりすごいなと私は思った。
魔法使いにとって武器はとても重要なものだ。
魔力には指向性があってその形は人によって違う。例えばりっちゃんは前方に直線的に伸ばすのが得意、私は魔力を広範囲に薄く広げるのが向いてる。
その魔力の扱いを武器によってより明確にすることができる。短剣が主流だが魔力の流れに一定の方向を持たせられるなら実際のところなんでもいいそうだ。
りっちゃんは短剣を使っていて理由は戦い方が短剣に向いてるから。とにかくりっちゃんは素早く魔力を集中させるやり方が性に合っている。単純にして強靭。
私はと言えば特にこだわりないので短剣を使っている。街に来て市場で買った適当なやつ。もっと気をつかった方がいいんだろうけど、ひとまず薬草採取に便利なやつですませている。
始めの内は短剣使ってても乗り換える人は結構多い。ので私もいつか変えようかなとは思ってる。気が向いたらの話だけど。
「得意属性は何だ」
「水、特に氷が得意ですね」
「となると――」
りっちゃんの短剣の話だが、とうの本人はすでに飽きてしまってそこらに置いてある刃物を触って遊んでいる。あぶないはあぶないが扱いには慣れてるだろうし問題ないだろう。
質問の方はかわりにこたえておいた。りっちゃんのことならだいたい知っている。この程度のことなら基本中の基本だ。私が間違えるはずがない。
その答えを聞いて何か問題でもあるのか、鍛冶屋の親爺は宙をにらんでひとしきり考えてから、唐突に次のように言った。
「お前らに依頼がある」
「蒼竜亭主人の紹介で参りました、冒険者です。剣の手入れをしていただきたく」
「なんだ、ちゃんとした客か、失礼した。とりあえず剣を見せろ」
どうやら転生したっぽいけどなんかの手違いで私だけMPがめっちゃあった。他の人が100でなんとかやりくりしてるとすれば、私だけ100万以上でまさにけた違い(正確には調べてないので不明)。
別段それを積極的に利用するつもりはなくて、平穏無事に暮らせたらいいなとなんとなく考えていたのだけれど、幼馴染のりっちゃん(かわいい)が冒険者になるというので私もそれについていって冒険者になった。
最初は地味に依頼をこなしていたところ店のトップのアシュリーさんに誘われて偽人退治へ。途中予想外のトラブルもあったが無事に切り抜け冒険者としてのステップアップを果たした。
あれから2週間かわらず薬草採取をやっていた。多少評判がよくなったとて、ほいほい指名で高額な依頼が舞い込んでくる、なんてうまい話はないのである。
人間地道に生きるが肝心。どんな英雄だって語られてないところではひたすら地味な仕事ばかりやってるものだ、多分おそらく。
踏原の街に来た当初からなじみの鍛冶屋を作りたいと思っていたが、いろいろあってのびのびになっていた。近頃さすがに薬草採りに使っているナイフの具合が悪くなってきたので(りっちゃんの方も切れ味が悪くなっていらいらしてた)、所属してる店の主人に相談したら近所にある老舗の鍛冶屋を紹介してもらえた。
見事に禿げあがった、上半身裸で筋骨隆々の、といっても見せかけでない実質がぎっりしつまった感じの、色黒の中年男にひるむことなく、りっちゃんはカウンターの上に短剣を叩きつけるように置いた。
「こいつだ。最近、切れない。いい感じにしてくれ」
「生意気なガキにしちゃ、なかなかの上物使ってるじゃねえか」
「よくわかなったな。そいつは古くて汚いけどすごいやつだ!」
鍛冶屋はりっちゃんの短剣を手に取って子細に眺める。慣れた手つきで柄を外すなり驚いて目を見開いた。
「お前、これをどこで手に入れた?」
「家の物置にあったから餞別にもらってきた」
「こいつはわしの師匠の作だ。そこらに放ってあるようなもんじゃないんだがなあ」
私にはわかる。多分だけど勝手に持ってきたやつだ、あれ。でもまあ院長も「道具は大事にとっとくためにあるんじゃねえ、使ってやれ」と言ってたから問題ないはず。
りっちゃんに任せると話がこんがらがるだろうから私がわかる範囲で説明する。短剣はもともと孤児院にあったもので、旅立つにあたって持ち出してきた(無許可で)。ついでに院長はうちの店主の知り合いらしいことを付け加えておいた。なんかあの人この街だとそこそこ有名な人だったようだ。
「なるほど、お前ら、あの暴れ熊の弟子ってわけだ」
「え、院長ってそんな風に呼ばれてたんですか。弟子ってこともないんですけど、まあいろいろ教わりました」
「うーん、あいつがなあ、ガキの面倒みてるなんて随分丸くなったもんだ」
鍛冶屋は感慨深そうにつぶやく。院長の過去の方は私にとってわりとどうでもいいことだ。いやそれなりに慕ってはいるが、本人が話してなかったことだしあえて深掘りするつもりはない。
大事なのはりっちゃんの短剣の方で、よくわからないが結構いい代物だったらしい。あのごちゃごちゃした物置からそんな一品を見つけ出すなんて、りっちゃんの眼力はやっぱりすごいなと私は思った。
魔法使いにとって武器はとても重要なものだ。
魔力には指向性があってその形は人によって違う。例えばりっちゃんは前方に直線的に伸ばすのが得意、私は魔力を広範囲に薄く広げるのが向いてる。
その魔力の扱いを武器によってより明確にすることができる。短剣が主流だが魔力の流れに一定の方向を持たせられるなら実際のところなんでもいいそうだ。
りっちゃんは短剣を使っていて理由は戦い方が短剣に向いてるから。とにかくりっちゃんは素早く魔力を集中させるやり方が性に合っている。単純にして強靭。
私はと言えば特にこだわりないので短剣を使っている。街に来て市場で買った適当なやつ。もっと気をつかった方がいいんだろうけど、ひとまず薬草採取に便利なやつですませている。
始めの内は短剣使ってても乗り換える人は結構多い。ので私もいつか変えようかなとは思ってる。気が向いたらの話だけど。
「得意属性は何だ」
「水、特に氷が得意ですね」
「となると――」
りっちゃんの短剣の話だが、とうの本人はすでに飽きてしまってそこらに置いてある刃物を触って遊んでいる。あぶないはあぶないが扱いには慣れてるだろうし問題ないだろう。
質問の方はかわりにこたえておいた。りっちゃんのことならだいたい知っている。この程度のことなら基本中の基本だ。私が間違えるはずがない。
その答えを聞いて何か問題でもあるのか、鍛冶屋の親爺は宙をにらんでひとしきり考えてから、唐突に次のように言った。
「お前らに依頼がある」
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